インプレッション

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場)

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) スバル「BRZ STI Sport」
スバル「BRZ STI Sport」

 2016年7月のマイナーチェンジで、「BRZ」はトヨタ版の兄弟車「86」とともに大きく進化を果たした。2012年に世に出た当初はハンドリングの性格が対照的だった2台が、お互いよいものを目指した結果、行きついた先が非常に似ていたことも興味深いところだが、とにかく大幅に洗練されたのは間違いない。

 それとほぼ同時期に年次改良でC型に進化した「レヴォーグ」に初めて「STI Sport」がラインアップされた。それから1年4カ月、レヴォーグに続く第2弾のSTI Sportが、BRZに追加された。同じくSTI(スバルテクニカインターナショナル)との共同開発によりスポーティで上質なデザインと走りを追求し、従来のカタログモデルの最上級グレードである「GT」の上に位置付けられ、数々の専用パーツが与えられながらも約20万円の価格差となる。これを待っていた人も少なくないことだろう。

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 「GT」の上位グレードに位置付けられる「STI Sport」
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 「GT」の上位グレードに位置付けられる「STI Sport」
「GT」の上位グレードに位置付けられる「STI Sport」

 そのBRZ STI Sportを、いち早くドライブする機会に恵まれたのは、北海道の美深という町にあるスバルの研究実験センターだ。日本最北端にあるテストコースであり、スバルはここで1995年より冬季試験を行なっており、このほど高度運転支援技術の開発拠点として増改築されたばかり。完成して間もない1周4.168kmのメイン周回路を、2周のみではあったが走ることができたのだが、その仕上がりは予想をはるかに超えていた。

 件のレヴォーグのSTI Sportだって、なかなかよかったと感じていて、今回のBRZもそれなりによいだろうとは思っていたのだが、そのレベルではなかった。STIの開発関係者が、「すでにBRZを愛用している方でも買い替えたくなるくらいの出来映え」と胸を張るとおり、決して大げさではなく、その走りっぷりは本当に舌を巻くほどの仕上がりである。それでいて既存の「GT」の約20万円高にすぎないことを、あらかじめ強調しておこう。

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 18インチタイヤの採用に合わせて、リアサスペンションの取付部「BULK HEAD COMPL」の板厚をアップ
18インチタイヤの採用に合わせて、リアサスペンションの取付部「BULK HEAD COMPL」の板厚をアップ
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) エクステリアはSTI車として統一したデザインを採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) エクステリアはSTI車として統一したデザインを採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) エクステリアはSTI車として統一したデザインを採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) エクステリアはSTI車として統一したデザインを採用
エクステリアはSTI車として統一したデザインを採用

吸い付くかのようなグリップ感と俊敏性

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 18インチタイヤ採用に伴う車体入力増に対応するため、フロントクロスメンバーと車体(サブフレーム)を斜めにつなぐ「フレキシブルドロースティフナー」を採用
18インチタイヤ採用に伴う車体入力増に対応するため、フロントクロスメンバーと車体(サブフレーム)を斜めにつなぐ「フレキシブルドロースティフナー」を採用

 ハイスピードコーナーを主体に、ところどころ軽くジャンプするところのある周回路と、途中に設定されたパイロンスラローム区間を走ってみて驚いたのが、路面に吸い付くかのような粘り腰のグリップ感と、俊敏でリニアなステアリングフィールだ。ドッシリと踏ん張るリアを軸に、フロントはステアリングを切ったとおりに、FRでこれ以上はないくらいリニアにヨーが立ち上がる。戻したときの揺り返しもほぼない。中立からのわずかな操舵にも応答遅れなく素直に反応し、ステアリングとクルマの動きがピタッとシンクロしている。

 まさしく“意のまま”。クルマの動きが手に取るように分かり、思ったとおりにラインをトレースしていける。ステアリングを切ることを、これほど気持ちよく感じられるクルマはそうそうない。併せて乗り心地にも不快に感じられるところがない。このコースは一部に荒れた箇所もあるものの、基本的にはフラットで乗り心地の評価には優しい路面と言えるが、おそらく公道を走っても快適性が損なわれることはなさそうな感触だった。

 この走りを実現するために、数々の専用アイテムが与えられている。タイヤに18インチとしたミシュランのPS4(パイロットスポーツ4)を履くことも効いているに違いない。このタイヤ自体のパフォーマンスがいかに高いかは、別記事でもお伝えしているとおりで、今回もタイヤを確認する前にドライブして、おそらくタイヤはPS4ではないだろうかと思ったら、やはりそうだった。

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 標準装備されるフロントアッパーサスペンショントーカウルブレースの左右バーそれぞれにピローボールを挟み込んだ「フレキシブルVバー」を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 標準装備されるフロントアッパーサスペンショントーカウルブレースの左右バーそれぞれにピローボールを挟み込んだ「フレキシブルVバー」を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) 標準装備されるフロントアッパーサスペンショントーカウルブレースの左右バーそれぞれにピローボールを挟み込んだ「フレキシブルVバー」を採用
標準装備されるフロントアッパーサスペンショントーカウルブレースの左右バーそれぞれにピローボールを挟み込んだ「フレキシブルVバー」を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ミシュラン「パイロットスポーツ4」を装着。フロントは215/40 R18のサイズ
ミシュラン「パイロットスポーツ4」を装着。フロントは215/40 R18のサイズ
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ミシュラン「パイロットスポーツ4」を装着。リアは215/40 R18のサイズ
ミシュラン「パイロットスポーツ4」を装着。リアは215/40 R18のサイズ

 STIでは、その優れた性能を活かすべくマッチングを図った。専用にチューニングしたSACHSダンパーの装着をはじめ、STI独自の発想を具現化した「フレキシブルVバー」および「フレキシブルドロースティフナー」の装着や、タイヤの性能向上に伴う要所要所のボディ剛性向上などを行なっている。フレキシブル系パーツは、つっぱらせた側には剛性を発揮するが、それ以外の方向のしなやかさを損なうことはなく、入力を穏やかに吸収する。おかげで乗り心地の面でも、路面からの入力を巧みにいなしつつ、ほどよく締め上げている。

約20万円差は“破格”

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場)

 ところで、STIのコンプリートモデルならいざしらず、こうした特別なパーツをインラインで装着するというのは、実は相当に難しいこと。実際、開発と生産サイドの調整は、喧々諤々だったそうだが、その甲斐あって、本当によいものに仕上がっている。

 STIのコンプリートモデルほどの派手さはなく、あえて控えめな内外装も、スポーティで上質なキャラクターを視覚的にも訴求しているように見える。専用のホイールやフロントバンパーは、見た目にもなかなかスタイリッシュ。レヴォーグでも採用したボルドー色の本革内装を与えたインテリアの雰囲気も上々だ。

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ボルドー色の本革内装を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ボルドー色の本革内装を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ボルドー色の本革内装を採用
スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場) ボルドー色の本革内装を採用
ボルドー色の本革内装を採用

 にもかかわらず車両価格は「GT」の約20万円高にすぎないのだから、なんとお買い得なのだろうか。これだけ違って約20万円なら本当に“破格”である。STIの開発関係者が、BRZの愛用者も買い替えたくなると述べるのも大いに納得の思いだ。筆者はこれまでSTIのコンプリートモデルも含め、変更があるたびBRZに触れてきたが、今回のSTI Sportは予想をずっと超える仕上がりであることと、極めてコストパフォーマンスが高いことを、あらためて強調しておきたい。

スバル「BRZ STI Sport」(北海道 美深試験場)

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学