インプレッション

BMW「X1」(車両型式:ABA-JG15/7速DCT仕様)

トランスミッションを6速ATから7速DCTにチェンジ。その乗り味は?

2ペダル車はトルコンATのみだったはず……?

 初代のE84型は後輪駆動ベースだったが、後席の居住性や荷室の広さなど実用性の面で不利なことから、2代目となる現行のF48型ではMINIとプラットフォームを共用する前輪駆動ベースへと舵を切ったのはご存知のとおり。2015年10月から日本に導入されており、当初は1.5リッターの3気筒ガソリンエンジンを搭載する「sDrive18i」、2.0リッター4気筒ガソリンエンジンを搭載する「xDrive20i」と「xDrive25i」がラインアップされ、2016年9月には同じモジュラーエンジンの2.0リッター4気筒クリーンディーゼルを搭載する「xDrive18d」が加わった。そして2017年8月、sDrive18iのトランスミッションが6速ATから7速DCTに変更された。

 この情報を知って筆者は「!?」と感じた。というのは、BMWでは一時期、Mモデル以外の一部高性能モデルにもDCTを採用していたが、扱いやすさなど諸々のメリットを重視して、Mモデルを除いてMINIも含め乗用車系の2ペダル車はトルコンATとする方針を示していたからだ。それには筆者も大いに共感を覚えていた。

 他のいくつかの自動車メーカーでもDCT化を試みたものの、いろいろあってトルコンATに回帰した例も見受けられる。その意味でもBMWは先見の明があると感じていた。ところが、こうしてエントリーモデルにDCTを採用し、これからMINIも順次DCTとしていくというのだから、どういうことなのかと思っていた次第である。

2015年10月から日本に導入されている「X1」。2017年8月には「sDrive18i」のトランスミッションが6速ATから7速DCTに変更された。今回試乗したのはミネラル・ホワイトカラーの「X1 sDrive18i M Sport」(452万円)で、ボディサイズは4455×1820×1600mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm
エクステリアでは、LEDヘッドライトやダブルスポークの18インチアルミホイール(タイヤはピレリ「Cinturato P7」)、M エアロダイナミクス・パッケージ(フロントエプロン、サイドスカート、リアスカート、ワイドホイールアーチ)などを装備
ブラックを基調にしたインテリア。M Sport仕様では前席スポーツシートやMスポーツ・レザー・ステアリング・ホイールなどを標準装備。撮影車はブルーステッチ入りのパーフォレーテッド・ダコタ・レザー・シート(ブラック)を装備
ラゲッジスペース容量は通常時で505L、後席を折り畳むと1550Lまで拡大できる

スペックにも若干の変更あり

X1 sDrive18iが搭載する直列3気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンは、最高出力103kW(140PS)/4600rpm、最大トルク220Nm(22.4kgm)/1480-4200rpmを発生。JC08モード燃費は15.7km/L

 思えばX1の他のモデルでは8速ATのところ、当初のsDrive18iのみ搭載されていたのがアイシン製の6速ATだった。今回、7速DCTを採用した目的は、さらなる燃費性能の向上と加速性能の向上だという。7速DCTのサプライヤーはゲトラグで、2対の湿式クラッチを備えたタイプとなる。併せてATセレクターも変更された。

 これと同時にエンジンスペックその他にも若干の変更があり、これまでは最高出力100kW(136PS)/4400rpm、最大トルク220Nm(22.4kgm)/1250-4300rpmだったところ、DCT搭載モデルは同103kW(140PS)/4600rpm、220Nm(22.4kgm)/1480-4200rpmとなった。変わらないのは最大トルク値のみで、最高出力は微増し、最高出力と最大トルクとも微妙に発生回転数が変わっている。

 加速性能(ヨーロッパ仕様)は、0-100km/h加速タイムが従来の9.7秒から9.6秒に0.1秒とわずかながら短縮され、JC08モード燃費(日本仕様)は従来の15.6km/Lから15.7km/Lへと、これまた0.1km/L向上している。

 ……と、ここまで知るとなるほどという気もするのだが、実はちょっとした問題がある。それはsDrive18iの車両型式が、これまで「DBA-HS15」だったところ、DCT搭載車は「ABA-JG15」となったことだ。つまり、DCTの搭載により燃費は微妙に向上したにもかかわらず、「★★★★」から「★★★」になり、従来は適合していたエコカー減税の対象から外れてしまったのだ。

 なお、2017年8月の発表時点でsDrive18iの車両価格は406万円~452万円となったが、2018年初の改定で417万円~となった。

DCTの弱点を感じさせない

 箱根ターンパイクに繰り出す前に、気になる細かい動きを駐車場で試してみたところ、これがなかなか案配がよい。むろん出足のところでトルコンATだったらさらに滑らかに動き出すだろうというのはあるにせよ、発進はかなりスムーズだ。勾配のついたところにある駐車枠内に収めることを想定するなどといった、ちょっとイジワルな状況もいろいろ試してみたのだが、本当にトルコンATに近いほどの滑らかさで、DCTの弱点をほぼ感じさせない。なるほど、ここまでよいものができたがゆえに、BMWもDCTの採用に踏み切ったのだろう。

 そしてひとたび走り出すと、今度はDCTらしいダイレクト感を味わえる。マニュアルシフトするとDCTならではの歯切れのよさで瞬時にシフトチェンジをこなす。1.5リッターの3気筒エンジンも動力性能的には十分で、瞬発力もある音や振動に3気筒エンジン特有のものがあるのは否めないものの、sDrive18iというグレードは、X1が好きだけど前輪駆動で十分、3気筒で十分という人のためのクルマだから、これでよいのだろう。なお、100km/hでトップギヤでのエンジン回転数は約1800rpmと低い。正確には覚えていないのだが、6速AT時代はたしか2000rpmを超えていた気がする。実走燃費の面でも今回の変更はメリットがあることが期待できる。

 30kg増となるサンルーフの追加された試乗車では、車検証によると車両重量が1550kg、前軸重が870kg、後軸重が680kgと記されていた。後輪の駆動機構を持たないsDrive18iゆえ、数値としてはだいぶフロント寄りの重量配分に見えるかもしれないが、実はFF車としては優秀なほうで、実際にドライブしてもフロントヘビーな印象はまったくない。しなやかな足まわりと素直なハンドリングにより、いたって軽快で乗りやすい。

 むろんXモデルの上級機種になると、高級感も増せばエンジン性能も高まるのは当然だが、扱いやすさや走りの一体感ではX1がもっとも上。そしてsDrive18iも、たとえFFでもそこには“駆け抜ける歓び“がしっかり表現されていることがヒシヒシと伝わってきた。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸