インプレッション

トヨタ「C-HR」(市販モデル 公道試乗)

 トヨタ自動車のコンパクトSUV「C-HR」の人気が沸騰している。発売わずかひと月で、すでに5万台に達しようかという受注を記録しているのだ。

 昨今のSUVマーケットのボリュームアップのなかでも、特にCセグメントSUVは伸長著しいが、なかでもC-HRの“デザイン画そのまま”といったデザインは大きなインパクトがあり、これが爆発的と言ってもよい受注につながっている。さらに期待を裏切らないのは、TNGA(Toyota New Global Architecture)第2弾となるC-HRの進化だ。

 TNGAはトヨタのクルマ作りの構造改革を表すキーワード。軽量で剛性の高いプラットフォームを開発して乗り心地や運動性能の向上を図り、合わせてパワートレーンなども含めて各機種に“横串”を入れることで、よりよいクルマを作るのが目的だ。もしコストカットできれば、さらにその原資をもってクルマの開発に充てる。決してコストありきの話ではない。

 同じプラットフォームでも、C-HRは「プリウス」よりタイヤサイズの外径がぐんと大きくなり、プリウスの630mm径に対して690mm径にサイズアップ。17インチか18インチのタイヤを履く。もちろん、それに合わせてすべての適合化が行なわれている。ドライビングポジションもヒップポイントがプリウスより50mmほどアップして、いかにもSUVらしい高さとなっている。

ハイブリッド車のC-HR G(ホワイトパールクリスタルシャイン)
ガソリン車のC-HR S-T(イエロー)

 開発した古場博之主査は、「C-HRをニュルブルクリンク24時間レースで走らせたが、世界屈指の難コースを走りこむことで、高速での安定性を上げることができたことは大きな成果だった」と語っている。また、開発は欧州の一般道でも行なわれ、緊張感のあるなかでのテストはよりリラックスしたクルマ作りに大いに役立ったという。

試乗会場には2016年のニュルブルクリンク24時間レースでSP 2Tの2位となった「TOYOTA C-HR Racing」(左)も展示
TOYOTA C-HR Racingのエンジンルーム。搭載エンジンは「8NR-FTS改」

 C-HRが持つスピード感のあるシャープなデザインは、一方で大型のフェンダーフレアなどに力強さもあり、これまで経験したことのないスタイルだ。インテリアも大型ディスプレイをメーターパネル中心に据え、現代的な印象を与えてくれる。まさにSUVのなかのスポーツクーペといった印象だ。日産自動車の「ジューク」が築いたデザイン性に富んだコンパクトSUVのカテゴリーの属するが、C-HRは異なる新しさを出すことができた。

C-HR Gのインパネ。内装色はリコリスブラウン
本革巻き3本スポークステアリングは全車に標準装備。同じく全車標準装備のレーダークルーズコントロールの操作スイッチをステアリング右側に配置
4.2インチTFTのカラーマルチインフォメーションディスプレイにはハイブリッドシステムも作動状況やGモニターなど多彩な情報表示が可能
標準仕様は全車オーディオレス。写真の7型VGAディスプレイ仕様のほか、9型HDディスプレイ仕様など3種類のカーナビをディーラーオプション設定している
18インチホイールは切削光輝+ブラック塗装。タイヤサイズは225/50 R18

 パワートレーンは、プリウスと同じ1.8リッターのハイブリッド(FF)と1.2リッターターボ(4WD)の2種類が用意されている。タイヤサイズは17インチと18インチから選択できるが、最初に試乗したのはハイブリッドのGグレードで、18インチタイヤを標準装備する。タイヤはミシュランのプライマシー 3で、サイズは225/50 R18だ。ホイールもダイナミックなデザインでこれまでのトヨタ車とは違うイメージを与えてくれる。

 ドライバーズシートに座るとヒップポイントも高く、自然な乗降が可能で予想以上に乗りやすい。プリウスは新しいプラットフォームを活かして重心高を下げ、合わせてドラポジも低い位置になり、スカットルも下げることができて直前視界を両立させたが、C-HRはドラポジが高いので無理なく優れた直前視界を手に入れている。ヘッドクリアランスも十分にあり、外観から感じるような閉塞感は全くない。また、Aピラーのレイアウトやドアミラーの配置を工夫して、さらに前方視界が開けているのはありがたい。

 リアドアの特異な位置にあるドアハンドルを開けて後席に座ってみる。意外とレッグルームはあり、実質的なスペースはかなり確保されている。ただ、リアに向けて絞り込まれたデザインなので、側面は少し狭く、グラスエリアは小さく解放感はない。前席優先というSUVクーペのスタンスである。

運転席はヒップポイントの高さやAピラーのレイアウト、ドアミラーの配置などの工夫で見晴らしのよい前方視界を実現
独自のルーフ形状とドアパネルで側面の視界は少し狭くなるが、前席下の足入れ性などもよく実質的なスペースは確保されている
C-HR Gのシート。表皮は上級ファブリック+本革

どのグレードを選んでも満足感の高いスポーツSUV

 フィット感のあるドラポジに収まってスタートさせる。低速からチェックしてみるが、ロック・トゥ・ロック2・3/4回転の電動パワーステアリングは非常に滑らか。操舵力も軽く、しかも反力が適度にあるので手に馴染む。この好印象は市街地での走行から高速道路に至るまで、変わることのない滑らかさを持ちながら正確で気持ちよい。ロールもよく抑えられており、前後のロール配分が適切でコーナーも気持ちがいい。

 18インチと17インチを乗り比べてみたが、日常的な操舵感では17インチ(215/60 R17)はキックバックも少なく扱いやすかった。ただ、グリップ力は18インチの方が高く、しっかりとした手応えがある。路面からの反力を考えると個人的には17インチが好みだったが、手応え感重視のドライバーは18インチが好ましいだろう。強調したいのは、使い勝手の点で大きな違いはないということだ。

 際立っているのがステアリングのスワリで、市街地から高速道路まで一定した操舵感の高さに好感を持てる。機敏すぎず正確で安心感が高いところはC-HRの美点の1つだ。

 ホイールベースは2640mmでプリウスよりも60mm短くなっており、これもC-HRの機敏なキャラクターの大きな要因を形作っており、ゆったりとした動きが好ましいプリウスとは違ったスポーツモデルらしい差別化が図られている。

 サスペンションのしなやかさはプリウス譲りだが、さらにリアサスペンションの差動部の一部にピロボールを使い、上下の動きがより滑らかになっている。また、ダンパーはドイツのザックス製を採用しており、スプリング、スタビライザー、ダンパーでしっかり支える一体感が得られる。

 ハイブリッドの動力性能にも不満はない。よほどアクセルを踏み込んだ場面ではない限り、アクセルの踏み加減に応じて素直に出力が上がり、いわゆるラバーバンドフィールを意識することはあまりない。

 一方、1.2リッターのターボエンジンはいかにも新世代のダウンサイジングターボらしく、いわゆるパンチ力はないが、ターボラグなどほとんどなく、アクセルレスポンスに優れている。低回転から太いトルクを出しているので、ちょうど自然吸気の2.0リッタークラスの感覚で力強い加速が体感できる。

 車両重量はFFハイブリッドの1440kgに対し、4WDターボは1470kgで30kgの重量差となっており、体感上の加速力の違いはそれほど大きくない。両車のパワーフィールはターボとハイブリッドの違いはあるが、敢えて言えばターボのストレートなパンチには好感が持てる。

プリウスなどにも採用されている「2ZR-FXE」は、最高出力は72kW(98PS)、最大トルクは142Nm(14.5kgm)を発生。これに最高出力53kW(72PS)、最大トルク163Nm(16.6kgm)の「1NM」モーターを組み合わせる
シフトセレクターにはBモードを設定
1.2リッターターボの「8NR-FTS」エンジンは最高出力は85kW(116PS)、最大トルクは185Nm(18.9kgm)を発生
シフトセレクターにはマニュアルモードを設定
ハイブリッドのS、ターボのS-Tで標準装備する17インチのタイヤ&ホイール。銘柄は18インチと同じミシュランのプライマシー 3で、サイズは215/60 R17

 試乗したターボのS-Tグレードは17インチタイヤを履いていたが、操舵フィールの滑らかさとグリップ力などのバランスがよく、マッチングに優れている。ただ、乗り心地はFFと4WDでは違いがあり、4WDでは少しリアからの突き上げのような動きが感じられる。もっとも基本的には乗り心地に不満はなく、ポンポン跳ね上げられるようなことは全くないために許容範囲だ。

 また、ブレーキのコントロール性も良好。踏み込み側はストロークもあって操作しやすく、緩めながらの制動感もスムーズで好感が持てる。室内騒音もプリウスから大きく進化したポイントだ。特にハイブリッドはリアから入ってくるノイズがかなり低減しており、アグレッシブな外観からは想像できないほどおとなしい。ターボとの比較では、こちらは若干シャー音があるが、ノイズは小さい。

 いずれにしてもFF、4WDどのグレードを選んでも、満足感の高いスポーツSUVに仕上がっており、後席重視でなければお薦めできる楽しいクルマだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛