インプレッション
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)
2017年10月24日 19:49
より別格的な存在に
スズキの「スイフト」がモデルチェンジしてから、こちらを待ち焦がれていた人も少なくないであろう、新型「スイフトスポーツ」。「アルティメイト ドライビング エキサイトメント」をコンセプトに掲げ、五感に響く、あらゆるシーンでドライバーに操る楽しさと感動を与えるスポーツモデルを目指したという。
報じられているとおり、国内向けのスイフトとして初の3ナンバーボディが専用に与えられているが、これまでも標準のスイフトに対して別物という位置付けだったところ、より別格的な存在になったことが見た目にも表れている。ワイド化してフロントバンパーの開口部を拡げたスタイリングは、標準のスイフトとは明らかに異質な雰囲気を漂わせていて、これまでの従来型スイフトスポーツに対しても車格がワンランク上がったように見える。
実車よりも先に写真を見たときには、ちょっとやりすぎな気もしていたのだが、実物はなかなかまとまりがよく思えた。小さくても存在感のあるスタイリングだ。赤のアクセントが印象的なコクピットも特別感がある。今回は大雨のなか、高速道路や一般道を主体に、ちょっとしたワインディングも走ったのだが、それだけでもよさは十分に伝わってきた。
新開発のターボエンジンは?
スイフトスポーツと言えば、まず気になるのはエンジンに違いないが、これまでは自然吸気でとおしてきたところ、ついにターボを手に入れたのが大きなポイントで、その仕上がりは予想をずっと超えていた。新開発の1.4リッターターボエンジンは、自然吸気エンジンのように鋭いスロットルレスポンスと、ターボらしい厚みのあるトルクを併せ持っている。いかにもターボらしい盛り上がり感もあり、大排気量エンジンのような、どこから踏んでもついてくる柔軟性も備えた素晴らしい仕上がりだ。資料によると、パワーよりトルクが強調されていることも印象的だったのだが、ドライブするとこういう意味だったのかと納得の思いである。
小排気量ながら低音の効いた小気味のよいエンジンサウンドも、クルマのキャラクターによく似合う。静粛性は十分に高いのだが、心地よい音質の部分だけを抽出してコクピットに伝えているかのような印象で、雑味のない澄んだ4気筒サウンドを聞かせてくれる。
ただし、すでにご存じの人も少なくないだろうが、レッドゾーンが6200rpmからとスポーツユニットとしては少々低いのは否めず。しかも実際に回るのはMT車で6000rpm程度で、パワーバンドは5700rpm付近まで。一方のAT車は全開加速時でも5700~5800rpm程度でシフトアップする設定となっている。スイフトスポーツのようなクルマとなれば、せめて7000rpmぐらいまで回ってほしいというのが正直なところではある。よく回るエンジンだからこそすぐに吹け切ってしまい、もう少し回して楽しみたいと思わずにいられないからだ。
一方のAT車も、シフトダウンしてもマージン確保のためか操作を受け付けてくれない状況が多々あった。おろしたての車両だったのでCPUの学習が進むと状況は変わるかもしれないものの、もう少し攻めてもよいかと思う。
とにかく、もっと上まで回るに越したことはないが、そこに至るまでのレスポンスとトルク感は上々で、現状でも十分に楽しめるのだから、ひとまずはよしとしていいかと思う。また、シフトフィールやクラッチのコントロール性も、かなりこだわってチューニングされたことが伝わってくる。そのあたりも本当によくできている。
4輪のグリップバランスが絶妙
フットワークも素晴らしい!のひと言だ。標準のスイフトもそうだったが、ドライブしてまず感じるのが身軽さ。実際にも1tを切っているのだから大したものだが、それでいてワイドトレッドも効いて、このクラスのクルマらしからぬ安定感もあって、コンパクトカーに乗っている感じがしない。車速を高めてもその印象は変わらない。小さなクルマらしい身軽さと、小さなクルマらしからぬスタビリティを併せ持っている。
モンローが与えられた足まわりは、標準のスイフトに比べても乗り心地がよく、上質感もある。動くべきところでは抵抗なくしなやかによく動いて、締めてほしいところでは揺れを瞬時にピタッと収めてくれる。各部を専用にセッティングしたサスペンションは、ロールなどの挙動もよく抑えられているし、クルマのよさもわるさも露わになるウエット路面において、タイヤがしっかり路面に追従してトラクションを確保している。てっきりLSDが入っているものと思ったぐらい、内輪のグリップも高い。限界を超えたときの動きも穏やかで掴みやすく、前後左右の4輪のグリップバランスが絶妙に味付けされていることがうかがえた。ステアリングフィールも文句なし。操舵に対する応答遅れもなく、イメージしたとおりに狙ったラインをトレースしていける。戻したときの揺り返しも小さく、ピタッと気持ちよく決まる。
一方のAT車は、基本的には同じセッティングだが、MT車と同じ道を走ったところ、AT車のほうが心なしか跳ねるように感じた。開発関係者によるとサスペンションセッティングはMT車、AT車とも共通で、開発時にはどちらかと言うとMT車を主体にマッチングを図ったらしく、車検証によるとAT車のほうが前軸重が20kg重いため、どうやら微妙なところに影響が出ているようだ。
内部構造を見直したという新しいシートの出来も上々だ。身体を包み込むようなホールド感があり、横Gのかかるような走り方にも応えてくれつつ、長距離走行でも疲労が少なそう。これならレカロでなくても十分に満足できる。
とにかく、これで車両価格が200万円を切っているなんて、なんというバーゲンプライスなんだろうと思う。これほど刺激的でかつ上質感も備えた素晴らしいドライブフィールの仕上がりには感心せずにいられないし、この価格帯でここまで丁寧に作り込まれているクルマというのはなかなかない。このセグメントのホットハッチのなかで抜きん出た存在に違いない。