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【インタビュー】新型「Cクラス」チーフエンジニアのクリスティアン・フリュー氏に聞く

「DYNAMIC BODY CONTROLは自分のために開発したようなシステム」とフリュー氏

独ダイムラー AG Cクラス チーフエンジニア クリスティアン・フリュー氏

 メルセデス・ベンツ日本は7月25日、内容を大幅に変更してフェイスリフトした新型「Cクラス」のセダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレの4モデルの受注を開始。同日に東京 銀座の新橋演舞場で記者発表会を開催した。

 新しいCクラスについては、リリース記事(メルセデス・ベンツ、進化した運転支援機能「インテリジェントドライブ」採用の新型「Cクラス」)や発表会記事(メルセデス・ベンツ、約6500点の部品変更で“Cクラス史上最も大規模なフェイスリフト”の新型「Cクラス」発表会)などでも紹介しているが、発表会後に独ダイムラー AG Cクラス チーフエンジニアのクリスティアン・フリュー氏のグループインタビューが行なわれたので、本稿ではその模様をレポートする。

Cクラス セダン
Cクラス ステーションワゴン
Cクラス クーペ
Cクラス カブリオレ

フリュー氏は1990年にダルムシュタット工科大学を卒業後、メルセデス・ベンツAGにトラック製造エンジニアリングのトレーニーとして入社。1997年からはダイムラー・クライスラーAGでAクラス他のマネージャーを務め、2001年~2003年には「SLR マクラーレン」戦略プロジェクトでディレクターを担当。2009年からCクラスのチーフエンジニアとなっている

――新しいCクラスは「史上最もスポーティなCクラス」と表現されましたが、どのあたりからそのスポーティさを感じ取れるでしょうか。

フリュー氏:Cクラスは、今回のフェイスリフト以前からスポーティなモデルでしたが、これを3つの面から改良しております。まずは「ルックス」で、前方から見たマスクが好例になります。さらにヘッドライトやリアランプ、ボディ後方のディフューザーも同様です。車内ではステアリングもよりスポーティなデザインになっております。2点目は「パワートレーン」。ほぼすべてのパワートレーンで出力を向上させています。

3点目はサスペンションなどの「シャシー部分」です。以前からスポーツサスペンションが適用されていましたが、新たに「DYNAMIC BODY CONTROLサスペンション」を提供しています。剛性の高いスチール製スプリングを採用して車高を15mm下げ、減衰比が高いダンパーは調整可能としています。このシステムではただ純粋にスポーツサスペンションということではなく、設定を選ぶことでスポーティさを得ることができます。日常的な走行ではもっと快適な乗り心地を実現するコンフォートな設定も用意していますし、トラック(サーキット)でスポーティなハンドリングを楽しみたいときはスポーツ+も選べます。

――ただいま紹介されたDYNAMIC BODY CONTROLサスペンションについて、具体的な仕組みを教えてください。

フリュー氏:通常のサスペンションとの違いは減衰力を調整できる「アジャスタブルダンピング」を備えている部分です。これは「エアボディコントロールシステム」と似た働きを持ち、減衰力をリニアに調整できる機能になります。伸び側と縮み側の両方で対応可能となっており、段階的な切り替えではなく、リニアにコントロールできるものとなります。エアボディコントロールとの違いはダンピングレートをより高く設定している点で、制御のアルゴリズムについては基本的に同一です。ボディの動きを運転状況に同期させることが可能になります。

――「マジックボディコントロール」とはどのような違いがあるでしょうか。

フリュー氏:マジックボディコントロールはアクティブ制御で異なるものです。シャシーに対してボディを動かすことができるのがマジックボディコントロールで、カメラで前方にある路面のバンプを認識し、さらにサスペンションに設定されたセンサーでもバンプを検知します。これがパッシブ制御のダンパーになるとバンプを通過する時にボディが水平を維持することができませんが、マジックボディコントロールでは油圧を制御して、まるでシャシー(タイヤ)を持ち上げるように水平に走り続けられます。このマジックボディコントロールは「Sクラス」のみでご提供しています。

手元にあった紙資料を曲げた模擬の路面バンプとタブレットを使い、マジックボディコントロールとDYNAMIC BODY CONTROLサスペンションの違いを解説するフリュー氏

――今回の改良では「ステレオマルチパーパスカメラとレーダーセンサーの高度化」がアナウンスされていますが、具体的にはどのような改良が行なわれたのでしょうか。

フリュー氏:基本的には「Eクラス」やSクラスで行なわれた改良と同じ内容になります。使っているセンサー類も同じものです。視認距離については、ステレオカメラが立体的に視認できる距離は900mです。以前はこの距離が50mほどでした。この立体的に視認できる距離というのは重要な要素で、走路に人が飛び出してきたことなどを車両が認識して反応するために必要となるのです。人の飛び出しなどはレーダーセンサーでは効果的に検知することができません。レーダーセンサーが車両の下側に配置されている場合は、とくにクルマとクルマの間に人が出てきたことを検知できないのです。

レーダーセンサーのパフォーマンスで大切なのは距離の検知ではなく、さまざまなオブジェクトを区別する能力です。私たちのアルゴリズムではより多くのオブジェクトを検出して、それを演算できるようにしています。このレーダーセンサーは反射とドップラー効果で物体を認識し、1回のショットで距離と速度が分かるシステムです。1回で車両の周囲にあるすべての物体から反射が戻ってきますが、その反射からそこにある物体がどんなものか理解して、関係性があるものだけをフィルタリングして残す能力がインテリジェントな部分で、ステレオカメラとレーダーセンサーの情報を融合させることが必要になります。

――ジュネーブショーでは電子地図を利用した半自動運転の技術が紹介されましたが、日本で今回導入されるCクラスには採用されていないのですか?

フリュー氏:この技術はまさに今、開発が活発に進められているところです。技術として高解像度マップが利用され、LiDERセンサーの追加が必要です。レベル3にあたる自動運転になると問題が発生したときでもドライバーに運転を戻すことをしないため、車両が周辺状況を正確に認識する必要があります。また、情報は冗長性を持った情報であることが求められます。さらに車両を動かすブレーキやステアリングなどすべての部分で冗長性を持っていなければならないので、これはもう次世代の技術になると思っています。

発表会でフリュー氏から説明された内容についても、インタビューでさらに詳しく解説された

――新しいCクラスではトランスミッションに9速ATが使われていますが、日本の公道での最高速で、この9段目のギヤを使うことはありますか?

フリュー氏:残念ながら(使わない)ということになるかと思います(笑)。お客さまのニーズは多種多様です。また、日本のように最高速が100km/hほどの国もあれば、250km/h以上まで出していい国もあります。そのように幅広いニーズや使われ方がある限り、私たちが設計するクルマでも、できる限り多くのお客さまのニーズを満たすべく設計しなければならないと思っています。

――ブレーキシステムについても改良が行なわれているとのことですが、具体的な変更点はどのようなところでしょうか。

フリュー氏:ブレーキでは新しいESP(Electronic Stability Program:横滑り防止装置)が入っています。制御のスピードが改良され、ABSのアルゴリズムが変わって制御が介入する頻度が高まりました。ブレーキペダルを踏んだときのコントロール性もよくなっています。お客さまがブレーキに求める性能はいろいろありますが、まずは制動距離で、制動距離を短縮しています。また、ESPが介入したときにスムーズで滑らかに効果を発揮するようになっています。

新型Cクラスではブレーキの制動距離を短縮し、ESPが滑らかに効果を発揮するようにしたという

――新しいCクラスで最も特徴的なところ、もしくはフリューさんが一番アピールしたい部分というのはどんなところになるでしょうか。

フリュー氏:それは……、自分の子供たちの中でどの子が一番好きかと聞かれているような質問ですね(笑)。ただ、数あるアピールポイントの中から個人的に一番を選ぶとしたらDYNAMIC BODY CONTROLサスペンションだと思います。これは本当に、私にとってはパーフェクトと言えるほどで、まさに自分のために開発したようなシステムです。

 もちろん、お客さまによって「インパネにあるディスプレイが好きだ」という人、「新しくなったトリムのパーツが好きだ」という人もいるでしょう。1人ひとりでここがいいというポイントは違いますが、すべてのお客さまから「ここが好き」といってもらえるようなクルマをご提供することが大切だと思っています。