インプレッション
西村直人の日産自律自動運転実験車「2017年プロトタイプ」体験レポート
車載センサーの数は実に39個!! 自律自動運転はベテランドライバーの領域に
2017年11月14日 13:51
日産自動車の自律自動運転実験車「2017年プロトタイプ」に対する同乗取材を行なった。車両はご覧のとおり「インフィニティ Q50」(近いうちにマイナーチェンジを行なう「スカイライン 350GT HYBRID Type SP」相当か?)で、この車体に39個のセンサーとHDマップを搭載することで自動化レベル2の自律自動運転を実現する。
日産は2015年11月にも前身となる実証実験車を公開。筆者はその際も同乗取材を行なったが、この2年で運転操作の自動化レベルは「運転初心者」レベルから「ベテランドライバー」レベルにまで飛躍的に向上。ステアリング操作が滑らかになったのはもちろんのこと、アクセル操作やブレーキ操作にもメリハリが生まれ、あたかも熟練ドライバーのような運転操作へと成長していた。以下、詳細をレポートする。
一般道と高速道路で同乗試乗
この実験車両は、カーナビゲーションで目的地を設定すると一般道と高速道路の両方で自律自動運転を行なう。日産では将来の自律自動運転につながる技術を「ProPILOT」として世に送り出し、その第1弾を「同一車線自動運転技術」と称して「セレナ」や「エクストレイル」、そして新型「リーフ」に搭載している。2017年11月現在、市販車に搭載されているProPILOTは高速道路や自動車専用道路において、自車が走行している車線のなかで前走車に対して追従走行するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と、白線や黄線を認識し、車線の中央部分を維持するようハンドル操作を支援するLKA(レーン・キープ・アシスト)を行なうもので、これにより運転操作による身体的な負担や渋滞時の精神的な負担の軽減を狙っている。
車載センサーの数は実に39個! 12個の「超音波ソナー」、12個の「光学式カメラ」、9個の「ミリ波レーダー」、6個の「レーザースキャナー」をセンサーとして搭載し、自車周囲の交通情報や道路情報を把握する。さらに、これまでのカーナビゲーションに加えて、高密度情報地図である「HDマップ」も搭載する。HDマップとは将来、ダイナミックマップとして世に送り出される詳細な地図データに類似した現時点でのデータを収録したもので、車線の数や信号機の位置、そしてコーナーの曲率などが細かく収録されている。
同乗取材で走行したコースは一般道と高速道路だ。前回の2015年の同乗試乗では一般道のみだったが、自律自動運転の難易度で考えてみると一般道の方が100倍近く高い。その理由はお分かりのとおり、高速道路では遭遇することのない歩行者や自転車などを認識し、それに対応しなければならないからだ。つまり、自律自動運転を継続させるにあたり、情報として処理しなければならない要素が多いから一般道での技術難易度が高くなる。それは現在の技術レベルでも同じことが言えるが、今回は前回行なわなかった一般道での右折も披露した。もっとも、右折する自車に対する直進車両、つまり右直の状態にある直進車の把握は現システムをもってしても万全ではないため、ここではドライバーの目視による安全確認も併用し、緊急時はドライバーがオーバーライドすることを条件に行なっていた。
とはいえ、自律自動運転の操作は非常にスムーズだ。これは前述したHDマップに因るところが大きい。日産では走行するコースの情報を独自に取得してHDマップを作製し、「実走行も1000回以上行なっている」(システム設計の担当者)という。こうした入念な開発過程によって、HDマップを活用した自律自動運転は非常に正確なステアリング操舵を行なっている。前回2015年の試乗ではコーナーに差し掛かった際、車線を示す白線や黄線が不明瞭になると、とたんにステアリングを小刻みに動かしながら進むべき進路を必死に探していたが、今回の実験車両はこうした場面であっても一発で操舵を決め、一定舵角のまま横方向のGに一切の乱れを感じさせずラインを綺麗にトレースしていく。細かいところでは、高速道路でのコーナー走行時に車線のど真ん中を走り続けるというよりも、タイヤ1本分ほどカーブの内側や外側に入り込んだり、一般道では左折した先にある道路の道幅が広い場合に、あらかじめ大まわりして最初から左折した先の道路の中央に進路を取ろうしたりする傾向が見られた。
ちなみに、2017年10月10日に打ち上げられた準天頂衛星「みちびき4号」によって24時間4基体制の「日本版GPS」が完成している。これにより近い将来、位置情報のうち水平方向の測位誤差が従来の10m(1000cm)から6cmへと166倍も精度が向上すると言われていることから、その実用化のタイミングに合わせて自律自動運転技術レベルがさらに向上すれば、ドライバーの意図に近いコーナーでのライントレースができたり、一般道での左折時は車線の左に寄せた小まわり(≒2輪車の巻き込み事故抑制)ができたりするようになるのではないか。
高速道路での本線合流はどうか
高速道路への進入時は、当然ながらETCゲートを通過することになるのだが、実験車両では新たにETCゲートの認識に人工知能を用いた。HDマップにも当然ながらETCゲートの情報は収録されているのだが、前走車のETCカード挿し忘れによるゲートの一時的な封鎖や、緊急工事など何らかの理由でETCゲートの位置が変更になっている場合にも柔軟に対応すべく、人工知能によってどこがETCゲートなのかをディープラーニングによって学べるため、遭遇した道路状況での正確な判断ができるようになった。
高速道路での本線合流は自律自動運転技術のなかでも実現難易度が高い。実験車両の本線合流における基本的な制御アルゴリズムは、①合流する際にターゲットとなる車両を補足→②自車が合流できそうな場所をセンサーで探して認識→③その後ろに入る、というもの。対してこれまでの自律自動運転技術では、①自車が合流できそうな場所をセンサーで探して認識→②そこに入る、としていた。
両車のおける最大の違いは自車スペースの確保方法にある。「そこに入る」という従来の合流方法ではそもそも自車が入れるスペースがないとシステムによる判断が下されてしまうと、ドライバーが運転操作を引き継ぎつつ、周囲に気を配りながら合流するよりほかに手段がなかった。これは日産だけでなく、同時期に同乗取材したトヨタ自動車の自動運転車「Highway Teammate」でも同じであった。それが「その後ろに入る」という新たな合流方法では、ターゲットとなる車両に対してあたかもドライバーが追従走行を行なうかのようにスルッと入り込もうと早めの合図(ウインカー)を伴う上手な車線変更を行なうため、後続車としても自律自動運転ではない一般車両が合流する際と同じくアクセルペダルを離すなりして自車の前に割り込ませやすくなる。これぞまさに阿吽の呼吸を狙ったかのような手法だ。
しかし、現状のシステムにも限界があるという。それはセンサーが持つ外界認識能力の物理的な限界だ。前述したとおり、車両には合計39個ものセンサーとHDマップを搭載しながら、光学式カメラのうち4個は車両の天井(前後左右方向)に設置することで、少しでも高い位置から遠くの状況を把握しようと試みている。可能な限りのレンズ広角化により、高速道路への勾配路を駆け上がるランプ合流ではドライバーの目線では追えない高さまで認識することができる半面、そのカメラのレンズに水滴や雪、悪天候時の泥などが付着してしまうと認識能力がガクンと落ちる。眼鏡にべったり指紋がつけば見えづらくなることと同じ理屈だ。
さらに、正確な測距性能を誇るレーザースキャナーにしても物理的な限界点がある。車両の前後左右方向に6個搭載しているわけだが、画像でもご覧いただけるように車両の四隅はドライバーの不注意から接触しやすいというジレンマを抱えている。最新型のレーザースキャナーは奥行きを短縮して車体からのはみ出し量を極力抑えているものの、それでもコツンとなにかと接触すれば正確な計測はできなくなる。また、レーザースキャナーは、例えば前後の車間がびっしりと詰まっているような渋滞している状況では、車間の把握が難しくなってしまう(レーザースキャナーからは前後のクルマが重なり合っていると判断される場合がある)ため合流が難しいという。
2015年の実験車両はProPILOT「パイロットドライブ1.0」を名乗り、その翌年にProPILOT「高速道路同一車線自動運転技術」がデビューした。日産は2018年に「高速道路複数車線自動運転技術」を商品化するとしていることから、今回の実験車両はProPILOT「パイロットドライブ2.0」と捉えることもできる。今回の試乗距離は約20km、スタート地点でカーナビゲーションに目的地を入力し、スタートボタンを押すだけで実験車両はドライバーが一度も運転操作を行なうことなくみごとにこの道のりを走破したわけだが、2018年にはこのうち「目的地設定をしている場合に限り、入口に指定したETCゲートから出口に指定したETCゲートまでの運転支援を行なう技術」が抜粋されて市販車に搭載されるのではないか、との予測が成り立つ。
ProPILOTは3部作だ。最終章は2020年にベールを脱ぐわけだが、そこでの自動化レベルは3なのか4なのか。アウディがいち早く自動化レベル3を「A8」で具現化したが、ボルボやメルセデス・ベンツは現状のレベル2からレベル4へと飛び級することを明言している。さて、日産はどう出るのだろうか……。