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インテル、「Xeon」「Xeon Phi」「FPGA」を武器に自動運転への取り組みを強化

2016年8月16日~8月18日(現地時間) 開催

 半導体メーカーのIntelは、同社の半導体やソフトウェアソリューションを使用した製品を開発する開発者やエンジニア向けのイベントとなる「IDF:Intel Developer Forum」を、米カリフォルニア州サンフランシスコにあるモスコーンセンター 西ホールにおいて8月16日~8月18日(現地時間)の3日間にわたり開催した。

 一般的にIntelはPCや、データセンターに設置されるサーバー向けのマイクロプロセッサを供給する半導体メーカーとして知られているが、近年はIoT(Internet of Things)と呼ばれる従来はインターネットにアクセスする機能を持っていなかった機器にインターネットを付加した新しいデジタル機器向けに力を入れており、IoTの代表とも言えるコネクテッドカーや自動運転車両などの自動車向けのソリューションにも力を入れている。

 今回のIDFでは、Intelは同社のクラウドサーバー向けのマイクロプロセッサXeon、そしてXeon Phiを利用したAI開発、さらには同社が2015年に買収を発表したAltera由来のFPGA(Field Programmable Gate Array)などをベースにした自動車向けのソリューションを紹介し、大きな注目を集めた。

自動運転を実現するソリューションをアピールする場として使われたIDF

 従来のIDFと言えば、PCやサーバーといった同社の主力製品であるマイクロプロセッサを中心としたソリューションを発表したり、紹介する場として使われてきた。しかし、近年は徐々に趣を変えてきており、特にIoTを中心としたIntelの新しい製品を開発者に向けて紹介する場として使われるようになっている。

BMW 自動運転担当上席副社長 エルマー・フリッケンシュテイン氏(左)とIntel CEO ブライアン・クルザニッチ氏(右)

 そのIDFにおいてIntelは盛んに自動運転への取り組みをアピールした。初日(現地時間:8月16日)の基調講演で、BMW 自動運転担当上席副社長 エルマー・フリッケンシュテイン氏を壇上に呼び、Intel、BMW、そしてMobileyeの3社で共同開発している自動運転技術のアピールをした(別記事参照)。また、IDFの最終日となる8月18日(現地時間)には、投資家向けの説明会がIDFとは別に別途行なわれ、投資家に向けてIntelの自動運転の取り組みが公開された(その模様はIntelのWebサイトで公開されている)。

 Intelがこうしたアピールを行なう背景には、Intelも自動運転に向けたソリューションがサーバーから自動車まで、フルに揃いつつあるからだ。自動運転を実現するには、「自動運転車からあがってくるデータを処理するデータセンター」「5Gなどの自動運転車とデータセンターを接続するネットワーク」「自動車の中でのAIによる自動運転機能」、Intelではこれらの3つの要素それぞれに製品を持っており、

 同社のCEO ブライアン・クルザニッチ氏は「Intelは車載コンピューティング、そしてクルマとインフラを接続するコネクティビティとしての5G、さらにはデータセンターと、最初から終わりまで一気通貫でソリューションを提供することができる」と述べるなど、そうしたすべての要素を提供できることがIntelの強みだとアピールしている。

Xeon/Xeon Phiを利用したマシーンラーニング/ディープラーニング、5Gをアピール

 現在のIntelの最大の強みは、データセンター向け、もっと具体的に言えばクラウドサーバー向けのマイクロプロセッサだ。IntelのXeon(ジーオン)プロセッサは、サーバーでは最も主要な製品となる2ソケット(マイクロプロセッサのソケットが基板上に2つ搭載されている製品)で、圧倒的なシェアを有しており、事実上市場を独占的に支配している状態だ。

Xeonプロセッサ。3月に発表されたXeon E5 v4プロセッサ(右)と、6月に発表されたXeon E7 v4プロセッサ(左)
Xeon Phiプロセッサ。OmniPathと呼ばれる外部ファブリックがついたバージョン(下)とないバージョンがある(上)

 それに加えて、IntelはXeon Phi(ジーオンファイ)と呼ばれる新しいタイプのマイクロプロセッサを提供している。Xeon Phiは、Xeonと同じくIA(Intel Architecture、いわゆるx86)の命令セットをサポートするCPUだが、内部に多くのCPUコアを備えて並列実行性を高めた製品となる。GPUをコンピューティング用途に使うGPUコンピューティングと同じように、HPCと呼ばれる高い並列性が必要とされる科学技術演算などの汎用コンピューティングに利用できる。

 こうしたHPC向けの半導体としては、NVIDIAのTeslaシリーズなどのGPUがこれまでは一般的だったが、Xeon Phiの特徴はXeonプロセッサに使われているIAと同じ命令セットになっているため、Xeonプロセッサで行なっていた処理をより並列性を高めて実行できることだ。

 プログラムをGPUコンピューティング用に作り直さないといけないTeslaシリーズに比べてこの点がアドバンテージとなる。また、Xeon Phiは最大で128個のシステムを相互に接続して高い処理能力を実現できるという点もアピールされた。

 Intelは今回のIDFでこうしたXeonとXeon Phiを利用したマシーンラーニング、そしてディープラーニングのソリューションを多数紹介して注目を集めた。

 Intel マシーンラーニング担当部長 ニディ・チャペル氏によれば「XeonとXeon Phiの使い分けとしては、Xeon Phiはマシーンラーニングおよびディープラーニングの学習に適している。そうしたスコアを評価するにはXeonが適している」とのことで、両者をうまく使い分けることで、より高次元でマシーンラーニング、ディープラーニングなどが実現できるとした。

来年にはKnights Millの開発コードネームという次世代Xeon Phiを投入する。ディープラーニングに最適化されている

 なお、Intelは今回のIDFでXeon Phiの現行製品(開発コードネーム:Knights Landing)の後継として、Knights Millと呼ばれる製品を計画していることを明らかにしており、Knights Millではよりディープラーニングへの最適化が進められると説明した。

 そうしたデータセンターと自動運転車を接続するネットワークとしては、5G(ファイブジー)と呼ばれる次世代の携帯通信網が利用されることが期待されている。5Gは現行のLTEなどのいわゆる4Gの発展系となる次世代の携帯電話通信網で、IoTや自動車などの用途にも利用できるように考慮されて設計されていることが大きな特徴となる。

 Intelは、2月に行なわれたMWC(Mobile World Congress)において、5Gに積極的に取り組んで行くことを既に発表しており、通信キャリアなどと協力して5Gの技術を共同開発するだけでなく、通信キャリアや端末メーカーなどが5Gに対応した通信機器を開発するのに必要な開発環境を提供することを明らかにしている(詳しくはPC Watchの別記事を参照頂きたい)。

5GのソリューションをアピールするIntel
IDFの展示会場に展示されていた5G開発環境

 さらに、今回のIDFでは、2日目(現地時間:8月17日)に行なわれたIntel クライアント/IoTビジネス/システムアーキテクチャ事業部担当社長 マーティ・レンドゥチンタラ氏の基調講演に、日本の通信キャリアNTTドコモのCTO 尾上誠蔵氏や、AT&T Wirelessなど日米の通信キャリアの担当者を招いて5Gの開発状況に関する座談会を行なうなどして、同社の5Gへの取り組みのアピールに余念がなかった。

レンドゥチンタラ氏の基調講演で行なわれた座談会。AT&T Wireless、NTTドコモなどの技術責任者が呼ばれた
クライアント/IoTビジネス/システムアーキテクチャ事業部担当社長 マーティ・レンドゥチンタラ氏
NTTドコモ CTO 尾上誠蔵氏

Alteraから買収したFPGAを利用した各種の自動運転向けソリューションが展示される

 自動運転車そのものに向けた半導体として、Intelは2つのソリューションを用意している。1つは従来からIntelが提供してきたAtomプロセッサを中心とした低消費電力のIA SoCだ。

 そして、今回のIDFでIntelがもう1つのフィーチャーしていたソリューションが、Intelが昨年の6月に買収することを発表したAlteraが持っていたFPGA(Field Programmable Gate Array)のソリューションだ。

 FPGA(Field Programmable Gate Array)は、簡単に言ってしまえば、プログラマブル可能で目的に応じて用途を変えることができる論理装置のこと。一般的な半導体では決まった機能を持っており、それ以外の用途に利用するというのは難しい。しかし、FPGAではそうした決まった機能は持っておらず、ソフトウェアを利用して定義することで、DSP(Digital Signal Processor)として使ったり、トランシーバーとして使ったり、高速I/Oのコントローラに使ったりと、さまざまな用途に活用できる。

IntelのStratix 10と呼ばれる次世代FPGA。今年の末までに出荷予定

 最近はユーザーの需要に応じて特別な半導体を設計製造する"セミカスタム半導体"が業界では流行だが、それでも設計から製造という期間を考えれば年単位の時間が必要になる。しかし、FPGAであればソフトウェアにより論理回路をプログラムできるので、より短期間に設計して製品化したいユーザーなどに受け入れられている。

 AlteraはIntelに買収されるまで、このFPGAのリーディングメーカーの1つで、多くの製品をリリースしてきた。Intelは今年の1月にAlteraをプログラマブルソリューション事業部(Programmable Solutions Group、PSG)として自社の一部門にしており、今後もFPGA製品を提供し続ける。

 その中には、AlteraがSoC FPGAとして販売しているARMのCPUコアが入った製品も含まれており、Intelは今後もARMベースのSoC FPGAを提供し続けるとしており、自動車内でARM+FPGAのソリューションを使いたいというメーカーには有望な選択になりそうだ。

 実際、IDFと併催で行なわれたFPGA向けのイベントIntel SoC FPGA Developer Forum(ISDF)の展示会場では、旧Alteraの顧客となるメーカーが、SoC FPGAを利用した3Dカメラのソリューションやサラウンドビューカメラのソリューションなどを展示して注目を集めた。

QNXが展示したFPGAを利用したリモート制御のデモ。スマートフォンを利用してLEDをオン、オフできる。自動車の制御をスマートフォンからするなどのアプリケーションを想定している
富士ソフトによるステレオカメラのデモ。カメラの制御などのFPGAのミドルウェアを富士ソフトが提供する。自動運転車の3Dカメラなどの用途を想定している
マクニカのサラウンドビューをFPGAで実現するデモ
ARM CPUを内蔵したSoC FPGAで、ディープラーニングを実現するマクニカのデモ

 このように、Intelは今回のIDFで、自動運転向けのソリューションを多数をアピールすることに成功した。さらに、BMW、Intel、Mobileyeという3社のパートナーシップそのものがIntelの自動運転ソリューションのショーケースそのものになると言ってよく、半導体メーカーではいまだにシェアトップのIntelが自動運転に本気になった、そうした雰囲気を業界に伝えることに成功したと言うことができるのではないだろうか。