インプレッション
ホンダ「ステップワゴン スパーダ HYBRID」(車両形式:6AA-RP5)
2017年11月1日 00:00
ハイブリッド化による車内への影響は?
三つ巴のMクラス箱型ミニバンの中で、このところ「ステップワゴン」だけやや販売が芳しくなかったのは事実である。それには「フリード」という出来のよい弟分の存在も少なからず影響しているだろうし、あるいは従来のデザインのテイストが、最近のミニバンのトレンドからするといささか物足りなく感じられたのも否めない。そこで今回のマイナーチェンジでは、まずスタイリングに大きく手が加えられたのがポイントで、見てのとおり印象がだいぶ変わった。従来のスッキリしたフェイスもわるくなかったが、新しい顔のほうがイマドキのミニバンユーザーには受け入れられることに違いない。
もう1つの大きなポイントが、待望のハイブリッドの追加だ。圧倒的に販売比率の高いスパーダのみの設定とされたが、それでよいと思う。内外装のいくつかの部分でガソリンとハイブリッドは差別化されていて、むろん表示類も一部異なる。パッケージ面では、バッテリーを積んだ部分のフロアが盛り上がっているため、表記上の室内高がガソリン車よりも20mm低くなっている。
運転席と助手席の下側も盛り上がっているので、2列目乗員の前席下への足入れ性が悪化しそうだが、実際には適度な角度がついて、むしろ足を置きやすくなった気もする。また、運転席と助手席の間が膨らんでいることへの対策として配された大きなコンソールトレイの使い勝手がとてもよく、これまた苦肉の策が功を奏した印象。高さがそれほどないのでウォークスルーを妨げることもない。
インテリアに新たに設定された、新感覚のカーボンタイタニウムフィルムを用いたインパネや、シルバーモールディングが組み合わされるブラック×パープル内装の精悍で上質な雰囲気は、スパーダのキャラクターによく似合っている。新素材のコンビシートの着座感も良好で、従来よりも前後に滑りにくくなったように感じる。
ステップワゴンといえば、使い勝手においては「わくわくゲート」はもちろん、3列目シートを床下に格納できることも特徴だが、今回ストラップがよりしっかりと縫い付けられて操作性が向上した。そんな細かいところにも配慮したわけだ。
インパクトあるハイブリッドの走り
今回は、もちろんそのハイブリッドと、ガソリンのCool Spiritに試乗した。なお、発売時点ではCool Spiritはガソリンのみの設定だが、ユーザーからの声次第ではハイブリッドを追加することも検討しているようだ。
ホンダには計3種類ものハイブリッドシステムがあるが、ステップワゴンは「オデッセイ」や「アコード」と基本的に共通となる2.0リッターのアトキンソンサイクルエンジンと高性能モーターを組み合わせた「i-MMD」を搭載する。発進時には意図的にアクセルを強く踏まない限り、モーターのみでスルスルと走り出す。バッテリーが残っていれば驚くほど延々と粘って、かなり高い車速域までEV走行が維持される。これはなかなかインパクトがある。そしてエンジンが始動しても、負荷の小さい走り方をしていればふたたび頻繁にエンジンが停止する。
また、エンジンがかかっても注意していないと分からないくらい、車内に侵入する音や振動が抑えられている。この静粛性はかなりのもので、ガソリン車に比べて圧倒的。これもなかなかインパクトがある。
さらに圧倒的なのは速さ。踏み込んだときの加速力は、さすがはガソリン車の3.5リッター級の動力性能というだけあって、これまたなかなかインパクトがある。大人しく走るとEVのように静かでスムーズ、いざとなればミニバンの常識を打ち破る力強さだ。
上質な乗り味のハイブリッド
ハイブリッド車は同グレードのガソリン車と比べ車両重量が130~160kgほど重くなるが、バッテリーを低い位置に搭載するため重心高は低くなっている。足まわりが専用となるほかボディ剛性も高められており、さらには試乗した最上級グレード「G・EX」にはパフォーマンスダンパーが付くことも効いて、ドライブフィールはガソリン車とは少なからず違う。
ガソリン車はステアリングの中立付近にやや緩さを感じるのに対し、ハイブリッドはそれがなく、微小舵からリニアに舵が効き、応答遅れ感も小さい。軽快でしっかりとした一体感のある走りは、重量増のハンデを感じさせない。乗り心地もハイブリッドのほうがしっとりと上質な乗り味になっている。今回試乗したガソリンが17インチのCool Spiritであることを考慮しても、味の違いはタイヤの当たりがマイルドなだけでない。ガソリンではやや感じる微振動もハイブリッドでは払拭されている。
むろんガソリンもそれなりにはまとまっているものの、こうなるとガソリンもパフォーマンスダンパーを装着するなり、ダンパーを再調整するなりしてくれたほうがよかったのではないだろうかと思わずにいられない。また、ハイブリッドの電動サーボブレーキのフィーリングも、ガソリンと同等とまでは言わないが、ハイブリッドとしてはあまり違和感なく仕上がっている。
ところで今回、「Modulo X」については外観デザインに変更はないが、ベース車の変更点が盛り込まれており、シート生地やインテリアトリムが変わったほか、カーナビが機能の充実した新しいものになった。こうした仕様向上が行なわれていながらも、価格は据え置きというのはありがたい。
また、今回「ホンダセンシング」が全車に標準装備され、さらにハイブリッドには渋滞追従機能付きACCが搭載されたこともポイントだ。高速道路だけでなく、あえて一般道でも試してみたところ、加減速の制御が非常に緻密で丁寧なことに感心した。不意に急加速や急減速をすることもなく、再発進も他社ではもたつきが気になることが多いところ、このクルマはまずまず。渋滞路でもけっこう使える。
人気モデルがしのぎを削る中にあって、今回のマイナーチェンジがステップワゴンの人気再燃への起爆剤になることに期待したい。