インプレッション
スズキ「スイフト」(公道試乗)
2017年2月2日 00:00
キーワードは「革新」
世界戦略車として世界統一の車名が与えられて3代目。2004年からの累計で早くも530万台を生産したというハイペースぶりは、いかにスズキの「スイフト」が世界で受け容れられているかを表している。むろん、日本でもスイフトは大いに支持されていて、各社が入魂の作を送り込んでいるBセグメントにおいても確固たるポジションを築いてきた。
そんなスイフトのニューモデルの開発にあたりスズキでは、「お客さまがスイフトに求めるものは?」、そして「そのためにどうあるべきか」を念頭に置いたという。調査によると、ユーザーはデザインと走りを重視しており、そこは概ね満足しているとの結果が得られた。そこでそのDNAを残しながら、これまでのスイフトを超えようという意思のもと、「革新」をキーワードに新型スイフトを開発した。
「革新」はスタイリングにも表われている。ご存知のとおり、先々代から先代になったときはあまり変えていなかったわけだが、この路線が受けているのだから踏襲するのもやむなしかと思っていたものの、やはりパッと見の印象が変わらなさすぎたような気もしていた。ところが今回は違う。スイフトらしさを持ちながらも、新しい要素をいろいろ盛り込んでいることがひと目見ても分かる。ボディサイズについて、多少は大きくなるのではと予想していたのだが、10mm短くなった(3840×1695×1500~1525mm[全長×全幅×全高])のは意外だった。全高は10mm低くなり、全幅は1700mm未満を死守している。
インテリアは先々代から先代になったときに質感が大幅に向上したものだが、今回はさらに引き上げられている。あくまでドライバー中心に設計されたことがうかがえる造りで、メーターやディスプレイの表示が見やすく、機能も充実しているのもよい。D型ステアリングホイールは、ちょっとやりすぎな気がしないでもないものの新しさはある。欲を言うと、ていねいな造りにはスズキらしい真面目さが出ているように思う半面、もう少しデザインや色遣いに遊び心があればよかったかも。このクラスのクルマであればなおのこと、もう少しオプションでも何か選べたほうが、より購入意欲が高まるかと思う。
スイフトらしく、前席まわりがサイズのわりに広々としているのはあいかわらずの美点。ホイールベースが先代の2430mmから2450mmに20mm拡大され、前後席間距離が10mm拡大したうえ、後席のヒップポイントを45mm下げたことなどにより、心なしか後席の居住性がよくなった気もする。成人男性の平均的な体格の筆者が座っても、頭上とひざ前に狭苦しさは感じない。
さらに歓迎したいのが、ラゲッジスペースが広く、使いやすくなったことだ。容量にして145L、奥行きは75mmも拡大したことに加えて、開口部も広がっている。たしかに従来型は開口部の下端がかなり高めで奥行きもなく、スイフトのお客さんはこれで文句言わないのかなと思っていたのだが、やはり不満の声は小さくなかったようだ。
「ブースタージェット」の加速は?
今回は千葉市の幕張界隈の市街地をドライブした限りなので、ヨーロッパの各地を走り込んで鍛えたという走りの真骨頂を味わうまでにいたらなかったとはいえ、素性のよさは感じ取ることができた。その要となるのが、「HEARTECT(ハーテクト)」と名付けられた軽量・高剛性の新プラットフォームと、もともと軽かったところ、さらにクルマ全体で120kgも削ぎ落した軽量化にある。加えて、1.2リッター直列4気筒自然吸気「デュアルジェット」と、同エンジンにモーターを組み合わせた「マイルドハイブリッド」に加えて、1.0リッター直列3気筒直噴ターボ「ブースタージェット」を用意した3種類のパワートレーンにも注目だ。
今回、主にドライブしたのは「RS」系の「HYBRID RS」と「RSt」だ。まずは気になる直噴ターボのRStから述べると、同じくスズキの「バレーノ」にも搭載されて評判のよかったこのパワートレーンは、スイフトにおいても新しい走りの境地をもたらした。組み合わされるのが6速ATというのもポイントで、アクセルの踏み込みに対して即座に力強く加速してくれる。この瞬発力は自然吸気エンジン+CVTでは得られまい。ただし、音は3気筒そのもので、振動も小さくない。これが許せるかどうかは見方の分かれるところだろう。
むろんその点では、4気筒の「HYBRID RS」のほうがずっと静かでスムーズ。こちらは副変速機付きCVTとの組み合わせとなり、速さや面白みではターボに敵わないが、あまり何も気にならないという意味ではこちらのほうが万人向けだ。
足まわりは、RS系には欧州チューニングのショックアブソーバー、タイヤ、パワーステアリングなどが与えられており、そのせいか市街地をドライブした限り乗り心地はけっこう硬め。そして、120kgの軽量化によるものだろうが、動き出しの軽やかさやキビキビとした身のこなしにその恩恵を感じるとはいえ、ただ軽いわけではなく、軽快さのなかにもどこか芯のある骨太な感じのする乗り味である。また、従来よりもずっと小まわりが利くようになったのもありがたい。
前席と後席では印象がかなり違って、前席では引き締まっているがゆえの硬さという印象のところ、後席では少なからず突き上げが気になる。加えて後方から入ってくる音も大きめだ。このあたりは今後の改善に期待したい。前席はシートの印象もよかった。従来型よりも身体を包み込む感じになり、とくに横方向のサポートがしっかりした一方で、縦方向は十分なクッションを持たせることで路面からの入力を上手くやわらげ、快適性を確保している。
標準系とMTの走りは?
一方で、標準サスの「HYBRID ML」を短時間ながらドライブしてみたところ、いい意味で「これがRSでもいいのでは」と感じたほど、引き締まった感覚がありながら、突き上げもあまり気にならなかった。このあたり、RSと標準系でどのような違いがあるのか、市街地だけでなく高速道路やワインディングを走って、いずれじっくり乗り比べてみたい。
また、5速MTのRSも少しだけドライブしたのだが、これがかなりよかった。クラッチのつながりやシフトフィールもよく、不快なスナッチも起こりにくくしてあるようで、とても乗りやすい。これといって走りに特化して手を入れたわけでもないだろうし、5速のギア比もどちらかというとワイドな設定となっているが、ドライブしていて非常にまとまりのよさを感じた。また、RSのなかでは共通であるはずのサスペンションセットとのマッチングも、車両重量がもっとも軽いMT車が心なしかよかった。
そんな新型スイフトは、スズキを代表するグローバルコンパクトカーとして、極めて真面目に造り込まれていることがヒシヒシと伝わってきた。むろん、最新モデルらしく安全装備や運転支援装備の充実も図られており、すべてにおいて大きな進化を果たしている。従来に比べていささか価格が上昇した感はあるものの、中身はもっと充実している。強敵となる競合車のひしめくBセグメントにおいて、スイフトはこれまでにも増して存在感を発揮することだろう。