インプレッション

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)

より別格的な存在に

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)

 スズキの「スイフト」がモデルチェンジしてから、こちらを待ち焦がれていた人も少なくないであろう、新型「スイフトスポーツ」。「アルティメイト ドライビング エキサイトメント」をコンセプトに掲げ、五感に響く、あらゆるシーンでドライバーに操る楽しさと感動を与えるスポーツモデルを目指したという。

 報じられているとおり、国内向けのスイフトとして初の3ナンバーボディが専用に与えられているが、これまでも標準のスイフトに対して別物という位置付けだったところ、より別格的な存在になったことが見た目にも表れている。ワイド化してフロントバンパーの開口部を拡げたスタイリングは、標準のスイフトとは明らかに異質な雰囲気を漂わせていて、これまでの従来型スイフトスポーツに対しても車格がワンランク上がったように見える。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 新型「スイフトスポーツ」。ボディサイズは3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mmで、欧州仕様のスイフトと同じ3ナンバーボディとなっている。価格は6速MT車が183万6000円、6速AT車が190万6200円
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 新型「スイフトスポーツ」。ボディサイズは3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mmで、欧州仕様のスイフトと同じ3ナンバーボディとなっている。価格は6速MT車が183万6000円、6速AT車が190万6200円
新型「スイフトスポーツ」。ボディサイズは3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mmで、欧州仕様のスイフトと同じ3ナンバーボディとなっている。価格は6速MT車が183万6000円、6速AT車が190万6200円

 実車よりも先に写真を見たときには、ちょっとやりすぎな気もしていたのだが、実物はなかなかまとまりがよく思えた。小さくても存在感のあるスタイリングだ。赤のアクセントが印象的なコクピットも特別感がある。今回は大雨のなか、高速道路や一般道を主体に、ちょっとしたワインディングも走ったのだが、それだけでもよさは十分に伝わってきた。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) ヘッドライトは全車LED。前後のフォグランプも全車標準装備となる
ヘッドライトは全車LED。前後のフォグランプも全車標準装備となる
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 鋳造後にリム部をローラーで引き延ばす「フローフォーミング成形」を採用するアルミホイールは、17インチで16インチ同等の重量を実現。タイヤは195/45 R17サイズのコンチネンタル「ContiSportContact」
鋳造後にリム部をローラーで引き延ばす「フローフォーミング成形」を採用するアルミホイールは、17インチで16インチ同等の重量を実現。タイヤは195/45 R17サイズのコンチネンタル「ContiSportContact」
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) カーボン調シボを施されたサイドアンダースポイラー
カーボン調シボを施されたサイドアンダースポイラー
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) インテグレーテッドタイプのデュアルエキゾーストパイプは光が反射する部分を広くとって存在感をアピール
インテグレーテッドタイプのデュアルエキゾーストパイプは光が反射する部分を広くとって存在感をアピール
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 空力性能と視覚的な軽快さのバランスを追求してデザインされたルーフエンドスポイラーを装着
空力性能と視覚的な軽快さのバランスを追求してデザインされたルーフエンドスポイラーを装着

新開発のターボエンジンは?

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) エンジンは先代の1.6リッター自然吸気から1.4リッターターボにダウンサイジング。サイズをコンパクト化したほか、重量も88.8kgから88.6kgに軽量化した
エンジンは先代の1.6リッター自然吸気から1.4リッターターボにダウンサイジング。サイズをコンパクト化したほか、重量も88.8kgから88.6kgに軽量化した

 スイフトスポーツと言えば、まず気になるのはエンジンに違いないが、これまでは自然吸気でとおしてきたところ、ついにターボを手に入れたのが大きなポイントで、その仕上がりは予想をずっと超えていた。新開発の1.4リッターターボエンジンは、自然吸気エンジンのように鋭いスロットルレスポンスと、ターボらしい厚みのあるトルクを併せ持っている。いかにもターボらしい盛り上がり感もあり、大排気量エンジンのような、どこから踏んでもついてくる柔軟性も備えた素晴らしい仕上がりだ。資料によると、パワーよりトルクが強調されていることも印象的だったのだが、ドライブするとこういう意味だったのかと納得の思いである。

 小排気量ながら低音の効いた小気味のよいエンジンサウンドも、クルマのキャラクターによく似合う。静粛性は十分に高いのだが、心地よい音質の部分だけを抽出してコクピットに伝えているかのような印象で、雑味のない澄んだ4気筒サウンドを聞かせてくれる。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) K14C型エンジンの単体モデル。最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルクは230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpmを発生し、ターボにはウエストゲートバルブのノーマルクローズ制御を採用してアクセル操作に対するレスポンスを高めている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) K14C型エンジンの単体モデル。最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルクは230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpmを発生し、ターボにはウエストゲートバルブのノーマルクローズ制御を採用してアクセル操作に対するレスポンスを高めている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) K14C型エンジンの単体モデル。最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルクは230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpmを発生し、ターボにはウエストゲートバルブのノーマルクローズ制御を採用してアクセル操作に対するレスポンスを高めている
K14C型エンジンの単体モデル。最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルクは230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpmを発生し、ターボにはウエストゲートバルブのノーマルクローズ制御を採用してアクセル操作に対するレスポンスを高めている

 ただし、すでにご存じの人も少なくないだろうが、レッドゾーンが6200rpmからとスポーツユニットとしては少々低いのは否めず。しかも実際に回るのはMT車で6000rpm程度で、パワーバンドは5700rpm付近まで。一方のAT車は全開加速時でも5700~5800rpm程度でシフトアップする設定となっている。スイフトスポーツのようなクルマとなれば、せめて7000rpmぐらいまで回ってほしいというのが正直なところではある。よく回るエンジンだからこそすぐに吹け切ってしまい、もう少し回して楽しみたいと思わずにいられないからだ。

 一方のAT車も、シフトダウンしてもマージン確保のためか操作を受け付けてくれない状況が多々あった。おろしたての車両だったのでCPUの学習が進むと状況は変わるかもしれないものの、もう少し攻めてもよいかと思う。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) リバースギヤを右下に設定した6速MT。1速と2速にトリプルコーン。3速にダブルコーンのシンクロを備えて素早いシフトチェンジに対応。シフトストロークは先代から5mmショート化した
リバースギヤを右下に設定した6速MT。1速と2速にトリプルコーン。3速にダブルコーンのシンクロを備えて素早いシフトチェンジに対応。シフトストロークは先代から5mmショート化した
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) ステンレス製ペダルプレートを装着
ステンレス製ペダルプレートを装着
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 6速ATはエスクードの1.4リッターターボ車の搭載品をベースに、ギヤ比とトルクコンバーター特性を変更してスポーティな走行性能を追求
6速ATはエスクードの1.4リッターターボ車の搭載品をベースに、ギヤ比とトルクコンバーター特性を変更してスポーティな走行性能を追求
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) ステアリングにパドルシフトを設定
ステアリングにパドルシフトを設定

 とにかく、もっと上まで回るに越したことはないが、そこに至るまでのレスポンスとトルク感は上々で、現状でも十分に楽しめるのだから、ひとまずはよしとしていいかと思う。また、シフトフィールやクラッチのコントロール性も、かなりこだわってチューニングされたことが伝わってくる。そのあたりも本当によくできている。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 6速MT車でも選択できるメーカーオプションの「セーフティパッケージ」でスズキの先進安全技術「デュアルセンサーブレーキサポート」を設定。ステアリングのアシスト制御も行なう「車線逸脱抑制制御」をスズキ車として初採用した
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 6速MT車でも選択できるメーカーオプションの「セーフティパッケージ」でスズキの先進安全技術「デュアルセンサーブレーキサポート」を設定。ステアリングのアシスト制御も行なう「車線逸脱抑制制御」をスズキ車として初採用した
6速MT車でも選択できるメーカーオプションの「セーフティパッケージ」でスズキの先進安全技術「デュアルセンサーブレーキサポート」を設定。ステアリングのアシスト制御も行なう「車線逸脱抑制制御」をスズキ車として初採用した

4輪のグリップバランスが絶妙

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)

 フットワークも素晴らしい!のひと言だ。標準のスイフトもそうだったが、ドライブしてまず感じるのが身軽さ。実際にも1tを切っているのだから大したものだが、それでいてワイドトレッドも効いて、このクラスのクルマらしからぬ安定感もあって、コンパクトカーに乗っている感じがしない。車速を高めてもその印象は変わらない。小さなクルマらしい身軽さと、小さなクルマらしからぬスタビリティを併せ持っている。

 モンローが与えられた足まわりは、標準のスイフトに比べても乗り心地がよく、上質感もある。動くべきところでは抵抗なくしなやかによく動いて、締めてほしいところでは揺れを瞬時にピタッと収めてくれる。各部を専用にセッティングしたサスペンションは、ロールなどの挙動もよく抑えられているし、クルマのよさもわるさも露わになるウエット路面において、タイヤがしっかり路面に追従してトラクションを確保している。てっきりLSDが入っているものと思ったぐらい、内輪のグリップも高い。限界を超えたときの動きも穏やかで掴みやすく、前後左右の4輪のグリップバランスが絶妙に味付けされていることがうかがえた。ステアリングフィールも文句なし。操舵に対する応答遅れもなく、イメージしたとおりに狙ったラインをトレースしていける。戻したときの揺り返しも小さく、ピタッと気持ちよく決まる。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) フロントストラット、リアショックアブソーバーをモンロー製に変更したほか、フロントのハブベアリング、リアのトーションビームなどを専用開発してサイズアップ。剛性を高めて運動性能や動的質感を高めている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) フロントストラット、リアショックアブソーバーをモンロー製に変更したほか、フロントのハブベアリング、リアのトーションビームなどを専用開発してサイズアップ。剛性を高めて運動性能や動的質感を高めている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) フロントストラット、リアショックアブソーバーをモンロー製に変更したほか、フロントのハブベアリング、リアのトーションビームなどを専用開発してサイズアップ。剛性を高めて運動性能や動的質感を高めている
フロントストラット、リアショックアブソーバーをモンロー製に変更したほか、フロントのハブベアリング、リアのトーションビームなどを専用開発してサイズアップ。剛性を高めて運動性能や動的質感を高めている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) フロントブレーキのディスクサイズを先代の15インチから16インチに大径化し、ディスク厚も2mmアップの24mmとしている
フロントブレーキのディスクサイズを先代の15インチから16インチに大径化し、ディスク厚も2mmアップの24mmとしている
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) メーターパネルやインパネなどにレッドの加飾を使ってアグレッシブな雰囲気を演出。専用本革巻きステアリングにはレッドクロスステッチやピアノブラック加飾が与えられている
メーターパネルやインパネなどにレッドの加飾を使ってアグレッシブな雰囲気を演出。専用本革巻きステアリングにはレッドクロスステッチやピアノブラック加飾が与えられている

 一方のAT車は、基本的には同じセッティングだが、MT車と同じ道を走ったところ、AT車のほうが心なしか跳ねるように感じた。開発関係者によるとサスペンションセッティングはMT車、AT車とも共通で、開発時にはどちらかと言うとMT車を主体にマッチングを図ったらしく、車検証によるとAT車のほうが前軸重が20kg重いため、どうやら微妙なところに影響が出ているようだ。

 内部構造を見直したという新しいシートの出来も上々だ。身体を包み込むようなホールド感があり、横Gのかかるような走り方にも応えてくれつつ、長距離走行でも疲労が少なそう。これならレカロでなくても十分に満足できる。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 専用メーターの中央にカラーのマルチインフォメーションディスプレイを設定。表示内容に「モーション表示」「パワー/トルク表示」などが追加された
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) 専用メーターの中央にカラーのマルチインフォメーションディスプレイを設定。表示内容に「モーション表示」「パワー/トルク表示」などが追加された
専用メーターの中央にカラーのマルチインフォメーションディスプレイを設定。表示内容に「モーション表示」「パワー/トルク表示」などが追加された
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) シートには専用表皮やレッドステッチを採用。セミバケット形状のフロントシートは座面とシートバックのサイドサポートにサポートパイプが追加され、内部のウレタンパッドでも形状や硬さ、密度などがチューニングされてサポート性が高められた
スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗) シートには専用表皮やレッドステッチを採用。セミバケット形状のフロントシートは座面とシートバックのサイドサポートにサポートパイプが追加され、内部のウレタンパッドでも形状や硬さ、密度などがチューニングされてサポート性が高められた
シートには専用表皮やレッドステッチを採用。セミバケット形状のフロントシートは座面とシートバックのサイドサポートにサポートパイプが追加され、内部のウレタンパッドでも形状や硬さ、密度などがチューニングされてサポート性が高められた

 とにかく、これで車両価格が200万円を切っているなんて、なんというバーゲンプライスなんだろうと思う。これほど刺激的でかつ上質感も備えた素晴らしいドライブフィールの仕上がりには感心せずにいられないし、この価格帯でここまで丁寧に作り込まれているクルマというのはなかなかない。このセグメントのホットハッチのなかで抜きん出た存在に違いない。

スズキ「スイフトスポーツ」(車両型式:CBA-ZC33S/公道試乗)

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一