試乗インプレッション
BMWの新型「Z4」にワインディング試乗。スープラ(プロトタイプ)との違いは?
6気筒モデル「M40i」の滑らかな回転フィール、程よいリニアリティのさじ加減は絶妙
2019年5月1日 12:00
トヨタとBMWの相乗効果
間もなく登場となるトヨタ自動車「スープラ」との共用化が行なわれたことで話題のBMW「Z4」は、先代モデルとはまるで違うスタイリングになり、かつてのロングノーズ&ショートデッキスタイルはやや影を潜めたように感じる。
それもそのはず。ホイールベースを25mm切り詰め、トレッドはフロント100mm、リア75mmも拡大。前後重量配分は50:50を守り、非常に低い重心を目指すためにハードトップを廃止し、ソフトトップのみのラインアップとしたところも興味深い。すべてはドライビング・ダイナミクスを追求するためだったというが、スープラとの共用化を念頭に置いていたからこその仕上がりのようにも受け止められる。
というのも、スープラの開発を取りまとめた多田哲哉氏によれば、「86を造ってレーシングカーを仕立てたり、後期モデルの改良を行なったが、ホイールベース、トレッド、重心高を決めたら、色々と見直してもちょっとしたプラスマイナスでしかないことを身に染みて体験しました。だからこそ、この3つを決めるのに時間がかかったんです」と語っていた。トレッドとホイールベースの黄金比は1.6以下にあるとターゲットを絞り、BMWを説得するのに1年半の期間を要したというのだ。だからこそ、新型Z4のスタイルは激変したのだろう。トヨタとBMWの相乗効果は果たして走りにどう出るのかが楽しみだ。
走りに対する装備はそれだけに終わらない。今回試乗した直列6気筒のトップモデル「M40i」には、今までMモデルしか許されていなかったMスポーツディファレンシャルが装備されていたのだ。LSDの効果を自由自在に電子制御でコントロール可能なこのシステムは、旋回性能だけでなく直進安定性を生み出すにも有効なもので、ショートホイールベースを採用しながらも安定感を出すためには必須だったということなのだろう。BMWの方程式まで変化させたのは、これまたスープラの存在があってこそ。
このほか走行状況を検出し、状況に応じて減衰力を調整するアダプティブMスポーツサスペンション、そして最適なギヤレシオを選択するバリアブル・スポーツ・ステアリングも装備する。
走りにこだわる人もゆっくり走る人も納得の仕上がり
そんなZ4 M40iに乗り込み、箱根のワインディングロードを走り出す。まずはオープン状態で走り出すと、官能的な直6サウンドが心地よく車内に進入してくることを味わえるから心地いい。低回転からシッカリとしたトルクを発生させながらも、レッドゾーンとなる7000rpmまでスムーズにストレスなく吹け上がる滑らかな回転フィールはたまらない。思わずマニュアルモードでパドルを積極的に弾きたくなる仕上がりだ。スポーツモードを選択すれば、右足にかなりリニアに反応するところも好感触。これだけでもM40iを買う価値がありそうだ。
シャシーはオープンボディとはいえかなりの剛性感があり、あらゆる操作に対して即座に反応を示すだけでなく、路面からの入力もうまくいなしてくれる印象が高い。少ない操舵角でクッと鼻先をインに向けるシャープさがあり、ステアリングの切りはじめではナーバスに動くような感覚もあるが、スープラのプロトタイプよりは丸みを帯びた程よい印象で、荒れたワインディングロードでも緊張感を伴うことはない。まさにBMWが提唱する駆け抜ける歓びがある。旧型から比べればかなりの運動性能の向上が見られるのだ。
オープンボディとしたことで重量増はあるが、それでもクローズドボディのスープラに比べて50kg増(6気筒モデル比)。ベースの時点できちんとした剛性を備えていたからこその仕上がりといったところなのかもしれない。オープンとしたことで、変化した剛性バランスと重量増がシャープすぎる車体をうまくいなしたということだろうか? ワインディングロードで乗る限り、その程よいリニアリティのさじ加減は絶妙に感じた。
後に懸念材料とも言えそうなクローズド状態を体感したが、ソフトトップを閉じた状態でも静粛性はわるくなく、ゆったりと走れそうなところも確認できた。車室内にエンジンのこもり音もなく、風切り音も少ない。防犯性という意味では若干心配が残るところだが、重心を低くして運動性能を高めようという今回のコンセプトがあるのなら、それも許せるところ。幌の形状も滑らかな曲線を描き、継ぎ目を一切感じさせないスタイルもなかなかだ。
このように、ソフトトップのオープンカーという、ややネガティブな一面に対してもシッカリと対策を行なってきたところは抜け目ナシ。新型Z4は走りにこだわるユーザーはもちろん、ゆっくりと走るユーザーにとっても納得できそうな仕上がりだった。