インプレッション
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場)
2017年10月25日 11:45
2016年7月のマイナーチェンジで、「BRZ」はトヨタ版の兄弟車「86」とともに大きく進化を果たした。2012年に世に出た当初はハンドリングの性格が対照的だった2台が、お互いよいものを目指した結果、行きついた先が非常に似ていたことも興味深いところだが、とにかく大幅に洗練されたのは間違いない。
それとほぼ同時期に年次改良でC型に進化した「レヴォーグ」に初めて「STI Sport」がラインアップされた。それから1年4カ月、レヴォーグに続く第2弾のSTI Sportが、BRZに追加された。同じくSTI(スバルテクニカインターナショナル)との共同開発によりスポーティで上質なデザインと走りを追求し、従来のカタログモデルの最上級グレードである「GT」の上に位置付けられ、数々の専用パーツが与えられながらも約20万円の価格差となる。これを待っていた人も少なくないことだろう。
そのBRZ STI Sportを、いち早くドライブする機会に恵まれたのは、北海道の美深という町にあるスバルの研究実験センターだ。日本最北端にあるテストコースであり、スバルはここで1995年より冬季試験を行なっており、このほど高度運転支援技術の開発拠点として増改築されたばかり。完成して間もない1周4.168kmのメイン周回路を、2周のみではあったが走ることができたのだが、その仕上がりは予想をはるかに超えていた。
件のレヴォーグのSTI Sportだって、なかなかよかったと感じていて、今回のBRZもそれなりによいだろうとは思っていたのだが、そのレベルではなかった。STIの開発関係者が、「すでにBRZを愛用している方でも買い替えたくなるくらいの出来映え」と胸を張るとおり、決して大げさではなく、その走りっぷりは本当に舌を巻くほどの仕上がりである。それでいて既存の「GT」の約20万円高にすぎないことを、あらかじめ強調しておこう。
吸い付くかのようなグリップ感と俊敏性
ハイスピードコーナーを主体に、ところどころ軽くジャンプするところのある周回路と、途中に設定されたパイロンスラローム区間を走ってみて驚いたのが、路面に吸い付くかのような粘り腰のグリップ感と、俊敏でリニアなステアリングフィールだ。ドッシリと踏ん張るリアを軸に、フロントはステアリングを切ったとおりに、FRでこれ以上はないくらいリニアにヨーが立ち上がる。戻したときの揺り返しもほぼない。中立からのわずかな操舵にも応答遅れなく素直に反応し、ステアリングとクルマの動きがピタッとシンクロしている。
まさしく“意のまま”。クルマの動きが手に取るように分かり、思ったとおりにラインをトレースしていける。ステアリングを切ることを、これほど気持ちよく感じられるクルマはそうそうない。併せて乗り心地にも不快に感じられるところがない。このコースは一部に荒れた箇所もあるものの、基本的にはフラットで乗り心地の評価には優しい路面と言えるが、おそらく公道を走っても快適性が損なわれることはなさそうな感触だった。
この走りを実現するために、数々の専用アイテムが与えられている。タイヤに18インチとしたミシュランのPS4(パイロットスポーツ4)を履くことも効いているに違いない。このタイヤ自体のパフォーマンスがいかに高いかは、別記事でもお伝えしているとおりで、今回もタイヤを確認する前にドライブして、おそらくタイヤはPS4ではないだろうかと思ったら、やはりそうだった。
STIでは、その優れた性能を活かすべくマッチングを図った。専用にチューニングしたSACHSダンパーの装着をはじめ、STI独自の発想を具現化した「フレキシブルVバー」および「フレキシブルドロースティフナー」の装着や、タイヤの性能向上に伴う要所要所のボディ剛性向上などを行なっている。フレキシブル系パーツは、つっぱらせた側には剛性を発揮するが、それ以外の方向のしなやかさを損なうことはなく、入力を穏やかに吸収する。おかげで乗り心地の面でも、路面からの入力を巧みにいなしつつ、ほどよく締め上げている。
約20万円差は“破格”
ところで、STIのコンプリートモデルならいざしらず、こうした特別なパーツをインラインで装着するというのは、実は相当に難しいこと。実際、開発と生産サイドの調整は、喧々諤々だったそうだが、その甲斐あって、本当によいものに仕上がっている。
STIのコンプリートモデルほどの派手さはなく、あえて控えめな内外装も、スポーティで上質なキャラクターを視覚的にも訴求しているように見える。専用のホイールやフロントバンパーは、見た目にもなかなかスタイリッシュ。レヴォーグでも採用したボルドー色の本革内装を与えたインテリアの雰囲気も上々だ。
にもかかわらず車両価格は「GT」の約20万円高にすぎないのだから、なんとお買い得なのだろうか。これだけ違って約20万円なら本当に“破格”である。STIの開発関係者が、BRZの愛用者も買い替えたくなると述べるのも大いに納得の思いだ。筆者はこれまでSTIのコンプリートモデルも含め、変更があるたびBRZに触れてきたが、今回のSTI Sportは予想をずっと超える仕上がりであることと、極めてコストパフォーマンスが高いことを、あらためて強調しておきたい。