試乗レポート

メルセデス・ベンツの直6ディーゼルを搭載する「GLS」「GLE クーペ」を乗り比べ

直6ディーゼルエンジンを搭載する「GLS」「GLE クーペ」を乗り比べてみた

SUVは食傷気味?

 SUVの頼もしさには好感を抱く。ただ、世界中の自動車メーカーから次々に登場するSUVには、職業柄なのか筆者は少し食傷気味だ。

 SUVの多くは、長めのホイールストロークがもたらす快適な乗り心地に加え、ヒップポジションも高めだから見晴らしもいい。ボディ形状にもよるものの、外観から想像する以上に見切りがよいため、車幅感覚さえつかめば離合もさほど気にならない。

 メルセデス・ベンツのラインアップも他社同様、SUVで地盤を固める。市場によっては売り上げの過半数をSUVで占める地域もあるという。現に日本市場でもラインアップは豊富で、コンパクトクラスのSUV「GLA」や「GLB」にはじまり、「GLC」「GLC クーペ」「GLE」「GLE クーペ」「GLS」「Gクラス」「EQC」とじつに幅広い。類い希なオフロードの走行性能をもつGクラスや、BEV(電気自動車)であるEQCは別格ながら、メルセデス・ベンツのSUVはやはり多彩た。

 Car Watchでは、メルセデス・ベンツSUVイッキ試乗としてこちらにレポートが掲載され、2020年導入のGLAGLBもレポートがあるのでそれぞれ参照いただきたい。

 今回は「GLE 400 d 4MATIC クーペ Sports」と「GLS 400 d 4MATIC」に試乗した。どちらも直列6気筒3.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載した4輪駆動モデルであるが、GLEがクーペボディで5人乗りであるのに対して、GLSはフルサイズボディに7人乗りと成り立ちが違う。

 冒頭、SUVに食傷気味と述べたのは個人的な理由だが、しかしながら乗れば快適であるのも事実。先日の取材では、700kmほどの日帰り移動があったが、移動時間に応じて疲れはしたものの終始快適な移動だった。

 そこで本稿では、メルセデス・ベンツならではのSUVらしさとは何かを着眼点として、2台の立ち位置はどう異なるのかなどを探っていきたい。

両者とも力強く、滑らか

 まずは外観から。カタログ上のボディサイズはGLSが大きいものの、GLE クーペも間近で確認するとかなりの迫力。試乗した2車は全長が5m級(GLE クーペ:4955mm/GLS:5220mm)で、車幅は2mを超える(GLE クーペ:2020mm/GLS:2030mm)。全高も高く、GLE クーペが1715mm、GLSが1825mmと立派な数値。

 しかし、これだけの堂々たるボディだが、最小回転半径は日常の運転でもなんとか困らない値(GLE クーペ:5.5m/GLS:5.8m)に収めてあるところは、さすがメルセデス・ベンツ。GLE クーペはフロントオーバーハングも短く、360度カメラに頼らずとも車両感覚はつかみやすい。

6月に受注を開始した新型「GLE クーペ」。試乗車は「GLE 400 d 4MATIC クーペ Sports」(1186万円)で、ボディサイズは4955×2020×1715mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2935mm。7名乗車のSUV「GLE」をベースに、5名乗車のクーペスタイルを採用してスタイリッシュでSUVらしい存在感、走行性能、利便性を備えたモデルとして2016年に誕生。2代目となる新型GLE クーペは、SUVクーペとしての個性を引き継ぎながら内外装デザインを一新した
3月に発売された最上級SUV「GLS」。試乗車は「GLS 400 d 4MATIC」(1263万円)で、ボディサイズは5220×2030×1825mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3135mm。3世代目となる新型GLSでは、内外装デザインを一新して最新技術と装備を搭載。上記のGLE クーペとともに、直列6気筒 3.0リッターディーゼルターボ「OM656」型エンジンを備え、最高出力243kW(330PS)/3600-4200rpm、最大トルク700Nm(71.4kgfm)/1200-3200rpmを発生。WLTCモード燃費はGLE クーペが11.7km/L、GLSが10.9km/L

 2車が搭載するディーゼルエンジンは「OM656」型を名乗る直列6気筒。2ステージターボ(OM656型では大小サイズの異なる2つのターボチャージャーを搭載)に、高効率な燃焼とSCR触媒、さらには可変バルブリフトシステムの「CAMTRONIC」を排気側に採用することで、排出ガス中の有害物質であるNOxとPMを効果的に削減しながら、低回転域から豊かなトルクを発揮する。

 今回の試乗コースは市街地と自動車専用道路、そしてカーブの続く山道といずれも舗装路だったので、2車のオフロード性能は試すことはできなかった。しかし、たとえば見切りのよさの指標である運転席からの視界はいずれも高く、さらにボディサイズの大きなGLSがGLE クーペのそれを上まわることが分かった。

 走り出しから2車は力強く、滑らかだ。過去のV型6気筒ディーゼルエンジンも同様に力強く滑らかだったが、直6へと換装されその特徴が伸ばされた。車両重量はGLE クーペが2450kg、GLSが2590kgとかなりの重量級だ。しかし、最大トルク値である700Nmをアイドリング回転数直上である1200rpmから3200rpmまで発揮し続けるから、軽やかな身のこなしこそ期待できないものの、大きな車体を遅れなく走らせる。

 多量の新気を必要とすることから、ディーゼルとターボの相性がいいことは知られているが、さらに2ステージ化された過給システムが動力性能を向上させる。2つあるターボチャージャーのうち、小さなターボは可変ノズルベーン式で低速域から過給圧の緻密な制御が可能。一般的に多用するアクセル開度が小さな領域での反応はとてもいい。

 自動車専用道路では2000rpmも回すことなく2車は静々と走る。ドライバーの意向どおりに走行特性の変更ができる「ダイナミックセレクト」は、モードごとのプログラム変更幅が大きく、エンジン特性、シフト制御、エアサスペンションのダンパー減衰力などに明確な違いが設けられているので、走りにメリハリが生まれる。

 試乗したGLE クーペには、オプション装備となるアクティブサスペンション「E-ACTIVE BODY CONTROLパッケージ」(77万円)が付いていた。これにより、ダイナミックセレクトの選択画面に追加される「Curve」モードを選ぶと、車体を内側に傾けながら安定してカーブを走りきる「ダイナミックカーブ機能」が味わえる。

 E-ACTIVE BODY CONTROLとは、48V電動油圧ユニットと標準装備となるエアサスペンションを融合させたシステムで、先のダイナミックカーブ機能のほかに、フロントウィンドウ上部のステレオマルチパーパスカメラ(2つの光学式カメラ)から路面の凹凸を読み取り、最適な減衰力特性で滑らかな走りを実現する「ロードサーフェススキャン機能」なども備わる。

ダイナミックセレクトの選択画面に表示される「Curve」モード

 ロードサーフェススキャン機能は2013年に日本市場へ導入された現行Sクラスにも採用されていた装備だが、E-ACTIVE BODY CONTROLではオフロードで車両の姿勢を安定させる専用の制御モードも追加された。このE-ACTIVE BODY CONTROLは、試乗したGLSの上位グレード「GLS 580 4MATIC Sports」には標準装備となる。

 Curveモードの走りは興味深い。基本的にはロードサーフェススキャン機能によって車体は常にフラットなのだが、カーブに差し掛かると車体を内傾させ(カーブ外側のサスペンションを伸ばし、内側を縮める)、発生する遠心力に対してカーブ外側だけでなく内側のタイヤも積極的に活用して車体をしっかり支える。

 極端な内傾はないが、乗っているとかなり内側に傾いているような感覚だ。外から走行シーンを確認すると、カーブ外側にロールする一般的な車体姿勢から一転して、Curveモードではロールがない、もしくはわずかに内傾が確認できる独特のコーナリングフォームで駆け抜ける。

 もっともカーブを走行しているわけだから、車内で身体が受ける遠心力は変わらず残るが、標準モードで受ける横向きの遠心力を1とした場合、Curveモードでは同じカーブを同じ速度で走らせたとしても0.8程度にまで減少する。減った分、代わりに下方向に重力が加わり、シート座面に身体全体が押しつけられる。ちょっと例えが極端だが、遊戯施設にある回転式空中ブランコに乗っているような気分が近いか。

 じつにダイナミックなCurveモードだが、制御は緻密。探ってみると、ステアリングをほんの少し切り始めたあたりからすでに内傾制御が働き、速度や路面の勾配、さらには前後加速度に応じて変化するロール量によっても微妙に違いが設けられている。

 このCurveモードと考え方を同じくする機能を、メルセデス・ベンツはオープンモデルである「SL」にABC(アクティブ・ボディ・コントロール)として現在も採用している。ABCはステレオマルチパーパスカメラなどからの情報をもとに、車体のロール量を低減。約15~180km/hまではE-ACTIVE BODY CONTROL のCurveモードと同様に、カーブ時のロール量を低減させるダイナミックカーブ機能を働かせる。

 両システムとも狙いは同じだが、やはりロール制御は48V電動油圧ユニットを用いるE-ACTIVE BODY CONTROLが細かく、そして繊細な印象。カーブでのロール量を低減するという、一見するとスポーツ走行を支えるためだけの技術に思えるが、車両重量がかさみ、重心位置が高くなるSUV(今回はGLE クーペ)にも効果的であることが分かった。

買うならどちら?

 最後に居住性。これだけ大きなボディサイズなので当然だが、やはりGLSはすばらしい。1、2列目だけでなく3列目でも快適で、3列目シートの適応可能身長はなんと194cmにまで及ぶ。

 この適応可能身長とは、メルセデス・ベンツが基準とする安全性などが確保されていることを示す値。試しに山道から自動車専用道路を3列目シートに座って試乗してみたが、突き上げも少なく、前後のピッチングも最小限。クルマに酔いやすい同乗者でも不安なく座っていられることが確認できた。

 また、3列目シート頭上までしっかりと伸ばされたルーフ形状なので、頭上空間も広く、さらに2列目シート下への足入れ性も良好。電動で倒せる2列目シートを操作した際の3列目シートへのアクセスも、一般的なヒンジ式のリアドアを考えれば納得だ。そういえば、GLBも3列目が快適だったとこちらで報告しているが、GLSとGLBのサイドシルエットを比べるとかなりの相似形。両車の性格が似ているわけだ。

新型GLSは、先代モデルから60mmホイールベースが延長され、居住性と積載性が向上。特に2列目シートには電動シートバックによる前後スライド機能を採用しており、最も後方にスライドさせることでレッグルームが87mm拡大する。40:20:40分割可倒式バックレストや左右ヘッドレストの高さは電動調整式となり、全モデル標準装備の3列目シート(2人掛け)は可倒式ながら身長194cmの乗員まで対応し、フレキシブルなシートアレンジが可能になっている

 GLE クーペは優雅なデザインでSUVを、GLSはオーソドックスなスタイルでSUVをそれぞれ確立。他社との違いはメルセデス・ベンツらしくどのボディ形状であっても高いオフロード性能を担保する車体構成が与えられたことだ。さらに、今回の2車はE-ACTIVE BODY CONTROLにはじまる電子制御デバイスを採り入れたことで、オフロード/舗装路面を問わず快適な乗り心地を披露する。

GLE クーペは先代モデルからホイールベースが20mm拡大され、広く快適な室内空間を実現。ホイールベースの伸長により、乗降性が向上するとともに乗員のレッグルームを確保し、室内の収納スペース容量は合計40L増加。また、ラゲッジルームの容量は655~1790Lと先代モデルより70L増加した。AIRMATIC サスペンションを標準装備し、荷物を積み下ろす際にはボタンを押すだけでテールエンドを50mm下げる機能も備える

 2車とも優に1000万円を超える高額車両だから簡単に手を出せる金額ではないが、選べるのであればGLS! どっしりとした走行性能と、大きなボディサイズに相克する見切りのよさを持つGLSを前にして、食傷気味である筆者の食指が動いた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一