インプレッション
アウディ「RS 4 アバント」(2017年発表/スペイン試乗会)
2.9リッターにダウンサイジングも、その動力性能はスーパーカー級
2018年1月19日 00:00
ダウンサイジングエンジンを搭載する新型RS 4 アバント
世界の歴史ある自動車メーカーには、多かれ少なかれそのブランドの語り部となるような、特徴溢れるアイコン的なモデルが存在するもの。「RS 4 アバント」は、アウディにとってまさにそうした1台と紹介できるモデルだ。
この名称が初めて与えられたのは、モータースポーツに端を発する英国の技術者集団「コスワース テクノロジー」がパートナーとして開発に携わった、1999年に誕生した初代モデル。以来、3度のフルモデルチェンジを繰り返し、2017年のフランクフルト・モーターショーで発表されたのが、ここでの主役である最新型となる。
ただし、そんなRS 4 アバントには初代モデルの誕生以前にもすでに“出典”があった。それが1994年に発売された「RS 2 アバント」だ。当時の「80 アバント」をベースとしたこのモデルは、「5人用のシートと広いラゲッジスペースを備える、世界初のスポーツカー」と紹介をされたもの。それが今でも語り継がれるのは、最高出力315PSを発する2.2リッターのターボエンジンを搭載し、5.4秒という0-100km/h加速と262km/hの最高速という高い動力性能を発揮したと同時に、その開発と生産にポルシェが関わったという点も深く関係している。
実際、RS 2アバントに用いられたホイールやブレーキシステムなどはポルシェからの贈り物で、エンジンには「powered by PORSCHE」の文字が刻まれたもの。さらに、そもそも最終組み立てが行なわれたのは、シュトゥットガルトにあるポルシェの工場であったのだ。
1990年代初めといえば、ポルシェが深刻な経営難に陥っていたまさにそのころ。今では業績絶好調のポルシェは、当時はそんなコラボレーションまでを企画して急場を凌いでいたのである。
かくして、ステーションワゴンでありながらも本格スポーツカーに匹敵する運動性能を誇り、加えて前述ポルシェとの逸話もあっていつしか神格化をされるに至ったRS 2 アバント。その流れを直接に汲むRS 4 アバントの最新モデルでの大きな見どころはまず、先代、先々代と搭載されてきた自然吸気の4.2リッターV8ユニットから、新開発が行なわれた2.9リッターのV6ユニットへと、心臓部にダウンサイズとレスシリンダー化が図られた点にある。
排気系が90度バンクの内側にまとめられ、1.5barの最大過給圧を生み出す2基のターボチャージャーもそこに配された直噴エンジンは、最高出力450PSと最大トルク600Nmを発生。従来のV8ユニットと比べると、これは「最高出力は同様で、最大トルクは170Nmもの上乗せ」という関係だ。
そんな心臓部は、実は最新の「パナメーラ」や「カイエン」に先行して搭載されたユニットと基本をともにするもの。ちなみに6気筒はアウディ、8気筒はポルシェが開発と生産の主導権を担うのが、フォルクスワーゲングループ内でのV型エンジンに対する最新のスタンスなのだ。
そんなエンジン単体部分での「31kgのマイナス」というフレーズを筆頭に、従来型比での重量は約80kgの軽量化。そうしたボディに、アウディ車の技術的アイコンでもあるクワトロ=4WDシステムを介して得られる4.1秒という0-100km/h加速も、従来型より0.6秒の短縮というデータが発表されている。
加えれば、先に紹介した初代RS 4 アバントも、その心臓部はツインターボ付きのV6デザインであったもの。この事実をもって「原点回帰」という言い方ができるのも、最新モデルの特徴であるわけだ。
ファットなシューズをクリアするためのブリスターフェンダーや、ハイパフォーマンス・エンジンの搭載を象徴する開口部が大きなフロントマスクなどは、歴代RS 4 アバントの見た目上の特徴でもあったもの。「これは単なるステーションワゴンではないな!」と一見して見る人を納得させる、そんな“ならでは”の見た目上の分かりやすい特徴は、もちろん最新のモデルにも盛り込まれている。
ブリスターフェンダーの“膨らみ量”は、ベースボディであるA4 アバントに対して片側15mm。ハニカムパターンのフロントグリルや前後のバンパー、ルーフスポイラーやテールパイプエンドなどにも専用のデザインが採用されている。
A4シリーズのホッテストバージョンであると同時に、トップグレードという位置づけも担うゆえ、インテリアはスポーティさとともにゴージャスさも強く打ち出されている。フロントには、いかにもホールド性に優れていそうな形状の、レザーとアルカンターラ表皮を備えたRSスポーツシートを標準装備とし、インテリア各部もダッシュボードやコンソールまわりを筆頭に、適度に“光り物”をあしらった上質な作りが印象的。
昨今のアウディ車が好んで採用するフルデジタル式のバーチャルメーターも、このモデルでは標準で採用。RS専用のグラフィックを選択すると、そこには出力やトルク、タイヤ空気圧やGフォースといった情報を表示させることも可能になっている。
スーパーカー級の動力性
国際試乗会が開催されたのは、スペイン南部の都市、マラガ。都心のホテルが基点であったゆえ、スタートしてすぐに混雑激しい市街路へと身を投げることとなった。
だが、そうしたシーンでの動きに「4.2リッターから2.9リッターへ」という、大幅なダウンサイズの悪影響を実感することは皆無。何しろ、最大トルク値は前述のように、従来型を大幅に上まわる600Nm。2000rpmを前にして発せられるそんなトルクで、大幅軽量化が実現されたボディを動かすのだから、むしろ力感が大きく増して感じられるのも当然なのだ。
前方が開け、アクセルペダルを踏み加えられるようになると、それにつれてトルクがもりもりと湧きあがる。従来の自然吸気V8エンジンによる、“回転数に依存したパワーの高まり感”も、官能度という点では見るべきところは多かった。一方で、全域大トルク型のこちらの心臓も、RS 4 アバントの走りに新たな魅力と特徴を加えることになっているのは間違いない。
フットワークは硬派なテイストが基本。実は、後席での乗り味をチェックする機会もあったが、そちらは常に少々揺すられ感がきつく、よりフラット感の高い前席の方が好印象だったもの。今回設定されたテストルート上には、残念なことに強い横Gが連続して味わえるようなロケーションは用意されていなかったが、これはぜひともサーキットを走ってみたくなる足腰の持ち主と感じられた。
そんなRS 4 アバントは、もちろん歴代モデルと同様にベースのA4 アバントと何ら変わることのない実用性の持ち主でもある。もはやスーパーカー級と言える動力性能に、クワトロシステムがもたらす全天候性。さらにはステーションワゴンならではの高度なユーティリティ性能に、最新モデルらしい安全デバイスや先進のコネクティビティ……と、何拍子も揃うのがこのモデル。
そんな贅沢かつ飛び切りスパイシーな最新のRS 4 アバントは、間もなくの日本上陸が予想されている。