試乗レポート

メルセデス・ベンツの新型コンパクトSUV「GLA」試乗 「GLB」との違いは?

コンパクトSUVの「GLA」が2代目に

「GLB」と並ぶコンパクトクラスSUVである「GLA」。今回は2.0リッターディーゼルエンジンの4MATIC(4WD)モデル「GLA 200 d 4MATIC」に試乗した。

 ざっくり車名のうち、GLがSUVを、Aがクラスを表しているのが最近のメルセデス・ベンツ流。GLAは、2018年10月に日本において販売がスタートした現行4代目「Aクラス」のSUVだ。GLAとしては2代目となる。

 初代GLAは3代目Aクラス時代にラインアップされていて、日本には2014年に導入されていた。扱いやすいボディサイズと豊富なエンジン&グレードバリエーションで人気を博した。

 今回紹介する2代目GLAもその美点を受け継いでいる。ボディサイズは4440×1850×1605mm(全長×全幅×全高、試乗モデルの値)と車幅こそ多少広めに感じるだろうが、トレッド幅は前1590mm、後1595mmと立体駐車場のパレットに載せる際の目安となっている1600mm以下。全高さえ許容できる駐車場環境であれば気負うことがない。

今回の試乗車は6月に受注を開始したコンパクトSUVの新型「GLA」。外装デザインでは前後オーバーハングを短くするとともに、クーペのようなスタイリッシュな曲線を用いていることが特徴。試乗した「GLA 200 d 4MATIC」のボディサイズは4440×1850×1605mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2730mm
フロントフェンダーからリアフェンダー、リアのコンビネーションランプへと回り込む面の張りが強調された力強いショルダー部、クーペのようにリアにむかってなだらかに下降していくルーフライン、上下方向にスリムなサイドウィンドウを採用。試乗車はオプションの「AMGライン」を装備し、足下は5本ツインスポークの19インチホイールにブリヂストン「TURANZA T005」(235/50R19)の組み合わせ

 搭載エンジンは「OM654q」型を名乗る直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボディーゼルで、最高出力110kW(150PS)/3400-4400rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/1400-3200rpmを発生。トランスミッションには8速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせる。

GLA 200 d 4MATICが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボディーゼル「OM654q」型エンジンは最高出力110kW(150PS)/3400-4400rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/1400-3200rpmを発生。WLTCモード燃費は16.5km/L

 駆動方式の4MATICは前後の駆動力配分を前100:後0から、路面の状況に応じて前50:後50まで自動的に配分する電子制御方式を採用。このメカニズムは7人乗りでプラットフォームの基本を共有する「GLB」とも共通だ。

 GLA 200 d 4MATICに標準装備となる「off-Roadエンジニアリングパッケージ」は、滑りやすい路面での走行性能を確保するため専用設定のスロットル特性としつつ、ABSも専用セッティングとして路面状況を問わず止まる性能も確保した。

 メインディスプレイには傾斜計とともに、前後の駆動力配分がリアルタイムで表示される画面も追加された。また、コーナリングライトは通常よりも広い照射角度を備えるオフロードライト機能が装備される。

 さらに、急な下り勾配路面では独立した4輪のブレーキ制御を行なって安定性を確保するDSR(ダウンヒル・スピード・レギュレーション)も備える。このDSRはステアリングスイッチ(左側)の操作によって約2~18km/hの任意速度で下り勾配路面を走行することができる。

運転席と助手席の着座位置は従来型より97mm高くなり、Aクラスとの比較で140mm、Bクラスに対しては52mm高くすることで、全方位の視認性が向上して運転しやすさや乗降性を向上させた
後席は60:40分割の前後スライド、40:20:40分割可倒式のバックレストを採用。レッグスペースは標準状態で従来型より116mm広くなり、前後方向のゆとりを向上させた。140mm調整が可能な前後スライド機構も備えている。また、テールゲートは「EASY-PACK自動開閉式テールゲート」を標準採用して、開閉時の利便性を向上させている

市街地や高速道路、山道でのフィーリングは?

 試乗コースは、市街地と高速道路(自動車専用道路)、そして箱根の山道。ディーゼルエンジンが得意とする高速巡航走行と、豊かなトルクを活かした勾配路面での走りを確認した。

 動き出しで真っ先に感じるのは軽い身のこなし。ここはCar WatchでレポートしたGLBと大きく異なる部分で、車種キャラクターが明確に表われている。成人男性3名+撮影機材の状態で走らせてみてもその印象は変わらずで、GLAは軽やかに速度を伸ばす。

 発進停止を繰り返す市街地で少し気になったのは、8速DCTの発進マナーだ。電磁クラッチ制御によりトランスミッションへと駆動力が伝えられるわけだが、たとえば駐車場での頻繁な発進停止では、アクセルペダル操作と車両の反応に微妙なタイムラグが発生する。意識せずにペダルを踏み込むと軽いショックを伴うこともあった。

 もっとも、アクセルペダルの踏み込み速度と踏み込み加減を少しだけ意識すればスムーズな動き出しを作れるが、国産各社のATやCVTの経験が多いドライバーにとっては慣れを必要とする部分かもしれない。

 一方、高速巡航性能はとても優れていた。Car WatchでのAクラスのディーゼルモデル試乗でもレポートしているが、ボディそのものの遮音性が高く、加えてキャビンへのエンジン透過音も少ない。8速化されたトランスミッションのギヤ比率も適切で、100km/h巡航時でもトップギヤの8速ギヤがDレンジのまま常用できる。

 力強さもディーゼルモデルの魅力だ。じつはAクラスのディーゼルモデルでは動き出しこそ力強さを感じたものの、躍度(連続する加速度のことで体感の力強さを示す1つの指標)はすぐに安定し、想像よりも早く加速度が落ち込んでいた。

 その点、GLAではエンジン型式やスペックの一切に違いはないものの、走り出しから中間加速、そしてトップエンドの伸びにいたるまで1~1.5枚ほど力強い。GLAは4MATICであるため重量が増え、Aクラスのディーゼルエンジン搭載車より220kgも重い(試乗車同士の比較)。それにも関わらず力強くて頼もしい。

 メルセデス・ベンツでは、同型エンジンでも搭載車種のキャラクターに応じてエンジン特性に変化を加えることが多い。“味付け”と表現する人もいるくらいで、じつは筆者も愛車であるS204型のC 350でそれを実感している。

 たとえば先代の3代目Aクラスには直列4気筒1.6リッターターボエンジンを搭載した「A 180」と「A 180 スポーツ」が存在していた。グレード名にはスポーツとあるものの、公式には両グレードにエンジン性能の差はないことになっていた。

 しかしメディア試乗会の場で、同じ道路を同じ運転操作で乗り比べを行なうと、明らかにA 180 スポーツが力強い加速力を示し、その際のエンジン音も勇ましかった。ターボチャージャーの過給圧を高めで安定させているようで、ウエストゲートバルブが開放される際の音も異なっていた。

 そうした背景を踏まえると、現行Aクラスと今回試乗したGLAにおいてもキャラクターに応じたディーゼルターボエンジンの性能に違いが設けられていてもおかしくない。細かいところでは、8速DCTのギヤ段やファイナルギヤがAクラスよりもローギヤード(加速寄り)なのかもしれないが、ドイツ本国サイトの情報によるとそうした変更は見られない。

 こうした違いをマイナス面として捉える人もいるかもしれないが、オーナーの多くは作り手のメッセージとしてこの“味付け”を快く受け入れているのではないか。少なくとも筆者はネガティブな側面を感じていない。

 急勾配が続く箱根の山道でも軽い身のこなしが光る。3列目シートでの乗り心地を踏まえたGLBのおっとりとした動きとは違い、GLAはステアリングの操舵に対して車体全体が遅れなくついてくる。下り坂でのブレーキングでグッと高めた前荷重での旋回では、185mm車高の低いAクラスと遜色ないコーナリング性能をみせてくれた。

 GLAはAクラスの気軽さを持ち合わせたSUVであることが分かった。今回は試すことができなかったが、初代GLA(試乗モデルは最低地上高150mm)ではノーマルタイヤのままモーグル路面や富士山麓の本格的なオフロードコースを走破する性能を持ち合わせていたことから、今回のGLA(社内測定値で179mm)においても、そこは期待通りなのではないか。

富士山麓の本格的なオフロードコースを走破する初代GLA

 また、GLAとGLBは単なるボディサイズ違いのSUVではないことも理解できた。とくに乗り味や運動性能には大きな違いがある。そうした意味からも多人数乗車、少なくとも2列目シートへの乗車が多いのであればGLBを、日常的に2名乗車が多いのであればGLAをそれぞれおすすめしたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一