試乗インプレッション

全行程1000kmオーバー! フォルクスワーゲン「ティグアン TDI」で東京~札幌間を無給油で走れるか試してみた

ディーゼル+4WDはどんなシチュエーションでも頼れる相棒でした

ティグアン TDIで北海道。しかも無給油

 2017年に日本導入された時には1.4リッターのガソリンモデルしか存在しなかったフォルクスワーゲン「ティグアン」。しかも駆動方式は2WD(FF)のみということで、ターゲットはズバリ“都市部の舗装路”という限定された状況だった。

 だが、8月末についに待望の2.0リッターディーゼル+4MOTIONが加わり、いよいよどんな環境でも使い倒せそうなSUVの仲間入り。これならロングドライブに連れ出したいというわけで、今回はいきなり東京から北海道 札幌を目指すという2泊3日の厄介な(?)弾丸ツアーが始まった。実はこの企画、北海道の震災前から考えられていたもので、それを実行するか否かで迷ったのだが、震災があったから観光が冷え切ったという話もあったため、やはり実行しましょうとなったのだ。果たして東京から1000km以上の旅はいかなるものになるだろうか?

 今回の話題の中心となる2.0リッターディーゼルエンジンは、JC08モード燃費で17.2km/Lを達成している。タンク容量を調べれば63Lであり、単純計算で1084km走れることになる。これならワンタンクで札幌まで行けるハズ。そこで、東京で満タンにし、東北自動車道を安全運転で北上することにしたのだ。

 だが、Car Watch読者の方々ならご存じだろうが、この媒体では燃費走行に徹するようなことはせず、あくまで一般的に走った場合はどうかをテストすることをモットーとしている。エアコンは当然ONにしたまま。しかも、大人3人(いずれも太り気味)+撮影機材満載という状況だ。おまけにスケジュールの都合で初日18時には青森県青森市のフェリー埠頭に到着していなければならないという。つまり、ノロノロ走っていては間に合わない。果たして無給油で行けるのか?

今回、東京~北海道 札幌間を走行したのはフォルクスワーゲンのSUV「ティグアン」。その中でも、8月に日本導入したばかりの2.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載する「ティグアン TDI 4MOTION」(ハイライン)で無給油にチャレンジした。ボディサイズは4500×1840×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2675mm
足下は19インチアルミホイールにピレリ「SCORPION VERDE」(235/50 R19)の組み合わせ
直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生
ハイラインのインテリア。ディーゼル仕様の導入に伴いセンターコンソールにアクティブコントロールスイッチが新装備され、走行モードとして「オンロードモード」「スノーモード」「オフロードモード」「オフロードカスタムモード」を用意。オンロードモード内には「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」の5種類のドライビングプロファイルが設定される

仙台手前で高速燃費23.0km/Lをマーク

出発地点は東京都足立区にある出光のSS(サービスステーション)「足立入谷SS」。筆者(左)と副編(右)はこの時点では元気がよさそうである

 給油をバッチリ済ませてティグアン TDI 4MOTIONを走らせると、とにかく滑らかな回転フィールであることに感心する。車室内にイヤな音や振動は少ない。一方で、PA(パーキングエリア)で車外の音を聴いてみても、ディーゼルならではの音はかなり払拭されている。もちろん、ガソリンエンジンのように静かというわけではないのだが、ずいぶんディーゼルのイヤなところがなくなっていることに驚いた。このエンジンはミニバン「ゴルフ トゥーラン」などにも展開されるらしいが、これならば家族で使ったとしても不満が出るようなことはないだろう。

 それでいて高速巡行時は100km/hでギヤが7速、エンジン回転は1500rpm強という状況でもなかなかトルクフル。エンジン回転が低く抑えられているから静粛性も高い。そんな状況で上り勾配や風圧が強まったとしても、車速を維持しやすい感覚があった。対して下り坂ではエコモードを使いアクセルOFFすれば即座にギヤがニュートラルになり、惰性で下るコースティングモードに入る。ディーゼルエンジン+4MOTIONということもあって、今回パートナーとなった売れ線となるであろう「ハイライン」では車両重量が1730kgになるが、その重さを利用してグイグイ下って行くこともあって失速感が少ない。おかげで東北道 村田JCT(ジャンクション)手前あたりでの高速燃費は23.0km/Lをマークしており、札幌ワンタンクは余裕であることを感じさせてくれたのだ。

朝6時過ぎに出発したということで、まずは東北道 佐野SA(サービスエリア)で腹ごしらえ。ええ、朝からラーメンです!
佐野SAからはしばらくノンストップで東北道を北上。福島、仙台を順調に通過して次なる休憩地点の矢巾PA(パーキングエリア)を目指した
川口から500kmの看板。だいぶ走った気がするが、まだ半分以下しか走っていない

 そこで、福島県に入ったあたりからはACC(アダプティブクルーズコントロール)をONにし、ほぼクルマ任せで走ることに。これならレーンキープもしてくれるし、ロングドライブでも疲れ知らずである。このクルマは、タウンスピードで乗っているとやや硬質な感覚を伴うのだが、そのおかげもあって高速巡行時には直進安定性の高さや、ワインディングにおけるシッカリ感に繋がっている。こうした走りに重きを置いたセッティングのおかげもあって、レーンキープもシッカリと作動していたのだろう。試乗初日は大型台風が去った直後ということもあり、風も強めだったのだが、その状況で走りに不安を覚えないのだから嬉しい。

 ちなみに、筆者も同行した副編も腰痛持ちなのだが、腰の痛みも感じることは少なかったことを付け加えておく。はじめは硬さもあり、ホールド性重視のシートがどうかと心配していたのだが、実はこのシートの造りが体を適正な位置に留めてくれることもあって、腰痛の軽減に繋がったように思える。目先のふんわりよりもある程度硬さがあったほうがラクだとは……。さすがはロングドライブを重視する欧州の造りだ。走れば走るほどそのよさが伝わってくる、そんな感覚にティグアンは包まれている。

盛岡と言えば冷麺、ということで矢巾PAではやまなか家を訪れて「盛岡冷麺&カルビ丼(小)」(1150円)をいただく。手練りの生麺で提供しているとのことで、実においしい1品でした
矢巾PAでの平均燃費は22.0km/L
矢巾PAでの休憩を終えていざ青森のフェリー埠頭を目指す。東北道の終点で「おつかれさま」の看板に癒された

 そんなこんなで青森のフェリー埠頭におよそ11時間かけて到着。これでフェリーに乗って初日の宿泊場所である函館に渡れば無事に終わり……、かと思っていたのだが、フェリーの受付に行けば「本日のフェリーは函館からの便がこちらに到着できるか分からないので欠航の可能性があります」とのこと。台風一過で晴れていたから問題ないかと思いきや、海上はおおしけらしい。念のためお隣のフェリー会社にも状況を伺ってみると、そちらは早くも「欠航」のアナウンス。この後どうなるのか? ドキドキの待ち時間が続いた。

乗船を予定している津軽海峡フェリーターミナルに到着!

 だが、海を見ていると遠くから僕らが乗る予定のフェリーが迫ってくるではないか! まるで南極でタロとジロに再会したかのような感動が襲ってきたのは言うまでもない(笑)。その後はフェリーの中で揺られに揺られ、3人ともに青ざめた表情となるわけだが、お宿に到着でき、北海道のウマイ飯が食えるならそれもガマンできる。何とか無事にベッドで寝かせてくれ! ただ、それだけを願い、雑魚寝でおよそ4時間を耐え抜いたのだった。

青森のフェリー埠頭に颯爽と現れた「ブルードルフィン」。これで無事に函館に渡れました
大型台風が通過した直後で海がしけていることもあってか、一緒に乗船したクルマは少なかった
揺れを我慢しつつ、無事に函館に到着。朝6時過ぎに東京を出て、函館に到着したのは23時ごろ

 函館に到着。お目当てだった北海道グルメにもありつき、あとはホテルで寝るだけかと思いきや、副編ときたら「函館山に行きましょう!」とステアリングを奪うではないか。急勾配を燃費も気にせずグイグイと上り、気が付けば深夜1時に誰もいない展望台である……。たしか自宅を出発したのは朝6時過ぎ……。だが、おかげで函館山の100万ドルの夜景も拝めたからオッケーとしよう。電力不足も解消し、煌々と光る北海道が見られただけでもよかった!

函館山から見た100万ドルの夜景は実に綺麗でした。電力不足が解消されていなかったら見れなかったかも!?
金森赤レンガ倉庫でも記念撮影

全行程1003.5km、トータル燃費は……

 翌朝は函館朝市で腹ごしらえをするところからスタート。海鮮丼を食べながら店主に震災当時のお話を伺ってみたが、震災当日は停電が起きたために冷蔵庫の中のものを保存することに苦労したそうだが、翌日からはほぼ通常通りだったそうだ。震災後数日は帰宅難民が多く、お客さんもいたらしいが、それ以降はパッタリ。今は観光客が少しは戻ってきたようだが、まだまだいつもの状態とはなっていないらしい。読者の皆さまも、余裕があれば北海道へ行っていただければと思う。

函館朝市で朝食をとろうということで「きくよ食堂」を訪問
左から「うに・いくら丼」(2200円)、うに、いくら、さけが載る「三種お好み丼」(1780円)、「銀だら焼き定食」(1450円)。北海道最高!
ご飯の後のデザートは、函館朝市ははっぴー光店のカットメロン(350円)。コスパよし

 さて、腹ごしらえも済んでいよいよ2日目のスタートである。あとは札幌までの300km弱。燃費をできるだけ稼いでいきたいところだが、「せっかくだから撮影もしましょう」と副編。函館市内をあちこち向かい、立待岬から青森の大間を眺め、それが終わったら今度は洞爺湖で休憩となかなか行程は進まない。必ずと言っていいほど撮影ポイントは標高が高い場所が多く、そこで燃費をジリジリと下げていくことにヤキモキする。この調子で札幌に無給油で到着するのか?

函館市内からすぐの立待岬でティグアンをパシャリ
北海道らしい壮大な景色を楽しみつつ景勝地・洞爺湖方面に移動
観光地でもある金比羅火口を見学

 だが、ティグアンはまだまだモード燃費を上まわりながら走行を続け、2日目の夕方には札幌時計台に当然のように到着していた。全行程1003.5km、トータル燃費19.1km/Lでのゴールだった。最後に給油をしてみると51L(残り12L)入ったから、まだまだ北海道の旅を続けられたというわけだ。無給油で北海道なんて無謀だと思っていたが、それをあっさりと達成してしまうほど、このディーゼルは頼もしい相棒だった。

札幌時計台に無事到着! 意外に元気そうなのはティグアンの作りのよさと北海道の美食があったから。ロングドライブを重視する欧州車の実力、そして北海道が食の宝庫であることを再認識した今回の旅でした
札幌時計台で撮影を終え、札幌市中央区にあるENEOS「南4条SS」で給油。全行程1003.5kmで51L、メーター表示での平均燃費19.1km/Lという結果に。我慢を強いたエコランではなく、そこそこ快適に走行してこの結果は立派だろう

ワインディングやオフロードでも性能チェック

 3日目はせっかく満タンにしたのだから、後は存分に走ってみようと、ノーマルモードからスポーツモードに変更してワインディングを走ってみた。その際には、アダプティブシャシーコントロールがダンパーの減衰力を引き締め、まるでホットハッチかのような身のこなしでワインディングを駆け抜けてくれるから心地いい。エンジンも応答性が高まり、キビキビと加速を重ねるだけでなく、エンジンの伸び感も与えてくれるからストレスフリー。燃費だけでなく力強さがあることもまた、このディーゼルエンジンの魅力の1つと言っていいだろう。高速道路における安定感の高さもまた、目を見張るものがある。SUVを言い訳にしないオンロード性能が存在することは確かな事実だ。

 最後は支笏湖周辺から苫小牧あたりに伸びる、ラリージャパンのステージにもなっている林道を走ってみたが、その際にオフロードモードを選択すれば、足まわりはかなりよく動くようになり、トラクションと乗り心地を稼いでくれることを確認。このとき、スタビリティコントロールもOFFになるのだが、手足のように操れる楽しさが存在しており、なかなか楽しめる仕上がりがそこにあった。決して都市型SUVで終わらず、悪路でもシッカリと機能する4MOTIONの威力はなかなか。これならステージを選ばずどんなシーンでもよきパートナーとなってくれることだろう。

 FFモデルが築き上げてきた都市部でのサイズ的な使い勝手を残しつつ、ロングドライブでの燃費も達成しながら、高速や悪路の走破性までも手にしていたティグアン TDI 4MOTION。これほどまでに死角ナシの仕上がりなら、どんな趣味趣向のユーザーでも納得の仕上がりではないだろうか。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛