試乗インプレッション

日産の新型軽自動車「デイズ」、登録車並みのクオリティでライバルを揺るがす存在に

自然吸気のS-HYBRID仕様、ターボ付きのS-HYBRID仕様に試乗

登録車並みのクオリティ

 4大勢力が熾烈な戦いを演じている軽自動車市場において、「デイズ」のシェアは10%程度と、あまりパッとしなかったと日産自動車では認識しているという。さらには見た目はよいものの、乗り比べると競合他社に対して見劣りする感があったのは否めないのも正直なところ。そんな状況を打破すべく、“日本のための理想の軽自動車”を、今回は日産主導により日産が本気で力を注いで開発したのが新型デイズというわけだ。内容的にも本当に全面的に一新されている。

 ハイウェイスター主体のラインアップは従来どおりで、初代もなかなか凝っていたように思うデザインが、新型ではこれまでにも増して凝ったものとされた。軽自動車ではとくに前後がのっぺらとなっているものが少なからず見受けられるが、新型デイズは緻密にデザインされていて、ボディパネルの微妙な抑揚が表情豊かに造形されているあたりも、登録車を作り慣れた日産の強みの表れだろう。

 2トーンを含めカラーバリエーションも充実していて、冒頭の写真のアッシュブラウンのようにこれまでとはひと味違った雰囲気の選択肢が加わった点も興味深い。実のところ、三菱自動車版の方がインパクトは強烈で、心なしか日産版は控えめな気もしなくないが、すでに設定されたボレロだけでなく、他にもっと個性的なサブブランドのモデルがおそらく出てくることと思う。

今回試乗したのは、自然吸気の直列3気筒DOHC 0.66リッター「BR06」型エンジンにSM21モーターを組み合わせたS-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)仕様の「ハイウェイスターX プロパイロットエディション」(写真。156万7080円/2WD)と、ターボ付きのBR06型エンジンにSM21モーターを組み合わせたS-HYBRID仕様の「ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション」(164万7000円/2WD)。ボディサイズは3395×1475×1640mm(全長×全幅×全高)
ハイウェイスターX プロパイロットエディションはメーカーオプションの15インチアルミホイールにダンロップ「エナセーブ EC300+」(165/55R15)を装着

 登録車並みのクオリティはインテリアにも当てはまる。ソフトパッドや合皮を用いたシートが与えられた「プレミアムコンビネーションインテリア」の質感の高さには驚きを覚える。巻いて縫ってパイピングするという、通常ならDセグあたりでやるようなことを、量販の軽自動車でやるとは恐れ入った。いよいよ軽自動車もこういった時代に突入したわけだ。

 初代でいち早くブラインドタッチで操作できるタッチパネルを採用したエアコンのコントローラーは、さらに直感的に風量を選べるように進化したのは、またしてもナイスアイデアだ。やや上方の手前に移したというシフトレバーも使いやすい。

 収納スペースが非常に充実したのも初代との大きな違い。助手席ドア側に車検証を収めてしまう割り切りもこれまたナイスアイデア。そのほかの部分もいろいろよく考えられていて、実際に使うほどにありがたみを感じることだろう。

ハイウェイスターX プロパイロットエディションのインテリア。新型デイズでは新プラットフォームを採用し、従来からエンジンルームスペースを65mm縮小。その65mmをホイールベースに充てて2495mmを確保しており、「広いキャビンスペース」「広いラゲッジスペース」を両立させるパッケージを実現した。インテリアカラーはブラックを基調にブルーをインサートした「エボニー」(シート地:トリコット)
表示部とスイッチの一体化により、直感的なオペレーションを可能にした静電タッチパネルエアコンを装備
プロパイロットエディションでは先進運転支援技術「プロパイロット」を標準装備。アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作をクルマ側で支援し、高速道路での渋滞走行、長時間の巡航走行をサポートしてくれる。ステアリング右側のボタンでON/OFF操作を行なう
上空から見下ろしているかのような映像を映し出せる「ディスプレイ付自動防眩式ルームミラー」はSグレード以外の全モデルに標準装備

全面刷新されたパワートレーン

 走りが格段に洗練された中で、まずは初代の最大の弱点だと思っていたパワートレーンが全面刷新されたことが大きい。初代が出たときには、とくに自然吸気のあまりの遅さに閉口したものだ。その後はいくぶん改善されたものの、音や振動への手当てを含め競合他社に及んでいない感があるのは否めなかった。また、初代の特徴の1つだった副変速機を備えたCVTも、どうしても違和感が拭えないことから副変速機が廃されたのも新型の特筆点だ。

 ドライブすると、新型では最大で15%もトルクアップしたとのことで、とくに自然吸気は走り出しから中間加速にかけての力強さが明らかに違う。これならストレスを感じることもない。もちろんターボの方が圧倒的に力強いのは言うまでもなし。

 ただし初代もそうだったが、市街地でよく使う実用域のリニアさに欠け、少し踏み増すと低回転の燃調が難しい領域を飛ばしてすぐに3000rpm超までまわる設定になっている。ゆえに市街地で一番よく使う領域でビジーな印象が強い。

 ところがそこから上の速度域となる、高速道路での本線合流や再加速、都市高速や郊外などのようなシチュエーションになると瞬発力があり、ターボの醍醐味である力強い加速フィールを味わえる。そんなわけで、市街地走行が主体であれば実用域がリニアで乗りやすい自然吸気の方が適するが、走りの楽しさを求めるならやはりターボの方が応えてくれることには違いない。

 副変速機を廃したCVTの特性も素直で、変速比幅こそ小さくなったものの、不意のトルク変動は大幅に払拭されて乗りやすくなった。通常の走り方ではあまり関係のない話だが、アクセルを大きく開けたときに従来のように高い回転のままはりつくこともなく、ステップATライクな変速フィールとなるのも進化点の1つだ。

自然吸気の直列3気筒DOHC 0.66リッター「BR06」型エンジンは最高出力38kW(52PS)/6400rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/3600rpmを発生。ハイウェイスターX プロパイロットエディション(2WD)のWLTCモード燃費は21.2km/L
ターボ付きの直列3気筒DOHC 0.66リッター「BR06」型エンジンは最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)2400-4000rpmを発生。ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション(2WD)のWLTCモード燃費は19.2km/L。なお、SM21モーターの最高出力は2.0kW/1200rpm、最大トルクは40Nm/100rpm

 ハイブリッドは、減速時により効率よく電気を貯められるようになったリチウムイオン電池の採用によりアシストの時間が10倍に増えた。細かく見ると、充電時のブレーキペダルへの影響が若干感じられるものの、かなり自然に仕上がっている。

 新型はプロパイロットを採用したことも大きなポイントで、半日足らず試乗した限りでは車線逸脱防止支援の機能はおおむねよかったと思う。ただし、ACCは低速からの前走車への追従でややもたつきがち。もう少し素早く追従してくれた方がありがたい。

 静粛性も初代とは段違い。遮音材や吸音材などの最適配置に加えて、パワートレーンの剛性を上げたことも効いているはず。かなり静かになったので、むしろタイヤの発する音が気になるようになったほど。それぐらい基本性能としては静かになったとご理解いただけるとよいかと思う。

走りのよさを積極的に伝えてくる

 印象的だったのがフットワークのよさだ。乗り心地は十分に快適ながら、ハンドリングがとても素直で走りに一体感がある。これには剛性の高い車体と理想的に動くサスペンション、きめ細やかな操舵力の制御が可能なブラシレスモーターを用いた電動パワステなどが効いていることに違いない。

 乗り心地が極めてソフトな初代もコミューターとしてはよかったものの、上屋の動きが大きくて走りを云々いうクルマという感じではなかったのとは大違い。新型は走りのよさを積極的に乗り手に伝えてくる。初代では挙動を乱さないようにと、ステアリングの切りはじめが緩慢にされていたのに対し、新型は適度に引き締まった感覚で、クイックに回頭してくれるので俊敏なハンドリングを楽しめる。軽すぎず接地感もあり、しっかりとしたステアリングフィールも上々で、ステアリングを切るのが楽しみになる味付け。小気味よくキビキビと走ることができる。土台である車体がしっかりしたことで、足まわりを煮詰めることができ、ひいては素早く横力を出すこともできるようになり、こうした走らせ方が可能になったというわけだ。

 少し気になったのは、運転席のオシリの収まりがあまりよろしくないこと。下にバッテリーがあり、そこに加えて座面のクッション厚をある程度確保する必要もあったせいか、オシリがやや持ち上がる格好になっている。もう少し収まりがよくなるよう望みたい。

 運転してもらって後席にも乗ってみたところ、ホイールベースの拡大によるニールームの拡大はかなりのもので、本当に広々としていることが印象的。乗り心地は引き締まった感覚があり、前席に比べるとやや硬さを感じるものの、これぐらいしないとここまでの走りは実現できないだろうし、十分に満足できるものだ。

ホイールベースの伸長によって後席ニールームは先代から70mm増の710mmを確保し、「フーガ」並みの広さを実現したという

 こうして初代とは比べものにならないほど大きく進化した新型デイズ。これまで日産の販売力とデザインだけでなんとかなっている感もあったが、しっかりとした実力を身に着けた新型は、並み居るライバルに一矢も二矢も報いる、彼らを脅かす存在になったのは間違いない。果たして勢力図はどう変化するのか、今後の市場の動向を大いに興味を持って見守りたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛