試乗インプレッション

大規模なフェイスリフトを行なったメルセデス・ベンツの新型「Cクラス」、4バリエーション+1のパワートレーンを味わう

パワートレーンごとに異なるキャラクターがCクラスの魅力を引き上げる

5種類のパワートレーンから見た新型Cクラスの魅力

「Cクラス」が大幅なマイナーチェンジを行なった。メルセデス・ベンツでは変更した箇所を数字で示すことが多く、先代W204時代のCクラスと同じく発表されたのだが、その数は6500か所と車体構成部品のおよそ半分に及ぶ。

 セダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレと同時期に行なわれたマイナーチェンジでは、市場評価の高い外観の基本ラインはそのままに、LEDヘッドライトの機能強化を図りつつ、前後バンパーやホイール、テールレンズに至る意匠変更を行なった。

先代「C 350 ステーションワゴン」に乗る交通コメンテーターの西村直人氏に、今回大型改良を行なった新型Cクラスのパワートレーンに着目して魅力を語ってもらった

 一方、インテリアでは新たに10.25インチのワイドディスプレイを車内センターに配置し、これをカーナビゲーションの主画面としつつ、メーター内にはこちらも新たにオプション設定として、12.3インチのコクピットディスプレイを用意した。この12.3インチディスプレイは「Sクラス」や「Eクラス」にも搭載済みだが、Cクラスでは専用のデザインを用い、クラシック/スポーツ/プログレッシブの3つの画面・配色イメージから選択できる。さらにメルセデス AMG C 43 4MATICでは、スポーツ画面が専用表示になっていることも確認できた。

専用デザインを用いた12.3インチのコクピットディスプレイ。クラシック/スポーツ/プログレッシブを選択可能
メルセデス AMG C 43 4MATICのスポーツ画面

 マイナーチェンジモデルでのハイライトは、2つのパワートレーン追加と既存エンジンの出力向上だ。なかでも注目は直列4気筒1.5リッターガソリンターボエンジンに、ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター(BSG)と48V系の電動駆動機能を組み合わせたハイブリッドシステムだ。1kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載する同機能は、スターターとジェネレーター(発電機)を兼ねるモーターをエンジンベルトを通じてクランクシャフトとつなげ、低回転域でジェネレーターをアシストモーターとして活用して走行に必要なエンジンパワーとトルクを補完。また、ウォーターポンプを電動駆動とすることでエンジン負荷を減らしている。ちなみに、Sクラスなどが搭載しているISGシステム搭載エンジンでは電動エアコンを採用していたが、BSGシステム搭載エンジンでのエアコンは通常のエンジン搭載車と同じくエンジン駆動となる。

 もう1つの追加エンジンは直列2.0リッターディーゼルターボエンジンだ。Eクラスなどにも搭載されている同エンジンが、Cクラスに初搭載となった。出力の向上はC 43が搭載するV型6気筒3.0リッターガソリンツインターボに行なわれた。ターボチャージャーのインペラ径拡大により過給効果を高めたことで、367PSから23PS(約6%)アップの390PS(最大トルクは520Nmのまま)を誇る。

 今回の試乗では、上記3つのパワートレーンに既存の直列4気筒1.6リッターターボエンジンを加えた4種類、そして筆者の愛車である先代のC 350 ステーションワゴン(V型6気筒3.5リッターガソリンエンジン)の5種類での比較を行なった。

必要十分以上の走行性能を発揮する1.6リッターガソリンターボ

C 180 カブリオレ スポーツ

 まずは既存の直列4気筒1.6リッターガソリンターボエンジンを搭載する「C 180 カブリオレ」から試乗する。

「いよいよCクラスもダウンサイジングか!」と、現行W205型Cクラスが登場した2014年には騒がれていたが、改めて年次改良が加えられたベーシックエンジン搭載車に試乗してみると、市街地走行では必要にして十分以上の走行性能を発揮してくれることが再確認できた。最大トルク値である250Nmは、アイドリング回転域直上の1200-4000rpmまでと幅広い領域で発揮するし、組み合わされる9速ATのギヤ段とのマッチングがよいことも手伝い、成人男性3名乗車+撮影機材をトランク(カブリオレながら大きなトランクルームを持つ!)いっぱいに詰め込んだ状態でも不足なし。

C 180 カブリオレ スポーツ(615万円)のボディサイズは4696×1810×1411mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2840mm。ボディカラーはモハーベシルバー、ソフトトップはダークレッド。ウルトラハイビーム付の「マルチビームLEDヘッドライト」は片側に84個のLEDを用い、650m以上の距離で基準照度の1ルクス以上の明るさを発揮
C 180 カブリオレ スポーツが搭載する直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボ「M274」型エンジンは最高出力115kW(156PS)/5300rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1200-4000rpmを発生
クランベリーレッドカラーのインテリア。フロントウィンドウ上部にディフレクターが備わり、空気の流れを上方に跳ね上げることで室内への風の巻き込みを抑制。また、前席のヘッドレストからは温風が出るので寒い日でもオープンドライブが楽しめる

 もっとも、軽井沢周辺の連続する登り急勾配ではマニュアルシフト(パドルシフター装備)で適切なギヤ段を選ぶ必要があるし、5000rpmを過ぎたころにはパワーも頭打ち気味になる。ここは排気量相応といったところか。しかし、スタートから5000rpm付近を上限とした滑らかな回転フィールは完成の域に達しており、また、感性に訴えかけるエンジン音や振動なども魅力的に映る。

BSGシステム+1.5リッターガソリンターボの魅力と課題

C 200 アバンギャルド

 続いて試乗したC 200(セダン)では、新エンジンであるBSGシステムを搭載した1.5リッターガソリンターボエンジンを確認する。先の1.6リッターよりもわずかであるが排気量が小さいものの、スタート後にはモーターアシストが入ることで、むしろ従来型が搭載していた2.0リッターガソリンターボエンジンに近い発進加速が味わえる。ツインスクロール化され低回転域での過給効果が得られやすいターボチャージャーを搭載するとはいえ、本格的な過給が始まるにはやはり排気エネルギーが不足気味。そこをこのBSGではモーターアシストで補ってくれるため、いわゆるタイヤのひと転がり目からの加速力はなかなか力強い。また、BSGモーターはトランスミッションのシフトアップ時に発生するエンジン回転数低下による出力/トルクを補う効果もある。

C 200 アバンギャルド(552万円)のボディサイズは4686×1810×1442mm(全長×全幅×全高)。ボディカラーはヒヤシンスレッド
インテリアカラーはレザーブラック

 少しだけ気になったことは、モーターアシストが介入する際のタイムラグだ。車内に計測機器を取り付けたわけではないので厳密に数値化する術はないのだが、直前に試乗した既存の1.6リッターターボとの比較では、やはりアクセルペダルを軽く、値にして30%程度踏み込んだ際に発生する加速度には、筆者の感覚とズレが生じてしまう。1.6リッターがイメージ通りに加速を開始するとすれば、1.5リッター+BSGは0.5拍ほど間をおいてから加速を開始する感覚で、このタイムラグはアクセルペダルの開度が深くなればなるほど大きくなる。

直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボ「M264」型エンジンの最高出力は135kW(184PS)/5800-6100rpm、最大トルクは280Nm(28.6kgfm)/3000-4000rpmを発生。これにスターターとジェネレーターを兼ねるモーター「BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)」や「48V電気システム」などを備え、ベルトを介してクランクシャフトと接続されるBSGと48V電気システムにより、必要に応じて最高出力10kW(14PS)、最大トルク160Nmを発生して動力を補助する

 発生理由の1つはエンジンの基本特性ではないかと推察する。1.6リッターが低~中回転重視のトルク特性エンジン(最高出力は5300rpmで発生)であるのに対して、1.5リッターは最高出力を5800-6100rpm、最大トルクの280Nmは3000-4000rpmで発生するように、比較するとやや高回転化されている。ただ、このエンジンの基本特性を踏まえて1.5リッター+BSGで高速道路を走行してみると、今度は形勢が逆転して高回転域まで淀みなくグワ~っと伸びていく1.5リッターに対して、1.6リッターは頭打ちというかパワーの売り切れ感が激しい。

2.0リッターディーゼルターボは高速道路で本領発揮

C 220 d ステーションワゴン アバンギャルド

 新搭載となった直列4気筒2.0リッターディーゼルターボはどうか? Eクラスで試乗していた同エンジンが車両重量の軽いCクラス(車両重量は執筆時未発表)に搭載されたのだから、単純に速さは上乗せされている。よってここまでは想像通り。試乗を通じた新たな発見は静粛性の高さにある。

 アイドリング時こそ車外ではディーゼルエンジンを意識するものの、車内ではアイドリング時はおろか、1000rpmそこそこの回転域でゆるゆると徐行している際の燃焼音すら気にならない。この「ゆるゆる」とした走行モードでは、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音が目立ちやすい状況ながら、Cクラスの新ディーゼルエンジンはそれを一切感じさせない。これは大げさではなく、こうして比較試乗をしているからこそ事実として体感できたもの。

C 220 d ステーションワゴン アバンギャルド(602万円)のボディサイズは4702×1810×1457mm(全長×全幅×全高)。ボディカラーはセレナイトグレー
インテリアカラーはサドルブラウン/ブラック

 走行モードでの本領はやはり高速道路だ。今や「大排気量エンジン並の大トルク」と比喩してもなかなかピンと来てもらえないかもしれないが、アクセルペダルを踏み込む力を少しだけ強めるだけでシフトダウンを要さずグングンと速度を上げていくさまは、何度味わっても気持ちがいい。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボ「OM654」型エンジンの最高出力は143kW(194PS)/3800rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgfm)/1600-2800rpmを発生

別格の3.0リッターツインターボ

メルセデス AMG C 43 4MATIC

 C 43の3.0リッターガソリンツインターボは相変わらず別格だった。ただ、パワーアップによって荒々しさが増えたかと思いきや、じつは中~高回転域へのつながりがスムーズになったことで、これまで以上に緊張感なくドライブすることができるようになった。これも新たな発見だった。試乗時は結構な勢いの雨に降られたが、4輪駆動である4MATICの適切な駆動配分も相まって安心してハイパフォーマンスを確認することができた。

 最後に、このC 43が搭載するM276型エンジンの前身エンジンを搭載する筆者のC 350 ステーションワゴンにも触れてみたい。Cクラスに限らずだが、「メルセデス・ベンツは後期モデルが秀逸!」と言われているように、先代W204時代のビッグマイナーチェンジモデルも「2000か所以上の変更」「メルセデス史上、最高傑作のC」(当時のプレスリリース)と謳われていた。

メルセデス AMG C 43 4MATIC(940万円)のボディサイズは4699×1810×1429mm(全長×全幅×全高)。ボディカラーはブリリアントブルー
インテリアカラーはレザーブラック
V型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ツインターボ「M276」型エンジン。最高出力は287kW(390PS)/6100rpm、最大トルクは520Nm(53.0kgfm)/2500-5000rpmを発生

 筆者のC 350 ステーションワゴン(S204型後期モデル)のエンジンは、奇しくもC 43と同じエンジン型式であるM276型を名乗るが、構成パーツには大きな違いがある。ターボチャージャーを持たない自然吸気エンジンで、V型6気筒ながら排気量は3.5リッター。さらに成層燃焼と均質燃焼、加えてその混合である均質成層燃焼の3モードを走行状態に応じてシームレスに切り替えることを特徴とする。その結果、C 350では3.5リッターながら1.6リッターターボエンジン並みの高速巡航燃費(筆者による長年の計測では毎回15.0km/L以上)と306PS/370Nmものハイパワーを両立する。

 C 43とC 350では、どこを切り取っても違いは大きすぎるのだが、しかしこうして比較試乗してみると、アイドリング直上付近から車体(C 43は執筆時未発表。C 350は1680kg)を軽々と引っ張り上げ、3000rpmあたりからグングンと加速力が増していくさまはどこか同じ匂いを感じた。

 今回のマイナーチェンジは内外装はもとより、プレセーフ思想に基づいた先進安全技術の数々がフラグシップであるSクラスと同等にまで進化したことも大きなニュースだ。しかし、歴代Cクラスに21年以上乗り続けている筆者からすると、豊かになったエンジンバリエーションはCクラスの魅力をより大きくしているように感じられた。パワートレーンごとにキャラクターが明確に違うことから、ユーザーにとってはじつに選択がしやすい環境が整ったことになる。

 最後に筆者の結論。市街地走行中心のユーザーには既存の1.6リッター、加えて高速走行も頻繁にという方には1.5リッター+BSG、ロングラン派には間違いなくディーゼル、そしてマルチパフォーマンスを求めるならC 43をおすすめします!

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学