試乗インプレッション
マイチェン版トヨタ「プリウス」に試乗。改めて見えた美点、そして課題
コンサバなデザインに進化。でもマイチェン前も高く評価したい
2019年5月1日 13:00
2018年末にプリウスがマイチェン
4代目「プリウス」が2018年末にマイナーチェンジを行なった。外観デザインを大幅に変更しつつ、車内デザインも「プリウスPHV」やプリウス誕生20周年記念特別仕様車「A プレミアム“ツーリングセレクション・20th Anniversary Limited”」が採用していた縦型の11.6インチナビゲーション画面の装着が可能になった(従来の横型ナビ画面も選択可)。加えて、先進安全技術群である「Toyota Safety Sense」を全グレードに標準装備とした。ちなみに、プリウスの生産は2003年発売の2代目からトヨタの堤工場で(過去にはトヨタ車体・富士松工場などでも生産を)行なっている。
大きく変わった、いや世界中のプリウスユーザーの声を真摯に受け止めた結果として、大きな変更を加えた外観デザインこそ真っ先に気になるところだが、今回は動力性能に的を絞りレポートしたい。試乗グレードは上から2番目の「Aプレミアム」で、駆動方式は2WD(FF)。317万5200円の車両本体価格に44万3340円の各種オプション装備を装着し、トータル価格361万8540円の車両だ。ボディカラーの「エモーショナルレッドII」は塗料の顔料に工夫を凝らした特別色(5万4000円)で、アルミの反射と赤色の反射を重ねることで鮮やかさと深みのある赤色を再現した。
パワートレーンの変更は、今回のマイナーチェンジに合わせたものとしては発表されていない。直列4気筒DOHC 1.8リッターの「2ZR-FXE」型エンジンは98PS/5200rpmと14.5kgfm/3600rpm、「1MM」型を名乗る前輪の駆動モーターは72PS/16.6kgfmをそれぞれ発生。エンジンとモーターによるシステム出力についても122PSと変更はない。
市街地では「ドライブモードスイッチ」でノーマルモードを選択して走らせた。プリウスユーザーから支持されているように、4代目のドライブモードスイッチによる走行特性変化はモードによる違いが明確。ノーマル/パワー/エコドライブと3モードが用意されているが、ノーマルモードではアクセル操作に対して必要な加速度をストレスなく生み出せるため、市街地走行には最適だ。ここは2015年に4代目が登場した際に技術者が自信を持っておすすめしていた部分でもある。試しにエコドライブモードで同じ市街地を試乗してみると違いは明確で、滑りやすい路面などでは有効と思われる緩やかな加速度変化を生み出す特性となり、乾燥路面ではちょっとした勾配(オーバーパスなど)でも深いアクセル開度を要求してくることが分かる。
山道でもこのノーマルモードが使いやすかった。勾配がきつくなればそれなりにアクセル開度を深くする必要があるものの、同じ道をパワーモードで走行すると常時エンジン回転数が上昇気味となるため、キャビンは一気に騒がしくなる。その点、ノーマルモードではアクセルペダルの戻し操作によってエンジン回転数がスッと下がるので運転していてリズムをとりやすい。なお、今回のマイナーチェンジモデルでもドライブモードスイッチのモードによらず、アクセルペダルを全開にした際の最大加速度は3つのモードで同じ値となる設定を踏襲している。
マイチェン前のデザインも高く評価したい
高速道路ではどうか? 80~100km/h付近では加減速を繰り返しても出力特性にゆとりがあるため快適だ。長く続く勾配であってもジンワリとしたアクセル操作の踏み増しで事足りる。しかし、そこから上の速度域では加速の勢いが大きく落ちていく。試乗では最高速が120km/hに設定された新東名高速道路の特定区間も走行したのだが、前面投影面積が小さく空気抵抗係数にも優れるプリウスと言えども速度の二乗に比例する空気抵抗を前に出力不足(システム出力122PS)を露呈した。
正確には120km/hで巡航すること自体にまったく問題はないのだが、追い越し車線へと進路変更してきた目測で80km/h前後と思しき大型トラックに対してこちらが減速し、120km/hあたりまでの再加速を行なう際にはアクセル開度をかなり深くする必要があった。ここではプリウスが搭載するTHS-II特有のエンジン回転先行型の加速特性を強く意識する。
もっとも、120km/hで巡航する場面は限られているため現状を持ってして問題視する必要はまったくないが、ここに欧州などでプリウスの高速道路における運動性能の評価が分かれている一端があるのだと実感することができた。なお、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用した80km/h巡航燃費数値は、上り勾配が続いてこともあり27km/Lをわずかに越える程度に留まった。
ハンドリング性能と乗り心地についても触れておきたい。過去にトヨタが主催した4代目プリウスのメディア向けプロトタイプ試乗会は、ショートサーキットで行なわれたことからも、開発陣は燃費数値だけでなくハンドリング性能にも相当の自信があったようだ。事実、リアサスペンションを3代目までのトーションビーム方式からダブルウイッシュボーン方式としたこと、そしてなにより新しいトヨタのクルマづくりである「TNGA(Toyota New Global Architecture)」を部分的に採用したことなどから、ショートサーキットにおける走る楽しさを存分に味わうことができた。今回のマイナーチェンジモデルでもその基本は変わらず、市街地から山道、そして高速道路に至るまでハンドル操作に対して素直に反応する特性を受け継いでいる。
ただ、乗り心地に関してはもっと高みを目指すことができるのではないかと思う。試乗車の装着タイヤサイズは195/65R15と、乗り心地に関しては他のグレードで用意のある17インチ仕様よりもよくなるはずだが、シートを通じて体感する路面からの衝撃には常に硬質な部分が残る。燃費性能を考慮した装着タイヤ(工場装着タイヤ)の特性に影響を受けている部分もあるようで、とりわけトレッド面で受け止めた細かな凹凸による振動がシートやステアリングを通じて伝わり、その絶対量も多く雑味として残る。これが惜しい。
4代目プリウスでは、登場時にその奇抜な内外デザインに対してさまざまな意見が飛び交った。トヨタのハイブリッド車1000万台達成の立役者であるプリウス(世界累計販売台数410万台)は優れた燃費数値性能だけでなく、デザインにおいても世界中から注目されていることを改めて証明したわけだ。今回のマイナーチェンジでは、そのデザインに手を加えて個性を抑えたコンサバティブな方向でまとめられた。よって一般的には好意的に受け入れられていくことと思う。
しかし筆者はマイナーチェンジ前のデザインを今でも高く評価している。見た目の好みは誰にもあるし、好まないデザインを前にすれば気持ちがよくないことは理解できる。しかし、そうした範ちゅうを外して工学的な考え方でみれば、前後デザインに共通する縦方向にも広がりを求めた灯火類の工夫は、たとえば夜間の被視認性の上で評価すべき部分はたくさんある。とりわけ、LED方式の尾灯がバンパー下部にまで広げられたデザインは街灯が少なくなる郊外路や、豪雪地帯でのホワイトアウト状態になる地吹雪時は遠くからでも確認ができるため頼もしい存在であった。
2019年4月3日、トヨタは電動車普及に向けた取り組みとして、ハイブリッド車開発で得た車両電動化技術の特許でトヨタが単独で保有する約2万3740件を2030年末まで無償で提供すると発表した。この発表での要は、BEV(バッテリーEV)を含む電動化車両のすべてが使用するモーター/パワーコントロールユニット/システム制御の各技術に対する特許を無償で提供する、という部分にある。ハイブリッド車に特化した技術だけを提供する、というものではないのだ。
トヨタはCO2排出量削減に向けたメッセージとして「普及してこそ、環境への貢献につながる」と常に発信している。1997年から続くプリウスの魂がこうして要素技術となり新たな花を咲かせ、世界中で電動化車両のさらなる開発が進み、普及へとつながる。この連鎖こそ“21世紀に間に合いました。”のCMキャッチフレーズが暗示していた本当の意味だとすれば合点がいく話だ。