インプレッション

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)

「スイフトスポーツ」が登場したことで“ファミリー”が完成したと言っていいスズキのスイフトシリーズは、とにかくグレードが盛りだくさんだ。

 1.4リッターターボを武器にかつてない速さを手にしたスイフトスポーツはクラスを超えた走りが味わえる1台。マイルドハイブリッドを搭載する「ハイブリッド RS・SL・ML」は、4気筒・1.2リッターエンジンを搭載し、燃費と走り、そしてリーズナブルな価格を高い次元でバランスする一方で、CVTとマイルドハイブリッドの相性のよさもあり、市街地での軽快さを実現。3気筒・1.0リッターターボを搭載する「RSt」は、6速ATとダウンサイジングターボの組み合わせで伸び感のある爽快な走りを達成していた。

 さらにはスイフトシリーズの中では廉価版と言っていい、マイルドハイブリッドなどを持たない1.2リッター自然吸気モデルの「XG・XL」をラインアップ。排気量、気筒数、トランスミッション(MT、CVT、AT)、そしてマイルドハイブリッドの有無など、あらゆるユーザーニーズに十分に対応できそうなグレードの充実ぶりには感心せずにはいられない。

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) 試乗車のスイフト ハイブリッド SL。ボディサイズは3840×1695×1500mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2450mm。ボディカラーは「スピーディーブルーメタリック」
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) 試乗車のスイフト ハイブリッド SL。ボディサイズは3840×1695×1500mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2450mm。ボディカラーは「スピーディーブルーメタリック」
試乗車のスイフト ハイブリッド SL。ボディサイズは3840×1695×1500mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2450mm。ボディカラーは「スピーディーブルーメタリック」

 だが、グレード展開はこれで終わりではない。それは「ストロングハイブリッド」と言えるモデルがラインアップされているのだ。「ハイブリッド SL・SG」と名付けられたそれは、なんと32.0km/LのJC08モード燃費を実現。これまでスイフトファミリーの中で最高の燃費を達成していたのは、マイルドハイブリッド搭載の27.4km/Lだったわけだから、相当な進化である。ただ、ストロングハイブリッドの狙いはなにも燃費だけではない。スイフトらしいダイレクト感のあるキビキビとした走りと燃費を両立することがコンセプトらしい。

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) ハイブリッド SLはアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは185/55 R16
ハイブリッド SLはアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは185/55 R16
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) フロントグリル右側にACC(アダプティブクルーズコントロール)用のミリ波レーダーを設定。メーカーエンブレムの左側にあるのは全方位モニターのフロントカメラ。グリル外周のクロームメッキ加飾はハイブリッド専用アイテム
フロントグリル右側にACC(アダプティブクルーズコントロール)用のミリ波レーダーを設定。メーカーエンブレムの左側にあるのは全方位モニターのフロントカメラ。グリル外周のクロームメッキ加飾はハイブリッド専用アイテム
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) リアハッチに「ハイブリッドエンブレム」を装着
リアハッチに「ハイブリッドエンブレム」を装着
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) パワートレーンは直列4気筒DOHC 1.2リッターの自然吸気エンジン「K12C」型と、「MGU」とも呼ばれる「PB05A」型の交流同期電動機を組み合わせ。エンジンは最高出力67kW(91PS)/6000rpm、最大トルク118Nm(12.0kgm)/4400rpmを発生し、MGUは最高出力10kW(13.6PS)/3185-8000rpm、最大トルク30Nm(3.1kgm)/1000-3185rpmを発生
パワートレーンは直列4気筒DOHC 1.2リッターの自然吸気エンジン「K12C」型と、「MGU」とも呼ばれる「PB05A」型の交流同期電動機を組み合わせ。エンジンは最高出力67kW(91PS)/6000rpm、最大トルク118Nm(12.0kgm)/4400rpmを発生し、MGUは最高出力10kW(13.6PS)/3185-8000rpm、最大トルク30Nm(3.1kgm)/1000-3185rpmを発生

 ハイブリッド SL・SGは「MGU」と呼ばれる駆動用モーターとリチウムイオンバッテリーを備える。MGUは減速機によって出力を増幅して直接車輪へと駆動力を伝えられることから、モーターのみの走行が可能。一方でエンジンはマイルドハイブリッドにも採用されていた1.2リッターのデュアルジェットエンジンを搭載している。

 興味深いのは組み合わされるトランスミッションがCVTではなく、5速AGS(オートギヤシフト)となったことだ。AGSは2ペダルながらシングルクラッチを搭載するいわば2ペダルMT。クラッチを切り離しているときはMGUのみでのEV走行が可能なほか、アクセルオフ時も同様にクラッチを切ってエンジン側と切り離すことで、エネルギー回生を効率よく行なうことが可能となる。

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) ハイブリッド SLのインパネ
ハイブリッド SLのインパネ
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) 本革巻きステアリング、パドルシフトを標準装備
本革巻きステアリング、パドルシフトを標準装備
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) ブルーイルミネーションを備えるハイブリッド専用メーター。左側のタコメーター内にMGUのアシスト量や減速による回生発電量を表示する「モーターパワーメーター」を設置。中央にはカラー表示のマルチインフォメーションディスプレイも備える
ブルーイルミネーションを備えるハイブリッド専用メーター。左側のタコメーター内にMGUのアシスト量や減速による回生発電量を表示する「モーターパワーメーター」を設置。中央にはカラー表示のマルチインフォメーションディスプレイも備える
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) 5速AGSのシフトセレクターにハイブリッド専用のブルーオーナメントを設定。運転席の右前方にある「エコモードスイッチ」を押すことで、アクセル操作に対する駆動力の発生やアイドリングストップ頻度、空調設定などが「標準モード」から「エコモード」に切り替わる
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) 5速AGSのシフトセレクターにハイブリッド専用のブルーオーナメントを設定。運転席の右前方にある「エコモードスイッチ」を押すことで、アクセル操作に対する駆動力の発生やアイドリングストップ頻度、空調設定などが「標準モード」から「エコモード」に切り替わる
5速AGSのシフトセレクターにハイブリッド専用のブルーオーナメントを設定。運転席の右前方にある「エコモードスイッチ」を押すことで、アクセル操作に対する駆動力の発生やアイドリングストップ頻度、空調設定などが「標準モード」から「エコモード」に切り替わる

 しかし、ハイブリッドシステムの使い方がそこだけでは終わらない。AGSは変速時にクラッチが切り離されることから、とくに加速時のシフトアップでギクシャクしやすい特性があるが、駆動が切り離されるタイミングでモーターアシストを加えることで、そのギクシャクした動きをなくそうという制御が加わったところが面白い。

MT感覚のマニアックな乗り味が残っている

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)

 平坦な市街地を走らせてみると、確かにこれまで持っていたAGSのネガはかなり払拭されている。シングルクラッチを搭載しているとは思えないほどにスムーズに、そして滑らかな加速を重ねるのだ。これまでにあった前後Gを身体が受けるような揺さぶられはない。かつてこんな2ペダルMTがあっただろうか? そんなことを考えるほどの仕上がりなのだ。

 そのうえで、アクセル操作に対してダイレクトに応答するMT感覚が味わえることは心地いい。これならキビキビさを売りにするスイフトのキャラクターに合っているかもしれない。

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) ラゲッジスペースは奥行き597mm、横幅1140mm、高さ725mmで、VDA法の荷室容量は178L。リアシートを前に倒すと最大500Lまで拡大可能
ラゲッジスペースは奥行き597mm、横幅1140mm、高さ725mmで、VDA法の荷室容量は178L。リアシートを前に倒すと最大500Lまで拡大可能
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) シート表皮はブラックのファブリックのみ
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗) シート表皮はブラックのファブリックのみ
シート表皮はブラックのファブリックのみ

 ただし、高負荷領域となる上りのワインディングでは、モーター出力が少ないせいか、やや加速時にギクシャクしたところが見えてくる。そこを補うようにスロットルワークを考えながら走ることは、かえってスポーティに感じるところもある。タイミングを図ってアクセルを調節するのは面倒だと捉える人もいるかもしれないが、MTテイストが好きな人にとってはこれもまた面白いと感じるのではないだろうか? すべてがイージーとはならず、乗りこなす必要があるところも楽しみの1つ。そう感じる人なら、このハイブリッド+AGSという組み合わせは響くだろう。個人的にはそんなスキがあるところが可愛く、ついつい惹かれてしまう。

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)
スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)

 今回の試乗で、スズキ独自のハイブリッドシステムにはまだまだ先があると想像できた。それはよりスムーズに走らせることはもちろん、コースティング制御を盛り込んだりすれば、さらに燃費が伸びることも見えたからだ。そんな発展途上な過程を見られるという意味では、かなり興味深い1台。おかげでMT感覚のマニアックな乗り味が残っているため、走り好きには響いたわけで、そんな仕上がりであればMT好きにもかかわらず、家庭の事情で2ペダルにせざるを得ない人などにもかなりお薦めではないかと思えてくる。つまり、ハイブリッドは“燃費スペシャル”のグレードだと片付けるにはもったいないほどの乗り味がそこにある。さまざまなグレードをラインアップしているにも関わらず、こんなグレードをさらに追加してくれたスズキのチャレンジングな姿勢は凄い!

スズキ「スイフト ハイブリッド」(車両型式:DAA-ZC43S/公道試乗)

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一