試乗インプレッション

強い個性を打ち出したBMWの新型SAC「X2」、その乗り味はどうか

ユニークなデザイン、機敏な走行性能、新カテゴリーの3つの武器で勝負

“新しいな”と直感させるデザイン

 BMWでは、早くからSUVカテゴリーのクルマをSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)として独自性を打ち出してきた。今回の「X2」は、SAVの派生でクーペを名乗ることからSAC(スポーツ・アクティビディ・クーペ)と呼ぶ。ロードクリアランスを確保して荒れた道や雪道での走破性能を高めるというSUVの基本を抑えながら、ボディは低く、そしてワイドに造り込むことで躍動感を前面に打ち出した。一見して“新しいな”と直感させるデザインだ。

 デザインにはいろいろな解釈があっていいと思う。筆者は古典的な考えに囚われているのかもしれないが、この手のモデルにはある程度の車高を求めたいし、ボディ形状にしても四角っぽさというか、押し出しの強さを欲する。それはトレッキングシューズの持つ、カジュアルな無骨さとでもいうべきものが近いか……。

 その点、X2は斬新だ。X Drive(4輪駆動)による高い走破性能を確保しながら、ボディはご覧のようにとてもユニークで、前、横、後とどこを切り取っても平面がなく抑揚のあるボディパネルで形成されている。4375×1825×1535mm(全長×全幅×全高。試乗した「xDrive20i M SportX」の値)と、見た目には低さが際立つボディながら、実のところスペック的には極端なロー&ワイドではない。BMWを象徴するフロントグリルであるキドニーグリルでは、通常の上底ではなく下底を幅広くしたかと思えば、BMWが過去に送り出したクーペと同じようにCピラーにはBMWロゴが装着されるなど、渾然一体となったデザインエッセンスにも注目だ。

 試乗した「xDrive20i M Sport X」は、4輪駆動モデルで直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する。192PS/28.6kgf・mのパワー&トルクをトルクコンバータータイプの8速ATを介して各輪へと伝達。ちなみに、前輪駆動のsDrive18iのパワートレーンは直列3気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジン(140PS/22.4kgf・m)となり、7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わされる。

「xDrive20i M Sport X」が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力141kW(192PS)/5000rpm、最大トルク280N・m(28.6kgf・m)/1350-4600rpmを発生。JC08モード燃費は14.6km/L

 M Sport Xは、従来からBMW各モデルにラインアップのあるM Sportの考え方に、X(エクストリーム)スポーツ(アクション性の強く派手なスポーツ)のイメージを織り込んだもので、オフロードでの高い走破性能と荒々しさをアレンジした新グレード。ホイールアーチモールからドア下部のサイドパネルには、M Sport X専用色の“フローズン・グレー”を採用する。

新型SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)として4月16日から受注を開始した「X2(エックス・ツー)」は、Xモデルらしいオフロード走行と、都会的な存在感を併せ持ったモデル。xDrive20i M Sport Xのボディサイズは4375×1825×1535mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。ボディカラーはガルバニック・ゴールド
エクステリアでは下部の幅を広げたキドニーグリルを採用し、大型のエアインテークと合わせて低重心でワイドな印象を演出。LEDデイタイム・ランニング・ライトが組み込まれるヘッドライトでは、丸形2灯式デザインを採用するとともに、中央寄りのライトを外側のライトよりもやや小さくデザインすることで、シャープでダイナミックな外観とした。撮影車の足下はオプションの20インチMライト・アロイ・ホイール ダブルスポーク・スタイリング717Mにピレリ「P ZERO」(225/40 R20)の組み合わせ
リアまわりではXモデル特有のT字形の光源部と、クーペの特徴であるL字形の輪郭を組み合わせたLEDテールライトで個性を演出。また、M Sport Xではコントラストカラーとなる「フローズン・グレー」のパーツを装着し、リアエプロンにリアバンパーが被さるような新しいデザインを採用する。CピラーのBMWロゴも特徴的
インテリアでは低重心のドライバーポジションに仕上げるとともに、フラットな造形を採用して広々とした室内空間を実現。M Sport Xでは上質さとスポーティさを強調するため、イエローのコントラスト・ステッチが施された「マイクロ・ヘキサゴン・ファブリック/アルカンターラ・アンソラジット・コンビネーション・シート」を採用。専用のインテリアトリムには、ヘキサゴン形状の繊細な加工を施した「アルミニウム・ヘキサゴン・アンソラジット・インテリア・トリム」を新採用している
ラゲッジ容量は470Lだが、後席を折り畳むことで最大1355Lまで拡大可能

どのようにしたら若いユーザーが振り向くか

 早速乗り込んでみる。ステアリング越しに広がるインストルメントパネルやシフトまわり、センターディスプレイなどは見慣れたBMWのそれだ。しかし、フロントウィンドウが上下方向にやや扁平していることもあり、往年のスポーツカーのような適度に制限された景色が広がる。とはいえ、実際には視界は十分に確保され、同時期に試乗した「6シリーズ グランツーリズモ」と同等の視認性を確認できた。

 前述したようにメーターやスイッチ類、シフトノブに至るまでいつものBMWなのだが、シートやステアリング、各ミラーを調整していくと、どうもいつもと様子が違う。その理由はキャビンがタイトであることだ。この場合のタイトとは“狭い”ということではなく、自分に迫り来るデザインがそう感じさせるのだろう。いわゆるフロアから天井までの室内高といった計測値は低すぎることはないし、そもそも筆者は身長170cmと大きくはない部類に属する。よって、そう感じる主な要因は、巧妙に考えられた連続するデザイン処理のうまさにあると理解した。細かく確認してみると、シートは見た目からは想像できないほどの良好なサイドサポート性を確保しつつ、形状は至ってシンプル。さらにドアトリム周辺のゆとりもある。けれど実感する適度なタイト感。これこそX2の新しい一面なのか。

 走り出しても、昨今のBMWが目指した走行性能とは違うことがすぐに分かる。誤解なく表現すれば、紛れもなく硬さが際立つ印象。スプリングのバネレート値が高く、ダンパーの減衰特性が絞り込まれているという構造的な一面はある(実際、M Sport Xはハードなスプリングと高めの減衰特性のダンパーを装着する)にせよ、ここ数年のBMW各車はM Sportモデルであっても、硬さのなかに柔軟さがあった。「柔能く剛を制す」という言葉の通り、いわゆるバシッと受け止めるガチガチさではなく最後は“いなす”ことで、なるべく一発で路面からの衝撃を吸収する、そんな印象が強かった。

 しかしX2は違う。グッとハードに受け止めるのだ。今回は試乗時間の関係で制限速度にして50km/h以下の一般道路での試乗のみ。高速道路での印象はまた違ったものなのかもしれないが、試乗ステージの荒れた路面では足まわりの硬さがまず身体に伝わってくる。「ドライビング・パフォーマンス・コントロール・スイッチ」を快適性重視となる“コンフォート”に設定しても大差なし。よって、しなやかさを求めるユーザーには、未試乗ながらスペックからしてsDrive18iの方が向いていると推察する。

 ただ、これには訳がある。BMW日本法人によると、X2は過去にリリースされたどのBMWとも違う強い個性が与えられたというのだ。これは日本市場だけでなく、本国を含めた世界各国へ導入されるX2に等しく、こうした強い個性(ユニークなデザインやハードな乗り味)があるようだ。

 強い個性は、当然ながら走行性能にも共通していてガツンと力強い。エンジンはアイドリング回転直上の回転域から、最高出力である192PSを発生する直前の1350-4600rpmに至るまで、最大トルクである28.6kgf・mを発揮し続ける。もちろん、これはカタログスペックなので、アクセル開度にして全開の値だが、実際の交通環境で多様するアクセル開度50%程度でも、ほぼこの値に違い数値を発揮し続けることから、いつでも力強い加速力を引き出せる。

 8速ATとの組み合わせもよく、ドライビング・パフォーマンス・コントロール・スイッチをSPORTモードにすることで変速タイミングなども変更され、積極的に下のギヤ段での走行を継続する。箱根のワインディングロードではハードな足まわりとSPORTモード向けに設定された特性変化がうまくマッチングし、X2が狙った通りの機敏な走行性能を堪能することができた。

 よくよく考えてみれば、世界中の自動車メーカーがユーザーの若返りを望んでいる。その言葉には重みがあるが、一方でどのようにしたら若いユーザーを振り向かせるかという能動的な発想は、BMWを含めてそう多くはなかったように思う。

 その点、X2はユニークなデザイン、徹底して機敏な走行性能、さらには独自の解釈から編み出したSACというカテゴリーという3つの武器で信を問う。今回の試乗を通じ、こうしたエモーショナルな活動は注目に値すると確信できた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛