試乗インプレッション

フォルクスワーゲンのコンパクトSUV「ティグアン TDI 4MOTION」の雪上性能をクローズドコースで体感

雪道でも安全に楽しく、快適に走れる4MOTIONシステムを使い倒す

 コンパクトSUVとして人気を博している「ティグアン TDI 4MOTION」に雪道で試乗した。しかも、今回は公道ではなくクローズドコース。路面に凹みを設けたモーグル路や急な上り/下り坂、パイロンスラロームに定常円旋回とバラエティに富んだ特設コースだ。

 これに先だって行なっていたオンロードでの試乗では、1500~2000rpm台前半の低中速域でのトルクが太く、ちょっとしたアクセル操作に対してもグッと車体が反応する小気味よさが印象的だったが、今回は雪道、しかもクローズドコースということもあり、4輪駆動システムである4MOTIONの実力を思う存分、確かめてみた。

フォルクスワーゲン「ティグアン TDI 4MOTION」をクローズドの特設雪上コースで試乗した

 ティグアン TDI 4MOTIONのパワートレーンは、直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンで最高出力150PS/3500-4000rpm、最大トルク34.7kgfm/1750-3000rpmを発生する。トランスミッションはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)の7速DSGを採用。車両重量は試乗したTDI 4MOTION Highlineで1760kg(電動パノラマスライディングルーフ装着車)だ。

最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボディーゼルエンジンを搭載し、トランスミッションにDCT(デュアルクラッチトランスミッション)の7速DSGを採用
燃料タンク容量は63Lで、給油口横にAdBlueの補給口を備える。JC08モード燃費は17.2km/L
駆動方式は4輪駆動となる「4MOTION」

 注目の4MOTIONは「ハルデックスカップリング」と呼ばれるシステムを採用しており、ティグアン TDI 4MOTIONが採用するシステムは最新の第5世代。ちなみにフォルクスワーゲンの市販乗用車における4輪駆動システムの歴史は、1983年にドイツ本国で発表(1984年に発売)された「パサート ヴァリアント シンクロ」まで遡る。続く1987年7月にはビスカスカップリング方式の4輪駆動システムを搭載した「ゴルフ シンクロ」が日本初導入モデルとして発売され、1991年6月には「ゴルフ カントリー」も台数限定ながら導入された。

 1996年にはパサート ヴァリアント シンクロの4輪駆動システムが進化。高い効率で前後輪の駆動力配分が行なえるトルセン方式に切り替わる。前輪:後輪の駆動力配分は50:50/75:25/25:75の3モードで可変させることができ、ブレーキ制御による4輪EDS(エレクトロデファレンシャルロック)を併用することで滑りやすい路面での発進加速性能や走破性能を向上させた。

 2000年には、現在にも通ずるハルデックスカップリング方式の4輪駆動システム第1世代がミディアムセダン「ボーラ」に搭載される。このハルデックスカップリングは続く第3世代まで、前輪と後輪の回転差に応じ主に油圧の力を用いて後輪へと駆動力が伝達されていた。つまり、FF(前輪駆動)方式を基本としながら前輪が何らかの理由でスリップした場合にハルデックスカップリングを通じて後輪へと駆動力が伝えられてきたわけだ。

 それが第4世代になると電動油圧方式となり、加えて制御システム能力を向上させたことで駆動力配分にかかる時間差も大幅に減少した。さらにティグアン TDI 4MOTIONでは後述する「4MOTION アクティブコントロール」のドライビングプロファイル機能(専用の「スノーモード)付き)とも連携しながら4輪へ最適な駆動力配分を行なう。現在、フォルクスワーゲンでは6モデルでこうした4MOTIONモデルをラインアップする。

 さて、ティグアン TDI 4MOTIONだが、クローズドコースでの走破性能は確かなものである一方で、どんな路面状況でも安定志向であることが分かった。前述の通り第5世代のハルデックスカップリング方式は、FF方式を基本に後輪のディファレンシャルギヤに対して電子制御で駆動力を配分するシステム。具体的には前輪:後輪の駆動力配分を100:0(減速時に後輪0%。駆動時は5%程度の駆動力がプレチャージとして発生)の状態から、50:50の状態まで連続的に変化させることが可能。

 走破性能をグッと向上させるのが4MOTION アクティブコントロールのドライビングプロファイル機能だ。ダイヤル操作では「スノー」「オンロード」「オフロード」「オフロードカスタム」が選べ、さらにオンロードでは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」「コンフォート」が選択できる。このうち今回の特設コースでは、スノー/オフロードの両モードを中心にテストを行なった。

ドライビングダイナミクスに関する電子制御システムを実際の走行状況に合わせて調整できる「4MOTION アクティブコントロール」はティグアン TDI 4MOTIONにのみに搭載され、ダイヤルを回して「オンロード」「スノー」「オフロード」「オフロードカスタム」を切り替えできる

 スノーモードは字のごとく滑りやすい雪道に適した走行モード。オンロードモードと同じアクセル操作をしても、このスノーモードでは駆動力の立ち上がりがゆっくりとなるため、意図しないスリップを防ぐことができる。また、ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)の制御がオンロードモードに対して俊敏に反応し、車両の横滑りの予兆が出始めるころにはすぐさま最適な車輪へのブレーキ制御を行なって安定方向へと誘われる。

 ただし、こうした安定方向への制御は、例えば特設コースに用意されていたパイロンスラロームの場でアクセル操作を連動させながら右に左にステアリングを切り込んで向き変えを行なう際でも頻繁に制御が入るため、楽しさという点ではやや劣る。具体的にはブレーキ制御で速度をガクッと落としてタイヤの摩擦円のうち横方向のマージンを多く残しながら、ステアリングの動きに対しては摩擦円の限界を超えない範囲で従順な動きをとろうと制御する。もっとも、非日常的なこうしたパイロンスラロームの評価よりも、現実的に遭遇する場面の評価が大切。例えば凍結路面での下り坂カーブなどではこのスノーモードは非常に有効で、ドライバーとしても安心感は劇的に高まる。

4MOTION アクティブコントロールのドライビングプロファイル機能により、雪道での安定性が向上。右に左にステアリングを切り込むような状況でも安心して走行できる

 30cm弱の凹みが設けられたモーグル路では、対角の車輪が浮いた状態で完全停止してみた。そこからブレーキペダルを離すとクリープ走行となるのだが、ほぼFF状態のまま、つまり前輪1輪のみでクリープ走行のまま走り出してしまった。厳密には前述のプレチャージとして後輪へもわずかな駆動力が入っているものの、4輪へのブレーキ制御との協調ですんなりと走破した。

対角の車輪が浮いた状態で完全停止しても、すんなりとスタートできた

 急な登坂路では上り坂の途中で完全停止してみた。停止場所はところどころ、凍結面が顔を出していて滑りやすい。ここでステアリングをわずかに切りながらゆっくりとアクセルを踏み込む。すると、ヒルスタート機能の自動解除と連動するかのようにスルスルと登り出す。細かく見ていくと一瞬、前後輪がスリップした後にグッと車体が動き出しているのだが、ドライバーからは何事もなかったかのような発進操作であるため気を遣うことない。

急な上り坂の途中で停止しても、スムーズに走り出せる

 坂の頂点からは急な下り坂だ。ここではドライビングプロファイル機能をオフロードモードに切り替え「ヒルディセントアシスト」を試した。ヒルディセントアシストは斜度がおよそ10度以上の下り勾配で車速を20~30km/hの間で固定することが可能。前進と後退の両方で機能し、下る際の車速調整はアクセル操作で行なうのだが、他メーカーの他車が採用するレバー方式やステアリングスイッチ方式と比べて筆者にとっては直感的で使いやすかった。

急な下り坂では、前進と後退の車速を20~30km/hの範囲で制御する「ヒルディセントアシスト」を使用。一定速度で下っていくことができるため、ステアリング操作のみに集中できる

 クローズドコースのハイライトは定常円旋回だ。オフロードモードではESCが解除される(ABS機能は残る)ため、それこそアクセルコントロールでご覧のような4輪ドリフト走行が誰でも簡単に行なえる。コンパクトとはいえこれだけのボディ(車両重量1760kg)をアクセル操作1つで振り回せる楽しさはこの上ない。ちなみに、パイロンスラロームをこのオフロードモードで行うとESCの解除が功を奏し、アクセル操作で車体の向きを自由にコントロールできるようになり、やはり楽しい!

オフロードモードでは、ボディサイズ4500×1840×1675mm(全長×全幅×全高)、車両重量1760kg(電動パノラマスライディングルーフ装着車)の車両を振り回すこともできる

 とはいえ、そこは安定志向のティグアン TDI 4MOTIONだ。ドライバーがヒートアップしてドリフト速度が高まってくれば、自ずとスピンの可能性が高まってくる。オフロードモードはそこを見逃さない。スピンの予兆が現れてくるとまず、車両挙動に応じたブレーキ制御が各輪にコツン、コツンと入りだす。それでもドリフト速度を緩めないでいると、今度はさらに強いブレーキ制御で車両のヨーを消しにかかって強制的にドリフト終了の方向性へと導かれるのだった。

ドライバーが熱くなってもコントロールは冷静に。4MOTION アクティブコントロールを活用すれば、しっかりと安全な方向へと導いてくれる

 限られた時間であったが、安全が確保されたクローズドコースでティグアン TDI 4MOTIONの真価を存分に堪能することができた。また、フォルクスワーゲンでは走りの楽しさを随所に残しつつ、徹底した安全思想のもと先進安全技術や車両制御技術を育み、こうして実装していることも分かった。筆者はこれまで、フォルクスワーゲンに対して生真面目さが先に来る質実剛健な自動車メーカーとのイメージが強かったが、そうした礎がある一方で、車両ごと運動特性に変化をつけ、走る楽しさも実感できる懐の深さを発見。ティグアン TDI 4MOTIONは全長4.5mクラスのコンパクトなSUVであり、なおかつ雪道を安全に楽しく、そして快適に走りきることができる貴重な1台だ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学