試乗インプレッション
メルセデス・ベンツ「Aクラス」に追加された“静かな”ディーゼルモデル「A 200 d」に試乗
最先端の排出ガス処理システムにも注目
2019年6月20日 06:00
2018年10月に日本で発表されたメルセデス・ベンツのコンパクトモデル「Aクラス」にディーゼルエンジン搭載車「A 200 d」が加わった。メルセデス・ベンツ日本によると、現行Aクラスは発売以降、順調に販売を伸ばしているとのことで、すでに5000台以上の受注があるという。
その割に街中で見かけないなと思っていたら、「受注に対して生産が追いついていない状況」(メルセデス・ベンツ日本)とのこと。ちなみにAクラスの好調は日本だけでなく本国ドイツや欧州各国でも同じ状況らしく、新世代メルセデスを象徴する躍動感たっぷりのスタイルに魅了された方々がいかに多いことか。
今回追加となったディーゼルエンジンは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボで、型式は「OM654q」を名乗る。型式から察しがつくとおり、「Cクラス」「Eクラス」などに搭載されている「OM654」エンジンと基本は同じ。違いは後述するスペックのほか、Aクラス向けに横置き配置となったこと。さらに、排出ガスの有害物質を取り除くアフタートリートメントシステムに、これまでの方式に加えてアンモニアスリップ触媒(ASC)とSCR触媒を一体型にした触媒をセンターマフラー部分に追加していることだ。
追加の意図はこうだ。従来から搭載しているSCR触媒単体では、燃焼状況によってNOx(窒素酸化物)除去には不要となった微量のアンモニア成分(NOxとAdBlueの加水分解から生成されたNH3)が残留し、それが原因となり連続した高負荷走行直後のアイドリング(例/高速道路での長時間走行からサービスエリアなどでの停車)時に、マフラーから弱いアンモニア臭を発生させていた。ASCを含む追加触媒では、不要なアンモニアを除去することでアンモニア臭の発生を抑えただけでなく、2020年施行予定の排出ガス規制「EURO6d」や、実路走行試験規則の「ステージ2RDE」にも対応可能という。
こうして環境面でさらなる配慮がなされたA 200 dのディーゼルエンジンは、150PS/32.6kgfmのスペックを持つ。C/Eクラスの縦置きタイプは194PS/40.8kgfmであったことから、44PS/8.2kgfmのスペックダウンだ。しかしながら、試乗した限りでいえば十二分な走行性能を持っていることが分かった。以下、シーン別に紹介する。
市街地でも高速道路でも、とにかく静か
エンジン始動直後に感じるのは、高い静粛性だ。一般的にディーゼルエンジンは圧縮比が高いことから(OM654qは15.5)甲高い燃焼音に加えて、高圧のコモンレール式インジェクター(同2050bar≑2023気圧)の作動音も外に漏れやすい。その点、A 200 dのOM654qだけでなく、縦置きのOM654も共に静かで、アイドリング時は車内でも、エンジンルームの脇に立っていてもディーゼル特有の燃焼音をほとんど意識することがない。正確には直噴ガソリンエンジンとの差がほとんどない、といったところか。
車内が静かであることは、Cクラスと同様の遮音コンセプトを採用したことに加え、新しい遮音構造の「スプレード・ダンピングレイヤー」を採用し、フロアパネル各部へも遮音材を追加した相乗効果。詳細はガソリンエンジンモデルの試乗記をご覧いただくとして、ともかくAクラスはディーゼルエンジンモデルになっても静かだ。
トランスミッションは8速のデュアルクラッチトランスミッションである「8G-DCT」を搭載する。ガソリンエンジンの「A 180」シリーズが7速であるのに対し1速追加された格好だ。8速化はガソリンエンジンよりもエンジン回転数の上限に制限のあるディーゼルエンジン向けに採られた策で、また、昨今のメルセデス・ベンツ各モデルが採用している走行モードの切り替えスイッチ「ダイナミックセレクト」で、標準位置である「コンフォート」、燃費数値重視の「エコ」の2モードを選択している場合は、早め早めにシフトアップが促される。
市街地で多用する速度域では低中速域でのトルクが太いことと、先のDCTのシフトスケジュールの関係もあってしずしずと、そして淡々と走る。加えて前述した高められた遮音性能によってキャビンは静かだから、それこそCクラスに遜色ない上質な走りが味わえた。メルセデス・ベンツ日本によると、現行Aクラスの登録名義は女性である比率が高い(約25%)とのことだが、この静かで上質な走りは多くの女性ドライバーから歓迎される要因なのだろう。
続いて、高速道路に入る。ここではダイナミックセレクトを「スポーツ」に変更し、本線合流路ではアクセルペダルをじんわり深く踏み込んでみた。するとDCTらしく素早いキックダウンとともに豊かなトルクを活かした強めの加速がすぐさま始まる。感心したのは4000rpmを超えてもなお高い静粛性が保たれていることだ。
ただ、A 180系が披露する一体感のある伸びやかな加速とは趣が異なり、キックダウン直後に強めと感じた加速度も、躍度はすぐに安定する。よって、いわゆる高揚する走りはあまり期待できない。また、ロードノイズが割と目立つ。エンジンルームからの遮音性が高いことから目立つという理屈もあるが、どうやら装着タイヤ「ピレリ Cinturato P7(225/45R18)」との関係もあるようだ。ちなみに、A 180を試乗した際には205/60R16の同じくピレリ Cinturato P7を装着していたが、こちらもロードノイズが目立つ傾向だった。加えて、叶うのであれば、低速域で体感する上下方向の突き上げを弱めたい。こちらもA 180試乗時に抱いていた感想だ。
もっとも、今回試乗したA 200 dは日本仕様ではなかった。大人気で玉不足のAクラス、なかでも新規導入のディーゼルモデルという条件が重なるところ、メルセデス・ベンツ日本ではこの試乗会のために苦労して並行輸入したとのこと。よって日本仕様ではなく、さらにオドメーターは1000kmに満たない状況であったことから、日本ユーザーの手に渡るA 200 dには乗り味に対して手が加えられることが十分に考えられる。
A 200 dは最先端の排出ガス処理システムにも注目
昨今、欧州各国ではディーゼルエンジンに対する風当たりが強い。この先、新型ディーゼルエンジンの認証すら規制する動きもある。その理由は、排出ガスのうちNOxとPM(粒子状物質)の2大成分が人体や地球環境に悪影響を与えるということからだ。よって、これまでNOxにはSCR(Selective Catalytic Reduction)を、PMにはDPF(Diesel Particulate Filter)をそれぞれ触媒として使用して、影響を最小限にまで抑えてきた。
SCRでは、NOx(NOとNO2)とマフラー内に添加されるAdBlue(尿素水/(NH2)2CO+H2O)の加水分解から生成されたNH3(アンモニア)を化学反応させることによって、NOxを無害なN2(窒素)とH2O(水)に分解する。
DPFは、まずフィルターによりPMを捕集して排出ガス成分の1つNO(一酸化窒素)を前段酸化触媒で酸化させ、非常に強い酸化力をもったNO2(二酸化窒素)を生成。生成されたNO2はPMと反応してPMの多くは燃焼される。低速走行などが続いて前段酸化触媒で酸化されなかったPMはSiC(炭化ケイ素)フィルターで捕集され、一定量がたまると排気温度を上昇させて除去を行なう。
A 200 dでは、NOxとPMを最高レベルで除去する最先端技術が投入された触媒を持ちながら、車両価格は30万円のアップ(A 180 Style比)にとどめられた。Aクラスをディーラーで体感される場合には、「ハイ、メルセデス」をかけ声とした「MBUX/メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス」とともに、このA 200 dにも試乗していただきたい。