試乗インプレッション
アウディ新型「A6」は優雅で快適、そして“アスリート”のような側面も併せ持つセダン
まず導入されたMHEV搭載のV6 3.0リッターTFSI+7速Sトロニックに試乗
2019年5月2日 12:00
初めて実車と対面した時に、凛々しさと優雅さを兼ね備えた、なんといい顔つきをしているのだろうとハッとした。アウディの新型「A6」は、その前身となる100シリーズから数えれば約50年という歴史を背負う、アウディ最長寿モデルである。その重み、深みをどこからか滲ませながら、しっかりと先を見据えた潔さがみなぎっている。A6としては8代目となる新型は、これまでにも増して用途を選ばないオールラウンダーに生まれ変わったという。クルマ業界全体が大変革期を迎えている今、アウディがこの歴史的なアッパーミドルセダンに与えた使命はどんな味わいなのだろうか。
まず新型A6のボディは、フロントエンド構造体とトーションリンクを新設計。素材はアルミニウムとスチールを組み合わせて構成され、軽量化と高強度を両立している。サイズはわずかに全長が20mm、全幅が10mmの拡大にとどめているが、室内に入ってみるやや広々とした印象だ。というのも、実は室内長が21mm拡大し、後席の足下も広がってライバルを凌駕するという。
それにも増して、室内のモダンなインテリアも注目に値する。先進のインターフェースを取り入れたディスプレイが、まるで周囲に溶け込むかのようになじんでおり、どちらかといえばビジネスライクになりがちな空間に、リラックスできるリビングルームのような雰囲気もプラス。水平基調のインパネには突起物がなく、さりげなく統一されたモチーフのアルミフレームが美しさを添えている。シートは緻密に構成されたフィット感で身体を包み、ペダルからステアリング、シフトレバーまでがパズルのようにピタリと合うことに感心した。
先陣を切って日本にやってきたパワートレーンは、V6 3.0リッターのTFSI+7速Sトロニック。最高出力340PSを5200-6400rpm、最大トルク500Nmを1370-4500rpmの幅広い領域で発生するのが特徴で、0-100km/h加速は5.1秒(欧州仕様参考値)だという。
そして今回のトピックは、先に登場した「A8」「A7」に続く電動化3番目のシリーズとして、マイルドハイブリッドテクノロジー(MHEV)が採用されたこと。減速時に最大12kWのエネルギーを回生し、リアに搭載された10Ahのリチウムイオンバッテリーに蓄えるというシステムだ。55km/h~160km/hで走行中にドライバーがアクセルペダルから足を離すと、エンジンを停止したまま最大40秒間のコースティングが可能となり、再びアクセルペダルを踏み込むと即座にエンジンが再始動する。また、ストップ&スタートの作動域が22km/h以下にまで広がり、社内計測データではあるが100kmあたり最大0.7リッターの燃料削減効果があるという。
クワトロシステムも新世代にスイッチしている。センターデフにクラッチを採用し、通常走行時には前輪を優先的に駆動。予測的に4輪駆動が必要と判断した際には、クラッチが瞬時につながるようになっている。
極上の加速フィールから始まる、優雅で快適でエキサイティングなドライブ
こうした予備知識を確認するつもりで、いよいよ新型A6を走らせてみた。するともう、全身がスーッと何の抵抗もなく運ばれていくかのような、極上の加速フィールに頭が真っ白になってしまった。重さやかったるが全くない低速から中速へのなめらかさといい、不意にアクセルを緩めても微塵もギクシャク感がないつながりといい、走りだしてわずか100mほどでもすでに心地よさが満ちてくる。少し注意してどこからコースティングに切り替わるのか見極めようとしたが、恥ずかしながらほとんど分からない。それほどに、すべてがひと筆書きのようななめらかさだ。
一般道では常にエレガントで荒々しさを見せなかった新型A6だが、高速道路に入るとアスリートが走り出す瞬間を彷彿とさせる瞬発力が顔を出した。ステアリングフィールにはダイレクト感が増し、路面のうねりやギャップをしっかりと手のひらに伝えてくる。けれど、それによって不快になることはなく、クルマとの一体感が高まるような印象だ。加えて驚くほどの静かさと、突き上げのないフラットさ、無駄な動きや制御の違和感もまったくない、こんなに注文のつけようのないセダンは久々である。
ただ、アウディドライブセレクトで「Comfort」「Auto」「Dynamic」の3タイプからサスペンション設定を選択できるようになっており、その選択を間違うと容赦がない。私はお試しのつもりで高速道路上で「Comfort」にしてみたが、ボヨンボヨンと浮くような柔らかさで、慌てて「Auto」に戻した。「Comfort」は60km/hくらいまでの道の方がしっくりくるようだ。「Dynamic」に切り替えると、車高が下がったかのような落ち着きと剛性感が強まり、レーンチェンジなど横方向の動きに対してもカッチリと突っ張って、より速く直進させてくれる印象だ。ドライバーとしてはアグレッシブな操作感で楽しいのだが、これは同乗者にはやや厳しく、50km/hでクネクネとした山道で試したところバッチリとハマった。最初は選択が難しいかもしれないが、それぞれの特性と道路状況のマッチングがちゃんとできるようになれば、これほど楽しいことはないだろう。
ちなみに、試乗車にはオプションで装着できる「ダイナミックオールホイールステアリング」「ダンピングコントロールサスペンション」「ダイナミックステアリング」の占めて38万円分が装備されていた。一般的に“4輪操舵”とも呼ばれるシステムで、60km/h以下で走行中は最大5度まで後輪が前輪と逆向きに操舵可能で、回転半径が最大1m減少、最小回転半径は5.7mから5.2mになるという。確かに、わが家の周辺はクランクのように狭い路地が多いのだが、まったく難儀せずに走れたのはそういうわけだったのだ。また、60km/h以上になると後輪は前輪と同じ方向に2度操舵し、安定した走行性能をサポートする。この4輪操舵をはじめ、減衰力可変ダンパーなどの制御をつかさどるのは、エレクトロニック・シャシープラットフォーム(ECP)。高速道路での想像以上のフラットライドは、こうした高度な統合制御システムによるところも大きいはずだ。
優雅で快適、時にエキサイティングなドライブを楽しんだが、実はまだまだ新型A6の進化を享受しきれなかったところがあった。それが、プレミアムクラスで最も先進的で直感的に操作可能だという、MMIタッチレスポンスをはじめとしたデジタルシステム。スマートフォンのように操作でき、ユーザーの好みにカスタマイズもできるとのことだが、なかなか短時間では試せなかったのが残念だ。とくに、最大6人のドライバーと1人のゲスト、合計7人分の個人設定プロフィールを保存することができ、空調コントロールからナビゲーションの目的地、好みのメディアまで約400項目もの設定が自動的に呼び出せるというのは、家族で代わる代わる運転したり、社用車として使ったりするユーザーなどにはかなり便利な機能だろう。それに、これまでのコントローラーのように、画面を見ながら離れた場所で手元を動かすより、一目瞭然のタッチパネル式に変わったことが何よりありがたい。画面に指紋がつくなどのデメリットもあるだろうが、ブラインド操作が苦手な人も多いし、見た目にもスッキリすると感じた。
悩ましいのは、時期未定とはいうものの、2.0リッターのTFSIおよびTDIも、のちに日本導入される予定だということ。そちらにもマイルドハイブリッドシステムが搭載されているし、3.0リッターがこれだけいいのだから……との期待が大きく、現時点でこれがベスト! とは言い切れないのをお許しいただきたい。ただ1つ言えるのは、新型A6はプレミアムサルーンの優雅さと快適性を存分に高めながら、市街地での扱いやすさも兼ね備えた理想的なセダンになっているということだ。