試乗インプレッション

メルセデス・ベンツの“究極のオフローダー”新型「Gクラス」試乗。オンロード/オフロードで新旧比較

隔世の感があるオンロード性能。悪路走破性もぬかりなく

「モデルチェンジ」ではない!?

 新しくなった「Gクラス」がいよいよ日本に導入されたとなれば、どんなものか気になっている人は少なくないことだろう。初代の登場が1979年というのは有名な話だが、その長い歴史の中で最も大きな変更となる。

 ただし、登場時に「W460」だった型式は、1989年に第2世代へと移行した際に「W463」となり、それを今回も踏襲している。すなわち、今回発売されたモデルというのは、あくまで“新型にアップデート”されたのであって、インポーターの発表や関係書類にも「モデルチェンジ」という言葉は一切出てこない。微妙なニュアンスながら、そういうことらしいのだが、いずれにしても中身が刷新されているのが明らかなのは、以下で述べるとおりである。

 実車と対面すると、「なるほど」というのが第一印象だ。Gクラスが長年にわたり高く支持されている最大の要因であるエクステリアデザインは、従来型のイメージを色濃く残しつつ、その上で現代的な要素を多分に盛り込んでいる。新旧を並べると遠目にはどちらが新型かパッと見では分からないほどだが、ボディサイズが拡大し、スクエアデザインながら丸みを帯びたことや、灯火類がモダンになっているのはすぐに分かる。

 実のところ、現行Gクラスオーナーやオリジナリティを求めるファンからは、「従来型の方がGクラスらしくてよい」という声も小さくないらしいのだが、もともとGクラスが好きで新しいもの好きでもある筆者はどうかというと、より高級感もありレトロモダンな新型の方が好み。補助ミラーがなくなったものも大歓迎だ。

今回試乗したのは6月6日に受注を開始した新型「Gクラス」。新型ではオフロード走行に適したラダーフレームを新設計し、悪路走行時に求められる強度、剛性、安全性を高めたという。写真の「G 550」(1562万円)のステアリング位置は左のみの設定。ボディサイズは4817×1931×1969mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm(数値は欧州参考値)。従来モデルと比べると全長は53mm伸び、全幅は64mm広がった
エクステリアでは堅牢なプロテクションモール、テールゲート外側のスペアタイヤ、外部に設けたドアヒンジとボディ面に載せるスタイルのボンネット、突出したウインカーなど、Gクラス独自のデザインを踏襲。一方でフラットなフロント/サイド/リアウィンドウは、リアウィンドウを除いてすべて微細な曲面を描いており、オフローダーとしての個性を継承しながらエアロダイナミクスを向上させている。タイヤはピレリのオールシーズンタイヤ「SCORPION ZERO」(タイヤサイズ:275/50 R20)
G 550では気筒休止システムが備わるV型8気筒 4.0リッター直噴ツインターボ「M176」型エンジンを搭載。最高出力は310kW(422PS)/5250-5500rpm、最大トルクは610N・m(62.2kgf・m)/2000-4750rpmを発生
インテリアではGクラスのエクステリアで採用されるパーツをモチーフにしたデザインを採用。ボディの大型化に伴い室内各部のサイズが拡張され、従来モデルから前席レッグルームが38mm、後席レッグルームが150mm、前席ショルダールームが38mm、後席ショルダールームが27mm、前席エルボ―ルームが68mm(全て欧州参考値)それぞれ拡大して居住性が高められている
左右のエアアウトレットに特徴的な円形ヘッドライトの形状を採用するとともに、ウインカーをイメージしたスピーカーなどを装着。助手席前方のグラブハンドルや、3つのディファレンシャルロックを操作するクローム仕上げのスイッチなどは新型でも継承する一方で、厳選されたレザーや上質なウッドトリム、随所に施されたシルバー加飾などを用いることでラグジュアリーさも強調

 一方でインテリアは一新されており、ワイドスクリーンを配した一連のメルセデスのラグジュアリーモデルと共通性の高い雰囲気となったのは見てのとおり。全体的に居住空間が拡大しているのは明らかで、とりわけレッグペースが150mmも拡大した後席の広さは従来型とは段違い。ドアを開けたときの開口部も広くなったおかげで乗降性も大幅に向上している。従来どおり横開き式のバックドアを備えたラゲッジスペースも、荷物を置くのがもったいないほど高級感がある。

 外から見えない部分も、大きなところでは新設計のラダーフレームの採用や大幅な軽量化、前後リジッドからフロントをダブルウィッシュボーンとしたサスペンション、ボールナットをラック&ピニオンとするとともに電動パワステを採用するなど、メカニズム面も刷新されている。パワートレーンは、現状ではディーゼルがどうなるのかは分からないが、まずはガソリン4.0リッターV8ツインターボエンジンに、7速から9速に多段化したATが組み合わされる。

「メルセデスAMG G 63」のステアリング位置は左右から選択可能。価格は2035万円
メルセデスAMG G 63はメルセデスAMGが完全自社開発したV型8気筒4.0リッター直噴ツインターボ「M177」エンジンを搭載。従来型に比べ10kW(14PS)増の最高出力430kW(585PS)/6000rpm、90N・m増の最大トルク850N・m(86.7kgf・m)/2500-3500rpmを発生

隔世の感がある舗装路での走り

 さっそく舗装路を「G 550」からドライブ。乗り込んで意外とスポーティな形状のシートに収まりドアを閉めると、ウワサに聞いていたとおり、ドアを閉めたときの音やロックのかかる音が、昔ながらの素朴な音。こうした「味」の部分にまでこだわったことがうかがえる。

 ところが、走り出してすぐに従来型とは快適性が段違いであることが分かる。しなやかによく動く足まわりにより、段差を乗り越えても突き上げが小さく、乗り心地は申し分ない。フラット感があり、コーナリングでのロールも小さく抑えている。ステアリングの操舵力も軽く、フリクションを感じない。心なしか切れ角も増えて取り回しがよくなったような気もする。

 リジッドサスのせいかリアにはやや微振動が認められるものの、不快には感じないレベル。おせじにも快適とはいえなかった従来型に比べると、いわばトラックが乗用車になったかのような、まさしく隔世の感がある。

「G 63」に乗り替えると、AMGならではの刺激的なドライブフィールに圧倒されるばかり。締め上げられた足まわりにより、ハンドリングは俊敏そのもの。重心が高く、新型では軽量化されたとはいえ、それなりの重量物をこれほどまでに走らせることができているのには感心せずにいられない。

「G 550」でも十分すぎるほどだった動力性能は、さらに全域でパワフルさがみなぎり、踏み込むとパンチの効いた加速を味わわせてくれる。スポーツモードにセットするとより瞬発力が増す。いかにもAMGらしい派手なエキゾーストサウンドも迫力満点だ。

悪路走破性もぬかりなく

新型Gクラスでは、前後アクスル間の最低地上高が24.1cm(従来比+6mm)、最大渡河水深が70cm(従来比+10cm以上)、安定傾斜角度が35度(従来比+7度)、デパーチャーアングルが30度(従来比+1度)、アプローチアングルが31度(従来比+1度)、ランプブレークオーバーアングルが26度(従来比+1度)となっている

 さらに今回は本格的なオフロードで新旧比較することもできたのだが、これまた快適性が段違い。路面に対する感度がぜんぜん違って、極悪路での強烈な入力があったときの受け止め方が、従来型では地響きするようなガツンガツンという衝撃を感じるのに対し、新型はそれが大幅に緩和された。ステアリングへのキックバックも小さい。さらにはアプローチやデパーチャーのアングル、最大渡河水深など悪路走破に関する諸性能についても、すべてにおいて大なり小なり従来型を上まわっていることも念を押しておこう。

 とはいえ、従来型をさすがと感じた面もあった。たとえばモーグルセクションではフロントもリジッドサスの従来型のほうが足が長く伸びるので、新型よりも車体の傾きが小さかったり、岩場のようなラフロードでもフロントのトラクションの変化が小さくグイグイと前に進む感覚があったのは事実だ。ただし、ESPを効かせた状態であれば、より進化した電子制御デバイスを持つ新型は自動的に適宜パワーを絞り4輪のブレーキをつまんでくれるので、最終的にはよりイージーに踏破していけるように感じられた。

 そのあたり、いずれにしても新型はオンロードにおける圧倒的な快適性を実現しながらも、Gクラスの本質である悪路走破性をしっかり受け継ぎ、ON/OFF両面の絶対的な性能においても向上を果たしたという理解でよいかと思う。

 このようにあらゆる面で大きく進化を遂げ、わが道をいきながらも現代の高級SUVに求められるものをしっかり身に着けた新型Gクラスは、これまでにも増して多くのファンを獲得することに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛