試乗インプレッション

ボルボ「XC60」にディーゼル仕様追加。際立つ静粛性と乗り心地

“XC60シリーズでもっともオススメ”な「D4」(車両型式:LDA-UD4204TXC)登場

XC60に待望の2.0リッターディーゼルターボエンジン搭載車

 ボルボの最多販売車種であるSUV「XC60」に、待望の2.0リッターディーゼルターボエンジン搭載車が加わった。正確には、2017年に現行XC60がデビューした当初からディーゼルをラインアップすることは発表されていたが、導入タイミングから2018年春になってからの国内デビューとなった。

 ざっとXC60のおさらいから。フラグシップSUVである「XC90」と同じく先進安全装備群「IntelliSafe」を全グレードで標準装備していることに加え、同一グレードであれば、2.0リッターガソリンターボエンジン搭載車と同じ車両本体価格に設定されている。ユーザーにとってみれば、クラスを問わない最高水準の安心と安全を手に入れることができ、同一価格で複数のパワートレーンが選択できるため、ちょっと無理してでも手に入れたい1台となるのではないか。

 今回試乗したのは、2つ用意されるディーゼルモデルのうち上位グレードの「D4 AWD Inscription」(679万円)。これに前後席の頭上それぞれに開口部分が広がるガラスサンルーフ(20万6000円)と、ドライビングモードに応じて減衰力特性が変化する電子制御4輪エアサスペンション(30万円)、そしてメタリックペイント(8万3000円)のオプション装備が込みとなり、総額737万9000円となっていた。確かにスッと手を出せない高額モデルだが、このミディアムクラスのSUVを輸入車から選択する場合で考えると、XC60の優位性が見えてくる。

今回試乗したのはXC60「D4 AWD Inscription」で、ボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm
エクステリアでは「D4」のバッヂが付く程度と、他のXC60シリーズと大きな違いはない。足下は19インチアルミホイールにミシュラン「Latitude Sport 3」(235/55 R19)の組み合わせ

 直接的な競合車種となるBMW「X5」やアウディ「Q5」、そしてメルセデス・ベンツ「GLC」「GLE」と比較してみると、XC60には先進安全技術の分野において独自の機能が光る。その1つが、IntelliSafeの代表的装備である衝突被害軽減ブレーキ「City Safety」に加わった「ステアリング・サポート/衝突回避支援機能」だ。

 ステアリング・サポートは、自車が50~100km/hで走行中、衝突被害軽減ブレーキだけでは衝突が避けられないという状況に遭遇した場合に、ドライバーによる回避を目的としたステアリング操作が行なわれると……

①電動パワーステアリングを回避方向に動かしやすく操舵アシストを調整。
②ステアリングを切った側の前後ブレーキを作動させ、その方向へのヨー慣性モーメントを極力高め進路変更をしやすくする。

 ①と②の連携動作を発生させるためには、ステアリング・サポートというネーミングから分かるようにドライバーの意図的な回避動作が必要であり、そもそもの機能の目的はドライバーのステアリングによる回避動作を支援することにある。ステアリング・サポートが作動した場合は、車両挙動安定装置であるESCも協調制御として介入し、回避後も車線内に留まることができようにアシストも行なわれる。

 BMW X5にはステアリング・サポートに類似した機能として、衝突が避けられない場合にステアリング操舵支援を行なう運転支援技術があるが、XC60はドライバーの運転操作をトリガーにして全てが機能するという点が大きく違っている。安全性能と車両価格を単純に天秤に掛けるということではないが、ドライバー中心の先進安全技術で身を固めたXC60の立ち位置は、競合車両との比較において確かな選別ポイントの1つになるはずだ。

明るい開放的なインテリアは、シートカラーがブロンド、インテリアカラーがチャコール&ブロンド。撮影車はオプションのチルトアップ機構付電動パノラマ・ガラス・サンルーフを装着していた
D4のレッドゾーンは4800rpm

静粛性が向上

D4が搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボ「D4204T」型エンジン。最高出力は140kW(190PS)/4250rpm、最大トルクは400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm。JC08モード燃費は16.1km/L

 さて、肝心の動力性能はどうかと言うと、これがスペックには表れない部分が興味深かった。まずはアイドリング時の静粛性。従来型ボルボのディーゼルエンジンは低速域から高速域までパワフルであった半面、アイドリング時から静粛性についてはそれほど優れていなかった。エンジンルーム上部には周囲を樹脂カバーで覆ったカプセル化がなされていたことから、車内では遠くでガラガラという燃焼音が確認できる程度であったが、車外では「あ、ディーゼルですね」とハッキリ認識できるほど音量と音圧が高かった。

 一方、新型ディーゼルエンジンは車外でのアイドリング音からして圧倒的に静かだ。後述するNOx除去を目的とした「SCR」システムを新規導入したエンジンは燃焼音に角がなくなり、マイルドな音として耳に届くし、そもそも音量が小さい。これは新世代のSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)プラットフォームへのエンジンマウントに伴い、搭載方法の変更や先のカプセル化においても見直しがなされたことが大きく効いている。

 走り出しても高い静粛性は保たれる。これは40~60km/hを上限とする加減速を繰り返す市街地であっても実感できるもので、XC60の車格を1ランク上げる要素として大いに評価できるポイントだ。しかも、単に静かなだけでなく各ギヤ段のつながりがよいことから、シフトアップした直後でも途切れることなく一定の加速力が連続する(躍度が一定である)ため、どんな場面でもクルマとの一体感がとても強い。また、実質的な低速トルクも十分なので、アクセルに軽く足を乗せるだけでイメージ通りに発進し、多少の登り勾配であっても足の力を少し込めるだけでジワッとした加速を続けてくれるため頼もしい。

フューエルリッドを開けたところ。給油口の隣からAdBlue(尿素水)の補充ができる

 ご存知の通り、ディーゼルエンジンは排出ガスのうち問題視されるのはNOxとPMの2つだ。そうしたことからNOx(窒素酸化物)低減を目的とした「SCR」と、PM(粒子状物質)除去を目的とした「DPF」の両システムを搭載したディーゼルエンジンが主流。例外として、マツダ「SKYACTIV-D」(日本仕様)はDPFのみを採用してSCRシステムを用いず、燃焼方式に工夫を凝らした結果としてNOx規制をクリアしているが、これはマツダ独自の技術革新による賜だ。

 NOxは、太陽からの紫外線を受け目や喉の痛みを伴う「光化学スモッグ」の原因物質を作り出す。日本において、光化学スモッグは1970年代に認知された公害の1つであり、主たる発生要因はNOxとされ、これによりめまいや呼吸困難など障害を引き起こすと言われている。ちなみに、排出ガス規制を行なっていなかったころの日本のガソリンエンジンは、ディーゼルエンジン以上のNOxを排出していたことはあまり知られていない。しかし、三元触媒の開発によってガソリンエンジンから排出されるNOxのほとんどが取り除かれるようになった。

 PMはDEP(ディーゼル排気ガス微粒子)とも言われており、成分は黒煙、SOF(有機溶剤可溶分)、軽油に含まれる硫黄分が化学変化した硫酸塩などで、マウスの実験では肺がんやアトピー性皮膚炎を促進させてしまうなどの研究結果が報告されている。

 このように、環境や人体に少なからず悪影響があると指摘されているNOxやPMに対し、日本では1968年に大気汚染防止法が制定され、同時に、自動車の排出ガスも大気汚染防止法の対象となり、保安基準で規制されることになった。さらに1992年には自動車NOx法も制定されている。

 NOxとPMがディーゼルの有害物質であるわけだが、なぜそれらが発生するのか? ディーゼルエンジンの排出ガスに含まれる有害物質はCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、そしてNOxとPMだが、その発生には空気と燃料(軽油)の混ざり具合と燃焼温度が関係している。なかでもNOxは、O2(酸素)とN2(窒素)が高温で反応して発生するため、燃焼温度が高ければ高いほど大量に発生する。

 このNOxを発生させないためには燃焼温度を下げればよいのだが、単に燃焼温度を下げただけでは燃費数値がわるくなったり、PMが大量に発生したりするため燃焼温度の低減は非常に難しい。ここに「NOxを減らすとPMが増大する(≒PMを減らすとNOxが増大する)」という二律背反(トレードオフ)の関係が存在しているのだ。このことは、ディーゼルエンジンのメカニズム上、避けては通れない部分でもあるわけだが、マツダのSKYACTIV-Dはここを技術の力で見事ブレークスルーしたことが世界中から評価されている。

 こうした有害物質であるNOxとPMの両方を効果的に低減するために開発されたのが、今回のXC60にも採用されているDPFとAdBlue(尿素水)を用いるSCR触媒を組み合わせたアフタートリートメントシステムだ。

 NOxはSCR触媒の働きにより抑制される。SCR触媒は排出ガスに含まれるNOx(NOとNO2)と、マフラー内に添加されるAdBlueの加水分解(水と反応して起こる分解)から生成された2NH3(アンモニア)を化学反応させることによって、NOxをN2(窒素)とH2O(水)に分解し、無害化する。

 DPFにはPMを除去する働きがある。排気温度が高い場合、排出ガスに含まれるNO(一酸化窒素)を前段酸化触媒で酸化させることで非常に強い酸化力を持ったNO2(二酸化窒素)を生成させ、そこで得たNO2をPMと反応させることでPMが燃焼し除去される。ちなみに、この一連の流れを「DPFの連続再生」と呼ぶ。

 低速走行や渋滞が続くなど排気温度が低く、「DPFの連続再生」で酸化できなかったPMに関しては、SiC(炭化ケイ素)フィルターで一旦捕集し、その量が一定レベルに達した時点でエンジン制御などにより排気温度を上昇させ、燃焼させることでフィルターのクリーニングを行なう。これを「DPFの強制再生制御」と呼ぶ。

 こうしたアフタートリートメントシステムの採用により、排出ガスの問題はNOx/PMともにクリアしたわけだが、これにより一般的には走行性能が落ちる傾向にある。なかでもNOx低減に向けたSCRシステムの採用によって、極低速域、エンジン回転数ではアイドリング直上の1000rpm前半のトルクが低下する。この傾向は、乗用車だけでなく大型トラックなど大排気量のディーゼルエンジンも同様だ。

筆者のオススメはD4

 その点、XC60はどうかと言うと、8速ATが持つトルクコンバーターのステーターによるトルク増幅効果が極めて高く、不足しがちな走り出し直後のトルクが太い。絶対的な加速力を決めるのは最大トルク値だが、力強さを助長するのはこうした走り出し直後のトルク値であり、その意味でXC60は運転してすぐに誰もがその恩恵を実感できるのだ。

 XC60が搭載する8速ATは、D4のディーゼルエンジン、T5のガソリンターボエンジン、そしてT6のガソリンターボ&スーパーチャージャーエンジンの全てにおいて、1~8速のギヤ比、前後輪の最終減速比に至るまで同じ値だ。つまり、XC60ではエンジンの出力特性と車両重量の相違(ディーゼル化により50kg増)によってのみ(厳密にはタイヤサイズが違うが直径はほぼ同じとして勘案)、走行フィールの違いが体感できる。

 一方、パワー感では「少し物足りないかな……」と思うシーンがあった。アクセル開度の深くなる高速道路での合流シーンや、連続する5%以上の登り勾配でそれを実感。この点をボルボ・カー・ジャパン広報部に伺うと「登録直後で走行距離が1000kmに満たないことがその要因ではないか。距離を重ねると190PS/40.8kgf・mを誇る本来のパワー感になると思います」とのこと。

 言われてみればエンジン回転フィールはやや重く、マニュアルシフトで高回転域まで引っ張ったとしても1→2速は何度やっても最高出力を発生する4250rpm(レッドゾーンは4900rpm)を下まわる4000rpm以下でアップシフトされてしまうので、慣らし運転期間とみなされてなのか、回転数の上限制御やターボチャージャーのブースト制御が働いていたのかもしれない。このパワー感については、距離を重ねた後に再取材してみたいところだ。

 しかし、乗り味は光り輝いていた。オプションとなる4輪エアサスペンションを装備していたこともあり、どのドライブモードでも路面の凹凸をきれいにいなし、車内は快適だったが、特筆すべきは後席での滑らかさにある。SPAプラットフォームの多様性には舌を巻いていたが、これまで取材してきたガソリン/PHVともに、後席の乗り味はさらに滑らかさがほしかった。これがD4では劇変し、体が上下に揺さぶられることが大幅に減っている。

 これまでXC60ではガソリンターボ、ターボ&スーパーチャージャー、ターボ&スーパーチャージャー+モーターのPHVと各パワートレーンで取材を重ねてきたが、筆者のオススメは今回のディーゼルエンジンを搭載するD4だ。本国などではハイパワー版ディーゼルモデルがあるというが、日本の道路環境においては本来の姿となったD4であれば十分なスペックと乗り味を披露してくれるだろう。ちなみに、このディーゼルエンジンはこの先XC90と「V90 クロスカントリー」にも搭載が決まっている。選択肢がますます増えるボルボのラインアップには今後も注目だ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学