試乗インプレッション
約4年という異例のスパンでフルモデルチェンジしたBMW「X4」。米国でテストドライブ
252PSのガソリン仕様「30i」、326PSのディーゼル仕様「M40d」
2018年7月24日 14:20
2代目がデビュー
街を行きかうクルマを眺めていても、その数の多さに“SUV人気”の高さが肌で感じられる昨今。それは統計上も明確に表れていて、例えばBMWではすでにグローバルでの販売台数の3分の1以上が、先日新たなフラグシップモデル「X7」が発表されてついに「1」から「7」までが勢揃いとなった、SUVの“Xシリーズ”で占められるほどであるという。
もっとも、かねてから唯我独尊が特徴のこのブランドの場合、SUVというありきたりな名称は使わず“SAV”なる記号を用いて自身の作品を紹介するのが特徴。それはSport Activity Vehicleなる造語の頭文字。そうした中にあって、さらにキャビン部分にクーペ流儀のスタイリッシュなデザインを採用したモデルには“SAC”、すなわちSport Activity Coupeなる称号を与えるという念の入れよう(?)である。
こうしてSACとカテゴライズされているのは、「X5」をベースに初代モデルが2008年に誕生した「X6」に、「X3」ベースで2014年に初代モデルがローンチされた「X4」。そして2018年初頭のデトロイト・モーターショーで発表され、つい最近日本にも上陸したばかりの「X2」と、いずれも偶数名が与えられたモデルたち。
ここに紹介するのは、2代目へとモデルチェンジされた「X4」。初代モデルの登場からまだ4年余りしか経過していないが、BMW車としては異例の短いスパンでフルモデルチェンジが行なわれたのは、X3に続いてボディ骨格を最新世代のアイテムへと刷新することを急いだ結果なのかも知れない。
初代モデルに対しては全長で81mm、全幅で37mm、そしてホイールベースでは54mm拡大され、ベースの現行X3に対しては長さと幅が数cmずつ大きい一方で、全高は55mm低いというのがこのモデルのディメンション。
現時点で発表されている3種のガソリンと4種のディーゼルエンジンを筆頭に、メカニカル・コンポーネンツは基本的にX3と共通。ただし、X3では日本にも設定されているディーゼルモデルは、「導入の予定ナシ」という。“SAC”はよりカジュアルなモデルというキャラクターを鑑みて、導入を見送るというのがインポーターである日本のBMWの考え方であるようだ。
その走りはスポーティを通り越してスポーツ!
そんな新型X4の国際試乗会が開催されたのは、米国サウスカロライナ州のスパータンバーグなる地。実はここにはBMWの米国工場があって、Xシリーズのいくつかのモデルはここが産まれ故郷。
というわけで、新しいX4もここが世界で唯一の生産拠点。この工場に隣接されるカスタマーセンターに用意された試乗車は、最高出力252PSを発するターボ付きの2.0リッター4気筒ガソリンエンジンを搭載した「30i」と、326PSを発するツインターボ付き3.0リッター6気筒ディーゼルエンジンを搭載した「M40d」という2タイプ。
駆動システムは、前出のエンジンに共に8速ステップATを組み合わせた4WD方式。ちなみに、X4で2WD方式が設定されないのは、「フィロソフィーによる結果」であるという。
SUVと4ドアクーペのクロスオーバー……と、言うなればそうした表現で紹介したくなったのが従来型X4のスタイリング。そして、新型のアピアランスもそんな初代モデルの雰囲気を強く受け継いだ仕上がり。極論をすれば「並べても、どちらが新型か迷うほど」と言ってもよいかも知れない。
一方のインテリアは、「どちらが新型か」は一目瞭然というでき栄え。天地方向のボリューム感が減り、ワイド感を増したダッシュボードの中央部分にタブレット端末状の幅広ディスプレイを立て掛けたようなデザインは、新世代BMW車に共通の雰囲気。従来型ではリアシートまわりとラゲッジスペースに不満の声もあったということから、「主にこの部分を改善した」というのも、新型のパッケージングの見どころの1つと報告されている。
興味深いのは、そんなX4のシーティング・レイアウトは「実はX3と同様」というコメント。それでいながら、大人が実用的に使える後席でのヘッドスペースが確保されているのは、そのルーフラインに秘密がありそうだ。
一見では強い後ろ下がりに見えるそのラインだが、そうした印象はいかにもクーペ風のサイドのウインドウグラフィックゆえでもありそう。実際のルーフはより水平に近いラインを描き、それによって外観から察するよりもゆとりのあるヘッドスペースが確保されているのだ。
恐らくは、今やコスト的にもそちらの方が有利であろう流行のタッチパネル式には甘んじず、メカニカルなダイヤルとそれを取り囲むプッシュスイッチで構成されたマルチメディア・コントローラー“iドライブ”の操作性は、この種のアイテムでは最良と思えるもの。そんなコンソール付近を含めて、インテリア各部の仕上がりはすこぶる上質。「え? アメリカ製!?」と一瞬不安を覚える人がいたとしても、実車を目にすればそんな心配はたちまち霧散してしまうに違いない。
30iで走り始めてすぐに実感できたのは、すこぶる静かでかつ予想と期待以上にしなやかな乗り味。テスト車は標準仕様より2インチも大径の、フロントが245、リアが275というファットな20インチホイールをオプション装着。それもあってか、低い速度で荒れた路面に遭遇をするとばね下が重い印象を味わわされることもあったものの、それでも快適性は上々。「ここまで仕上げてくれれば、ランフラット・タイヤ付きでももう文句は言わなくていいかな」と、そう思える印象であったのだ。
スタートの一瞬だけは「ちょっと重いな……」と感じるものの、ギヤ比やシフトクオリティに優れた8速ATの巧みな働きと相まって、その先の加速感は満足できる水準。ただし、信号停止の状態からイッキに70km/h以上まで加速する場面が頻繁なアメリカの市街路では、4000rpm程度までは常用域だ。
遅まきながら、最近はアメリカ車にも普及が始まったアイドリング・ストップの機能だが、このモデルの場合は静かで滑らかな再始動感が秀逸。さらに自在なハンドリングの感覚は、「さすがはFRレイアウトがベースのBMW車」と納得の仕上がりだ。
だが、さらに上には上がいると教えられたのは、この30iを降りた後。ミニサーキット風のクローズドコースで乗ることになった、M40dでのさらなるダイナミックなフットワークのテイストは、さらに心に残るものだった。
車名に“M”の文字が与えられることからも、よりスポーティなキャラクターの持ち主であることが推測できるM40d。実際、その走りは「スポーティ」を通り越して「スポーツ」と表現しても過言ではない鮮烈なものだった。
このモデルの秘密兵器は、リアアクスルに組み込まれた「Mスポーツ ディファレンシャルロック」なる電子制御システム。具体的には、スイッチ操作によって左右輪間のLSDロック率を可変とし、前後輪間の可変エンジントルク配分との掛け合わせで“曲がりやすさ”を調整できるというのがその売り物だ。
なるほど、そのロック率を高めた上でスタビリティコントロールの機能を解除すると、散水されたスキッドパッド上ではカウンターステアを当てながらの定常円旋回までを許容してくれることに。
ちなみに、シーケンシャル・ツインターボシステムを用いての“全域過給”が図られたエンジンは、1750rpmにして発せられる680Nmという怒涛のトルクとともに、直列6気筒のデザインによるスムーズなフィーリングも大きな魅力だ。
しかしながら日本では、「X4のディーゼルモデルは導入しない」という決断が下されているというのは前述のとおり。であるならば、同様に「Mスポーツ ディファレンシャルロック」を装備する、最高出力360PSを発する直列6気筒ユニットを用いたガソリンエンジン搭載のトップモデル「M40i」の導入を、見た目通りにスポーティなX4のイメージリーダーとして、ぜひ検討して貰いたいものである。