インプレッション

トヨタ「ランドクルーザープラド」(車両型式:LDA-GDJ151W-GKTZY)

プラド最新モデルの走りを公道&ミニオフロードでチェック

 1980年代、ボクの知り合いのとあるアクティブなカメラマンの方が「ランクルはクルマの王様です」と豪語していた。当時はまだSUVなどというお洒落な言葉は一般的ではなく、いわゆるクロスカントリーとかオフローダーなどと呼んでいた。

 トヨタ自動車の“ランクル”、つまり「ランドクルーザー」が誕生したのは1951年。ボクは1954年生まれなので、自分が誕生する3年も前に生まれた大先輩ということになる。「トヨタ・ジープBJ型」と呼ばれた初代ランクルの試作車は、富士山6合目までの登山試験にも成功したというから、すでに当時からオフロード性能は卓越したものがあったのだろう。今回試乗する「ランドクルーザープラド」は、このランクルの派生車種であることをご存知の方は多いと思う。

 1984年、それまで24年間も販売された40系ランクルの継承モデルとしてデビューした70系ランクルには、ランクル本流とも言えるヘビー系(1984年)とライト系(1985年)がラインアップ。このライト系がプラドの始まりなのだ。プラドの名が与えられたのは1990年。ライト系は主に2ドア(3ドア)だったが、プラドは4ドア(5ドア)のセミロングボディーとして位置付けられた。以降、プラドは90系(1996年~2002年)、120系(2002年~2009年)を経て、現行モデルの150系(2009年~現在)へと進化。そして2017年にマイナーチェンジを行なったモデルに今回試乗した。

 実は2年ほど前、ボクはマイチェン前のモデルにも1週間以上試乗した。このときの試乗車は約7年弱ぶりに復活したディーゼルエンジン搭載モデルだった。当時の印象は、とにかく乗り心地がよく室内が静か。悪路性能の高いSUVだから、少々のことはガマンしようと腹をくくっての試乗だったのだが、見事にその期待(?)は裏切られ、広報車を借りている間をとおして快適なクルマライフを送ったのだ。もう1つ驚いたことに燃費があった。大きいし、重いし、背も高いから空気抵抗も大きそう。だから燃費にはそれほど期待していなかったのだが、10km/Lを軽くオーバー。スピードを控えれば高速道路で12km/Lを記録したこともあった。しかもディーゼルエンジンなのでとてもリーズナブル。真面目に購入しようかと考えたほどだった。

ランドクルーザープラド TZ-G。ボディカラーは「ホワイトパールクリスタルシャイン」(3万2400円高)

 さて、マイチェンしたプラドはどのように変わったのか? まずはエクステリアから。フロントフェイスはそれほど大きく変わったように見えないのだが、よく観察するとヘッドライトのレンズカバー形状が以前の“龍の目”のような和風デザインから、フロントグリルから横方向にストレートに伸びる角ばった細目になり、フロントグリルの縦スリットが強調され、開口部が流行りの大口タイプに。フロントバンパー形状も堀が深くなり、フォグランプは角型に変更されている。要するに、よりオンロードを意識させるような都会的な印象となった。リアビューも変更されていて、コンビネーションランプの形状は踏襲されているもののデザインが変更されている。また、ヘッドライトを含めたランプ類はLED化された。

ボディサイズは4825×1885×1835mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2790mm。車両重量は2320kg。価格は536万3280円で、試乗車は「T-Connect SDナビ」や「ブラインドスポットモニター」など92万9340円分のオプションを装着して629万2620円

 インテリアではメーターパネルのデザインを一新。左右の速度計と回転計をセパレートするひさしが取り払われ、駆動モードなどを表示するセンターのディスプレイがより見やすくなっている。また、上部のエアコン吹き出し口の位置が下げられた。

 センターダッシュパネルの駆動状況、センターデフロック、アクティブトラクションコントロール、ロー(L)&ハイ(H)レンジ切り替え、クロールコントロールなどの切り替えスイッチやダイヤル類はこれまでとほぼ同じ。センターディスプレイには複数のカメラ映像を映し出すことができるので、悪路や岩場などではモニターで路面を視認しながら走ることができる。やはり、装備類はクロスカントリーとして本格的だ。19インチアルミホイールを標準装備する最上級グレードの「TZ-G」には、「ノーマル」「エコ」「スポーツ S+」などの5パターンから選択できる「ドライブモードセレクト」が採用されている。

内装色は「ニュートラルベージュ」。木目調パネルと本革表皮を備える4本スポークステアリングはTZ-Gの専用装備
メーターパネルの形状を変更。全車でオプティトロンメーターを採用する
センターコンソールの操作パネル。中央上は「マルチテレインセレクト」、中央下はフルタイム4WDの操作ダイヤル。左側はVSCのOFFスイッチや車高調整、右側はマルチテレインセレクトや「クロールコントロール」などを操作するスイッチとなる

 プラドは流行りのモノコックボディではなく、トラックなどと同じくラダーフレームの上にキャビンのコンポジットを載せるタイプ。メルセデス・ベンツの「ゲレンデヴァーゲン」しかり、「ジープ」しかり、オフローダーの基本はこのラダーフレーム構造にある。しなやかにサスペンションからの入力を処理し、過酷な条件下でも耐久性に富んでいるのだ。最近のSUVがモノコック構造に移行している理由には、部品点数が少なくなり軽量化が容易なことと、プラットフォームをセダンなどと共通化できるというメリットがあるからだ。プラットフォームを共通化すれば大量生産が可能となり、コストが抑えられる。

 しかし、個人的には車高が30~40mmも違うクルマ同士が同じプラットフォームを使うということは、セダンにもSUVにも適するよう折衷したサスペンションの取付位置となり、スペーサーなどによる調整はあるにせよ専用の足とはならず、突き詰めた性能を引き出せるとは思わない。その点、プラドやランクルのラダーフレームに対するこだわりは、今後も続けてほしいと願うばかりだ。

試乗の合間に、ランドクルーザーシリーズの開発責任者である小鑓貞嘉氏(左)からもお話を伺った

あらためて本格SUVの包容力に感動

 走り出そう。ステアリングを上下させるチルトと前後させるテレスコピックは電動式。シートもパワーシートなので、かなり理想のドラポジが設定できる。アイポイントは明らかに高く、これぞSUV。

 直列4気筒DOHC 2.8リッターのディーゼルターボエンジンはこれまでと同じで、尿素SCRシステムで窒素酸化物(NOx)を還元するタイプだ。1600-2400rpmで最大トルクの450Nmを発生。最高出力は3400rpmで177PSを発生する。車重は2320kg(TZ-G)とそれなりのボリュームだが、副変速機を装備する6速ATとのマッチングもよく、動力性能は十分リッチなもの。試乗中にもパワーに対するフラストレーションは全く感じることはなかった。

直列4気筒DOHC 2.8リッター直噴ディーゼルターボの「1GD-FTV」型エンジン。最高出力130kW(177PS)/3400rpm、最大トルク450Nm(45.9kgm)/1600-2400rpmを発生

 全長4825mmに対してホイールベースは2790mmあり、ロックツーロック約3回転半のステアリングをいっぱいに回しても最小回転半径は5.8mだから、それほど小まわりが利くわけでもない。しかし、そんなことはどうでもいいのだ。ラダーフレームの上にキャビンの塊が載る構造だから、やはり走行時のロードノイズなどが少なくとても静か。しかも、タイヤが19インチを採用する割に乗り心地もよく、エンジン音もディーゼルっぽさを感じさせない。ロングホイールベースゆえに自立直進性が高く、長距離移動はかなりラクチンな予感。

切削光輝+ダークグレーメタリックの19インチアルミホイール+265/55 R19タイヤを標準装備。ラダーフレームの上にキャビンがあり、路面からの入力がシートに伝わりにくい快適な乗り心地はモノコックボディでは味わえないものだ

 圧巻だったのは、試乗会場内に設けられたオフロードを模した丸太のミニコース。1輪が完全に浮いてしまう「丸太またぎ」や、30度以上車体が傾くコースなどを走るコースで、プラドには「傾斜角モニター」があるので、走行中に角度を確認することも可能だ。

 実際の走行では「クロールコントロール」といって、悪路での走行時に1~5km/hの間で速度設定することにより、ステアリング操作のみに集中して走破することができるシステムを使ってみた。これが、不安なく面白いように簡単に走破してしまう。この装備は「マルチテレインセレクト」とセットになってTZ-Gのみにメーカーオプション装備となっている。渓流釣りなどで岩場を走ることがあるユーザーには打ってつけの安全装備だ。

トヨタ「ランドクルーザー プラド」丸太バンク走行(1分23秒)
丸太のミニコースではクロールコントロールをONにして走行
左側のタイヤを丸太コースに乗せた走行では車体が30度以上傾くが、足まわりが路面の凹凸に柔軟に追従して不安なく走破

 さらにプラドは新たに「Toyota Safety Sense P」が採用され、「レーンディパーチャーアラート」や歩行者検知機能が付いた「プリクラッシュセーフティシステム」などによって安全性が大きく前進している。あらためて本格SUVの包容力に感動した試乗だった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:安田 剛