インプレッション

トヨタ・日産・ホンダ「コンプリートミニバン」イッキ乗り

 ずっと、走りや操る楽しさにこだわりを持ってクルマに乗ってきた男性が家族を持ったとき、次のクルマ選びは悩ましいものになるのではないだろうか。奥様の要望を聞き、子供のことを想い、初めて「ミニバン」という選択肢を前にして葛藤する。家族のために、自分が貫いてきたこだわりを捨てなければならないのだろうか、と。

 そんな人たちにぜひ目を向けてほしいのが、「コンプリートミニバン」と呼ばれるメーカー直系のカスタムモデルたちだ。古くは日産自動車の関連会社であるオーテックジャパンが手がけた日産車の「ハイウェイスターシリーズ」や「ライダーシリーズ」にはじまり、10年近く前からトヨタ自動車も本腰を入れて開発をスタート。本田技研工業の関連会社であるホンダアクセスや無限(M-TEC)もミニバンを手がけるようになるなど、着実に盛り上がりを見せてきている世界だ。

 といっても、そうしたモデルたちの実力が語られる機会はあまりなくて、「見た目がスポーティなだけなのでは?」「本当に走りや操る楽しさがあるの?」といった疑問を持つ人が多いのも事実。それはメーカー側も感じていたことなのか、今回、ちょっと珍しい試乗会が開催された。コンプリートミニバンを代表する3ブランド、トヨタの「G’s」、日産の「オーテック ライダー」、ホンダの「Modulo X」が一堂に会して、サーキットを走らせてくれるという。

トヨタ、日産、ホンダのコンプリートミニバンでサーキットを走れる合同試乗会が実施された

 舞台は富士スピードウェイのショートサーキット。ここは日本を代表するレジェンドドライバーの1人で、現在はSUPER GTのチーム監督も務める関谷正徳氏が監修して設計され、18通りものレイアウトが可能というカートからフォーミュラまで走行可能なコースだ。レイアウトを駆使しても最長920mと1周の距離は短いが、アップダウンがあり、100km/hオーバーで走れるストレートやそこからの高速コーナー、ヘアピンなどを持っており、かなりテクニカルなことで有名だ。

 さすがに今回は撮影を行ないながらの走行ということで、メインストレートにパイロンが設けられたが、そこでスラロームすることになって、かえってミニバンが苦手とする急な姿勢変化を試せるようになっている。通常のミニバン試乗会ではまず設定されない、なかなか挑戦的なコースレイアウトだ。

Modulo Xが掲げる理想的なミニバン

最初に試乗したのは「ステップワゴン Modulo X」

 最初に試乗したのは、SUPER GTに参戦する「NSX-GT」のサポートなども手がけるホンダアクセスが仕上げた「ステップワゴン Modulo X」。このModulo Xシリーズは軽自動車の「N-ONE」「N-BOX」と展開してきて、ステップワゴンが第3弾。ホンダ車を知り尽くした熟練のエンジニアたちが「匠の技」をキーワードに、パフォーマンス、デザイン、コンフォートそれぞれのレベルをベース車からさらに引き上げ、磨き上げてきたコンプリートカーだ。以前に「N-BOX Modulo X」に試乗した経験もあるが、存在感あるスタイルだけでなく、「運転が上手くなったみたいだ」と感じたのを覚えている。

 ステップワゴン Modulo Xはグランドコンセプトを「エモーショナルツアラー」と設定。2列目、3列目のシートでも乗り心地がよく、ロングツーリングで上質さを感じられる走りに加え、ひと目で違いが分かるフロントマスクなどを採用してデザインにも力を入れている。

ボディサイズは4760×1695×1825mm(全長×全幅×全高、2WD)で、直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5500rpm、最大トルク203Nm(20.7kgm)/1600-5000rpmを発生。価格は366万5000円

 そんな外観は専用パーツが盛りだくさん。フロントグリルからビームライト、エアロバンパーやLEDフォグランプなどを使った迫力あるフロントマスクをはじめ、ソード(剣)モチーフをアレンジした17インチアルミホイールやドアミラー、リアロアディフューザーやリアエンブレムも専用品だ。見た目だけでなく、エンジンルームのアンダーカバーを小さくして、空気の流れを作って直進安定性をアップさせたり、専用サスペンションの装着でベース車より車高を約15mmローダウンして揺れの収まりをよくしたりと、テストコースを使って走りも磨き上げたという。

 そしてインテリアでは、標準装備する9インチのプレミアムインターナビに専用のオープニング画面が盛り込まれ、ステアリングやシフトセレクターが本革巻きになっていたり、シートには上質感のあるブラックのコンビ素材を使用。足下もアルミ製エンブレムが入る専用フロアカーペットになって、室内全体が“大人のスポーティ空間”といった雰囲気だ。

 いざコースに出てみると、まず出足からの加速の軽やかさが印象的。グングン速度がノッた先に出迎える最初のコーナーで、まったくグラつき感のないしなやかな挙動に感心した。ボディがガッシリと一体になっている感覚があるから、ステアリングを切っていくイメージと違和感のない挙動が得られ、とてもスカッとする。ストレートはどこまでも軽やかさを感じさせつつ、でもビシッと路面に張り付くような低重心感があって気持ちがいい。高速コーナーでもまったく不安なく、むしろもっとアクセルを踏みたくなる爽快な乗り味だ。

 サーキットのコース内では同乗走行が禁止だったため、サーキット内の構内路で2列目と3列目にも座ってみた。ひと昔前のこういったコンプリートカーは、運転席の気持ちよさから一転して、後席ではゴツゴツとした振動が気になってあまり快適とは言えないものだったが、それが最低限に抑えられているばかりか、ベースモデルよりもシッカリとした安定感があり、むしろ快適。これなら、奥様や子供を乗せることが多い人でも、後席から苦情が出ることはないだろう。しかも、ローダウンした車高のおかげで女性や子供の乗降性もよくなり、女性ユーザーからは「運転しやすい」と好評なのだとか。自動ブレーキ(CMBS)や追従機能(ACC)などがセットになった先進安全装備「Honda SENSING」を標準装備(レスオプションも可)していて、購入者の約98%が付けているという。まさに「走りだけでなく機能的にも満足感の高い1台を」というModulo Xが掲げる理想的なミニバンになっている。

セレナ ライダーはガチガチ感がまったくない自然なフィーリング

ベース車のフルモデルチェンジに合わせて2016年8月にデビューした「セレナ ライダー」

 さて、次に試乗したのは日産車の純正コンプリートカーを数多く手がけるオーテックの「セレナ ライダー」。ライダーシリーズは1998年からの長い歴史があり、「キューブ」や「ノート」「エルグランド」といったモデルとともに、セレナ ライダーも高い認知度を誇っている。2000年にC24型セレナでスタートしてからすでに16年にもなる実績をもとに、ベース車が2016年8月にフルモデルチェンジしたことを受け、新たなセレナ ライダーが登場した。今回の見所は、スポーティなだけでなく上質感やエレガントさにもこだわって仕上げた内外装だという。

 外観をフロントから見ると、もはやベース車の面影はほとんどない、ライダーならではの世界観。ワイド感を与えつつ、精微なカッティングで丁寧に磨き上げられたような、メタル調フィニッシュのフロントグリルとバンパーグリルを採用。そのフロントマスクをより特別なものにしているのは、バンパー左右で青く光る大きな「ブルーホールLED」だ。純正カスタムだからこそできる一体感とともに、思わず覗き込みたくなる個性的な奥深さがあって、これは女性ユーザーにも「きれい!」と褒められることが多いのだとか。

ボディサイズは4845×1740×1865mm(全長×全幅×全高、2WD)で、直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンは最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4400rpmを発生し、最高出力1.9kW(2.6PS)、最大トルク48Nm(4.9kgm)を発生する「SM24」モーターと組み合わされる。価格は294万9480円

 サイドにもフロントと同じ雰囲気をまとうメタル調フィニッシュの専用ボディサイドフィニッシャーが施され、アルミホイールももちろん専用デザイン。リアにまわっても、クリアライナータイプのLEDリアコンビネーションランプ、テールフィニッシャーやマフラーも専用となり、どこから見てもライダーの美意識が感じられる仕上がりだ。

 そしてインテリアでは、ドアを開けてまず最初に目を惹かれるのが、インパクト大の専用クリスタルスエードシート。リビングにあってもよさそうなデザインとともに、手触りもすべすべでこれも女性ウケが期待できる。また、さりげないブルーステッチや、ドアトリムまでのトータルコーディネートがエレガントで、これなら奥様がママ友を乗せたいなと思うはず。もうギリギリだが、3月末までならオーテックの創立30周年を記念した「セレナ ライダー オーテック30thアニバーサリー」もあり、そちらはさらにエレガントなストーンホワイト本革シートを使って、ミニバンということを忘れてうっとりするようなインテリアになっている。

 コースインして走り出すと、ガチガチ感がまったくない自然なフィーリングで、ベース車と変わりない感覚で運転できる。というのも、セレナ ライダーはボディやシャシーにはまだ手を入れておらず、そうしたチューニングはもしかしたら今後「やっていくかもしれない」という状況。そのため、今回のサーキット走行ではスラロームなどでのロールも少し大きめで、ストレートで思い切り加速するとエンジンがウォーンと大きくうなりを上げるが、それでも不安を感じるような挙動は現れず、スムーズに走ることができた。

 セレナ ライダーはなんといっても、奥様も納得してくれそうな特別感いっぱいの内外装が大きな魅力。まずは手に入れて、そこから少しずつ走りのパーツを投入していく、というのも楽しそうだ。

ヴォクシー G’sはもはやレーシングカーの世界

ネッツ店で販売されている「ヴォクシー ZS“G’s”」に試乗。ちなみに、3兄弟の「エスクァイア」にはG’sが設定されていない

 最後に試乗したのは、ミニバンを意識させない「走りの楽しさ」「操る喜び」、そして「上質な乗り心地」を目指して、トヨタが直々に開発プロジェクトを立ち上げたG’sのヴォクシー/ノア。2010年に発売されたスポーツコンバージョン車シリーズの「G Sports」第1弾から始まったというトヨタのコンプリートミニバン造りは、かなり気合が入っている。世界で最も過酷と言われるサーキット、ドイツのニュルブルクリンクにクルマを持ち込み、テストドライバーが徹底したチューニングを行なって仕上げているのである。

 外観はどことなくベース車の面影を残しつつも、ググッと迫力を増したフロントマスクが特徴的。張り出したバンパーにガバッと口を開けたようなロアグリルで、スポーティかつ威張りの効いた印象となり、18インチのタイヤ&アルミホイールも専用装備。2つのオプションと合わせて計3種類のデザインが用意されるアルミホイールは、レーシングカーにもよく使われているエンケイ製だ。足まわりはフロントが約20mm、リアが約25mmローダウンとなる専用チューニングサスペンションとなり、剛性アップパーツやフロア下の空力パーツも専用装着となっている。

ボディサイズは4795×1735×1810mm(全長×全幅×全高、2WD)で、直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンは最高出力112kW(152PS)/6100rpm、最大トルク193Nm(19.7kgm)/3800rpmを発生。価格は311万9237円

 そして専用フロントスポーティシートを装着した運転席に座ると、ピタリとしたフィット感がとてもスポーティで「よし、走るぞ」という気にさせられる。エンジンをスタートしようとすると、赤いスタートボタンにも「G’s」の文字があって、指先にも思わず力が入る。さらに、ディンプル入りの本革製となるシフトセレクターとステアリングを握ると、その上級スポーツカーを思わせる感触でオオッと一気に気持ちが昂ぶってくるのを感じた。

 コースに出ると、いきなりヘアピンカーブの進入で、想像以上にググッと深く動いて姿勢変化をスムーズにする足まわりに驚いた。その後の立ち上がりも素早く、ミニバンとは思えない身のこなしだ。おかげですぐにアクセルが全開にできるから、ストレートスピードもどんどんノッてくる。その安定感も素晴らしいが、加速に合わせて聴こえてくるエンジンサウンドが、またなんとも気持ちのいい響き。1周、2周と走っていくうちに「次はもっとコーナーを攻めてやろう」なんて欲が出てきてしまう。

 これはスポーツカーどころか、もはやレーシングカーの世界だ。まさか、ヴォクシーの運転席でこんな気分が味わえるなんて想像もしていなかった。聞けば、電動パワステにもG’s専用チューニングが施してあったり、シート生地も見た目のよさだけでなく、走り込んだときにツルツル滑らず、しっかり身体をホールドできるものを選んだりと、かなり細かなところまで仕上げているとのことだった。

 こうして3台のコンプリートミニバンに試乗してみて、その熟成ぶりに心から感動した。ボディ形状や室内の便利さ&広さを犠牲にしないという縛りのあるなか、ここまでサーキットで満足させてくれる走りを実現しているとは期待以上だ。しかも、運転している人だけが満足するのではなく、2列目や3列目に座ったときの安心感や快適性もしっかり考えられているのが、女性としてはとても嬉しかった。これならきっと、市街地での運転しやすさや、長距離ドライブでの疲れにくさも期待できるはず。男性のみなさんには、家族のためだからと走りへのこだわりを捨てる前に、ぜひ1度この世界を覗いてみてほしいと思う。

 そんな「ミニバンの皮を被ったスポーツカー」。コンプリートミニバンに、これからも注目していきたい。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一