ニュース

西村直人の新型XC60から見る「ボルボ 先進安全技術」レポート

2017年10月16日に発売された新型プレミアム・ミッドサイズSUV「XC60」

「Vision2020」のコミットメントこそボルボの安全哲学

 ボルボの最多販売車種であるSUV「XC60」がフルモデルチェンジを行ない2代目となった。日本では「V40」に次いで販売台数の多かった従来型XC60は2016年の実績でも1200台弱をセールスしている。扱いやすいボディサイズに加えディーゼルエンジンモデルのラインアップも人気の理由だ。新型には従来型の美点を受け継ぎながら、ディーゼルエンジンに加えて「XC90」と同様のシステムを持つプラグインハイブリッドモデルも用意されている。ちなみにボルボも欧州の各ブランドと同じく40/60/90シリーズと数字で車種名を構成しているが、ボルボの場合、車名の数字が大きければ上位車種という図式にはなっていない。どのシリーズもそれぞれに最適化を施した同一パワートレーンを用いつつ、先進安全技術にしてもボルボが掲げる安全思想「IntelliSafe」を導入している。例えば衝突被害軽減ブレーキの「City Safety」では、全シリーズで車両/歩行者/自転車(サイクリスト)に対して機能する。

 XC60には90シリーズ同様に新世代プラットフォームである「SPA/スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー」が採用された。SPAの特徴はさまざまなボディバリエーションに対して柔軟な車両設計ができることにある。前輪の中央部分から前側隔壁(エンジンルームとキャビンを仕切る壁)は各シリーズで共通ながら、それ以外の例えばホイールベースや前後トレッド、前後のオーバーハング、車高など車両設計で重要な部分が車種ごとに専用の数値で設定可能。また、重心位置の最適化も図りやすいためXC60 T8(プラグインハイブリッドモデル)が搭載する大きくて重量のかさむバッテリーも開発段階から搭載位置が決められており、走行性能と安全性能を高い次元で両立させたという。

 さて、そのXC60だが、詳しいロードインプレッションは他にアップされるとのことなので、本稿ではボルボの誇る先進安全技術とその先の自律自動運転技術について改めて解説したい。

「SPA/スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー」の技術概要
XC60では「ステアリングサポート機能」など16種類の先進安全技術を採用

 ボルボは今から47年前の1970年に事故調査隊を発足させている。これは本社のあるスウェーデン・イェーテボリから半径100km圏内で発生したボルボが関係する事故を調査する組織だ。ボルボは、不幸にも発生してしまった実際の事故現場に赴き、実車や現場での検証をもとに被害を減らすための改善点を探り出し、被害を抑制するための技術を開発。そして試作を繰り返しながら市販車へ被害軽減技術として搭載するなどフィードバックを行なっている。こうした事故調査からはじまり、改善項目の選定/製品開発/試作/衝突テスト、そして製品化という流れはメルセデス・ベンツでも採り入れているが、ボルボでは「VOLVO SAFETY PURSUIT PROCESS」とネーミングし、現在に至るまで4万件以上の事故調査を行なってきた。

 ボルボの先進安全技術群である「IntelliSafe」にもこのサイクルで見出された要素が活かされている。さらにボルボでは「Vision2020」として、2020年までに新しいボルボ車による交通事故では重傷者や死亡者のゼロを目指しているが、このコミットメントこそ企業の安全哲学を一番に表現している部分だ。

ボルボが創業以来掲げている安全に対する基本理念
2020年までに新しいボルボ車による交通事故での重傷者や死亡者をゼロにする「Vision2020」
ボルボの事故調査隊は半世紀近くにわたって事故データを調査。事故原因や運転操作の研究などを続けている
ボルボでは多岐にわたる安全技術を開発し、製品に導入している

XC60で採用する「パイロット・アシスト」とは

 XC60には先進安全技術群である「IntelliSafe」を全グレードに標準装備とした。その代表的な技術である衝突被害軽減ブレーキ「City Safety」にはXC60から新たに「ステアリング・サポート/衝突回避支援機能」が加わっている。City Safetyの付加機能であるため車両/歩行者/自転車(サイクリスト)/大型動物の全てを作動対象とする。

 作動内容はこうだ。自車が50~100km/hで走行中、衝突被害軽減ブレーキだけでは衝突が避けられないという状況に遭遇した場合にドライバーによるステアリング操作が行なわれると、①電動パワーステアリングを回避方向に動かしやすく操舵アシストを調整しながら、②ステアリングを切った側の前後ブレーキを作動させ、その方向へのヨー慣性モーメントを高めて進路変更をしやすくする。ここでの要はドライバーの意図的な回避動作だ。ステアリング・サポートというネーミングから分かるようにこの機能の目的はドライバーのステアリングによる回避動作を支援することにある。また、ステアリング・サポートが作動した場合は、車両挙動安定装置であるESCも協調制御として介入し、回避後も車線内に留まることができようにアシストも行なう。

XC60から「City Safety」に「ステアリング・サポート/衝突回避支援機能」を追加
センターラインを検知して対向車との衝突回避を支援する「オンカミング・レーン・ミティゲーション」
自車の後方から接近する車両の存在を警告し、車線から逸脱しそうなときはステアリングアシストで走行車線に戻す「ステアリングアシスト付BLIS」

 ちなみに、ステアリング・サポートと類似した回避支援技術の1つにレクサス「LS」が採用する「プリクラッシュセーフティ(歩行者注意喚起・アクティブ操舵回避支援)」がある。これは歩行者を対象とした回避支援機能であり、仮にドライバーが反応できない場合であってもステアリングが自動操舵されて歩行者との接触を最大限避けようと試みつつ、避けた後も同一車線に留まるように反対側にステアリングが自動操舵される技術だ。作動内容に違いはあるが、XC60もLSも自動運転機能ではなくあくまでも回避を目的とした運転支援技術である。

レクサス「LS」が「プリクラッシュセーフティ(歩行者注意喚起・アクティブ操舵回避支援)」で歩行者を回避するシーン

 先進安全技術のうち高い運転支援機能として注目したいのが「パイロット・アシスト」だ。すでにボルボ 90シリーズに採用されている同機能はアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)と車線中央維持機能の組み合わせによって運転の自動化レベル「2」を達成している。ステアリングの左側に設置されたスイッチ操作で「ACC単体モード」とは別に、「パイロット・アシストモード」を選択した状態でACCの車速をセットすると「パイロット・アシスト」が機能する。

 ACC機能は30~140km/h未満の際に起動させることができ、前走車に対する追従走行が行なわれている場合は完全停止まで行なう。また、50km/h以下で作動している際、ASDM(ミリ波レーダー/単眼光学式カメラ一体型センサー)のうち単眼光学式カメラが正しく機能しているときには停止車両にも対応する。また、従来型XC60にも織り込まれていた機能だが、70km/h以上でドライバーによるウインカー操作とステアリング操作によって追い越しを行なう意思表示をした際には、前走車との車間距離を問わずACCの設定車速を上限に一時的に加速させながら追い越し支援を行なう。これは追い越しを速やかに完了させるための運転支援技術だ。

 車線中央維持機能はACCの設定可能速度と同じ30~140km/h未満で作動する。15年ほど前から国内外の市販車へ搭載が始まった同様の機能だが、XC90から搭載が始まった新しい車線中央維持機能は、その後に登場したV90/S90においても車線の中央を維持しようとするステアリングの操舵力が強かった。より明確にステアリング操作のサポートをしているとドライバーに伝えていることから好ましい部分でもあるが、この機能はステアリングをドライバーが操作していることが前提となっていて、仮にステアリングから手を放した状態が続くと最大でも15秒ほどで警告ブザーが鳴り、およそ30秒後には機能が解除される。

ボルボではXC60を運転の自動化レベル「2」に位置付け
「パイロット・アシスト」は「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」の追加機能となる
ACCなどの機能を働かせる「ASDM(ミリ波レーダー/単眼光学式カメラ一体型センサー)」は、200m先まで目標を捕捉

先進安全技術から知見を蓄積するメーカーだけが自律自動運転に辿り着く

 2017年10月10日、国土交通省は車線維持支援機能に関する国際基準が国連欧州経済委員会 自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で策定されたことを受けて、日本でもWP29で定められた基準を導入すると発表した。この「WP29で定めらた基準とは何か?」となるのだが大切な部分は「手放しの警報に関する規定」が明文化されたことにある。具体的には「R79改正1stパッケージ③ ハンズオン車線維持Category B1」における「ハンズオフ警報」として、「システム作動中に運転者がステアリングを握っていることを検知する機能を備えること」という文面があり、そこでは最大15秒の手放しでディスプレイによる警報、その後15秒(つまり手放し開始から30秒)でディスプレイ警報+警報ブザー、さらにこの状態が30秒(つまり手放し開始から60秒以上)続くと5秒以上(つまり手放し開始から65秒以上)の緊急信号(警報ブザーとは違う音色の強い注意喚起音)でドライバーに警報した上でシステムを完全に遮断、つまり機能OFFにすることが定められている。

 2017年10月中旬、どういうわけだかこのWP29に織り込まれた1つの基準が一人歩きしたようで、「自動運転は65秒で終了!?」「日本の自動運転技術開発の妨げだ!」といった憶測記事が飛び交った。しかし、実態はここに記したとおりで、間違っても(まだ市販化されていない)自律自動運転車両に適合されるものではない。むしろ、ドライバーに突発的な身体的異常が発生して運転継続ができなくなった場合のガイドラインである「ドライバー異常時対応システム」(2016年3月29日/国土交通省)に呼応するものとして迎え入れたい基準だ。また、今回のWP29における基準に則った先進安全技術としてレクサス LSでは「ドライバー異常時停車支援システム(LTA連動型)」をすでに上位グレードには搭載(技術の詳細は関連記事「今秋デビューのレクサス『LS』に搭載される『Lexus Safety System+A』体験レポート」参照)している。

レクサス LSに搭載された「ドライバー異常時停車支援システム(LTA連動型)」の作動シーン。「レーントレーシングアシスト(LTA)」の作動中にステアリングなどの操作がないことでドライバーの異常を検知して、車内で運転再開の警告などを行ないつつ、自車線内で減速して完全停車。さらにドアの解錠や「ヘルプネット」接続なども実施される

 XC60には、このほかにも道路逸脱回避支援機能として「オンカミング・レーン・ミティゲーション」、後車衝突回避支援機能付ブラインドスポット・インフォーメーション・システム「ステアリングアシスト付BLIS」、縦列駐車だけでなく並列駐車にも対応する「パーク・アシスト・パイロット」など、複数の先進安全技術や運転支援技術が標準装備だ。

 自動運転技術についてもボルボは積極的だ。2021年には運転の自動化レベル「4」の技術を市販車に導入するとしているが、改めて言うまでもなくその要素技術はIntelliSafeで培われた先進安全技術である。いわゆる自律自動運転はレベル4が見えてきたことで、自動車メーカーだけでなく異業種であったとしても時間を掛けずとも実現可能であるという見方があるが、筆者はボルボやメルセデス・ベンツ、アウディやテスラ、そして日本を含めた多くの自動車メーカーのように現時点において市販車に先進安全技術を積極的に導入し、そこからの知見を蓄積しているメーカーだけが辿り着ける道ではないかと考えている。先進安全技術からスタートする自律自動運転技術の全ては、その企業のしっかりとした安全哲学がなければ成立しない。その意味でボルボの将来性を信じたい。