インプレッション

テスラ「モデル S P100D」(公道試乗)

モデル Sの最高性能版

 2016年秋に発売された「モデル X」や登場を控えた「モデル 3」、さらには自動運転の先駆者として、あるいは頻繁に行なわれる「モデル S」のアップデート情報など、これまでもたびたびお伝えしているとおりで、何かと話題の絶えないテスラである。そして今回は、2016年末に追加されたモデル Sの最高性能版である「モデル S P100D」をドライブする機会に恵まれ、向かったのは軽井沢。会場の「モトテカコーヒー軽井沢」にはテスラ専用の普通充電設備(200V)も完備されている。テスラに乗る機会はいつだって楽しみだが、今回はこれまでにも増して気分が高揚していた。

「P100D」の「P」は高性能版、「100」はバッテリー容量、「D」はデュアルモーター(AWD)をそれぞれ意味する。航続距離はNEDC(New European Driving Cycle)モードで613kmと、市販の電気自動車として初めて600kmを超えた。

 そして0-100km/h加速は実に2.7秒を誇る。これがいかに速いかというと、0-100km/h加速は5秒を切っていればかなり速い部類に入り、3秒を切っているクルマは世界でもそう多くはなく、2.7秒というのは多くのスーパースポーツを上まわるタイムであり、1億円超の「ラ・フェラーリ」や「ポルシェ 918」にも匹敵する速さであるというとイメージしやすいだろうか。日本車では2013年モデルの日産自動車「GT-R」が同じ2.7秒を達成して大いに話題となったものだ。思えば1年たらず前にP90Dでローンチスタートを試したときにも度肝を抜かれたのだが、今回のP100Dはさらにコンマ2秒速いポテンシャルを持っているのだから、期待せずにいられるわけがない。

 価格は1704万1000円と、ついに1700万円オーバーの領域へ。なお、2016年度CEV補助金(60万円)対象車となる。そんなふうに、ここまで述べた中でもすでにインパクトのある数字がいくつも出てきたくらい、たいそうなクルマということだ。

テスラハードウェア2.0を搭載し、ソフトウェアのアップデートにより将来的に完全自動運転に対応することも可能な「モデル S P100D」。価格は1704万1000円
モデル S P100Dのボディサイズは4970×2180×1450mm(全長×全幅×全高。全幅はミラー部含む)、ホイールベース2960mm。100kWhのバッテリーを搭載して航続距離(NEDC)613kmを実現。システム全体で最高出力611PS、最大トルク967Nmを発生する前後2つのモーターを搭載し、駆動方式は4WDとなる。0-100km/h加速は2.7秒。タイヤはミシュラン「パイロットスーパースポーツ」(フロント245/35 ZR21、リア265/35 ZR21)を装着

 なお、2016年10月後半から生産されているモデルはすべてハードウェアが新しくなっており、日本に納品されているP100Dはすべて該当する。それは2016年末に発表されたとおり、今後は完全自動運転を視野に入れたハードウェアとしては前倒しで装備していくという方針に則り、今回の車両にはこれまでミニマムでカメラ1個だったところ、フロントに3個、リアに1個に加えて、左右のフロントフェンダーおよびBピラーという、計8個ものカメラが仕込まれているのが従来と違う部分だ。オートパイロットのアップデートについては、あらためてお伝えしたい。

従来ではカメラの数はミニマムで1個(写真上)だったところ、2016年10月後半から生産されているモデルではフロントに3個(写真左)、リアに1個、左右フロントフェンダーおよびBピラー(写真中、右)に各2個という、計8個のカメラが搭載される。写真左はフロントのカメラ、写真中はBピラーのカメラ。また、12個の超音波センサーもバージョンアップされ、以前のバージョンと比べ約2倍の距離までの物体を検知することが可能になったという

車両重量を感じさせない走り

 2016年5月の浅間山ヒルクライムで、この新しいフェイスを初めて見たときから筆者はこちらが好みだったのだが、その後にデザインテイストの似たモデルXが出たこともあり、もはやテスラというとこの顔というイメージが定着してきたように思える。純白のシートが与えられたインテリアもなかなかよい雰囲気だ。心なしかパネル類やトリムなど各部の仕立ての精度がさらに上がったような気もした。

 さっそくドライブ。車検証の記載によると車両重量は2.3t近くあるようだが、それをものともせず走らせる瞬発力と、重々しさを感じさせない操縦感覚には恐れ入るばかりである。高性能モーターが生み出す、踏んだとたんに全速力で加速するフィーリングは本当にやみつきになってしまいそうだ。

 走行モードは選択可能で、動力性能だけでなく回生の強さやクリープの有無など、すべてはインパネ中央の特大タッチスクリーンで調整できる。さらには重心が低く、前後重量配分も均等に近いことが効いてか、操縦安定性が極めて高いこともあらためて実感した。軽井沢界隈と上信越道を走っただけでも、その実力のほどは十分にうかがい知れる。

白を基調にしたモデル S P100Dのインテリア

0-100km/h加速2.7秒の実力

 そして今回、0-100km/h加速2.7秒の本領を発揮させることができるよう、わざわざ私有地の一部を占有した直線コースを用意してくれたので、最後に試してみた。「LUDICROUS(馬鹿げた)モード」を選び、バッテリー出力が最大になるよう設定。そして左足でブレーキを踏みながら右足でアクセルを全開にして、左足を離すと……ス、ス、スゴイ! ものすごい蹴り出しの強さ! スピードメーターがあっという間に100km/hに達してしまった! それも音もしなければタイヤも空転せず、姿勢が乱れることもなく、何も起こらずにただひたすら速いことが印象的だ。

 デュアルモーター車のAWDシステムは、路面状況と車両の荷重移動に応じて、強力なモーターの出力を最大化するよう最適に配分する。急加速すると荷重は車両後方に移動するので、前輪の空転を防ぐためフロントモーターの出力を下げ、その分をリアモーターで瞬時に活用する。このときの極めて巧みな出力制御により、まったくタイヤをスリップさせることなく加速していくところがスゴイ。

 また、普通のクルマで急加速するとリアが沈んでフロントが浮き上がるものだが、電子制御のサスペンションによりフラットな姿勢を保ったまま音もなく猛然と加速していく。その感覚にはテスラならではの独特のものがある。

 モデル Sには、これまでも乗るたびに新たな発見や大きなインパクトを感じてきたが、最強のP100Dはやっぱりスゴかった。1700万円超という車両価格は、もっとも低価格な「75」の倍ほどになるわけだが、そのぶん得られるものが大きいことには違いない。

 なお、最新のラインアップは今回の「P100D」のほか、「P」のつかない「100D」「90D」「75D」「75」という5モデルとなり、従来あった「60」系はラインアップから外れた。「D」のフロントモーターは共通で、「P」とそれ以外ではリアモーターの出力が倍近く差がある。モデルによりシステムパワーに差があるのはプログラムによるもので、車両購入後に変更することもできるし、最新バージョンでは性能を選択できるようになったことをお伝えしておこう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸