試乗インプレッション
あくまで機能性重視がポルシェ流。第3世代の「カイエン S」試乗
身軽に感じるのはレスポンスのよいパワートレーンとシャシーシステムの恩恵
2019年5月5日 12:00
あくまでポルシェらしいSUV
かつてはポルシェの専門誌に関わっていて、最新モデルやカスタムしたポルシェに乗る機会もいろいろあったのだが、このところとんとご無沙汰だった。そして、久々に乗ったポルシェは、やっぱりポルシェだった。
このほど日本に導入された第3世代の「カイエン」。抜群のブランド力はもとより、優れた性能と実用性を兼ね備えていることが高く評価され、いつしかポルシェの屋台骨を支えるほどに成長したSUVのニューモデルは、文字どおり全面的に刷新された。
思えばカッコよいかどうかはさておき、とにかくポルシェに見えることを念頭にデザインされたであろう初代カイエンは、なんとも不思議なスタイリングだなと感じていたものだが、2世代目でいきなりスポーティなフォルムになり、新型もその延長上でさらに洗練された。「ビスケーブルーメタリック」というちょっと変わったボディカラーをまとったボディは、全長が5m近く、全幅が2m近くとなかなかに大柄。立体的な本体と左右を結ぶ細長いLEDストリップを備えたテールランプも印象的だ。
インテリアもこれまでの延長上で、センターコンソールを高くし、そこにスイッチをズラリと並べているのは一連のポルシェのスポーツカーと同じ。ただし、一見フラッシュサーフェイスのタッチパネルのように見えて動作は物理スイッチという、広めのパネルを何枚か組み合わせた新感覚のものとなったのは画期的アイデア。5連の円型メーターを液晶で表現したディスプレイも伝統とともに新時代の到来を感じさせる。
いたって端正なレイアウトは、わるくいうといささか素っ気ない気もするが、これ見よがしなことはしないのがポルシェの常。シートの革の質も、ナッパ系の繊細な柔らかさよりも表面のグリップやサポートを重視しているような印象で、あくまで機能を重視しているあたりもポルシェらしい。前後席とも居住性は十分すぎるほどで、広く使い勝手に優れるラゲッジコンパートメントは、従来型比で100Lも容量が増えて770Lになったという。
440PSの2.9リッターV6ツインターボ
2モデルが登場したうちの高性能版である今回のカイエン Sには、新開発された2.9リッターV6ツインターボエンジンが与えられ、これに新しい8速ティプトロニックSトランスミッションが組み合わされる。従来型の20PS増しとなる440PSの最高出力と550Nmの最大トルクを発生し、0-100km/h加速では5.2秒を達成。スポーツクロノパッケージ仕様車ならさらに速い4.9秒となり、最高速は265km/hに達する。これは3.0リッターV6気筒ターボエンジンを搭載する標準のカイエンよりも100PS、100Nm上まわり、0-100km/h加速は1秒も速く、最高速は20km/hも速いことになる。
車両重量も従来よりだいぶ軽くなったのだから、実際にドライブしても、その動力性能に不満はない。かつては重いものを強引に速く走らせている印象もなくはなかったところ、かなり身軽になっているのは、むろんレスポンスのよいパワートレーンと、後述するシャシーシステムの恩恵あってのことに違いない。
また、一連のポルシェ車はおしなべてそうだが、動力性能に対して十分すぎるほど担保できるブレーキキャパシティを確保しており、軽くなったとはいえそれなりに重いカイエンをしっかり止めてくれる。今回の車両には54万1000円の20インチポルシェサーフェスコーテッドブレーキが装着されていたが、さらに強力なものも用意されている。
一方で、オンロードメインのクルマには違いないだろうが、オフロード走行のこともかなり配慮しているようで、車高調整機能に加えてグラベル、マッド、サンド、ロックという、悪路走行に適した走行モードも充実している。
一新されたシャシーシステム
全面的に新しくなったシャシーシステムでは、あたかもスポーツカーのように初めて前後サイズの異なるミックスタイヤとリアアクスルステアリングを搭載した点も特筆できる。
さらに、アクティブ制御の4WDシステム、ポルシェ4Dシャシーコントロール、3チャンバーエアサスペンションおよび電子制御ロール安定化システムを備えたポルシェ ダイナミックシャシー コントロールシステム(PDCC)により、オンロード性能がさらに高められている。
ドライブすると、俊敏性と正確性を併せ持っていることに感心させられる。後輪操舵が加わったことで、ともすると俊敏性に傾倒しがちなところ、あくまで正確性に重きを置いたことが伝わってくるあたりもポルシェらしい。
さらには、上級SUVたるカイエンは「マカン」という弟分ができたことや、あるいは先日発表された「カイエンクーペ」が加わることも想定されていたせいか、より快適性を高めてリラックスして乗れるようにするなど、より本来あるべき姿に割り切ったような印象も受ける。もちろん性能は譲ることなく、である。
ただし、あくまで個人的な意見ではあるが、エンジンフィールもハンドリングも、あえてポルシェのSUVを買い求めるユーザーにとっては、もう少し刺激的な何かがあってもよい気もしたのは事実。それは、今後出てくるであろうさらなる高性能モデルの役目ということなのかもしれないが。いずれにしても、久々にドライブしたポルシェは、やはり独自の哲学を持ってクルマを作られていることが、あらためてヒシヒシと伝わってきたのだった。