インプレッション

ボルボ「XC60 T5 AWD インスクリプション」(車両型式:DBA-UB420XCA/雪上試乗)

志賀高原で雪上性能を試す!!

ハルデックス・カップリング搭載

 2017年秋より日本に導入された「XC60」は、業界内での評判もすこぶるよく、栄えある「2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたことも周知のとおり。そのXC60を雪道で走らせる機会を得た。

 今回のテーマはXC60の雪道での実力を体感すること。朝一番に長野市内で車両を拝借して夕方に返却するまでのルートは自由だが、とにかく雪のあるところをということで、志賀高原スキー場を目指すことにした。車両はT5の最上級グレード「T5 AWD インスクリプション」。タイヤはブリヂストン「ブリザック DM-V2」が装着されていた。

 雪道での走りを左右する4WDシステムについて、ボルボは欧州の前輪駆動ベースの4WD車に幅広く用いられているハルデックス・カップリングを採用している。これはもともと同じスウェーデンのハルデックス・トラクションとボルボが共同開発したもので、改良を重ねて現在では5世代目となって久しい。

 制御ユニットがアクセル操作、車輪速、ステアリング舵角などのパラメータを分析して理想的な駆動力を計算し、電子制御式多板クラッチを用いたカップリングにより瞬時に前後輪へトルクを配分。通常は前輪駆動かそれに近い状態で走行し、必要に応じて後輪に100%駆動力を配分するという仕組みだ。

今回雪上で試乗したのは「XC60 T5 AWD インスクリプション」。ボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm。直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを発生
タイヤはブリヂストン「ブリザック DM-V2」(235/55 R19)を装着。ひと目でボルボ車と分かるすっきりしたデザインに加え、エクステリアでは「トールハンマー」と呼ばれるLEDデイタイム・ランニング・ライト、フルLEDタイプのリアコンビネーションランプなどが特徴的

とにかく乗りやすい

 市街地を抜けて上信越道に乗り、信州中野IC(インターチェンジ)で下りて志賀高原方面へ。当日はほとんど雪が降っていなかったが、目的地が近づくにつれて徐々に積雪量が増えていく。現場付近の気温は-2℃~-8℃との表示。平日ながら行楽客はけっこう多くて、県外ナンバーのクルマをたくさん見かけた。

 XC60では初めて雪上を走ったわけだが、月並みながらとにかく乗りやすいというのが第一印象だ。滑りやすい路面を走るとき、アクセルレスポンスが適度になまされている方が扱いやすい。ただし、あまりレスポンスが鈍いとコントロールしにくくなる。その点、T5エンジンと8速ATの組み合わせはさじ加減が絶妙だ。さらには、滑りやすい路面と判断すると、必要以上にシフトチェンジしなくなるよう制御していると思われ、アクセルのON/OFFに対して特性が一定しているのも乗りやすさに寄与している。

インパネ中央のディスプレイで「ESCスポーツモード」を選択できる

 かつてカップリングにビスカスを使用していたころは前輪が滑り出してから後輪に駆動力を伝えていたのだが、現在採用されている5世代目では滑りを予知してあらかじめ後輪にも駆動力を伝達しているので、まったくタイムラグなく安定して走れる。

 ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)は、スタビリティ機能や空転する駆動輪にブレーキをかける機能などを有しているが、ESCスポーツモードを選択すると、介入が減って横滑りを許容する領域が増す。回頭性が向上し、自ら操っている感覚が高まる。ESCについては、常にONの状態で完全にOFFにすることはできなくなっていて、危険な状況に陥ることはない。また、滑りやすい路面でスタックした場合にも、同モードを選択すると最大のトラクションが得られるようになる。

 ドライブモードでオフロードモードを選ぶと、エアサス車は車高が40mm上がり(非エアサス車の車高は不変)、ステアリングが軽くなるほか、常時全輪駆動となり、自動的にヒルディセント機能と連動して低速域での車輪の空転を抑えてトラクションを高める機能が作動。スタート/ストップ機能はOFFとなり、ディスプレイにコンパス表示がされたりするので、必要に応じて選ぶとよい。今回はオフロードモードを必要とするほどの厳しい状況には遭遇しなかったが、いざというときには心強い味方になってくれるはずだ。

寒冷地に向けた配慮の数々

 XC60は、さすがは極寒のスウェーデン生まれのクルマだけあって、寒冷地で使うときにどうあってくれるとよいか、そのあたりもよく考えられていて感心する点が多々ある。

 ボルボというと、かつてはスイッチが大きくて操作感もパチンパチンと安っぽい感じがしたものだが、それは手袋をしたままでも確実に操作できるよう、あえてそうしていたというのは知る人ぞ知る話。その良心は今でも息づいていて、センターディスプレイのタッチパネルの方式は静電式が一般的のところ、手袋をつけたままでも操作できる赤外線式を採用していることも特筆できる。また、最近ではインパネのスイッチ類を極力少なくするのがトレンドとなっていて、新世代ボルボもそれに則っているが、頻繁に使う機能についてはクライメート列のスイッチで直感的に操作できるようになっているあたり、さすがである。

インテリアでは美しいスカンジナビアンデザインを表現するべく、流木からデザインコンセプトを取り入れたというドリフトウッド、質感の高いメタルを用いたデコレーション・パネルなどを採用。インスクリプションはパーフォレーテッド・ファインナッパレザーシートを標準装備する

 シートヒーターやステアリングヒーターは寒い日に自動的に起動するよう設定することもできるし、ステアリングヒーターの効きを4段階もレベル調整できるようになっている。エアコンの効きも非常によいなと思ったら、空調システムは実際の温度ではなく、複数のセンサーにより体感温度にもとづいて最適に調節しているのだという。

 また、冬場はあまり関係ないかもしれないが、日光がどちらから差し込んでいるかを検出するセンサーも備えていて、左右席で同じ温度に設定していても風量を差別化して両席とも最適となるようにしている。

ドアパネルはサイドシル全体をカバーする形状を採用し、車内に出入りする際に足下が汚れにくいようにデザイン。また、センターディスプレイに手袋をつけたままでも操作できる赤外線式を採用するといった点は、雪国で鍛えられたボルボ車の美点

 また、ドア下端にラバーシールが配されていてサイドシルが汚れないおかげで、乗り降りするときにふくらはぎを汚す心配がないのも助かる。雪道でもXC60は、その高い評判の期待を裏切ることのない、見事な働きぶりを見せてくれた。

【お詫びと訂正】記事初出時、車内などを暖めるプリコンディショニング機能について記載しましたが、日本市場では導入準備中となっており、販売中の車両には装備されていないことから、該当部分を削除させていただきました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸