試乗インプレッション
SUV+ディーゼル+4WDでどんな冒険にも繰り出せる。フォルクスワーゲン「ティグアン TDI」を公道でチェック
「ゴルフ トゥーラン」のTDI仕様もチョイ乗り
2018年10月11日 00:00
ティグアンのディーゼルモデルが日本デビュー
販売好調をキープし続けているSUVは今、4台に1台がディーゼルモデルになっているということをご存知だろうか。台数ではマツダ「CX-5」が牽引しているが、モデル数では輸入車の方が多い。BMWやメルセデス・ベンツのSUVは、ほとんどのモデルにディーゼルエンジンが用意されているし、ジャガー「F-PACE」やマセラティ「レヴァンテ」といったプレミアム路線の強いブランドでも、ディーゼルモデルが本命グレードとなっている。
その理由はやはり、ユーザーにとってのメリットが大きいということ。強大なトルクによる走破性はSUVのユーザーが求める走りにマッチしているし、日本では軽油の価格がガソリンよりも安く、長距離を走れば燃費もガソリンエンジンを大きく上まわるケースが多いため、経済性の高さもユーザーにとっては嬉しいポイントだ。
そんな輸入ディーゼル軍にまた1台、待望のモデルが加わった。2008年に初代が日本デビューして以来、着実にファンを掴んで2017年に2代目へと進化した、フォルクスワーゲン「ティグアン」だ。世界では累計販売台数が77万台にも上り、日本でも5万5000台。2代目の現行型はこれまで1.4リッターガソリンのFFモデルのみだったから、今回はディーゼル初登場というだけでなく4WDも一緒についてきた、というのも大きな魅力である。
試乗車として並んでいたティグアンを眺めたところ、外観でガソリンモデルと違うのはリアにつけられた「TDI」のバッヂのみ。パワートレーン変更による室内への影響も何ら問題なく、ティグアンの美点である1655Lというクラス最大のラゲッジ容量も保持している。ただ、今回のディーゼル導入を記念して最上級グレード「R-Line」をベースにクロームパーツやアルミホイールをブラックペイントとし、通常のR-Lineではオプション設定となるDCC(アダプティブ・シャシー・コントロール)などを標準装備する450台限定モデル「ティグアン TDI 4MOTION R-Line Black Style」は、パッと見ただけでもオーラが違う印象。どのモデルもちょっと優等生的な雰囲気が強いフォルクスワーゲンの中にあって、ほのかにワルな香りを放つ「アルテオン」のような、威張りの効くSUVになっていた。
搭載された2.0リッターディーゼルエンジンとなるTDIは、先に導入された「パサート TDI」と基本的には同じエンジン。そこに4MOTION用の7速DSGを組み合わせ、4MOTIONと4MOTIONアクティブコントロールが鉄壁の走りを実現するという構造になっている。ガソリンのFFモデルと比較して、ディーゼル+4MOTIONモデルならではの特徴としては、リアサスペンションが変更されていること。形式としては変わらず4リンク式になるが、トレーリングリンクを20mm延長し、サブフレームやホイールベアリングの形状も変更。これによってFF同等の運動特性を確保したとのことだった。4MOTIONのハルデックスカップリングも最新の第5世代が採用されており、その進化はオンロードでも発揮されているのかどうか、気になるところだ。
包み込まれるような加速フィールが切れ間なく溢れてくる
試乗したのは19インチタイヤを履くR-Line。限定車を含めて全4グレードのうち、「コンフォートライン」は17インチ、「ハイライン」は18インチ、Black Styleは20インチとそれぞれタイヤサイズが変わり、19インチでも見た目にはなかなかの迫力だが、果たして乗り心地はどんなものなのか、心配しつつ乗り込んだ。
そしてTDIを始動させてまず驚いたのは、予想したほどの「音」が室内にはほとんど届かないこと。振動もかなり抑えられていて、これならガソリンモデルと遜色ないレベルだ。アクセルを少し踏み込むと、ガソリンモデルより210kgほど重くなるにもかかわらず、その発進加速はとても滑らかで気持ちのいいものだった。わずか1750rpmから繰り出される340Nmという強大なトルクは、一般道を走っている限り決して獰猛さは見せない。常に穏やかで、包み込まれるような加速フィールが切れ間なく溢れてくるようだ。試乗した一般道は信号がほとんどない区間で、走り続けているとなんというか、クルマというよりは水面を悠々と船で進んでいくような錯覚にとらわれる。
でもそれはのんびりしているだけでなく、右へ左へのスラロームでは加速と減速を見事なレスポンスで引き出して、俊敏なハンドリングを後押ししてくれるし、ここぞという場面で強く踏み込めば、ガツンと背中を押されるようなパワーも瞬時に引き出されるのだった。1つ気になるのは、アイドリングストップからの復帰がCX-5などと比べると若干遅めかな、というところ。今回、同じディーゼルエンジン搭載で同時にお披露目された「ゴルフ トゥーラン」にも試乗したが、そちらではこの遅さは感じなかったし、パサート TDIでも感じなかった。この2台との相違点は、パワートレーンだけで言えばDSGが6速ではなく7速だということだけ。それが原因かどうかは定かでなく、個体差のレベルかもしれないが、本国のエンジニアと話す機会があれば確認したいと思う。
そして、当初心配していた乗り心地の面は、まったくの取り越し苦労に終わった。今回は悪路を試すことができなかったので、4MOTIONの真の威力はベールに包まれたままだったが、オンロードで19インチタイヤでもこんなにフラットで落ち着いた乗り心地が得られるのは、4MOTIONの恩恵が大きいはずである。ガソリンモデルに試乗した時も、後席まで快適でファミリーにオススメできるSUVだと感じたが、ディーゼル+4MOTIONとなったティグアンはファミリーだけでなく、すべての“良識ある”冒険家に勧めたい。街中でも威圧感が強すぎず、先進安全装備が手厚く揃い、JC08モード燃費は17.2km/LとコンパクトSUV並み。そんな良識を持ちつつ、高い走破性とロングドライブの快適性があれば、どんな冒険へも繰り出せるのではないだろうか。
ゴルフ トゥーランのTDI仕様もチョイ乗り
さて、ゴルフ トゥーランのTDIはどんな印象だったかと言えば、これが同じエンジンとは思えないくらい、軽快感があって驚いた。もともと、ガソリンエンジンのトゥーランも俊敏な身のこなしや軽やかで伸びのいい加速フィールが美点だったが、TDIになってもその美点がまったく損なわれていない。確実に重量アップしているのに、山道の上りでも不思議なくらいキビキビと走ってくれた。
いちばん違いを感じたのは、意外にもノロノロ渋滞のような超低速のシーンや車庫入れの場面。ゆっくりと加速・減速を繰り返すのがとてもスムーズで、こちらの意思を無視するようなギクシャク感がまるでない。だから、街中でのチョイ乗りばかりをするような人にも、意外やトゥーランのTDIは向いているのではないかと感じた。
2モデルともTDIならではの新しい魅力を提供してくれるだけでなく、ガソリンエンジンの時に感じていたわずかな弱点が、ディーゼルエンジンによってしっかり補填されているのが素晴らしい。ただ価格差は大きく、エコカー減税で免税(100%減税)になっても、ティグアンのR-Lineで比べるとガソリンモデルより25万円程度高いというから、コストパフォーマンスの面ではガソリンに軍配が上がる。静粛性の面でもガソリンの方が優れているだけに、このジャッジは相当に悩まいところ。個人的には山道や雪道、ロングドライブが多い人には、ぜひTDIを選んでほしいと感じたのだった。