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【インタビュー】新型4ドアクーペ「CLS」のデザインについて、独ダイムラー エクステリアデザイン責任者のロバート・レズニック氏に聞く

なぜ3代目はシンプルなデザインの方向性にいったのか、“Sensual Purity 2.0”とは?

2018年6月25日 開催

新型4ドアクーペ「CLS」の発表会に出席した独ダイムラー エクステリアデザイン責任者のロバート・レズニック氏(中央)に、新型CLSのデザインについて聞いた

 メルセデス・ベンツ日本は6月25日、同日に販売を開始した新型4ドアクーペ「CLS」(C257型)の発表会を都内で開催した。この発表会で、新型CLSのデザインに携わった独ダイムラー エクステリアデザイン責任者のロバート・レズニック氏にインタビューできたので、その模様をお伝えする。

 新型CLSの概要については「メルセデス・ベンツ、4ドアクーペの新型「CLS」。7年ぶりにフルモデルチェンジ」「メルセデス・ベンツ、5名乗車仕様になった新型4ドアクーペ「CLS」発表会」に詳しいが、3代目となる今回のCLSは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載する「CLS 220 d スポーツ」(799万円/2WD)、直列6気筒DOHC 3.0リッターターボエンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・モーター)を組み合わせる「CLS 450 4MATIC スポーツ」(1038万円/4WD)の2モデル展開となった。従来モデルで展開していた「CLS 550」やメルセデスAMG 63シリーズの用意はない。

 トピックとしては、これまで4名乗車仕様だったところ後席3人掛けの5名乗車仕様へと変更されたこと、これまでのCLSではボディサイドのキャラクターラインが特徴的だったが、プレーンな面構成になったことなどが挙げられる。エクステリアデザインがなぜシンプルな方向にまとめられたのか、CLSで特徴的なクーペライクなルーフラインは定員数の変更により影響は受けなかったのかなど、レズニック氏に聞いた。


ロバート・レズニック氏は現在乗用車部門のエクステリアデザインを統括

――新型CLSが発表されましたが、ブランドとしてはメルセデス、AMG、CLSとあり、それぞれをどういう言葉としてそしゃくしたうえでエクステリアデザインに落とし込んだのか教えてください。

ロバート・レズニック氏:CLSというのはモデルであって、AMGとは違うものだと考えてください。AMGはわれわれのサブブランドです。もちろんCLS AMGというモデルもあり、こちらはスポーティ性や性能に特化しています。今回のCLSではエンジンもさまざまな仕様がありますが、8気筒エンジンは今回なくなりまして、4気筒、6気筒となります。

 3月のジュネーブモーターショーではピュアAMGモデルを紹介したのですが、それは「メルセデス AMG GT」の4ドアクーペバージョンでした。AMGがどういったモデルなのかをお知りになりたいのであれば、それをご覧になってください。

 CLSは私たちにとって“デザインのアイコン”だと思っています。なぜデザインのアイコンになるかと言うと、そのデザインを人々が好きになるからと思っています。人気があるからこそ3代目になっており、新車を出しても人気がなければ2代目、3代目とリリースされないので、そこのところはご理解いただけると思います。これまで多くの人から“4ドアクーペないよね”とずっと言われてきたのですが、なんと言われようと最終的に出したものを人々が好いてくれるのであれば、われわれはそれでいいと思っています。

 全体的に計測した値を見ていただくと、車体自体はEクラスから比べて1インチ(約2.4cm)低いというだけなのですが、例えばウィンドウグラフィックではベルトラインが高くなっているなど新しいデザイン要素を取り込むことで全体が低くなっているように見えるのです。

写真のCLS 220 d スポーツのボディサイズは5000×1895×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm

――CLSはメルセデス・ベンツのデザインアイコンであり、デザイナーの方は6~7年ほど先を見据えてデザインを行なっているとのことですが、今回のデザインはサメ(オグロメジロザメ)をイメージにしたり、先代モデルに比べてリアフェンダーのキャラクターラインもなくしてシンプルなデザインにしたりと、未来のデザインというのをどのように導き出したのでしょうか。今回のCLSのデザインが今後のメルセデスのデザインをけん引していくことになり、非常に責任は重大だと思います。

レズニック氏:まさに簡素化したというのが1つのキーワードですが、それを確認するために「カークリニック」というものがあります。社内でアイデアを出し、そのアイデアをもとに社内で“この方向でいこう”と決めるのですが、それだけでは確実性がないのでカークリニックを行ないます。カークリニックには外部の方に来ていただき、実際にデザインを見てもらいます。何を見るのかは外部の方は当日来ないと分からないのですが、今回そのフィードバックでは“ラインがなくなった”“簡素過ぎる”と、提供しているものが少なくなったのではないかとの意見もあったのですが、私たちの考えとしては今の時代はモノがありすぎて、情報にあふれている。クルマもさまざまなモデルがあり、色々な(キャラクター)ラインが描かれるなど、細かいところにこだわり過ぎていると思うのです。

 そこでわれわれが考えたのが“ちょっと落ち着きたい”ということでした。静寂性を持った簡素化をしたいと。それをどうやって達成したかというと、メルセデス特有のプロポーションです。カーメーカーは全世界で見ると200社ほどあるかもしれませんが、私たちが提供するプロポーションを実現できるのはおそらく3社ほどしかないと思います。シンプルにするというのは聞いた感じでは簡単に思えるかもしれませんが、余計なものを取り除いて簡素化していくというのは簡単ではなく、実は至難の業なのです。

ボディサイドのデザインはシンプルなものに

――CLSは4ドアクーペの市場を切り開いてきたモデルと言えると思いますが、今回の新型CLSのエクステリアデザインで最も他社が真似できない、メルセデス・ベンツらしさはどこにありますか?

レズニック氏:私たちの会社はクルマを発明した企業です。非常に長い歴史があり、その中で史上初めてというものを多くリリースしてきました。そういった新しいモデルを出すたびに成功したもの、成功しなかったものがあります。CLSを初めて出したのは2003年のフランクフルトモーターショーなのですが、実際に見に来る人が気に入るかどうかは(開発段階では)分からないですよね。同じことが言えるのがiPadであり、スティーブ・ジョブズも先ほどのクリニックを開いていたのですが、クリニックに来た人たちに初めてiPadを見せたとき、みんな『こんなものは要らない』と言ったそうです。

 簡単に言えば、私たちのCLSは見た目がスポーティなセダンで、しかも後輪駆動。ウィンドウグラフィックなどは典型的なメルセデスのデザインで、リリースしたときは革命的だったと思います。簡単に言ってしまうと、あまり特別なものではなく、セダンの車高を低くしただけなのですが、ただし4ドアクーペというジャンルで3代目まで出したのは私たちだけです。競合のどこもコピーできていないと思います。私たちの独自のプロポーションだったり、ラインだったり、そういうところがコピーされていないのです。初代CLSをさらに完璧にしたというのが今回のモデルになるのです。

――発表会のプレゼンテーションの中で、今回の新型CLSのデザインについて「ここがスタートだ」というお話がありました。もう少し具体的にどのような点が革新的なのか、一方でCLSとして守るべきものはなんだったのか教えてください。

レズニック氏:私がメルセデスに入社したのは9年半前になります。そのときのボスはゴードン・ワグナーだったのですが、2009年にこれからのメルセデスのデザインをどうするか考えたのです。そのときにメルセデス・ベンツデザインの基本思想「Sensual Purity(官能的純粋)」というものができました。

 デザインの考え方というのは数年をかけて完璧にしていかなければならず、いわゆる“Sensual Purity 1.0”というのは現行Eクラスで完成したと思っています。そのEクラスをリリースし、私たちは現在“Sensual Purity 2.0”にいるのですが、その先頭に立つのがCLSです。新型Aクラスをもうご覧になったかと思いますが、線がほとんどなくなっていますよね。もちろん全てのモデルで線がなくなったわけではないのですが、クーペというコンセプトを考えると線を取り除いていくというのはおそらくやりやすいと思います。

 これまでのAクラスやCクラスなどは線が多すぎたと思うのです。線が多すぎて全体的にナーバスな感じだったと思います。それを取り除いていったのが“Sensual Purity 2.0”であって、この第2ステージでは私たちはドラマチックなものは要らないと考えています。

 一方で他社のモデルは逆を行っていて、ラインが多いエクステリアを採用しているモデルが増えています。それが現状であって、誰が勝つかはこれから5年先にしか分からないですね。

直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボエンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、電動スーパーチャージャー、48V電気システムなどを組み合わせる「CLS 450 4MATIC スポーツ」

――メルセデスらしいプレミアム性というのがあると思うのですが、新型CLSではそれがどのように表現されていますか?

レズニック氏:メルセデスらしさというのはエクステリアだけではないのですが、エクステリアを例にみると好きか嫌いか、最終的にはそこだと思います。しかし室内に入っていただくと話は違ってきます。独特の雰囲気や匂い、さらに新型AクラスではMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というものがあり、そういうもの全てがメルセデス体験になります。

 メルセデスに課せられている義務というのは、「私たちがデザインするものは美しくなければならない」ということ。何をもって美しいかというのは世界で共通な恒久的な見方があると思いますが、例えば職人技のようなウッディな内装や、エアベントにはバックライトのようなものが入って光が当たるようになっているのですが、そういったもの全てを組み合わせてメルセデスになると考えてください。だからこれがメルセデスと1つに絞れないのです。

 特にCLSを例に見ると、このクルマは高価です。だからハイクラスなモデルと言えるわけですが、その値段をどう正当化するかというと、このクルマを購入するともっと色々なものが手に入るという部分を見ていただかないとなりません。それは運転のしやすさだったり、室内の静寂性、エアロダイナミクス理論に基づいたデザイン。他のブランドでは提供していない要素があるからプレミアムになる、正当化できると考えています。

――今回の新型CLSでは5名乗車仕様となりましたが、CLSの特徴的なポイントであるルーフデザインに何か影響はなかったのでしょうか。

レズニック氏:ありません(笑)。室内の居住スペースをお求めになるのであればEクラスを、スタイルをお求めになるのであればCLSをご購入してくださいというのが私たちのスタンスです。

 そもそもクーペのモデルは選択肢が少ないですし、機能面も減ってくるかと思います。ただし、それ以上に提供しているのがエモーショナルな面で、なぜ今回の新型CLSで4名乗車仕様にしなかったかというとそれは簡単で、市場が5名乗車仕様を求めたから。

 とはいえ、エクステリアへの影響は全くなかったです。もしこの新型CLSを購入されてヘッドルームが少ないねと言うのであれば、Eクラスを試してくださいというのが私たちの答えになります。室内スペースが手厚いものではないというのが正直なところです。

 ほとんどの場合、新型CLSに5人乗って運転する機会というのはあまりないかと思います。通常は大人2人がフロントに座り、子供が後席に座るというのが一般的かと思いますが、5名乗車仕様にしたことで5人乗せられる可能性が出たと考えてください。4シーターの場合は5人目が座れる可能性はないので、その可能性が出たと。

歴代CLSのボディサイドのデザイン

――新型にモデルチェンジしましたが、逆に変わらなかったものというのはなんでしょうか。

レズニック氏:デザインアイコンと呼ばれるモデルは、他社を含めてそんなにないと思います。でも新型CLSはまさにデザインアイコンであって、CLSがどう進化してきたかを見てみると、まず初めに革新があり、それが市場で受けた場合は簡単にそれを捨てられないですよね。初代で受けた強みというのはどのようなメーカーも維持していると思います。

 私たちの場合はそれが後輪駆動であって、キャビンが低く見えるところ、それからオーバーハングが短いといったプロポーション。これは変わっていません。先代のCLSは中古でも購入することができますので、先代と比べてみてください。いかに変わったかが分かると思います。初代CLSをさらに完璧にしたのが3代目だと思います。