試乗インプレッション

発売約4年半で大幅熟成されたレクサス「RC F」、富士スピードウェイで全開チェック

わずか1000分の1なれど妥協しないクルマ造りを見た

 グローバルで9200台、日本で2362台、これがレクサス(トヨタ自動車)「RC F」の発売から約4年半の累計販売台数だ。1989年にアメリカで産声をあげたレクサスは、2019年で30周年を迎える。ちょうどそのタイミングでこの2月に、グローバル販売台数1000万台を達成したというニュースがあった。つまりは単純計算でその1000分の1……。RC Fの希少性が分かるだろう。

 そんなRC Fがマイナーチェンジした。コンセプトはズバリ「限界走行性能を最大限まで高めた、意のままに操れるスポーツカー」。“F”のエンブレムを掲げるクルマは、街乗りからサーキットまで本格的に楽しめることをコンセプトとしてきたが、それをより高めようということのようだ。

RC F“Carbon Exterior package”
RC F“Performance package”

 そこでまず着手したのが軽量化である。中でもRC Fのフラグシップモデルに据えられた「Performance package」が行なった軽量化は目を見張るものがある。そもそもRC FはV8ユニットを搭載することもあり、車重およそ1.8tとかなりの重量級だ。それを少しでも削ろうと、インテークマニホールド裏側の切削で700gという涙ぐましい軽量化を行なっている。そのほか、フロントサスペンションのアッパーサポートのアルミ化で700g、リアのトーコントロールアーム・ブラケットのアルミ化で500g、トランクと車室内を仕切るパーテーションブレースのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)化によって1kg、そしてCFRPとアルミ材を組み合わせた世界初のバンパーリインフォースの採用で500g……。

 大物で言えば、カーボンセラミック製ブレーキディスクの採用により、スチール製に比べて1台分で22kg、BBS製ホイールにより同じく1台分で2.8kg、ミシュラン製のタイヤ「パイロットスポーツ 4 S」の軽量化も行なったという。これらでトータル約30kgものバネ下重量の低減に成功している。「バネ下の1kgの軽量化は、バネ上の10kgにも相当する」と言われているだけに、運動性能の向上はかなりのものだろう。さらにチタンマフラーの採用などもあり、“Performance package”ではトータルして70kgの軽量化を実現。ベースグレードでも20kgの重量減となっている。

アルミ鋳造製のインテークマニホールドは、溶かしたアルミ湯が鋳型内で流れやすいよう「湯道」と呼ばれる凸部分があり、これは製造後に重量面で贅肉となっていたことから、強度や剛性を勘案しながら切削。ブルーの塗装のない一部が切削された部分になるという
フロントサスペンションのアッパーサポートも鉄製(左)からアルミ製(右)に変更
リアのトーコントロールアーム・ブラケットは鉄製からアルミダイキャスト製にスイッチ
リアシート後方のボディ開口部を補強するパーテーションブレースはCFRP製となった
φ380mmという大径ブレーキディスクをカーボンセラミック製にして、1台分で22kgもの軽量化を実現
ハンドメイドのチタン製エキゾーストテールパイプは、重心から遠い位置で7kgの軽量化を達成したことで慣性モーメントの低減に大きく寄与。さらに特有の高いエキゾーストサウンドも魅力となる
タイヤメーカーは同じミシュランだが、従来の「パイロット スーパースポーツ」(左)から「パイロット スポーツ 4 S」に変更
市販品と同じ名前だが、プロファイル、トレッドパターン、コンパウンド配置などもすべてRC F専用設計となっている
ミシュランのロゴ部分は独自の金型加工技術「プレミアムタッチ」を採用し、深みのある黒と高級感のある手触りを実現
プロファイルの違いを示すため、輪切り状態にしたタイヤも展示された

 一方でパワーユニット周辺にも改良が行なわれた。エアクリーナーボックス内には外装パーツの「エアロスタビライジングフィン」で得られた技術を応用した整流フィンを設置。スロットル特性もアクセルペダルのストロークに対してリニアに改められた。また、エンジンマウント、ステアリングラックブッシュ、そしてリアサスペンションマウントブッシュも改められ、少しでも正確に動かそうといった努力が行なわれたという。

エアクリーナーのパイプ内に「整流フィン」を設置。壁面付近を流れる吸気の流速を高めて圧損低減を実現している
フロントにザックス製のリニアソレノイド内蔵式AVSアブソーバーを採用

大排気量FRを存分に味わえる

 そんなRC F“Performance package”を富士スピードウェイで試す。走り出せば豪快でありながらも官能的なV8エンジンが鋭い加速を示してくれる。従来は最終減速比が2.937だったものを3.133にローギヤード化されたこともあるのだろう。そこに軽量化が加わっているのだ。従来型は4.4秒台だった0-60mph加速は、4.0秒台まで引き上げられたというデータもある。ピットアウトから1コーナーまでの爽快な加速に、重さはさほど感じない。1720kgの車体は、その数値を感じさせないくらいの仕上がりになった。

 それはコーナーリングにおいても同様だ。手の内に収めやすく、例えタイヤの限界を超えてスライドし始めたとしても、コントロール下に置きやすい。従来型は全体的にダルさがあり、リアがだらしなく滑っていたイメージがあったが、新型のリアはガッチリと路面を掴み、そして確かなトラクションを与えてくれるのだ。操舵に対してリアが即座に追従する感覚、それはたまらなく心地いい。だからこそ重さが気にならないのだ。おかげで最終コーナーをシッカリと旋回して加速を重ねれば、ストレートエンドでは250km/hオーバーの世界に突入する。そこからのストッピングパワーも十分で、1コーナーへと安心して突入できる。

 さらに言えば、常にリニアな動きを展開してくれることが嬉しい。先読みしやすいとでも言えばいいだろうか? これから先、どういう風に動くのかということが手に取るように理解できるのだ。“Performance package”ではリアのLSDをあえて5ピニオントルセンとしている。そのおかげもあって、スライドをコントロールしやすく、コーナー進入側でも動きが読みやすい。スロットルのコントロール次第でどのような姿勢にでも持ち込めるこの動きは、軽量化とスロットルのツキ、さらには各種マウント類の強化によるところが大きいだろう。大排気量FRを存分に味わえる、そんな仕上がりなのだ。

 ちなみに、ベースモデルのRC FとRC F“Carbon Exterior package”では電子制御の「TVD(Torque Vectoring Differential)」をオプション設定しているが、“Performance package”にはその設定すら存在しないのだ。開発者にその意図を聞けば「タイヤのグリップを超えるような状況だとTVDではリニアに動きにくい。だからあえてトルセンLSDを採用しました」とのことだった。

試乗の合間に開発担当者から話を聞いた
「TVD(Torque Vectoring Differential)」のカットモデル

わずか1000分の1、けれども妥協しないクルマ造り

 後にベースモデルのRC Fにも試乗してみたが、その違いはハッキリとしていた。TVD(オプション装着)が無理に安定方向に持ち込んだり、意図した以上に曲げられたりといったことを繰り返し、さらには車体の重さによる応答遅れが気になったのだ。“Performance package”は通常のRC Fに対して400万円ほど高額になるのだが、その効果はハッキリと出ていた。ちなみに試乗会で1日の走行を終えた後に、RC Fはスチール製のブレーキローターを交換していたらしい。“念のため”ということだったが、“Performance package”のカーボンセラミック製ブレーキローターは交換いらず。サーキットを頻繁に走るようなユーザーであれば、“Performance package”が単純に高いとは言えないかもしれない。

 サーキット試乗を終え、その後一般道も走ってみたが、かなり硬質な乗り味だった。だが、突き上げはわずかで、即座にダンピングする動きは不快なものではなかったことは意外だった。街乗りからサーキットまでというコンセプトは、辛うじて達成できているのではないだろうか。2名乗車といった安易な軽量化に走らず、4人乗りを守り通したところも好感が持てる。それは当初のコンセプトを崩したくないという意地だったのかもしれない。

 デビューからおよそ4年半が経過し、数も出ないクルマに対してここまで熱心に改良を施した開発陣を称賛したいと思う。V8エンジンを搭載してそもそもアンバランスなクルマであることは明らかだったRC Fだが、それをよくここまでまとめたと感じずにはいられない。ベースとなる「RC」に乗ると、V6、直4とエンジンが軽くなるにつれてバランスよく走ることは明白だ。だが、何としてもV8を守り、その中で仕上げたRC Fは、これからダウンサイジングが加速するであろう世界にあってかなり貴重な存在だ。わずか1000分の1、けれども妥協しないクルマ造りには、ただ感心するばかりだった。

RC350“F SPORT”
RC300“F SPORT”
RC300h“version L”

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学