インプレッション

日産「リーフ」(車両型式:ZAA-ZE1/公道試乗&クローズド試乗)

日産が誇るEVが進化

 完成検査不正問題の発覚と登場時期がバッティングしたこともあり、やや厳しい船出となってしまった新型「リーフ」。実はもっと早い段階で公道試乗する予定があったのだが、それはキャンセル。2017年末になり、ようやく試乗の機会を得た。

 新たなリーフは従来では24kWhまたは30kWhだったバッテリーを改め、全車で40kWhの新開発バッテリーを搭載した。これによりJC08モードで計算すれば航続可能距離400kmを達成。もちろん、実際のリアルな環境に照らし合わせたならばそこまで走ることはないだろうが、いずれにしても旧型は同様の表記で30kWh搭載モデルであったとしても航続可能距離が280kmだったわけだから、成長したことは明らか。直接冷却に改められた新型インバーターのおかげもあって、最高出力は110kW(150PS)、最大トルク320Nmという数値を達成したこともトピックだ。

 そんな新型に乗り込み早速試乗を開始すると、加速感がこれまでと異なっていることを感じる。走り出しこそ応答のよいEV(電気自動車)らしさは従来どおりといった感覚なのだが、そこに伸び感が加わったかのように思えるのだ。旧型ははじめのインパクトはあるが、その先がなかったが、新型は加速度がいつまでも続いて行きそうなところが爽快。日産自動車のデータによれば0-100km/h加速は15%短縮。60-100km/hの中間加速は30%も短縮したというから、そのフィーリングに間違いはないだろう。自動車専用道路への合流加速も不満はない。動力性能としては必要十分以上! そんな感覚を持てるようになったことが新鮮だ。

2017年10月にフルモデルチェンジして発売された新型リーフ。「クルマとしての美しさ」を追求したというエクステリアでは、ブーメラン型ランプシグネチャーやVモーショングリルを採用したほか、「氷結」をイメージしたというクリアブルーのフラッシュサーフェイスグリルを設定。ボディサイズは4480×1790×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。価格は315万360円~399万600円
「EM57」型モーターとリチウムイオンバッテリーで構成される「e-パワートレーン」は、最高出力110kW(150PS)/3283-9795rpm、最大トルク320Nm(32.6kgm)/0-3283rpmを発生。リチウムイオンバッテリーの容量が40kWhに向上したことで、JC08モードの航続距離は400kmまで進化
撮影車は17インチアルミホイールにダンロップ「エナセーブ EC300」(215/50 R17)を装着
充電ポートはフロント部に
インテリアカラーはブラックとエアリーグレーの2色設定。シートやドアトリムなどのステッチにブルーを用い、EVのクリーンさを表現
ステアリングは下側をフラットにした“Dシェイプ”の本革巻きを採用。右側のスポーク部に高速道路の単一車線でアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動制御する「プロパイロット」のスイッチを用意
メーターの表示例
シフトまわりにe-Pedalのスイッチと、駐車の開始から完了までボタン1つで自動制御する「プロパイロット パーキング」のスイッチが備わる

 シャシーまわりについては基本的に旧型のキャリーオーバーとなるが、走りの質感はかなり高まっており、直進安定性や乗り心地についても向上しているように感じた。運転支援システムの「プロパイロット」を介入させてもフラフラとすることなく車線内を走る。一方で、プロパイロットを介入させていない状況では、ステアリングの手応えはシッカリ感が増しただけでなくニュートラル付近も理解しやすくなった。さらに、コーナーリング時のリアの追従性についても向上しているように感じる。

 その理由を聞けば、開発陣はこれでもかと材料を提示してくれた。実はリアハッチゲートまわりに補強材を入れ、車体のねじり剛性を15%アップ。リアサスペンションのアクスルブラケットの強化や、リアのハブ剛性も50%もアップさせたという。ショックアブソーバーの径を拡大するとともに、取り付け部を強化。車高ダウンにより重心高を5mmダウンさせている。またEPS(電動パワーステアリング)の仕様変更とステアリングトーションバーの強化も行なったというのだ。

 静粛性に対しても対策は進み、遮音材をフロントガラスやAピラーまわり、さらにリアドアやリアホイールハウス内などに盛り込んでいる。インバーターが発するキーンという音がどうも好きになれなかったが、それもかなり抑え込めているように感じる。いずれにしても、EVならではの静けさは増した。日産は「プレミアムブランドのガソリン車と並ぶ静粛性がある」と謳うが、たしかにそれくらい静かだ。だが、静かすぎたり、乗り心地がよくなったりというメリットがあるために目立つ部分もある。それはかかと辺りに伝わるフロア振動が多めに伝わってくるということだ。荒れた路面の場合、それが顕著に表れる。EVならではの静粛性が高まれば高まるほど、ほかの欲求が増してくるということなのかもしれない。

 新型の目玉といっていいアクセルペダル1つで走行することが可能な「e-Pedal」は、たしかに操作に慣れればほとんどのシーンでフットブレーキを踏むことなく走行が可能だった。モーターによる回生ブレーキに加えて、電動ブースターでブレーキもつまんでくれるe-Pedalは、実にスムーズに減速してくれる。減速Gが立ち上がり過ぎず、さらに停止寸前のカックンブレーキを出すこともなく、スーッと止まる様はなかなか。停止位置の目測を読み違えれば最後にはフットブレーキを踏まざるを得ないが、そのコツを掴んでしまえばそんなこともなくなってくる。それに挑むのはまるでゲームの「電車でGO!」をやっているかのような感覚。ピタリと狙い通りに止めることが楽しくなってくるのは僕だけだろうか?(笑)

 ただ、e-Pedalについて1つ気になることがある。それはDレンジ状態で完全停止した後に、ドライバーがシートベルトを外し、ドアを開けて外に出たとしてもPレンジに移行せず、Dレンジのまま停止しているということだ。ドアを開けて外に出ようとした時点で警告音とメーター内の画像が示されるが、ドアを閉めてしまえばそのまま。Dレンジのまま無人で静止しているクルマを外から見ていると不安が募ってくる。もしも車室内に子供やペットがいて、それらがアクセルを踏んだらどうなるのか? また、慌ててふたたび乗り込んだ際にアクセルを踏んでしまったら、ドアを開けたまま走り出すことにもなりかねない。シートベルトを外した段階、もしくはドアを開けた段階でPレンジに移行する制御があればと感じた。

新型リーフではDレンジ状態で完全停止した後に、ドアを開けてもPレンジに移行せず、Dレンジのまま停止する。写真はDレンジの状態でドアを開けたときに表示されるメーター内の警告

 日産に対してそんな疑問をぶつけてみたが、これは相当な議論があったらしいが、国内市場の使い方を考慮した設定にしたのだとか。バック駐車が多い日本ではドアを開けて後退するドライバーがまだまだ多く、そんなユーザーを考慮したという考えである。実は35秒間Dレンジで停止していると、Pレンジに移行する制御が入っている。これで日本仕様はOKとしたらしい。だが、海外向けの仕様はドアを開ければPレンジに移行する制御がすでに入っていることも知った。こうしないと安全性評価が下がるからということのようだ。せっかくプロパイロット パーキングを搭載しているリーフならば、こんなガラパゴス的な設定をせず、「ドアを開けてバックするのは危ないからやめましょう」と啓蒙するくらいの姿勢がほしい。

カートコースでも試乗

 最後にカートコースでも走ってみた。そこでe-Pedalを活かしフットブレーキを踏まずに効率よく走ってくださいというのだ。初めてのコースということもあり若干戸惑ったが、言われた通りに走ってみると、無駄なピッチングを起こさずにキレイにライントレースして行く走りがスムーズで光っていたようにも感じた。

 また、インテリジェントトレースコントロールのおかげもあって、オーバースピードでコーナーに進入してしまった際に、内輪のブレーキをつまんでうまく旋回させてくれることも確認。その際、ギクシャクした感覚もなく、コーナー立ち上がりでは即座にブレーキを離してくれることもあり、ストレスなく、そしてかなりのスピードで走ることを許してくれる。これは新たなドライビングスタイルかもしれない。走りをウンヌン言うようなクルマじゃないと思っていたが、これはかなり新しく面白いと感じた。

 このように新型リーフは隅々まで改良を重ねてよりよい、そして興味深いクルマに成長したように思える。いまの日産は辛い状況かもしれないが、開発陣の意気込みと真面目にクルマに向き合う姿勢は素晴らしい。こんなクルマが誕生するなら……。まだまだ日産は捨てたもんじゃない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学