試乗インプレッション

スタイリッシュでスポーティ。ジャガー最小SUV「E-PACE」の魅力とは?

249PS仕様のガソリン車(車両型式:DBA-DF2XA)に試乗

誰しもがひとめ惚れしてしまいそう

 もともとSUVを手がけていなかったのに、今ではSUVがかなりの比率を占めているメーカーがいくつもある。ひょっとするとジャガーも同門にSUV専門の老舗ブランドがありながらも、新たに加わった「E-PACE(Eペイス)」がその流れを加速させることになるかもしれない。

 なにせE-PACEは誰しもがひとめ惚れしてしまいそうなほどスタイリッシュだ。それに実際の価格よりもずっと高価なクルマに見える。ピュアスポーツの「Fタイプ」からインスピレーションを得たという外観は、今や世に数あるスポーティなタイプのSUVの中でも際立っている。スラントしたフロントやクーペのようなリアビューが印象的で、バンパーから覘くテールパイプも目を引く。

 兄貴分の「F-PACE」もなかなかのものだと思っていたが、似ている中でもけっこう違って、F-PACEは後席の居住性や乗降性にずいぶん配慮したことをうかがわせるのに対し、E-PACEはあくまでスタリッシュであることを優先したように思える。全長がだいぶ短い分、凝縮感もある。

2月22日に受注を開始した新型SUV「E-PACE(Eペイス)」。ディーゼル車9モデル、ガソリン車15モデルの計24モデルという幅広いラインアップを展開しており、その中から今回は直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「PT204」型エンジンに9速ATを組み合わせる「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」(650万円)に試乗。ボディサイズは4410×1900×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mm
エクステリアではダイナミックなフロントグリルやヘッドライト、ロングホイールベース&ショートオーバーハングなど、同社のスポーツカー「F-TYPE」からインスピレーションを得たデザインを採用。撮影車はオプション設定の5スポーク19インチアロイホイール(タイヤサイズ:235/55 R19)を装着
動物のジャガーの親子をモチーフにしたグラフィックをフロントウィンドウの隅に配置するなど、遊び心のあるデザインを採用する

 かといって、決して使い勝手を犠牲にしたわけではないことは、実際に後席に座ってみたりテールゲートを開けてみるとよく分かる。後席乗員のニースペースやヘッドクリアランスはもとより、リアシートの座面と背もたれの角度を工夫してヒール段差も十分に確保されている。トランクの広さもこれだけあれば不満はない。これほどスタイリッシュながら、相反する実用性についてもしっかり考えられているところに、まず感心させられる。

 そしてE-PACEの特徴として、ガソリン15機種、ディーゼル9機種と非常にワイドバリエーションであることや、さらにはオーダーメイド感覚で自分好みにクルマを仕立てられることが挙げられる。今回試乗した「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」は、2種類のスペックが用意されたうちの標準性能版のガソリンエンジンを搭載したスポーティ仕様のグレードという位置付けとなる。ガソリンエンジンの高性能版「P300」とディーゼルエンジンの「D180」は少し遅れてやってくる。

エボニー/エクリプスカラーのインテリアでは、10.2インチタッチスクリーンのインフォテインメントシステム「InControl Touch Pro」に4G通信機能を新たに導入。スマートフォンのアプリを介して、車両から離れた場所でドアのロックや解除、エアコンの操作、走行履歴や車両状態を確認したり、緊急時にはスマートロードサイドアシスタンスやSOS緊急コールに繋いだりすることが可能。また、ドライバー前の各種ドライビング情報やエンターテインメント、アクティブセーフティデータを表示可能な12.3インチ高解像度インタラクティブドライバーディスプレイではマップをフルスクリーンで表示させることもできる
選択したモードによってステアリングやスロットルマッピングを最適化する「JaguarDriveコントロール」では、「コンフォート」「エコ」「ダイナミック」「雨/氷/雪」の4モードを設定。スイッチの操作によって各モードを選択するとインタラクティブドライバーディスプレイの表示も切り替わる
最大幅1300mmのラゲッジスペースは通常時で577Lとなるが、リアシートを折りたたむことで最大1234Lまで拡大可能

俊敏なハンドリングが気持ちよい

 ピュアスポーツの要素を持ち合わせているのは見た目だけではない。走りもかなり際立っている。ジャガー車とランドローバー車がここまでコンポーネンツを共有するのは初めてのケースのはず。であれば、なおのことジャガーらしさがどのように表現されているかが気になるところだが、そのドライブフィールはあたかもスポーツカーそのもののようだった。

 まず印象的なのが、SUVであることを感じさせない極めて俊敏なハンドリングだ。最近では他メーカーでもスポーティなSUVが増えているが、E-PACEはひときわクイックで、乗っていて気持ちがよい。足まわりはよく引き締まっているものの、過度に突っ張った印象はなく、イメージどおりに動いてくれるので、どのような状況にあるのかも掴みやすい。

 FFベースの4WDであり、かなりフロント寄りの前後重量配分となっているようだが、それをあまり意識させることもなく、4輪が路面をしっかり捉える感覚もある。なお、今回の「P250」は違うのだが、後輪にトルクベクタリング機構の付く高性能版の「P300」がどのようなハンドリングを見せてくれるのかも興味深いところだ。

 乗り心地に硬さを感じなくはないが、大きな不満はない。また、キビキビ走れながらも直進安定性に優れることも印象的だった。今回はあまり長く走っていないのだが、長距離の高速巡行でも疲労は小さくて済むのではないかと予想できる。

 別の機会に乗った20インチ仕様に比べると、今回の19インチ仕様の方が乗り心地やクルマの動きの素直さにおいて按配がよかった。現状でどちらがよいかと聞かれたら、19インチと答えておきたい。

分かりやすく速さを伝えるエンジン

「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「PT204」型エンジンは、最高出力183kW(249PS)/5500rpm、最大トルク365N・m/1300-4500rpmを発生。JC08モード燃費は11.2km/L

 一方のエンジンも、ドライバーに速さを分かりやすく伝えることを意図したような、なかなか男気を感じさせる味付けだ。パーシャルスロットルから軽く踏み増しただけでもグンと力強く立ち上がるトルク感が気持ちよい。全開加速を試みたときの加速感も相当なもので、レッドゾーンの6500rpm付近まで一気に吹け上がる。

 ただし、古典的な味わいがあると言えば聞こえはよいが、低回転域のピックアップに乏しく、少し踏むと反対にゲインが高くて飛び出し感を伴なう特性のエンジンは扱いづらい面も見受けられる。また、組み合わされる9速ATのフィーリングは全体としてはなかなかよいものの、マニュアルシフト時の変速レスポンスはもう少し俊敏だとありがたい。とりわけダイナミックモードを選択したときは。そのあたりは今後の課題といえそうだ。

 使い勝手については、十分といえる実用性を身に着けていることは冒頭でもお伝えしたとおり。全幅は1.9mに達しているものの比較的小回りが利き、全長が短めであることも効いて取り回しはわるくない。後方視界もそれなりに良好、とは言えない面もなくはないが、このスタイリッシュなフォルムが手に入ることを思えば納得できる。

 いささか荒削りな部分も見受けられたのはさておいて、とにかくジャガーが手がけるとSUVもこうなることがよく分かった。このクラスのSUVが多彩な選択肢が揃ってきた中でも、ひときわスタイリッシュでスポーティな、惹かれるところの多々あるニューモデルであったことには違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸