インプレッション
日産「リーフ」(車両型式:ZAA-ZE1/公道試乗)
2017年11月8日 00:00
世界の主要自動車メーカーがEV(電気自動車)に本腰を入れはじめ、いよいよEV戦国時代が訪れようとしているなか、「EVの日産ここにあり」と先手を打つ構えで登場した日産自動車の新型「リーフ」。初代リーフは2010年12月に発売されてから、2017年7月までに日本国内での累計販売台数が8万台を超え、EV市場における2016年度の国内シェアは「e-NV200」と合わせて97%を誇る。
しかし、当初は充電インフラも十分ではないなかでのスタート。リーフそのものや販売店の対応などにも未熟さがあり、次々と噴出する課題をクリアしながらの道のりであったはずだ。初代リーフにさまざまな形で関わった人たちの声と努力が今日のリーフを創り、日本のEV社会構築に貢献してきたのだと感じている。2010年当時は全国にわずか360基だった急速充電器は、現在約20倍の7100基以上に増え、高速道路のSA・PA設置率は40%にのぼり、ガソリンスタンドの設置率25%を上まわるまでになっている。普通充電器を含めると2万8000基以上あり、6年前に感じた不便さからすれば、長距離走行もしやすい環境が整ってきた。
とはいえ、ガソリンの給油と違って充電には長い時間を要し、PHEV(プラグインハイブリッドカー)など外部充電可能なモデルが増えている状況を考えると、まだまだ十分とは言えない。さらなるインフラ拡充に向けた“もうひと波”が来るのかどうか、それはこの新型リーフの出来栄え、もとい売れゆきにかかっているのかもしれない。
新型リーフが大きく変わったところは、まずデザインだ。最新の日産デザインが盛り込まれ、精悍になった顔つきと滑らかなルーフライン。キックアップしたウエストラインと豊かな面質による躍動感のあるボディ。サイズは全長35mm、全幅20mm、全高10mmの拡大にとどめているが、新世代を担うEVとしての存在感、凛々しさが全体から溢れていて、ひと目見た瞬間に率直に「カッコよくなった!」と感じた。ボディカラーもモノトーン8色、2トーン6色の計14タイプがそろい、鮮やかなイエローなど多彩だ。
そしてボディに内包されるEVシステムも一新。リチウムイオンバッテリーはこれまでの30kWhから40kWhに容量が拡大され、これによって1充電あたりの航続可能距離(JC08モード)は400kmになった。新開発の高出力インバーターも従来の80kWから110kWにアップし、最大トルクは320Nmを実現している。これはガソリンエンジンで言えば3.0リッタークラス並みの数字で、新型リーフでとくにこだわったのが中速から高速域での力強い加速性能だという。EVはもともと発進加速が鋭い特性を持っており、初代リーフも爽快な走りの持ち主だったが、そのアクセルを踏んだ瞬間の爽快な加速が高速域まで長く続くのが新型リーフ。発進加速は0-100km/hタイムが初代に比べて15%の短縮だが、中間加速の60-100km/hは30%ものタイム短縮となっている。
また、それに加えて新たに手に入れたのが、アクセルのみのワンペダル走行を可能とする「e-Pedal」。これまで日産車では「ノート e-POWER」で体験できた機能だが、新型リーフではそれをさらに進化させ、アクセルペダルをOFFにして完全停止したあと、ブレーキによる停止保持が可能となった。そしてノート e-POWERでは減速がモーターによる回生ブレーキのみで最大0.15Gだったのに対し、新型リーフはモーターによる回生をしながら油圧ブレーキも併用することで、ブレーキペダルを踏むのと同等の最大0.2Gという減速Gを実現。坂道などで傾斜があっても上り30%、下り10%までは完全停止できるということで、慣れればほとんどブレーキペダルを使わずに走行できるようになっている。このe-PedalはスイッチでON/OFFができ、OFFにすれば通常の2ペダル走行も可能だ。
さっそく新型リーフに乗り込んでみると、バッテリー容量が40kWhになってもバッテリーの大きさは初代同等に抑えているとのことで、室内の広さはほとんど変わらない。十分な頭上や足下の広さが前席・後席ともにあり、ダッシュボードの高さを下げたインパネデザインの効果もあって、視界がよくなったと感じる。収納スペースもしっかり用意して、USBジャックなど便利な装備も揃う。そして荷室容量が初代の370Lから435Lへとかなり広がり、以前は機内持ち込みサイズのスーツケースでも2つ積めば窮屈な印象だったが、これなら4人分しっかり積めそうだ。なにげに邪魔だった充電用ケーブルも、荷室のサイドポケットにコンパクトに収まっている。
現時点でもっとも成熟したEV
新型リーフを、まずはe-Pedal OFFの状態で走らせてみた。無音のままヒュンと飛び出すような鋭い加速に続いて、大きなトルクの波が押し寄せてくるような力強い加速。その余裕が途切れなく出てきて、まるで悠々と泳いでいるような感覚さえ芽生えてくる。そしてさらに、安定感と気持ちよさを同時にくれるコーナリングに感心。リーフは初代から、ジムカーナなどをやっても楽しいくらいの見事な挙動を手にしていたが、新型はそれがもっと磨かれている。バッテリーという重量物が車体の中央に置かれているため、低重心であるとともにヨー慣性も小さく、それが一定の弧を描くように無駄な動きのない回頭性に効いているのだろう。データ上では、横揺れの大きさが初代より5mmほど改善しているというが、体感ではそれ以上の気持ちよさだ。
さて、e-PedalをONにしてみると、すぐに分かる違いはクリープが効かないということ。アクセルを踏んだときの加速フィールはほとんど変わらない感覚だが、踏力を緩めるとガンッと強い減速力。確かにノート e-POWERやBMWの「i3」などよりも減速するのが早く、予想より手前の位置で停まってしまう。0.07G以上になるとブレーキランプが点灯するとのことだが、後続車に気をつけて操作しなければと感じた。
ただ、少し走って慣れてくると、このメリハリがアクセルペダルだけで使えることがだんだんラクになってくる。コーナリングでも、クリップポイント手前までアクセルを踏んでいなければいけないが、離せばすぐに減速して向きを変え、また踏むとスムーズに立ち上がる。最後に一般道のノロノロ渋滞でも試してみたが、いちいちブレーキペダルに踏み換えなくて済むのがとても便利。なんと日産社内のテストでは、8人のドライバーの通勤時で平均90%もブレーキを踏む回数が減ったという。
また、e-Pedalはモーターの回生ブレーキと油圧ブレーキの連携を図るため、雪道などの滑りやすい路面でも速度調節がしやすく、ラフなブレーキ操作によるスリップなども防止できるというメリットがある。初代から雪道走行も得意だったリーフだが、さらに進化しているのだろう。
そして走行中にもう1つ感心したのが、静粛性の高さだ。もちろんエンジンを積まないEVの多くはもともと静かなのだが、エンジンノイズがない分、モーター音や風切り音、ロードノイズなどが目立つモデルもある。新型リーフはそうした音の侵入経路となる隙間を徹底的になくし、吸音材・遮音材も念入りに配置。構造的にもダッシュボードやルーフ、フロアトリムを吸音構造化して、効率的な吸音・遮音・制振を実現したとのこと。モーターノイズは激減したもののゼロではないが、すっきりとした音色にチューニングしているというから、あまり気にならないという効果もありそうだ。
さて、新型リーフの大きな特徴が、将来を見据えた「知能化技術」の採用だ。安全技術としては「プロパイロット」をはじめ、ハイビームアシスト、LDW(車線逸脱警報)、インテリジェント LI(車線逸脱防止支援システム)、インテリジェントエマージェンシーブレーキなど、リーフ初搭載の技術が盛りだくさんだが、知能化技術を生かした運転支援システムも国産車初搭載。それが、ボタン1つでステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ、パーキングブレーキまでの操作を自動で行ない、縦列駐車や前向き・後ろ向きの駐車もすべてやってくれる自動駐車技術「プロパイロット パーキング」だ。
4カ所の高画素カメラと12カ所の高性能ソナーで周辺の状況を検知して動かすというが、実際に試してみたところ、駐車スペースを認識する機能からして従来のパーキングアシストシステムより精度が高い。認識したスペースの真ん前に停めて、プロパイロット パーキングのスイッチを押すと自動での操作が始まり、スイッチを押し続けているだけで手も足もリーフに任せていれば、スルスルと手際よく動いて後ろ向き駐車が完了した。今回はクローズドコース会場の駐車場で試したため、他車や歩行者などがいない状況だったが、これはぜひ一般の駐車場でも使ってみたいと思った。また、リーフは充電ポートがフロントにあるため、前向き駐車も選択できるというのも気が利いている。
そんな充電だが、バッテリー容量が大きくなって、急速充電(80%充電)では満充電まで約40分。普通充電は200Vの3kWで約16時間だが、1日の走行距離が150~200kmと長く、自宅での普通充電をよく使う人のために、6kW普通充電も新たに登場し、それなら約8時間に半減する。あらかじめ自宅の契約アンペアを設定しておけば、自宅内で使う電力をモニターしながら充電するため、ブレーカー落ちの心配もないという。タイマー充電や充電量の設定などもできるようになっている。また、自宅以外での充電では、日産の販売店のほか、高速道路のSA/PA、コンビニ、公共駐車場などにある日本充電サービス(NCS)の急速充電器が月額2000円で使い放題になるプランや、月額1000円で充電のたびに15円/分を課金するプランがあり、使い放題は走行距離が長い人ほどお得。充電スポットの検索も専用ナビゲーションが搭載されており、こうした面のサポートも手厚くなっていると感じた。
今回はほんの半日程度の試乗だったため、実際に日常を共にしたときに不便さを感じる点があるかどうか、何年も乗ったあとに経年変化がどうなるかといったところは未知の領域だが、ひとまず現時点で不満に思うところは全くなかった。
欧州メーカーの、例えばフォルクスワーゲンの「e-Golf」は、ガソリン車の「ゴルフ」から乗り換えても違和感のないEVを目指しているため、素晴らしいクルマだが驚くような新鮮さはない。その点、新型リーフはほかの日産車はもちろん、初代リーフやほかのEVと比べても、e-Pedalやプロパイロット パーキングといった新しい魅力を手にし、未来感や先進性を強く感じさせるEVになっている。加えて走行性能や使い勝手、安全性能もしっかり磨いてきており、間違いなく現時点でもっとも成熟したEVだと実感したのだった。