インプレッション

BMW「X1」(2代目モデル)

見た目の車格感が格段に向上

 実車を見ての第一印象は「ずいぶん立派になったな」だった。よりたくましく、正統派SUVらしく生まれ変わった堂々たるルックスに、初代「X1」とは比べものにならないほど質感の高いインテリア。上級モデルの「X3」とはけっして小さくない差をいろいろなところに感じさせた初代X1とは格段の違いで、2代目X1にはXモデルのエントリーとは思えないほどの車格感がある。

 BMWのXモデルというのは日本でも人気が高く、Xモデル全体で輸入SUVでトップシェアとなり、2位に約2倍の差をつけることに成功している。その中でも、Xモデル全体における販売の半分を占め、BMWブランドの中でユーザーの年齢層がもっとも若いモデルでもある初代X1は、安っぽいだの狭いだのとなんだかんだ言われながらもけっこう売れたわけだが、フルモデルチェンジした2代目X1を目にして、これはもっと売れるなと確信した。

X1 xDrive25i xLine(ミネラル・ホワイト)

 初代X1は、このセグメントでは珍しい後輪駆動ベースであり、それが1つのウリだったところ、2代目X1はすでに報じられているとおり、ついに前輪駆動ベースとされたわけだが、得たものは大きい。格段に広くなった後席の居住空間やラゲッジスペースは、前輪駆動ベース化なくしては実現しなかったのは明白だ。

 ラゲッジスペースは従来比で85Lの増加となる、コンパクトSUVで最大級の505Lを確保。さらにフロアボード下にも100Lのスペースがある。これだけの空間があればかなり便利に使えそうだ。加えて、リアバンパー下で足を左右に動かすことでテールゲートが開く「コンフォートアクセス」が設定されたことも時代を感じさせる。

xDrive20i xLineのインパネ。センターコンソールなどが運転席側にわずかに向き、運転中でも手先が届きやすいようになっている
マルチファンクション・スポーツレザーステアリングを標準装備
260km/hスケールメーターを備える2眼式メーター。エンジン回転のレッドゾーンは7000rpmから
パーキングブレーキは電磁式で、運転席の足下にはアクセルとブレーキ、フットレストを設定する

 後席の膝前のスペースは最大で66mmも拡大した。また、着座位置が従来より前席で36mm、後席で64mm高められたことで乗降性も向上しており、前後席とも立った姿勢からオシリを下ろしたところにちょうどシートがある。そして座ると前後席とも見晴らしのよい開放的な視界が得られている。後席が前席よりもやや高めに設定されているおかげで、閉塞感を覚えることなく車外を見渡せる。後席に前後スライド機構(25iは標準装備。それ以外のグレードはオプション)が付けられるようになったのも新しい。

ラゲッジスペース容量は通常で505L。フロア下に100L分のスペースが用意され、リアシートの背もたれを前に倒すと最大1550Lまで容量が拡大
リアシートの背もたれは40:20:40の3分割可倒式
ラゲッジスペースの側面にバックレストリリース機構のスイッチを用意する

前輪駆動ベース化により得たものは大きい

 ドライバビリティの仕上がりも、なかなか感心させられる完成度だ。前後重量配分については、後輪駆動ベースの初代X1は、さすがはBMWらしく前後50:50に近い重量配分だったように記憶しているが、2代目X1で、試乗した「xDrive20i」と「xDrive25i」は、いずれも車検証によると前軸重930kg、後軸重730kgと、フロントが200kgも重い。しかし、そんなことはまったく気にならないほどハンドリングは軽快で、味付けも素晴らしかった。

 試乗車はいずれも「デビュー・パッケージ」に含まれる19インチ、または18インチのランフラットタイヤを履いていた。ややタイヤ自体の硬さを感じるが、サスペンションストロークはたっぷり確保されていて、ワインディングを走らせるととても素直な走り味が印象的だった。

 ステアリング切り始めの微妙な領域から、操舵したとおりリニアに遅れなくヨーが発生し、リアもそれにきれいについてくる感覚は、定評あるX3と比べてもまったく負けていないどころか、動きのなめらかさではむしろ上まわるほど。

X1 xDrive20i xLine(スパークリング・ストーム)
xDrive20i xLineは225/50 R18サイズのランフラットタイヤを装着。ホイールはYスポーク・スタイリング569 アロイ・ホイール
xDrive25i xLineは225/45 R19サイズのランフラットタイヤを装着。ホイールはYスポーク・スタイリング511 アロイ・ホイール

 これがX5あたりになると、大きな重量をカバーすべくかなり固められたことが影響して、あまりよろしくない部分もいろいろ見受けられるところだが、X1は車両重量が軽いので無理をしていないことが幸いしているのだろう。Xモデル全体の中でも、走りのまとまりのよさにかけては、X1が最も上ではないかと感じたほどだ。

 前輪駆動ベース化によって得たものは大きくても、失ったものはないのではないかと思う。

「20i」と「25i」の違いは?

「xDrive20i」と「xDrive25i」では、どちらも2.0リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンを搭載するが、最高出力は141kW(192PS)と170kW(231PS)、最大トルクは280Nmと350Nmという、数字だけ見ても小さくない差がある。

 ドライブしても、それなりにエンジン出力の違いを感じるもので、「20i」でも十分なところ、「25i」になるとちょっと過剰ではと思うほど力強い。ただし、お互いのフィーリングはとても似ていて、低回転域からレスポンスがよく、太いトルクでグイグイとひっぱっていくところは共通している。また、競合車の多くはトランスミッションがDCTであるのに対し、X1はトルコン式の8速ATを採用する点も強み。やはりスムーズさではATが上まわり、いたって乗りやすいとあらためて思う。

xDrive25iの「B48A20B」エンジン。直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボで最高出力170kW(231PS)/5000rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-4500rpmを発生
xDrive20iの「B48A20A」エンジン。直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボで最高出力141kW(192PS)/5000rpm、最大トルク280Nm(28.6kgm)/1250-4600rpmを発生
2.0リッターツインパワーターボエンジンはいずれも8速ATとの組み合わせ。「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」は全車標準装備

 試乗した「xDrive20i xLine」と「xDrive25i xLine」は車両価格が77万円違うのだが、装備面では15万5000円高の「アドバンスド・アクティブ・セーフティパッケージ・パッケージ」や、12万8000円高の「電動フロント・シート」、8万4000円高の「コンフォート・パッケージ」などが25iでは標準装備されるという違いがあり、実質的な価格差はだいぶ縮まる。価格に対する性能や装備内容を考え合わせると、どちらを選ぶべきか悩ましいところだ。

 なお、安全装備については、車線逸脱警告システム、前車接近警告機能、衝突回避・被害軽減ブレーキ機能を備えた「ドライビング・アシスト」が全車に標準装備される。

xDrive20i xLineのインテリア。シート表皮はパーフォレーテッド・ダコタレザー

 ところで、400万円を切った価格設定に興味を持っている人も大勢いるであろう、1.5リッター3気筒エンジンを搭載する前輪駆動の「sDrive 18i」がどのような仕上がりなのか、もちろん筆者も気になっていたのだが、今回は試乗車の用意がなかったので、機会があれば改めてお伝えしたい。

 X1がこれほど商品力を高めてきたとなると、他メーカーの競合モデルにとっては脅威だろうし、BMWの中でも上級モデルのシェアを少なからず奪ってしまいそうに感じたくらい、実のあるモデルチェンジを遂げたX1であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一