試乗インプレッション

三菱自動車らしさ満載の“パフォーマンス軽SUV”「eKクロス」、東京~富士山麓をロングドライブ

運転支援技術「MI-PILOT」で高速巡航もラクラク

乗りたい!という人が続出しそう

 日産自動車「デイズ」の試乗に続いて、「ekクロス」で都内から三菱自動車主催のイベントが開催された富士山麓までちょっと長めのドライブを試みた。今回借り出したのはターボ(ハイブリッド)の「T」グレード、デイズでは未試乗の4WDだ。

 それにしてもeKカスタムに代わって登場したeKクロスのダイナミックシールド顔は、個性的で存在感もあり、個人的にもけっこうお気に入り。従来型もデザインはなかなかだったが、新型はボディパネルの面の表現もさらに緻密になって、より立体的に見えるようになったように思う。専用に設定されたルーフレールもよく似合っている。

 これまでのeKカスタムは、デイズ ハイウェイスターの陰に隠れた印象がぬぐえなかったが、eKクロスになって一転。このデザインは積極的に選ぶ大きな「理由」となり、「ぜひ乗ってみたい!」という人が続出しそうだ。

試乗車は直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ(ハイブリッド)エンジンを搭載する「T」グレードの4WDモデル(176万5800円)。ボディサイズは3395×1475×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2495mm
エクステリアでは前後バンパーのシルバー処理、ホイールアーチやサイドシルをブラックアウトさせる専用デカール、専用ルーフスポイラーなどを使ってSUVテイストを強調するスタイルが特徴。Tグレードでは15インチアルミホイールにダンロップ「エナセーブ EC300+」(165/55R15)を組み合わせる

 インテリアもシートなどがデイズと差別化されていて、とにかく質感の高さは驚くほど。とくに今回の「プレミアムインテリアパッケージ」がスゴイ。eKクロスのキャラにふさわしくオールウェザータイプのマットもオプションで用意されているのもポイント高い。

 従来型でいち早く取り入れたタッチパネル式の空調スイッチも、新型ではさらに直感的に風量を操作できるように進化した。ブラインドタッチにも対応すべく、薄く凹凸が設けられているのもナイスアイデアだ。

 収納スペースも充実していて、センターに隠れた引き出しも重宝する。助手席に移設された車検証入れは、収納スペースとして使いたい人もいるのではという気もしたのだが、実はもっと広いグローブボックスがフルに空いているのだから、より便利になったことに違いない。ちょっと気になったのは、インパネ両端のドリンクホルダーのくぼみが浅くて、500ml級のペットボトルだと少々グラグラすることぐらいだ。

撮影車のインテリアではオプション設定の「プレミアムインテリアパッケージ」(5万4000円高)を装備。ブラック&タンの内装色は上質感のあるもので、シート生地は合皮とファブリックのコンビネーションタイプ。アウトドアを楽しむユーザーなどにはオールウェザータイプのマットも嬉しい設定
インパネ両サイドのエアコン吹き出し口前に設定される、エアコンの風を当てられるようにしたカップホルダー、助手席前方の引き出しティッシュBOX、センタートレイ、センターカップホルダー、センターBOXなど、多数の収納スペースを用意

 ホイールベース延長により70mmも拡大したニースペースによって、後席の余裕も驚くほど。外見がコンパクトだからこそ、その広さをより実感する。4WDはラゲッジアンダーボックスのフロアが浅くなるものの、これだけあれば十分だ。

後席ではかなりの広さを実感できる

ロングドライブも快適に

 注力したという静粛性も軽自動車としてはかなりのもの。従来型では自然吸気もターボも登場当初はあまりの遅さに閉口したものだ。途中でだいぶ改善されたとはいえ、盛大に室内に侵入する音や振動ともどもパワートレーンの印象はよろしくなかった。ところが新型は、その反動からか力の入れっぷりがハンパないほど大幅に改善されている。上まで回すとそれなりに騒々しくなるが、普通に走っている分にはエンジン音が気になることはなく、むしろタイヤの発する音が気になるくらいだ。

直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ「BR06」型エンジンは最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400-4000rpmを発生。eKクロスは全車で「SM21」型モーターとリチウムイオン電池を採用する「HYBRIDシステム」を採用しており、モーターは最高出力2.0kW(2.7PS)/1200rpm、最大トルク40Nm(4.1kgfm)/100rpmを発生

 CVTがATのようにステップ変速を行なうようになったのもポイント。大人しく走っている分にはほぼ関係ないものの、ちょっと攻めて走りたいときには、やはりこうなっている方がより力強くなったターボエンジンの美味しいところを上手く引き出して気持ちよく走ることができる。発進停止を繰り返す一般道では、デイズでもお伝えした回転変動がビジーなところが少々気になったのは否めないが、副変速機を廃したCVTは低速側と高速側の切り替わり点での段付きがなく素直な特性であるところもよい。

 また、今回は体重約90kgの編集部員と約65kgのカメラマンと筆者、そして撮影機材というやや厳しめの条件で移動したのだが、ゆるい上り勾配の郊外や高速道路での再加速でも不満を感じることはなかった。

 エコペダルガイドのような気配りもあるし、エネルギーモニターではアシストやチャージの状況もリアルタイムで見ることができ、高速巡行時も頻繁にバッテリーによるアシストが行なわれていることも確認できた。

 運転支援技術「MI-PILOT(マイパイロット)」をセットすると、高速巡行がとてもラク。とりわけホイールベースやトレッドに制約があり、車高が高い方が好まれる最近の軽自動車ではなおのことだ。十分な動力性能とMI-PILOTのおかげでロングドライブも快適にこなすことができる。加えて途中で寄り道して駐車する際には、マルチアラウンドモニターやタイヤアングルガイドが重宝する。

 前席の乗り心地もすこぶる快適だ。これには新開発のシートも効いていることに違いない。座った瞬間からしっくりくるし、こうしたロングドライブでも疲れが少ない。さらには各部の改良や新採用のブラシレスモーターも効いてか、スッキリとしたステアリングフィールも申し分なし。走りに一体感があるので、ドライブしていて楽しい。パワートレーンもハンドリングも、走りの質感は従来型とは別物といえるほど大幅に洗練されている。

 半面、運転を代わってもらって後席に乗ってみたところ、ちょっと気になる面も。4WDはリアサスペンションが2WDのトーションビームではなくトルクアーム式3リンクになるのだが、後輪を駆動させるための機構の追加で後軸重が増えたことがよい方に作用するかと思ったら、意外や路面への感度が高くて、微振動や突き上げが強めに感じられた。もう少しストローク感があったほうがよいかと思う。

三菱自動車らしさ満載の異彩を放つ軽SUV

富士ケ嶺オフロードでデリカD:5のオフロード性能も体感した

「富士ケ嶺オフロード」に到着して別記事のイベントを取材したのち、eKクロスと顔が似ていると話題の兄貴分「デリカD:5」でコースを走行した。さすがはデリカD:5、悪路走破性はさすがのものがある。とくにロックモードを駆使すると、ほかのクルマなら対角線のタイヤが浮いた状態でも、前後の浮いたタイヤにブレーキをかけて、アクセルを軽く踏んでいるだけでどんどん前に進んでいく。先が見えない場所でも、ちょうどよい場所に設置されたカメラが行く先の状況を捉えて映し出してくれるのも助かる。岩場の急勾配でも、思い切り踏み込まなくてもしっかり登っていける。すでに雪道や別場所の特設コースでその走破性の高さは体感していたが、あらためてその実力の高さを確認できた。

悪路もなんなくこなすデリカD:5

 一方のeKクロスにも走破性を高める「グリップコントロール」というデバイスが付くおかげで、滑りやすい路面でも走りやすい。これはデイズには設定がなく、ブレーキトラクションコントロールの作動状況を示す専用画面が設定されているのもeKクロスならではである。

 インパクト満点のデザインは目にしただけでもワクワクする上に、走りがよいので運転そのものを楽しめるし、広くて質感の高い車内はとても便利に使える。こんなクルマが手元にあるだけで、なんだか楽しいことがありそうな気分になれる。まさしくコンセプトどおり「探求心を持って新しいことに挑戦したいというユーザーの気持ちに応える」ことのできる1台である。数ある軽自動車の中でも異彩を放つ、三菱自動車らしさ満載の「パフォーマンス軽SUV」であることがよく分かった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸