試乗インプレッション

今後のホンダは2モーター方式「i-MMD」が主軸。そのラインアップに改めて乗った

静岡県浜松市のホンダ トランスミッション製造部を拠点に、2モーターハイブリッドシステム「i-MMD」搭載モデルの試乗会が開かれた

今後のホンダは2モーター方式のi-MMDが主軸

 日本ではさほど大きく報じられていないものの、2018年の暮れにヨーロッパから届いた一報は、耳を疑う内容だった。いわく「EU加盟国の閣僚理事会と欧州議会は、乗用車のCO2排出量の企業平均目標値を、2030年までに60g/km以下とすることで合意」というもの。ちなみに最新「プリウス」のデータは75g/kmだ。

 各自動車メーカーが2021年に期限が迫る95g/kmという目標値達成にも四苦八苦をしている中、60g/kmという値はまさに“破壊的”。何しろ、世界屈指のエコカーであるプリウスですらクリアができないのがこの目標値。それは、エンジン(だけで走る)車両を駆逐させるのに十分とさえ言える厳しさなのだ。

 現時点ではまだそんな目標値が法制化をされたわけではないし、そもそもこうした罰金付きのCO2排出量規制は、欧州域内に限っての話題。走行時のCO2排出量がゼロのピュアEVと抱き合わせ販売を行なえば、理屈上は「目標値を超える車両もペナルティなしで売れる」といった抜け穴(?)が存在するのも事実だ。

 とはいえ、地球温暖化に対する人々の懸念が世界で高まる中、もはや「モノを燃やすことそのものが悪」という見方から、今後もCO2の排出量規制≒燃費規制が強まる方向にあることは間違いない。

 というわけで、ヨーロッパから届いた衝撃的な一報は、そんなこのところの時代の空気を象徴するもの。端的に言って、これが法制化されて本当に施行となれば、高額な罰金を支払ってまで規制値をオーバーするエンジン車の販売を続けようという自動車メーカーは、(罰金は厭わず、という一部のスーパーカーを除けば!?)この先存在しなくなると考えるのが妥当であるはず。今や冗談ではなく、内燃機関(エンジン)は存亡の危機にさらされているとも解釈ができるのである。

 かくして、そんなヨーロッパからの情報を元に、「やはり将来的な自動車の動力源は、電気モーターで一択か……」という思いも抱かざるを得ない中、エンジンのみでは達成し得ない低燃費を獲得するための手段として世界のメーカーが取り組んでいるのが、ご存じハイブリッド・パワーユニットである。

「世界初の量産ハイブリッド車」であるプリウスを筆頭に、それが日本車が大得意とする分野であるのは言わずもがな。そうした中にあってもホンダのユニークなところは、複数のまったく異なる構造によるハイブリッド・システムを提案していることだ。

 i-DCD、i-MMD、SH-AWD……と、いずれも記号で示される3種類をラインアップするホンダのハイブリッド・システムは、より単純化して紹介すれば前出の順番で「1モーター、2モーター、3モーター式」となっていることがメカニズム上の特徴。

 その中でも、先日開催された2018年度決算説明会で、八郷社長が「10月に開幕する東京モーターショーで世界初公開予定の次期型フィットに搭載を行なう」と発表するなど、今後のホンダの軸足となるハイブリッド・システムであることが示唆されたのが2モーター方式のi-MMDだ。

2018年度の決算説明会で本田技研工業株式会社 代表取締役社長 八郷隆弘氏は、東京モーターショー 2019で小型i-MMDを搭載する新型「フィット」を世界初公開すると予告。同時にi-MMDをホンダ車のラインアップ全体に広げていくとの方針も示した

 DCTに発電と駆動力発生の役割を兼任する1基のモーターを組み合わせた現行フィットに搭載するi-DCDに対し、より高い効率を実現し、より優れた燃費が期待できるのがこちらのメリット。

 一方で、複数のモーターを搭載することなどによるコスト面の課題は、「さらに多くのモデルに展開することでスケールメリットを生かし、コストの低減を推し進めていく」というのが最新の考え方。ちなみに前出の決算説明会では、「採用モデルの拡大に加えグローバルでの展開を行なうことで、2022年までにそのシステムコストを2018年に対して25%削減の見込み」とも発表されている。

 こうして、今後のホンダのハイブリッド戦略推進の要となることが明らかにされたi-MMDにスポットライトを当てたワークショップのイベントが開催されたのは、静岡県浜松市の浜名湖にほど近いホンダのトランスミッション製造部。ホンダ創業の地でもある浜松に置かれたこの拠点では、ステップ式ATやCVTなど、ホンダ4輪車用のトランスミッションを一手に生産。さらに、ハイブリッド・システムに含まれるモーターの生産を担当しているのもこの拠点だ。

 小型・軽量でありながら高出力を発生させるべく、通常の“巻線”方式ではなく、分割された銅線を差し込んだ後に溶接するという特殊な工法を用いて組み立てられたステーターを使う最新のi-MMD用モーターも、ここで生産が行なわれているアイテム。通常のステーターに用いられる丸断面銅線ではなく、角断面銅線を用いることで容積効率が48%から60%へと向上。従来型モーター比で23%もの大幅軽量化が実現されたのは、そんな独自の設計が効いているという。

i-MMD

 同時に、世界的に希少で分布が偏在する重希土類を用いない磁石を用いたモーターを実用化し、資源調達のリスクを回避しているという点も、ここで生産される製品の大きな特徴と謳われる。

 EVとしての要素も含むハイブリッド・システムでは、とかく目が向けられがちなのがバッテリーのテクノロジー。だが、こうして自製のモーターを採用するi-MMDには、そもそもがエンジン屋であるホンダならではのパワーユニットに対するフィロソフィもしっかり息づいているというわけなのだ。

i-MMD搭載モデルをテストドライブ

ステップワゴン HYBRID Modulo X

 そんなホンダならではのハイブリッド・システム、i-MMDを搭載したモデルを浜松基点で改めてテストドライブした。今回テストドライブしたのは「オデッセイ」と「ステップワゴン」、そして、2018年末に“趣旨替え”を行なって復活を遂げた「インサイト」という3台だ。

 1994年に発売された初代モデルが日本のミニバン文化を開拓した、と紹介しても過言ではないオデッセイは、現在ではホンダのフラグシップ・ミニバン。全長が4.8m、全幅も1.8mをオーバーするボディは、堂々たるボリューム感の持ち主だ。

 そんな車格に対して、エンジン始動の滑らかさやハイブリッド・モデルであることを意識させない自然なブレーキ・フィールなどは、「なかなか相応しい仕上がり」と思える美点。高速クルージングでエンジンが効率のよい運転をできる状況になると“エンジン・ドライブモード”となって駆動力が直接車輪へと伝えられるが、そうした場面への移行/離脱の際もショックなどは一切認められない。そんな制御の滑らかさも、十分にフラグシップ・ミニバンに相応しいものであるのだ。

 オデッセイから乗り換えると、軽快な走りのテイストが光ったのがステップワゴン。幅の狭さを高さで補う……と、オデッセイに対するパッケージングはそんなスタンスが特徴だが、驚かされたのは走行安定性の面では明らかに不利と思われるステップワゴンの走りが、オデッセイにヒケを取らない安定感に溢れるものであったばかりか、時にはそのフットワークのテイストが、オデッセイ以上にしなやかなとすら感じられる仕上がりであったこと。

 実は、今回用意をされたステップワゴンは、専用チューニングが施されたサスペンションの採用などでその乗り味にこだわり抜かれた「Modulo X」。静かで滑らかというi-MMDならではのEVテイストの色濃い加速フィーリングに、予想を遥かに超えた上質なフットワークの組み合わせは、各メーカーから百花繚乱状態となって久しい“ファミリー・ミニバン”のカテゴリーに一石を投じる存在へと仕上げられている。

2018年にフルモデルチェンジした3代目インサイト

 一方、全高が低いセダンだから可能となる軽量さを踏まえた上で、前出のオデッセイやステップワゴンのi-MMDに比べ、出力を抑えたモーターや排気量を小さくしたエンジンを組み合わせた新たなi-MMDを搭載するのが、2018年にフルモデルチェンジを行なった3代目インサイトだ。

 実は最新インサイトの骨格は「シビック」との共有。それゆえ、「シビックのハイブリッド・モデル」と言っても間違いには当たらないこのモデルの走りは、確かになかなか上質であることが特徴だ。特に、良路でのフラット感の高さは、ホンダ車のラインアップの中にあっても上位に当たるもの。これで、路面が荒れた際の揺すられ感がもう1ランク抑えられれば、さらに上質感が際立った上級セダンとしての好印象が得られることになりそうだ。

 そんな新型インサイトは、開発陣が「普通にこだわったハイブリッド・モデル」と紹介するモデルである一方で、「価格を大きく左右する搭載バッテリーの容量を、自在に選べるプラグイン・ハイブリッド車に仕立てることが容易」というフレキシブル性の高さも、実はi-MMDシステムならではの大きなメリットだ。

 例えば、WLTCモードでのEV走行レンジが100km超と、“ほとんどEV”とも紹介ができそうな性能を備える一方で、価格が588万円超と高価であることが大きなネックとなっているプラグイン・ハイブリッドモデルが「クラリティPHEV」。だが、車両のカテゴリーや地域性も踏まえた上で搭載バッテリーの容量を増減させることで、価格設定の自由度が大きいのもi-MMDの特徴だ。

クラリティPHEV

 となれば、今後はEV走行レンジが短くなるのを承知の上で、搭載するバッテリーの容量を減らすことで価格を大きく引き下げた新バージョンの設定も“夢物語”ではないことになる。この期に及んでホンダがi-MMDをハイブリッド・システムの本命として改めて指名した背景には、そんなプラグイン・ハイブリッドシステムとの親和性の高さももちろん含まれているに違いないわけだ。

 時代が求めたホンダのハイブリッド・システム大本命――今になってみれば、どうやらそのようにも紹介をできそうなi-MMDなのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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