試乗インプレッション

現行Gクラス最後の特別仕様車、メルセデス・ベンツ「G 350 d Heritage Edition」に乗った

39年の“ヘリテージ”をモチーフにした日本限定の特別仕様車

若き成功者の象徴として

 筆者が初めて乗った1995年ごろには、すでにだいぶ現在に近い雰囲気になっていたが、当初の「Gクラス」はいかにも軍用由来であることを感じさせる、いたって質実剛健なクロスカントリー車だった。それがいつしか生みの親であるメルセデス自身が驚くほどの売れ行きを見せ、顧客のニーズに合わせて時間の経過とともにどんどん高級化し、高性能化していったのは周知のとおり。その後もたびたび生産中止がささやかれながら一向に人気が衰えることはなく、近年になってV12を積んだり6輪車を出したりと、ますます勢いを増していたほどだ。

 日本でも武骨なデザインとGクラスならではの“本物感”が受けて、ずっと安定した人気を誇っている。聞いたところでは、他のモデルに比べて指名買いが多く、しかも“若き成功者”が好んで買い求めるケースが多いためか、オーナーの年齢層が突出して低いそうだ。

 そんなGクラスの登場から実に39年。3月のニューヨークショーで新型Gクラスが披露されたのは既報のとおりで、4月には現行Gクラスのフィナーレを飾る2台の特別仕様車が設定された。そのうちの1台、今回紹介する「G 350 d Heritage Edition」は、日本限定というからますます気になる存在だ。

今回試乗したのは、現行Gクラス最後の特別仕様車「G 350 d Heritage Edition(ヘリテージ エディション)」(1190万円)。このシリーズは「プロフェッショナルブルー(原名:チャイナブルー)」160台、「ブルーブラック」130台、「インペリアルレッド」100台、「マラカイトグリーン」40台、「ライトアイボリー」33台の計463台のみが設定される。ボディサイズは4575×1860×1970mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。車両重量は2580kg
エクステリアでは「ブラックペイント18インチ5ツインスポークアルミホイール」(タイヤはブリヂストン「DUELER H/P」。サイズはP265/60 R18)に加え、随所にオブシディアンブラックのアクセントを与える「ナイトパッケージ」を特別装備
V型6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボエンジンは、最高出力180kW(245PS)/3600rpm、最大トルク600N・m(61.2kgf・m)/1600-2400rpmを発生。JC08モード燃費は10.3km/L

 Gクラスの中では価格が控えめで、経済性に優れる3.0リッターV6クリーンディーゼル搭載車が追加されて以降は、それがダントツに高い販売比率を占めるようになったという。同特別仕様車は、その「G 350 d」をベースに、39年という長い歴史の中で人気の高かったボディカラーを特別に採用するとともに、随所に黒を強調した加飾を施した「ナイトバッケージ」が与えられている。鮮やかな「プロフェッショナルブルー」の撮影車両を見るにつけ、これならGクラスが新型になっても高いリセールを維持しそうな気がするほど、なかなか味のあるよい雰囲気が出ている。

 なお、同特別仕様車の発表に合わせてG 350 dのカタログモデルにも「イエローストーン」をはじめ、通常は選択できない3色の特別外装色が追加設定されたこともお伝えしておこう。

インテリアではシートヒーター付きの本革シート(前席・後席シートヒーター付)を採用するとともに、センターコンソールに「Heritage Editionプレート」を装着

気になる部分もご愛敬

 並みのSUVよりもずっと地上高の高い車内によじ登るような感じで乗り込み、トラックのように目線の高いシートに収まると、今どきのSUVに乗り慣れた身にはフロントスクリーンまでの距離が近く、全てのガラスウィンドウが切り立った景色がとても新鮮に感じられる。エクステリアだけでなく、インテリアの雰囲気も独特だ。

 一方で、乗り味についてはいろいろ思うところもなくはない。初めてGクラスに乗ったときにはさすがはメルセデス、こういうクルマでもしっかりとしていて乗っていて安心感があると思ったものだが、あらためて乗るとあまり褒められない面も散見される。

 右ハンドル仕様のドライビングポジションはよろしくないし、足まわりは路面の影響を受けやすく、段差を乗り越えたときにタイヤから伝わる衝撃も大きめ。乗り心地の快適性は高くはない。また、重いステアリングは切れ角が小さく、操舵に対する正確性にも欠ける。さらには、最新のメルセデスのクリーンディーゼルでは音や振動がかなり抑えられているのに対し、Gクラスはガラガラいっていたりと、ドライバビリティ面ではいろいろ気になる点が多いのは否めず。

 とはいえ、それらすべてが“味”のうちと思えてくるのもGクラスならでは。そのあたり、大幅に進化する新型では手当てされるはずだが、古きよき時代を偲ばせるその乗り味もまた、現行Gクラスの本質の1つに違いない。

これができるのはGクラスだけ!?

 最後に、東京 六本木の「Mercedes me Tokyo」にもどって、東京のど真ん中でGクラスの登坂能力の高さを同乗して体感できる「MOUNTAIN CLIMB」を体験した。ローレンジに入れて、デフロックは3種類が選べる中から前後同配分のセンターデフロックに設定し、いざスタート。15度、20度、30度の勾配を登っていき、最後はなんと45度! 最高地点の高さは9m! 圧巻である。

 後ろを振り返るとゾクゾクして、こんなところを本当に登ってきたのかと思わずにいられないほどだ。むろんメルセデスの豊富なSUVラインアップの中でも、これをやってのけられるのはGクラスのみ。ドライバーを務めたスタッフによると、「クルマが勝手に登ってくれる感じ」なのだという。むろん、アプローチやデパーチャーのアングルや最大渡河水深など悪路走破性に関するデータにおいてGクラスが突出していることは言うまでもない。

 しばらく現行型「G 350 d」も併売されるようだが、まもなく新型が登場し、いろいろ進化していることには違いない。長きにわたって現役を務めた現行型は、遠い将来に振り返っても、Gクラスと言えば真っ先にイメージするのはこの世代として、我々の脳裏に刻まれ続けることに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸