試乗インプレッション

トヨタの新型「カローラ ハッチバック(仮称)」(プロトタイプ)は“走りのクルマ”に進化した

ハイブリッド、ガソリン、CVT、iMTそれぞれに富士スピードウェイで試乗

トヨタ自動車の新型「カローラ ハッチバック(仮称)」(プロトタイプ)

想像以上にスタイリッシュ

 3月のニューヨークショーで初公開され、6月26日に日本でも正式発表される予定の「カローラ ハッチバック(仮称)」のプロトタイプを、ひと足早く富士スピードウェイのショートサーキットでテストドライブすることができた。

 初めて目にした実車は想像以上にスタイリッシュだった。トヨタのグローバルモデルの統一テーマである「キーンルック」や「アンダープライオリティ」によるフロントフェイスは、より洗練度を深めた印象を受ける。さらに、きめ細かく作り込まれたボディパネルの表情豊かな造形や、中心にかけて強く絞り込んだリアなど、どの角度から見ても印象深いデザインを実現している。

 また、このクルマでは「コネクティッド」も重要な訴求点となるらしく、それについては6月に予定される発表時の詳報を待つことにしたい。

 パワーソースには、「C-HR」と同じ1.8リッターのアトキンソンサイクルエンジンとモーターのハイブリッドと、1.2リッターガソリン直噴ターボが用意されており、後者のターボにはCVTだけでなく「iMT(インテリジェントマニュアルトランスミッション)」という新しいMTが用意されることも特筆できる。

 なお、今回用意された試乗車は全車18インチタイヤを装着したスポーティモデルで、ハイブリッドには新開発ショックアブソーバーが、ターボにはオプションで用意される予定の「AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)」が装着されていた。

新型カローラ ハッチバック(仮称)のボディサイズは4375×1790×1460mm(全長×全幅×全高。全高はシャークフィンあり)、ホイールベースは2640mm
直列4気筒1.2リッター直噴ターボ「8NR-FTS」型エンジンを搭載するガソリンモデル
直列4気筒1.8リッター「2ZR-FXE」型エンジンにモーターを組み合わせるハイブリッドモデル

新開発ショックアブソーバーに驚く

 走ってみて感じたのは、TNGA(Toyota New Global Architecture)の第3弾として着実に進化を遂げていたことだ。土台となる車体の剛性感が高く、足まわりが的確に動いて4輪がより理想的に路面を捉える感覚が増している。新たに戻り制御を採用したステアリングフィールも上々で、一体感が高く、操舵に対する応答遅れもなく、ピタッと舵角が一発で決まる。コラムアシストでもここまでできるとは予想を超えていた。さらに、フロントブレーキを適宜つまんでライントレース性を高める新設の「ACA(アクティブコーナリングアシスト)」も効いて、アンダーステアが出にくい。これらのおかげで、とても気持ちよく走ることができた。ハンドリングの仕上がりは申し分ない。

KYBと共同開発した新ショックアブソーバーは、カーペットライドとライントレース性を高次元で両立することを目指して開発が行なわれた
電子制御により走行状況に応じて減衰力を変化させ、自動的に最適化する「AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)」仕様も用意

 とりわけ印象的だったのが、通常は極めてスムーズで、荷重がかかると硬くなるという画期的な特性を持つオイルを用いた新開発ショックアブソーバーの乗り味だ。あまりにしなやかなので、その相反としてそれなりに挙動が大きく出るものと思ってコーナーに飛び込んでいってもロールが小さく、さらには中立からほんのわずかに舵を切った領域からクルマがそのとおり忠実に反応し、動きがとても素直で手に取るように掴める。こんな魔法のようなことができるのかと感心せずにいられなかった。このコースは路面がきれいなので乗り心地についてはなんとも言えないが、感触からすると一般道でも非常に快適で上質な乗り味に仕上がっているのではないかと思う。また、リアシート下に重量物であるバッテリーを搭載するハイブリッドはリアが落ち着いていて、より前後バランスに優るように感じられた。

 一方の「AVS」を搭載したターボは、よりスポーティな走りを楽しめる。ドライブモードの「SPORT S+」を選ぶとステアリングが重くなり、ロールスピードがゆっくりになるのでロールがさらに小さい。よりスポーティなドライブフィールや、シーンにより切り替えられることを求めるならオプションで「AVS」を選んだほうがよいだろう。

パワートレーンにもひと工夫

 車両重量はターボがハイブリッドより60kg小さく、ハイブリッドはかつてのTHSに見受けられた鈍い印象もなく十分にリニアで、かつ低速からトルクがあるので走りやすい。一方のターボもピックアップがよく、すぐにレッドゾーンまで達してしまう印象のあったC-HRよりもレブリミットが引き上げられたことで、トップエンドまでキッチリ回して楽しめるようになった。走りを求める人にとっては、その数百回転の差は小さくない。また、CVTのギヤ比が10段に細分化されたのも新しい。

 ターボのiMTもなかなかよくできていて、自動ブリッピング機構は遅れもなく瞬時に理想的なエンジン回転数へと高めてくれて、何度か試したのだが回転が合わずギクシャクすることは1度もなかった。また、発進時にエンストしないようエンジン回転を高める制御も備えている。MTに興味はあってもおっくうに感じて購入を躊躇していた人にとって、同機構は所有するハードルを大幅に低めてくれることに違いない。

 シフトフィールは最新モデルらしくカチッとした節度感を実現しながらも、けっして過度ではなく、クラッチペダルの踏力も軽め。スポーツ派には物足りないかもしれないが、大多数の人にとっては乗りやすく感じられるはず。やはり、より多くの人にMTを味わってもらえるよう万人向けの味付けとされていることが、そのあたりにも表れている。

ガソリンモデルにのみ設定される6速MTの「iMT(インテリジェントマニュアルトランスミッション)」。自動ブリッピング機能やエンストしないよう補助してくれる発進アシスト機能が備わる
「ドライブモード」では「エコ」「ノーマル」「スポーツ」を選択可能。AVS搭載車ではさらに「コンフォート」「スポーツ S+」を加えた計5種類のモードが用意される

 加えて、試乗車に装着されていたスポーツシートも、座った瞬間から身体が心地よく包まれる感覚があり、それなりに激しくGのかかる走り方をしても肩まわりをしっかり支えてくれるので身体がぶれにくく、とても好印象だったことをお伝えしておきたい。

 このところニューモデルに触れるたび、よりよいクルマを作ろうというトヨタの意気込みは相当なものだと感じていたが、カローラと名のつくクルマがここまで走りに本格的に力を入れるとは想像を超えていた。発売後には全国の販売店に試乗車が用意されるはずなので、ぜひこの高い完成度を多くの人にも味わってもらえるとよいなと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛