インプレッション
BMW「X4」
Text by 岡本幸一郎(2015/1/23 00:00)
X4の登場も不思議ではない今のBMW
ビー・エム・ダブリューのラインアップの拡張が止まらない。それを象徴するニューフェイスが、またしても加わった。
Xモデルの中でもやや異端的な存在である「X6」の弟分であり、あるいはXモデルで定番の「X3」のクーペ版でもあるわけだが、いずれにしても最近のBMWの動向を見ていると、「X4」のようなクルマが出てきても不思議ではないように思える。個性的なクルマを好む人は少なからず存在するわけで、X6もそれなりにウケたから、「じゃあ今度はX4を出そう」という話になるのは当然といえば当然だ。
X6が登場したときも、あのカタチを「スタイリッシュ」と表現するのが妥当なのかどうか微妙な気もしたのだが、今回のX4にしてもまあ深く考えずとも見てのとおり存在感はあるし、個性的で印象に残るクルマであることには違いない。また、X6は高価であり大きすぎるので、X4ぐらいのクルマがあったら欲しいと思っていた人も少なくないことだろう。
X3と比較すると、ボディーサイズは全幅とホイールベースが同じで、全長が15mmプラス、全高は50mmダウンとなるものの、もっと低いように見える気もする。もっというと3シリーズグランツーリスモの車高を高めてSUV的にアレンジしたようにも見える。
メカニズム的にはX3との共通性が高いが、X3にあるクリーンディーゼルと2.0リッターガソリンの低価格版である「20i」の設定はなく、エンジンは直列4気筒DOHC 2.0リッターの高性能版と、直列6気筒DOHC 3.0リッターのガソリン直噴ターボとなる。クリーンディーゼルはX3では高い販売比率であり、海外ではX4にも存在し、ひょっとすると今の日本に導入したら売れるかもしれなかったところだが、日本向けのX4には設定がない。
後席はそれなりだが実用性は高い
室内、とくに後席やラゲッジの造り、ドライブフィールや乗り心地がX3とどのくらい違うかも気になるところだが、運転してどうかの前に、パッケージやユーティリティの基本情報を整理したい。居住性に関する部分では、見てのとおりルーフラインは前席の真上あたりをピークにルーフがゆるやかに下降しているため、X3と比べヒップポイントを前席で約20mm、後席で約30mm低くすることで狭さを感じさせない居住空間を確保した。リアシートの形状も異なり、X3が平板であるのに対し、X4はやや立体的になっている。
頭まわりの空間は見た目のイメージどおりで、X3は余裕があるが、X4は平均的な体格の筆者(身長172cm)が座るとギリギリという感じ。着座姿勢もX3のほうがラク。後述する乗り心地も含め、やはり後席に人を乗せることを考えるとX3の方が適していることには違いなさそうだ。
X4もいざとなれば5人が乗車できる点はよいが、X3にはある後席中央のヘッドレストがX4にはないことは一応、指摘しておこう。運転席からの後方視界は、X3ではとくに気になることはないが、X4では天地方向がかなり制約されるため、あまりよろしくない。
X4のラゲッジルームはレールが設けられているのが特徴で、容量はX3が550~1600Lあるのに対し、X4は500~1400Lと下回るものの、十分に広いので不便に感じることはまずないだろう。テールゲートを開けた掃き出しの部分がX3は平らなところ、X4は少し段差が設けられている点も違う。インパネの造りは、X3に限らずすでに慣れ親しんだBMWの現行ラインアップとの共通性を感じさせるものだ。
目線だけ高いスポーツカーのような走り
箱根界隈の一般道とワインディングを走ってみてまず印象に残ったのは、期待どおりのエンジンフィールと、足まわりがかなり引き締められていることだ。「xDrive28i」と「xDrive35i」ではエンジンスペックがそれなりに違うが、直列4気筒DOHC 2.0リッターターボを積む前者でも加速感はかなり力強く、車内への透過音も抑えられている。
フットワークはX3が万人向けの快適性を重視しているのに対し、X4はサスペンションの動きを規制して姿勢変化を抑えることで俊敏なフットワークを実現している。内輪の浮き上がる感覚が小さく、4輪とも接地感が高い。
ワインディングをスイスイと駆け抜けるその走りぶりは、まるで目線だけ高いところにあるスポーツカーのよう。3シリーズグランツーリスモが、3シリーズのセダンやツーリング(ワゴン)に比べて乗り心地重視のゆったりとした味付けとなっていたのに比べても、よりスポーティな性格を前面に押し出していて、このところほかのBMWの乗用車がしなやかな足さばきを実現しているのに比べても異質といえる。
ただし、そのぶん路面の凹凸を拾いやすく、乗り心地は全体的に硬め。前席はまだしも、後席では突き上げ感がやや気になる。それもあって俊敏なハンドリングを実現しているはずだから、このドライブフィールも含めてあえてX4を選ぼうという人にとっては不満はないかと思う。「コンフォート」モードのままでもワインディングを走るに十分。「スポーツ」モードを選ぶと、より走りのダイレクト感は増す。一方で、試乗中に激しい雨にも見舞われたときもあったのだが、先進的な4WDシステムである「Xドライブ」の恩恵もあってか、なんら不安を感じることなく走ることができた。
このように、ユニークなスタイリングとエキサイティングなドライビングダイナミクスを持ち、実用性も十分に高く、さらには安全および運転支援装備が非常に充実しているのも、このクルマの強みに違いない。決して安くはないが、実用性を求めながらも普通のクルマでは満足できない人にとって、X4はなかなか面白い選択肢かもしれない。