インプレッション

ボルボ「XC60 T5 AWD インスクリプション」(車両型式:DBA-UB420XCA/公道試乗)

まさしくXC90の弟分

 日本で最も売れているボルボ車は「V40」だが、グローバルでは「XC60」が全体の約3割と圧倒的だ。それも発売されてから時間が経過するにしたがって販売台数が増えたらしいのだが、そうなったのもクルマの実力があってこその話に違いない。そしてこのほど、初代XC60の日本導入からまもなく9年というタイミングで、「90シリーズ」に続く新世代のボルボの「60シリーズ」第1弾として、XC60が2代目に生まれ変わった。

 まさしく「XC90」の弟分という雰囲気のスタイリングは、非常にエレガントで知的に見える。初代XC60が出たころのボルボは、往年の“四角いボルボ”とは変わったことを印象付けるためか、アグレッシブなイメージをことさらに強調していて、それはそれでよかったと思うし、商業的にも十分に成功と言える数字を残してきたが、新世代ボルボではこうしてまた違った新しい境地を開拓したことをうかがわせる。

試乗車のXC60 T5 AWD インスクリプション。ボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm。電子制御エアサスペンションをオプション装着(30万円高)しており車両重量は1860kg。ボディカラーはブライトシルバーメタリック

 XC90でも強調していた、スカットルを長くしてFR車のようなバランスのサイドビューはもちろんXC60にも採用されていて、とても伸びやかでスタイリッシュに見える。また、ボディパネルの面の作りが非常に凝っていて、美しい3D造形の曲面を描いている。トールハンマー型のヘッドライトやフロントグリルは、XC90に比べてもより大胆なデザインとされている。ショルダーの張り出しを強調する縦長のテールランプもボルボ車の伝統を視覚的にアピールしている。

フロントタイヤの中心点からAピラーの付け根までの距離を長くして高級感を演出。タイヤサイズは235/55 R19
「トールハンマー」と呼ばれるLEDデイタイム・ランニング・ライトはグリルに連続するほどのサイズになり、さらに印象度を高めた
リアコンビネーションランプもフルLEDタイプ。外周をライン発光するLEDで強調して伝統あるスタイルをアピール

 XC90でも多くの人を驚かせたインテリアのエッセンスはXC60にもしっかり受け継がれている。3列シートか2列シートかという違いこそあれ、そこに上下関係はないように思えるほどの雰囲気を感じさせる。上級仕様の「インスクリプション」グレードに与えられる、インパネ中央の縦長画面を囲むようにふんだんに配された、自然味のある美しい木目を見せる「ドリフトウッド(=流木)」も目を引く。とにかく、この価格帯でこれほどのクオリティを実現したクルマは思い浮かばないほどだ。乗るたびにこの雰囲気を味わえるのというのはなかなかうれしい。

大きく曲線を描きながらインパネ下側の左右をウッドパネルで連続させるユニークなデザインを採用。白いウッドパネルはスカンジナビアの海岸線に打ち上げられ、自然の時間経過のなかで色を失った「ドリフトウッド(=流木)」をイメージしたもの

 XC90と共通のたっぷりとしたフロントシートの着座感も上々で、「インスクリプション」なら表皮がナッパレザーとなり、ベンチレーションやマッサージ機能も付く。リアシートの下には、iPadなどを収納できるくぼみがある。サイドシルが低く、乗降性もまずまず。開口部の下側までドアでカバーされるので、サイドシルの内側が汚れにくいのも助かる。

取材日は残念ながら強い雨が降り続いていたが、ドアパネルがサイドシル全体をカバーする形状となっており、車内に出入りするときに足下が汚れにくいようになっていて助けられた
インスクリプションはパーフォレーテッド・ファインナッパレザーのシートを標準装備。シートカラーは写真のブロンドのほか、チャコール、マルーンブラウン、アンバーと多彩に用意する

新しいステアリングサポート機能を追加

「B420」型の直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを発生。トランスミッションは全車8速AT

 現行XC90を皮切りに導入した「SPA」と呼ぶ新世代アーキテクチャーは、もちろんXC60にも採用されており、シャシーの造りはおおむねXC90と同じ。今回試乗したのは、最高出力254PS、最大トルク350Nmを発生する2.0リッターの直列4気筒ガソリン直噴ターボエンジンを搭載する「T5 AWD インスクリプション」だ。初代XC60の途中から導入している「Drive-E」パワートレーンはあいかわらずのスムーズなドライブフィールが心地よく、エントリーの「T5」エンジンでも1.8tあまりの車体を走らせるには十分な動力性能を備えている。静粛性も十分に高い。

「T5」と同時にプラグインハイブリッドの「T8」もデリバリーが開始されているが、ディーゼルの「D4」やガソリンの高性能版となる「T6」は来春となる。初代XC60では2WD(FF)のみだった「D4」が4WDとなるので、登場当初の2代目XC60は全車4WDとなることもお伝えしておこう。

 ボルボの「安全に関するものはオプションにしない」という信条から、新型XC60では最新のテクノロジーを活用して、乗員のみならず車外の人をも守る16種類以上の先進安全運転支援機能「IntelliSafe(インテリセーフ)」が全車に標準装備され、そこに3つのステアリングサポート機能が新たに搭載された。

 詳しくは別記事(ボルボ、ミッドサイズSUV「XC60」をフルモデルチェンジ。599万円から)をご覧いただきたいが、とにかく、万が一の際に衝突回避をアシストする機能が非常にきめ細かく充実していることは強調しておきたい。ただ、日常的によく使うことになるであろう、自動運転「レベル2」相当となるアシスト機能が加わったのも2代目XC60の特徴だ。

 これはACC(アダプティブクルーズコントロール)を設定して「パイロット・アシストII」を作動させると、わずかなステアリング操作で車線の中央を保持できるよう支援するというもので、渋滞中でも車線を維持するようにステアリング操作をアシストし、先行車や隣接車線の他車と接触するリスクを低減させてドライバーの負担を軽減してくれる。むろん単独走行中でも作動させることができる。

 実際の話、車線に沿って走るというのは、それだけでけっこう神経を使うもの。むろん、クルマ任せではなく自分が主体的に運転するのは当然としても、注意すべきところのいくばくかをクルマに任せられるというのは非常に助かる。また、新たに設定されたブレーキのオートホールド機能も非常に重宝する。

標準サスとエアサスの違いは?

 足まわりには、XC90でも話題となったリアにコンポジット素材のリーフスプリングを用いた標準サスと電子制御エアサスの2種類が用意されている。今回はエアサス車を主体にドライブしたのだが、ゆったりとして上質感のある乗り心地はエアサスならでは。対する標準サスは車両重量を感じさせない軽快で素直な操縦性を身に着けている。現状では標準サスのほうが煮詰まっている印象で、あまり気になるところもなかったのに対し、エアサスは微妙に抑えの効いていないところも見受けられたのだが、ボルボのことだから早々に手当てしてくることだろう。

 人気の高いミドルクラスのプレミアムSUV市場に、各社が続々とニューモデルを投入しているなかでも、2代目XC60は新世代ボルボならではの独特の雰囲気と世界最高峰の安全性を身に着けつつ、充実した内容のわりに価格は競合車と比べて控えめに抑えられているところも魅力に違いない。初代の登場当初よりも強力なライバルが増えているが、初代を超える成功を収めることを確信した次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学