試乗インプレッション
「Volkswagen Tech Day」でフォルクスワーゲンの先進安全技術イッキ乗り
先進安全装備が普及したからこそ、改めて同社の安全に対する考え方を再認識
2019年4月18日 06:00
4月上旬、フォルクスワーゲン グループ ジャパンによる安全に対する考えや先進安全技術を体験できるイベント「Volkswagen Tech Day(先進安全技術体験会)」が、栃木県栃木市にあるGNKドライブライン プルービンググランドにて開催された。
体験前に座学でしっかり安全技術に対する考え方を学ぶ
このイベントは今回で2回目。前回は2016年でメディアのほか、Webで募集した中から抽選で選ばれた一般ユーザー8組12名が参加したが、今回はメディアのみの開催となった。
イベント冒頭では、フォルクスワーゲンの安全に対する考え方について、同社が誇る凄腕!インストラクターから解説が行なわれた。
そもそもフォルクスワーゲンの原点とは何か? 少々長いがぜひご一読いただきたい。それは「家族が安全に乗れる。操縦、修理がしやすい。乗り心地がよく、室内とトランク空間が十分」「十分な速度と登坂能力」「豊富なボディバリエーション」「国民の手に届く価格」と、まさに当時の国民車構想として生産された「フォルクワーゲン タイプ1」を原点とする。
フォルクスワーゲン本社があるドイツは、アウトバーンに代表される高い速度域や、実は寒さが続く気候条件など、自動車の周辺環境としては厳しい。ゆえに、自然と求められたのが安全性を重視したクルマ作りということだ。
ここで具体例として「ゴルフ」における安全技術の進化について解説が行なわれた。1974年に登場した「ゴルフ1」からスタートして、常に最新の安全技術が他社に比べて早く採用されていたことが分かる。1986年の段階でABSの標準搭載(ゴルフ2)、1998年には車両安定デバイス(横滑り防止装置)である「ESC」を導入(ゴルフ4)、2003年には日本でもESCを標準装備化している(ゴルフ5)。そして、昨今では「ゴルフ7」から採用を開始したプラットフォームまわりの新アーキテクチャーである「MQB」の採用により、数多くの先進安全装備の搭載を可能にしたのはご承知の通りだろう。
特にESCに関してはEUで2014年11月に「すべての新車にESCを義務化」したが、フォルクスワーゲンはそれよりはるか前に標準装備化。フォルクスワーゲンによれば「法規制に則って安全技術を導入するのではなく、乗員すべての安全を考えて導入している」とのこと。これを「安全技術の民主化」とアピールしているが、重要なことは「安全性能はすべてに優先する」ということ。運転者、同乗者、自車だけでなく、歩行者や周囲のクルマも含めたすべての環境で安全であることを目指しているとのことだ。これが現在の「フォルクスワーゲン オールイン・セーフティ」として各モデルごとに最適化された先進安全装備の搭載に繋がっているのである。
意地悪?にも冷静に対応するACCのスムーズな制御に感心する
さて、お待ちかねの体験である。今回は3つのチームに分かれて4つの安全を体験した。
最初にインストラクターから正しいドライビングポジションのレクチャーを受けた後、外周コース路にて「レーンアシストとACC」のフィーリングを確認した。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)に関しては今さら説明の必要もないだろうが、ここではコースインしてからACCを使ってスタートし、バックストレートで事前に設定した70km/hまで加速した後にレーンアシストの働きを確認する。
試乗したパサートなどは、設定速度がスピードメーターの外側を取り囲むように点灯する。他社のようにデジタル表示される場合、瞬間的に直視するには適しているが、速度感をつかむにはこの表示方法の方が分かりやすいと感じた。
走り出してすぐ、先導車の後ろに車両が3台連なって「カルガモ走行」のような状態になる。レーンアシストの反応も良好で、レーンを認識してから意図的に軽くステアリングをはみ出すように操舵すると、警告と同時に車線に戻すような制御も働く。これ自体は昨今珍しい機能ではないが、フォルクスワーゲンのそれは非常に自然な感じで作動する。同じくACCで走行中、意図的に割り込む車両を想定した体験も行なわれたが、この際の反応、特にGのかかり具合が絶妙で、不快な感じもかなり抑えられていた。
前走車への追従に関しても同様で、徐行(超低速走行)時に作動するトラフィックアシストも、車線をキープしつつ前走車を追従。渋滞時の疲労軽減やストレスを軽減してくれるのはありがたい。
フォルクスワーゲンの4WDはもっと認知されていい
次の体験はいわゆる登坂路である。ここではフォルクスワーゲンの4WDシステムである「4MOTION」の実力が体験できるわけだが、このコース、上りが30%、下りが20%という斜度。日本でもこれだけきつい勾配はないほど厳しい設定だった。
インストラクターのデモ走行の後、4MOTIONに搭載される「オフロードモード」に切り替えてまずは上り坂へ。ほとんど空に向かって駆け上がるような感覚に「ひえー」と心の中で叫んだが、用意された「ティグアン」はストレスなく上り切る。さて問題はここからである。下り坂にはいわゆる左右のμ(摩擦係数)が異なる状態が設定されていたのだが、ここも「ヒルディセントアシスト」が非常にうまく作動し、安心して下ることができた。
そして2回目はこの逆を走ることになる。右車輪のみ0.1μ、つまり氷と同じ路面状態で一度停止してから再発進するのだが、元々ティグアン自体が低速からのトルクも十分だったこともあり、軽くアクセルペダルをコントロールするだけでスルスルと上っていく。さらにその先には全輪が0.3μという圧雪路と同じ路面状態が設定されているのだが、こちらも余裕で上り切る。さらに下りは先ほどの逆なので30%というキツイ傾斜になるのだが、そもそもティグアンは前述したヒルディセントアシスト時の速度を任意で設定できるので怖さはない。国産車では何km/hと固定で設定されるものが多い中、自分のスキルや路面状態に応じて変えられる点もよく考えられている。
しっかりとしたボディだからこそブレーキもよく効く
3番目のステージは「ブレーキ制御とCEB」。まず、ブレーキ制御では濡れた路面に侵入した際にフルブレーキングを行ない、ABSの効き具合や車両の動きを体感。その後に同様のブレーキから障害物(パイロン)を避けて停止するステップに移る。
ここで一番感じたことは、フォルクスワーゲンの車両はフルブレーキング時の車両の動き、特にフロントダイブ(前のめり)が少ないことだ。フロントに大きな荷重がかかればブレーキはもちろん緊急回避時の車両の動きにも影響が出る。その点でもボディの強さや最適化されたサスペンションの組み付けなどがアクティブセーフティに大きく影響してくることを感じた。
また、「up!」に設定された「シティエマージェンシーブレーキ(CEB)」も体験。日本におけるup!の発売は2012年9月なのですでに7年近くが経過しているが、先進安全装備に関して大きな変更は1度も行なっていない。システムとしては約5~30km/h未満で作動する。構造はシンプルだし、やや時代遅れの感もあるが、実際に障害物に向かって約20km/hで突っ込んでいった際にも、しっかりと前方を認識して手前でちゃんと停止した。今後に期待しつつ、このクラスでも先進安全装備はしっかり装備するというフォルクスワーゲンの考えがベースにあってのことだろう。
元々高いスタビリティも、ESCのおかげでさらに安全に走れる
最後はスキッドパッド(定常円旋回路)を使い、低μ路でもESCにより安定したハンドリング性能が体感できるアクティブセーフティ領域である。前述した登坂路同様、0.3μという圧雪路並みの路面を約35km/hで回るのだが、ESCのON/OFFでの違いは速度が上がれば当然発生する。というか、実はOFF状態でも車両の挙動はマイルドで、その部分では用意された新型「ポロ」のスタビリティの高さを感じたほどだが、これをONにすればステアリングを切り込んでいった際にもしっかりと路面をトレースする。これに関しても作動自体に唐突さがなく、安心して走れることが分かった。
多くの人にこの体験をしてほしい
ほぼ丸1日のイベントではあったが、最終的に感じたことは2つ。1つが、フォルクスワーゲンの安全に対する思想と実際の技術的な高さ。そしてもう1つが、このイベントを含めた体験を一般ユーザーにも体験してほしい、ということだ。下世話な話だが開催する以上、会場や予算の問題だってありハードルは高い。しかし、先進安全装備が当たり前になってきた現在だからこそ「そもそもフルブレーキングってしたことない」という人はますます増えていくはずだ。運転がイージーになればなるほど、クルマはどう動くかを体験できる機会はユーザーにとって有益なものになる。
ちなみに、今回のイベントには同社が展開する「バスカスフェス」というイベント用の車両が出動! 「フェスにバスを貸す」というベタベタのネーミングはさておき、フォルクスワーゲンファンにはたまらない懐かしの“ワーゲンバス”を含めて4台が準備されているが、ここで振る舞われたドイツ直輸入のプレッツェル。それがかなり美味しい。もし出会う機会があればぜひご試食あれ!