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フォルクスワーゲン、自動運転車を実現する取り組みについて。導入へ向けての評価手順規格「PEGASUS」詳説
「自動運転車およびコネクテッドカーにおける挑戦」
2018年11月27日 04:40
- 2018年11月14日 開催
独フォルクスワーゲンとフォルクスワーゲン グループ ジャパンは、11月14日に東京都内で記者説明会を開催し、フォルクスワーゲングループ研究部門 車両技術&モビリティエクスペリエンス責任者のトーマス・フォルム博士による「自動運転車およびコネクテッドカーにおける挑戦」と題する講演が行なわれた。
また、後半には内閣府 自動走行システム推進委員会(SIP)の委員である国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏による、SIPで議論されている自動運転の課題などについての講演が行なわれた。
自動運転車の評価プロセスを規定するPEGASUSを産学協同で作成
フォルクスワーゲン グループ 研究部門 車両技術&モビリティエクスペリエンス責任者のトーマス・フォルム博士は、自動運転車とコネクテッドカーの開発を行なっていく上で、課題になっていく点に関して説明を行なった。
フォルム博士は「センサーからのデータを元に周囲を知覚し、そして人工知能などが決断し、ハンドルやブレーキなどを操作するという仕組みで行なわれている。例えばレーダーは距離や速度の認識はうまく、分類や寸法の把握などは難しい。これに対してLiDARは距離や寸法を認識することはよいが、レーザービームが届かないと分からないなど、それぞれによしあしがある。センサー1つひとつの特徴を生かして、最適な単一の環境モデルを作り上げることが必要で、歩行者やクルマなどが認識されないということがあってはならない」と述べ、自動運転に向けた課題としては、適したセンサーを利用して得た情報を元に、センサーフュージョンと呼ばれるセンサーのデータを1つにして、自動車のまわりがどうなっているのかを瞬時に把握できるデータを作り上げることを可能にする必要があると説明した。
そして、作り上げた環境モデルをいわゆるAI、具体的にはGPUを利用したディープラーニングなどにより、警官の手信号、クルマからはみ出ている物体、さらには動物のような自動車には非協力的な生物、天候などを勘案しながら判断を行なっていくと説明した。さらに、AIが判断を行なう上で、月の光をレーンとして認識したり、一時停止のサインのような特定のマークを紛れ込ませると間違えたりなどの問題があり、AIがどのような根拠でそうした判断を行なったのかを、開発者が認識することが重要だと指摘した。
その上で「安全性にとって重要なことは、冗長性を確保すること。たとえAIの半導体そのものがダメになってもバックアップで決断ができるようにする必要がある。例えば、飛行機や発電所では3系統など複数の経路を持たせて、バックアップでも決断ができるようにしており、3系統の判断が分かれた場合には多数決で決定したりする。自動車では同じ考え方を当てはめるのが難しく、重要なのは複数の判断経路があっても同じ判断にすることが大事だ」と述べ、そうした判断の回路などには冗長性を持たせる必要があるが、それぞれが判断を下すという仕組みよりは、純粋にバックアップという形での冗長性が適していると説明した。
また、コネクテッドカーの領域では、特に車車間(V2V)、路車間(V2I)、人車間(V2P)などのいわゆるV2Xと呼ばれる取り組みが大事だとしたが、「重要なことはこうしたネットワークに依存した安全性を前提にしないこと。無線ネットワークを利用して通信することができない場合でも、自車のみで安全性は実現されないといけない。あくまでV2Xはオプションと考えて、安全性のためではなく、交通の効率を上げることに使うべきだ」と述べ、V2Xを前提にした安全性の実現という設計はあってはならず、無線が何らかの理由で使えない場合でも安全性が確保できるような設計にすべきだと述べた。
そして、交通事故のうち90%はヒューマンエラーで起こっていると述べ、それを自動運転車に置き換えることで減らすことが重要だとしたが、「統計によれば人間のドライバーは1200万kmを走って2回の事故に遭遇する。死亡事故に限れば7億kmに1回となる。自動運転ではそれを下まわることがまず目標となる」と述べ、自動運転を社会に許容してもらうためには、人間のドライバーよりも自動運転の方が事故が少ないということを確立しなければいけないとした。
ただし、それをどこまで実現していく必要があるのか議論があるとして「事故を0にするのは無理で、人間に比べて10倍なのか、100倍なのか、1000倍なのか、どのレベルの安全性を実現すればよいのかは、今後も議論していく必要がある」と述べ、そうしたことを客観的に評価する基準やテスト方法が必要だとした。
そのため、ドイツでフォルクスワーゲン グループや大学などが産学協同で行なっている取り組みがPEGASUS(ペガサス)というプロジェクトだという。「PEGASUSではこれまで規定されていなかった、自動運転のテストや評価などについての手順を決めている。まずは2019年にドイツで策定を行ない、今後ISOといった国際機関などの標準としても提案していきたい」と述べ、同社やドイツの大学などが共同で規格策定を行なっている、自動運転車の評価手順の規格であるPEGASUSを紹介し、そうした取り組みを欧州だけでなく、日本や米国などにも広げていきたいと述べた。
ジュネーブ条約に基づく道路交通法の見直しや、自動運転を実現する課題の議論を行なっている内閣府のSIP
内閣府 自動走行システム推進委員会(SIP)の委員である国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏は、日本の官民共同の自動運転の取り組みであるSIPについての説明を行なった。
清水氏は「SIPが立ち上がったきっかけはGoogleの自動運転が明らかになった頃。なぜ内閣府なのかといえば、従来はこういう取り組みを省庁が縦割りでやってきたが、それでは予算が無駄だろうとなって、横串を通す取り組みとしてやってきた。第1期が来年終わり、第2期が立ち上がり、2023年まで続いていく予定。すでに日本ではダイナミックマップが完成しており、実際に公道で実証実験が行なわれている段階。そして、これからは法基準についての議論も必要になる。現在の道路交通法はすべてがドライバーの責任になるという1948年のジュネーブ条約に基づいている。人以外が運転するとなると条約の改正を行なう必要があり、3分の2の賛成がないと変えられないため、現在日本も参加して国際的な議論を行なっている」と述べ、日本の自動運転を取り巻く現状に関しての説明を行なった。
その具体例として、石川県輪島市でのヤマハのゴルフカートを利用した自動運転の実証実験について触れ、「ジュネーブ条約上での解釈として遠隔操作ならいいだろうとして、解釈論で道交法と保安基準を規制緩和している」と述べ、政府としても条約との関係などさまざまな制約がある中で、整合性を持たせながら規制緩和をするなど自動運転の開発を推進していると述べた。
その上で「SIPでは自動運転が引き起こす事故は0にすることを目標としている。というのも、仮に自動運転車が事故を起こすと世論の理解を得るのが難しくなる。そこで、重要になるのが例えばレベル2、3、4の自動運転でドライバーに運転を引き継ぐ手順をもっと分かりやすくしたり、レベル3の自動運転で一定時間ドライバーに引き渡すことができなければ、自動的に左に寄って停止する仕組みを導入するなどの設定が必要になるだろう」と説明した。
自動運転時代の自動車メーカー間の差別化はAIの設計哲学と学習データの品質
その後、本誌のインタビューに応じたフォルム博士はドイツの自動車メーカーが自動運転の開発などで選考している理由について「1つには産学協同の開発がうまくいっていることにある。また、サプライヤーも含めて自動運転の開発に取り組んでおり、そうしたエコシステムができあがっていることが強みだと考えている」と述べた。
また、ディープラーニングベースのAIに関しては「GPUを利用することになってAIの性能が飛躍的に上がった。しかし、ディープラーニングがベストソリューションかと言えばそうとは思っていない。現状では機能安全を実現するにはディープラーニングと他の技術を組み合わせていくことがいいと考えている」と述べ、自動運転の判断の選択肢は必ずしもディープラーニングを利用したAIだけでなく、他の選択肢も検討して組み合わせていくことになるだろうと説明した。
自動運転を実現するAIを開発して自動車メーカー同士が差別化する上では「自動車メーカー自身がどのような哲学をもって開発するかが重要になるほか、学習するデータのクオリティが重要になる。このため、前工程でどのような処理を行なうのか、それがAIのできを左右するだろう」と述べた。