試乗インプレッション

メルセデス・ベンツの新型「Aクラス」、新パワートレーンやプラットフォームで魅力高まる1台に

「A 180 Style」と「A 180」、どちらがベストバイ?

新型Aクラスの進化点

 メルセデス・ベンツの新型「Aクラス」といえば、「ハイ、メルセデス」をかけ声とした対話型インフォテイメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)」が話題だが、本稿では新型Aクラスのレポート第1弾として車両のアウトラインと走行性能に的を絞り報告したい。なお、MBUXに関しては第2弾としてレポートする。

 鋭く切れ込んだヘッドライトデザインに開口面積の大きなグリル、そしてスリーポインテッドスターの3部構成は「CLS」などと同じく新世代メルセデス・ベンツのデザインテイストだ。ルーフラインはなだらかな弧を描きつつ、両サイドは抑揚(パネルの凹凸)だけに頼らずにシンプルな面構成で勝負する。続くリアセクションではLEDで縁取られたストップランプが特徴のテールランプに、バンパー下部では整流効果を狙ったディフューザー形状を用いて腰高感を抑えている。ずんぐりむっくりとした従来型も個人的には好きだったが、新型ではグッと躍動感が高められた。ちなみに空気抵抗係数は0.25(欧州向けモデル)と優れた値だ。

 ボディデザインだけでなく、新型Aクラスでは軽量化も視野にプラットフォーム(クルマの土台部分)が刷新された。さらにボディ剛性と静粛性を共に向上させるため、高強度高張力鋼「AHSS」をボディ全体の35%(フロントサイドフレーム、インサイドシール、フロアパネル部分など)に採用しつつ、リアゲート周辺など鋼板接合部分の剛性は従来型から30%高められた。加えて「Cクラス」と同様の遮音コンセプトを採用。この遮音コンセプトとは、車両前部のフロントバルクヘッドとは別に、エンジンルームとキャビンを遮断する隔壁に新しい遮音構造である「スプレード・ダンピングレイヤー」を採用したほか、フロアパネル各部への遮音材追加などが主なメニューだ。これらの相乗効果によって、従来型と比較して80km/hでの車内騒音が3dbほど下がり、同乗者との会話明瞭度が高められた(社内測定値では12%向上)という。また、こうして高められた静粛性では、MBUXにおけるボイスコマンド機能での音声認識率を高める効果も望める。

2018年10月に受注を開始した新型「Aクラス」。「A 180」「A 180 Style」の2グレード設定で、写真はイリジウムシルバーカラーのA 180 Style(369万円)。ボディサイズは4440×1800×1420mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2730mm。オプション設定の「レーダーセーフティパッケージ」(24万5000円)、「ナビゲーションパッケージ」(18万4000円)、「AMGライン」(25万5000円)などを装着
エクステリアではさまざまな空力対策を施し、エアロダイナミクスはセグメントトップのCd値0.25を実現。撮影車は「AMGライン」に含まれる18インチAMG5ツインスポークアルミホイール(タイヤはブリヂストン「TURANZA T005」でサイズは225/45 R18)を装備。郊外道路や高速道路では可変型ロービーム、右左折時にはコーナリングライトが自動点灯するといった機能を持つオプションの「マルチビームLEDヘッドライト」も備える
LEDハイパフォーマンスヘッドライトを標準装備するベースグレードのA 180。足下では16インチ5ツインスポークアルミホイールにピレリ「Cinturato P7」(205/60 R16)をセット

 パワートレーンは1種類で、直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボエンジンに7速デュアルクラッチトランスミッションである「7G-DCT」の組み合わせ。排気量1331ccから136PS/5500rpm、20.4kgfm/1460-4000rpmを発生する当エンジンは、ダイムラーとルノー(いわゆるルノー日産とのアライアンス)による共同開発エンジンで、メルセデス・ベンツでは「M282」型を名乗る。ちなみに、どの領域での共同開発なのか公表はない。しかし、昨今のメルセデス・ベンツの小型エンジンの中ではロングストローク設計であることから基本ルノーの手によるもので、ダイムラー各車との適合が図られたと解釈すべきだろう。

A 180、A 180 Styleともにオールアルミニウム製の直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボ「M282」型エンジンを搭載。最高出力100kW(136PS)/5500rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/1460-4000rpmを発生。A 180 StyleのWLTCモード燃費は15.0km/L

 カタログ上でのパワーやトルクは平凡な値だが、今回の試乗シーンでは不足どころか十分に満足な結果が得られた。まず、発進加速時から中高速域(80km/hあたり)にかけての加速がスムーズで気持ちがよい。時間あたりの加速度変化である躍度のコントロールが絶妙で、アクセルペダルの操作量と見事なまでに体感加速値が合致するため、ゆっくり走らせても、勢いを付けて加速させたい状況でもまさに意のまま。もっとも絶対的なパワーには欠けるため、80km/h以上での高速域では躍度も大きく鈍るが、市街地で多用する20~60km/hまでの領域では扱いやすかった。発進時におけるDCTのクラッチミートポイント付近である1200rpm直上の1460rpmですでにピークトルクを発生している点も、スムーズさを向上させている。侮りがたいエンジンだ。

 ちなみに新型Aクラスのカタログ燃費数値にはWLTCモードでの値も記されている。それによると、もっとも値がわるくなる傾向の市街地モード(WLRC-L)で10.1km/Lとあるが、今回の試乗のうち都内の市街地(平均速度20.0km/h以下で途中3回燃費計をリセットしながら計測)での値は終始10.0km/L台と優秀な値を示した。ハイブリッドでもなければメルセデス・ベンツが得意とするBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)など電動駆動機構を持たない純粋な内燃機関としてみれば、大人3名+撮影機材と適度な車両負荷での実用燃費数値としては納得できる。ちなみに、同様の車両負荷での高速道路における巡航燃費値は、走行条件がよかったこともあり19.0~20.0km/L台とWLTC-Hの18.5km/Lを上まわっていた。

「ハイ、メルセデス」とクルマに話しかけるだけで起動する新開発の対話型インフォテイメントシステム「MBUX」を搭載するのが新しいA 180のインテリア(インテリアカラーはブラック)。一方で居住性についても先代から高められ、ショルダールーム、エルボールーム、ヘッドルームが拡大されている
A 180 Styleのインテリア(クラシックレッド/ブラック)。ラゲッジルームは先代から29L増の370Lに拡大。また、テールゲートの開口部はこれまでよりも200mm広くなり、ラゲッジルームフロアの長さも115mm拡大された

「A 180 Style」と「A 180」の違い

 試乗したのは現在、国内市場に導入されている「A 180 Style」と「A 180」の2モデル。このうちA 180 Styleはオプション装備(25万5000円)となるAMGラインなどを装着していた。

 最初にステアリングを握ったのはベーシックモデルのA 180だ。従来型が不得意としていた、低速域でのゴツゴツした上下方向の突き上げがいくぶん軽減され、逆に美点であったビシッとした直進安定性はさらに高まり、同時に設計思想どおりに静粛性も高まっている。次に試乗したA 180 Styleは18インチへと2インチ大きくなったホイールサイズに端を発する乗り味の変化が大きかったものの、基本的にはA 180と同じく従来型のネガティブな一面を丁寧な作り込みでカバーするという手法が採られている。

 以下、両モデルの違いを具体的に示す。相違の筆頭はタイヤサイズにある。A 180がピレリ「Cinturato P7」の205/60 R16であったのに対して、A 180 Styleはブリヂストン「TURANZA T005」の225/45 R18を履いていた点(共に非ランフラットタイプ)。両車はサイズだけでなくタイヤの特性、とりわけトレッド面での衝撃吸収性能やサイドウォールの使い方(≒変形度合い)も大きく違っていて、筆者にはより粘っこい特性で静粛性も高く保たれるブリヂストンとの相性がよいと感じられた。

 両モデルでダンパーの減衰力やスプリングレート値に変更があるかどうか取材したかったものの、残念ながら試乗の場では伺えず仕舞い……。もっとも、メルセデス・ベンツの流儀でいえば、各モデルのバリエーションごとにダンパーやスプリング、そしてアッパーリンクブッシュなどの最適化が図られてきた経緯もある。実際、試乗してみると新型Aクラスでもそうした配慮は図られていたようで、乗り味は装着タイヤサイズの相違以上に両モデルで大きく違っていた。個人的な好みは18インチを履くA 180 Style。正直、上下の突き上げは16インチ仕様よりも強くなるが、直進安定性やカーブでのライントレース性には終始一貫した芯の強さがあり、ダイナミックで躍動感のあるボディデザインともマッチするからだ。

 新型Aクラス、現時点で唯一の不満は上下方向の突き上げか。前述のとおり走行性能に大きな不満はなく、とりわけDCTとの統合制御が進んだパワートレーンに関しては満足度が高い。ただし、路面からの衝撃吸収方法については日本の道路環境や実用速度域との整合性をもう少し図りたいところ。とくに後席での突き上げは前席よりも大きくなる傾向にある。リアサスペンションの機構が現状、国内導入の2モデルに関してはトーションビーム方式である点もその一端だろう。ちなみに新型Aクラスの国内導入を記念した限定車「A 180 Edition1」では、新型Aクラスの本国における上位モデルと同じマルチリンク式のリアサスペンションを採用していることから、その相違にも興味津々だ。いずれにしろ、さらなる後席での居住性を望む場合は現状であればCクラスがあり、この先には新型「Bクラス」の導入も行なわれるはずだからそちらを待つ手もある。

 新型Aクラスは、従来型のネガティブな一面を新しいパワートレーンやプラットフォームで昇華させた魅力的な1台だ。次回は注目の新しいHMIであるMBUXの真相に迫りたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学