試乗インプレッション

第3世代のポルシェ「カイエン」「カイエン ターボ」、それぞれの魅力を考察

価格は倍近く、スペックにも相応の差

 けっして安くはないモデルながら、2002年の初代の登場から実に77万台が世に送り出されたというから大したものだ。たしかに首都圏で生活していると見かけない日はないほどで、日本での人気の高さも相当なものであることがうかがえる。そんなポルシェ「カイエン」も、いよいよ3世代目を迎えた。これまで同様、どこから見ても“ポルシェ”している姿は、よりスタイリッシュさに磨きがかかり、存在感が増したように目に映る。

 今回は少し前に試乗記をお届した「カイエン S」の上と下、すなわち「カイエン ターボ」と「カイエン」でポルシェのイベントが開催された軽井沢を往復するとともに、周辺のワインディングや市街地などを走行した印象をレポートする。

 車両価格はカイエンの1012万円に対し、カイエン Sが318万円高の1330万円、カイエン ターボがカイエン Sの572万円高でカイエンの倍近い1902万円という関係。エンジンは、エントリーモデルのカイエンが3.0リッターV6ターボ、カイエン Sが2.9リッターV6ツインターボ、カイエン ターボが4.0リッターV8ツインターボだ。つまりいずれもターボ付きなのだが、ポルシェにとってはかねてより「ターボ」という呼称は特別なもの。ゆえにそれ相応の高性能モデルにのみ与えられる。スペックとしては、ざっくり最高出力が上にいくほど約100PSずつ高まり、0-100km/h加速が約1秒ずつ速くなるというイメージ。最大トルクはカイエン ターボが突出している。

 動力性能はスペックのとおり、シートに身体が押しつけられる感覚もスピードメーターの上がり方も段違いで、やはりカイエン ターボの強烈な加速フィールは別格。その瞬発力と怒涛の加速力はインパクト満点だ。

2017年のフランクフルトモーターショーでワールドプレミアを果たした「カイエン ターボ」(1902万円)。ボディサイズは4925×1985×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2895mm
エクステリアでは2列に並ぶフロントライトモジュールが特徴的なLEDヘッドライト、21インチの専用アルミホイール(タイヤはピレリ「P ZERO」で、フロント:285/40ZR21、リア:315/35ZR21)、専用のツインテールパイプなどを装備。カイエン ターボならではの装備としては、選択されたドライビングモードや走行速度などによって角度を自動調整する「アダプティブルーフスポイラー」が挙げられる
カイエン ターボが搭載するV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンは最高出力404kW(550PS)/5750-6000rpm、最大トルク770Nm/1960-4500rpmを発生。全グレードにおいてトランスミッションに8速AT「8速ティプトロニックS」とフルタイム4WDシステムの「ポルシェ トラクション マネージメントシステム(PTM)」を組み合わせる。0-100km/h加速は4.1秒(スポーツクロノパッケージ装備車は3.9秒)で、最高速は286km/h
先代モデルから刷新したインテリアでは、インパネ中央のタッチスクリーンディスプレイをはじめ、18way調整式のスポーツシート、マルチファンクションスポーツステアリングなどを装備。ステアリング右側には走行モードを選択可能な丸形形状のスイッチが付く

 一方のカイエンも、3.0リッターの排気量を持つ過給機付きエンジンを積むだけあって、その実力にまったく不満はない。アウディですら「Q7」に2.0リッター4気筒を用意しているところ、カイエンにその設定はなく、常に動力性能で他社よりも優位に立つことを是とするポルシェらしく、ボトムのカイエンでも十分だ。

 いずれもターボラグを感じさせることもなく、レスポンスが良好であることにも感心する。これには全車でVバンクの内側にターボチャージャーを配置して経路の短縮を図った、センターターボレイアウトの採用が大いに寄与しているはずだ。

こちらはベースグレードの「カイエン」(1012万円)。ボディサイズは4920×1985×1695mm(全長×全幅×全高)
足下は20インチCayenne Sportホイールにブリヂストン「DUELER H/P SPORT」の組み合わせ
カイエンが搭載するV型6気筒 3.0リッターシングルターボエンジンは最高出力250kW(340PS)/5300-6400rpm、最大トルク450Nm/1340-5300rpmを発生。0-100km/h加速は6.2秒(スポーツクロノパッケージ装備車は5.9秒)で、最高速は245km/h
ブラック/モハーベベージュの2トーンカラーとなるカイエンのインテリア
ラゲッジルームの容量は770Lを確保する

 俊敏な加速には、従来よりもギヤ比がワイドになった新しい8速ティプトロニックSも効いている。弟分の「マカン」にはDCTのPDKが与えられているのに対し、カイエンのトルコンATはより扱いやすく、3.5tものトーイングにも対応するのでレジャーなどでの使い道も広がる。「スポーツ」モードを選択すると、より俊敏な加速と素早いギヤシフトが可能となり、PDKと遜色ないほどのダイレクト感を実現する。オプションのスポーツクロノパッケージを装備すると、ステアリングのスイッチからドライビングモードを直接選択することもできる。

カイエン ターボの恐るべき走り

 前記の俊敏な加速に加えて、これほど大柄なクルマとは思えないほど小まわりが利き、身のこなしは軽やかですらあり、そのドライビングダイナミクスはまさしくポルシェのスポーティモデルの延長上にある。

 軽量化されたとはいえ、それなりに重いことには違いないが、車速に応じて操舵力が変化し、低速時には軽くなる「パワーステアリング プラス」をはじめ、今回のカイエン ターボにはオプションの「リア アクスル ステアリング」や「トルク ベクタリング プラス」が装着されていたのだが、まるでスポーツカーのようにシャープな回頭性を披露し、グイグイと曲がりながら加速していく。その間、ハンドリングと安定性を両立させるべく、状況によって前後のトルク配分を常時、緻密に制御していることもディスプレイを見るとよく分かる。

 加えて、48Vの電気機械式ロール安定化システムやPDCC(ポルシェ ダイナミック シャシー コントロール)も効いてか、姿勢を乱すこともない。各々のデバイスがそれぞれよい仕事をして、こうしたスポーツカーのDNAを感じさせる走りを実現しているわけだ。その物理の法則を覆すがごとき走りっぷりは、恐るべしというほかない。

 乗り心地はカイエン ターボに標準で装備されるエアサスの方が快適でフラット感も高い。これほど大柄な車体を俊敏に走らせるには、それなりに硬める必要もあるだろうから、標準サスは後席ではやや硬さを感じなくもなかったので、カイエンやカイエン Sでも快適性を重視する向きにはぜひエアサスの装着をお薦めしておきたい。

 これだけの車体ゆえ、その気になって攻めるとブレーキには相当な負荷がかかるのは言うまでもないが、そこもさすがはポルシェ。タングステンカーバイドによってコーティングされたPSCB(ポルシェ サーフェス・コーテッド・ブレーキ)は、カイエン ターボのフロントには10ピストンモノブロックキャリパーという市販車でほかに類を見ないブレーキが与えられており、キャパシティは十分で、コントロール性にも優れる。動力性能に見合う制動性能の確保を重んじるポルシェの哲学がヒシヒシと伝わってくる。さらにカイエン ターボには、もっと高速域で効果を発揮するデバイスとして、エアブレーキテクノロジーを備えたアダプティブルーフスポイラーまで備わるというから驚く。

インテリアや利便性も進化

 これまでどおり、ポルシェのスポーツモデルとの共通性が多々見受けられるインテリアは、目線が適度に高めながら一般的なSUVよりも低めにドライビングポジションが設定されていて、“コクピット感”に満ちている。ややタイトにしつらえられた運転席まわりは、ディスプレイとコントロールエレメントを統合した「ポルシェ アドバンストコックピット」を導入するなど非常に機能的にアップデートされていて、運転に必要な多彩な情報が瞬時に得られるとともに、必要に応じて直感的に操作することができる。さらには、「デジタルネットワーク」を謳っているだけあり、その恩恵かBluetoothでスマホがつながるのがやけに早かったこともお伝えしておこう。

 シートの着座感も申し分なく、長距離のドライブでも心地がよい。とくにカイエン ターボに与えられた新世代のアダプティブスポーツシートは、ほどよく包み込まれるようなホールド感を得ることができる。

 リアシートは前後スライドとリクライニングが可能で、従来比で100Lも広くなった荷室は、見た目にもかなり広々として見える。大きな荷物をたっぷり積み込んでのロングドライブにも対応する。

 また、今回は試していないが、さまざまな状況に対応するドライブモードを備えたオフロード性能の高さもカイエンの強み。オンロードではハイパフォーマンスなスポーツカーのごとき走行性能を披露する一方で、SUVとしての悪路走破性をもぬかりなく身に着けている。そんなオールラウンダーぶりもカイエンの魅力に違いない。

 日本でも人気の高いカイエンゆえ、新型に関心を持っている人も少なくないことだろう。乗り比べると、やはり価格が倍のカイエン ターボの走りは抜群に素晴らしかったわけだが、かたやカイエンもポルシェが手がけたSUVとしての期待に十分すぎるほど応えていることもよく分かった。内容を考えると、むしろカイエンのコストパフォーマンスの高さが際立って感じられたほどだ。それぞれ魅力的で大いに納得させられる、新しいカイエンであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一