試乗インプレッション

新型「CLS」の直6エンジン+ISG&ディーゼルエンジンで箱根往復

ホレボレするスタイリッシュさ

 CLSが新しくなると聞いたときから、どんなデザインになるかとても気になっていた。事前情報だけでも大いに期待させるものがあったが、いよいよ実車と対面して、あまりのスタイリッシュさにホレボレ! 流麗なルーフラインに象徴される持ち前の美しいシルエットには、さらに磨きがかけられていた。

 ラインやエッジを極力廃してできるだけシンプルにしたボディパネルは、なだらかな曲面のみで構成されていながらも巧く陰影を表現していて、独特の官能的な雰囲気を醸し出している。ワイドな台形のフロントグリルやサメの鼻先のように前傾して見えるフロントフェイス、斬新な前後ライトなど、今後の礎となるメルセデスの新世代デザイン語法が各部に用いられていることも見て取れる。

 従来の2代目もスタイリッシュではあったものの、実のところ個人的にはSクラスに近づきすぎた感があって、線の細さがウリであるはずのCLSらしさがやや発揮できていないような気がしていた。ところが3代目は、初代が出たときのあのセンセーショナルな感覚が再び蘇ったように思う。

6月25日に発売された「CLS 450 4MATIC スポーツ」のボディサイズは5000×1895×1425mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2940mm
同日発売の「CLS 220 d スポーツ」のボディサイズは5000×1895×1430mm(全長×全幅×全高。エクスクルーシブパッケージ装着車の全高は1425mm)。ホイールベースは2940mm。3代目となる新型CLSは、マスキュリーな印象の2代目からイメージを刷新。ショルダーラインの「ドロッピングライン」を廃してなだらかな曲面のみで構成することで微妙な陰影を表現した
CLS 220 d スポーツのアルミホイールは19インチAMG5ツインスポークで、CLS 450 4MATIC スポーツではハイグロスブラックとなる。タイヤサイズは両モデルともフロントが245/40 R19、リアが275/35 R19
メルセデス・ベンツのクーペモデル共通となる、シングルルーバータイプのダイヤモンドグリルを採用
安全運転支援システム「レーダーセーフティパッケージ」で活用されるステレオマルチパーパスカメラ。カメラのほかにも車両の各部にレーダーセンサーが搭載されている

 コクピットディスプレイやイルミネーテッドエアアウトレットなどを備え、最新のメルセデスに共通するネオクラシカルなたたずまいのインテリアもまた、外見と同様に官能的にデザインされていて目を見張る。運転席における視界が心なしか従来よりもよくなったように感じられた。

 いかにも車高が低そうに見えるのに、実はEクラスとの差はわずか25mmというから驚いた。このフォルムながら室内空間は狭くなく、歴代CLSで初めて5人乗りとなったのも特筆できる。後席も平均的な成人男性の体格である筆者が座っても不満を感じない広さが確保されている。トランク容量も従来よりも30L拡大して、より利便性が向上している。見栄えのよさを際立たせながら、このように使い勝手も大幅に高めたのは大したものだ。

CLS 450 4MATIC スポーツと共通となるCLS 220 d スポーツのインテリア。2つの高精細12.3インチワイドディスプレイを1枚のガラスカバーで融合したコクピットディスプレイを採用
本革巻のステアリングホイール
コクピットディスプレイの右側はメーターとして機能する
タービンエンジンをイメージしたフォルムの「イルミネーテッドエアアウトレット」。64色から選択可能なイルミネーションが埋め込まれている
オプションのガラス・スライディングルーフを装備
フロントウィンドウには「Mercedes」の文字が刻まれていた
シート色はエクスクルーシブパッケージ仕様のベンガルレッド/ブラック(ナッパレザー)。クーペスタイルながらも、後席は広々としたスペースを確保
トランク容量は写真のCLS 220 dが従来から30Lアップの520L、CLS 450 4MATIC スポーツが490Lとなる

ガソリンとディーゼルいずれも好印象

 試乗したのは、新しく導入された3.0リッター直6ガソリンエンジンの「CLS 450 4MATIC スポーツ」と2.0リッター直4ディーゼルエンジンの「CLS 220 d スポーツ」だ。

 CLS 450 4MATIC スポーツには、以前もお伝えしたメルセデスとして20年ぶりの復活となる直6エンジンが搭載されている。ただし、ターボチャージャーを備えるも、スーパーチャージャーは付かない点が「S 450」とは異なる。オルタネーターとスターターの機能を兼ねたISGの恩恵で、エンジン始動が素早く静かで振動もなく、520rpmと低いアイドリング回転数はこの新しいパワーユニットならでは。そして、アクセルを踏み込むと直6らしいスムーズな吹け上がりを味わえる。加えて、その美しい音色をむしろ積極的に聞かせるかのように低く響くエキゾーストサウンドも印象深い。あくまで効率を追求した結果の産物といえるエンジンとはいえ、“直6”と聞いて思わず反応する層の期待にもしっかり応えてくれるものだ。

CLS 450 4MATIC スポーツのパワートレーンは、最高出力270kW(367PS)/5500-6100rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1600-4000rpmを発生する直列6気筒 3.0リッターターボエンジンに、最高出力16kW、最大トルク250Nm(25.5kgfm)を発生する電気モーターISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせる。トランスミッションは9速ATで、駆動方式は4WD

 一方のCLS 220 d スポーツは、いかにもディーゼルらしいトルクフルな特性を持ちながらも、音や振動が極めて小さく抑えられていることに感心する。車外だとそれなりにノック音は聞こえるが、車内にいるとディーゼルとは思えないくらい静かだ。あえて直6サウンドを聞こえるようにしたのかもしれないCLS 450 4MATIC スポーツよりも、むしろ静かなほどだ。

CLS 220 d スポーツは、最高出力143kW(194PS)/3800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1600-2800rpmを発生する直列4気筒 2.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載して、トランスミッションには9速ATを採用。駆動方式は2WD(FR)

快適で楽しく安全

 今回は都内から箱根を往復して、市街地、高速道路、ワインディングをそれぞれ比較的たっぷり乗ることができたのだが、ハイレベルな快適性は、さすがはメルセデスというほかない。やや引き締まった足まわりにより、若干の硬さを感じるシチュエーションもなくはなかったが、走行距離が伸びてなじんでくると、もう少しまろやかな乗り味になるような気もする。

 このサイズのクルマながら手に取るようにクルマの動きが掴めて、ワインディングを走っても楽しめてしまうのもたいしたものだ。コーナリング時のロールが比較的大きめに感じられたのは、挙動をドライバーに伝えるためにあえてそうしているのかもしれない。

 両モデルの印象の違いとして、ハンドリングは前軸重が100kg軽いCLS 220 d スポーツのほうが鼻先が軽く、いくぶん動きが軽快であるのに対し、CLS 450 4MATIC スポーツのほうが4輪駆動の4MATICであることも効いてかオンザレール感覚が高いように感じられたこともお伝えしておこう。

 高速道路では、世界最先端を行く安全運転支援システムが頼りになる。ステアリングアシストも進化しているようだし、車線変更を安全確認して自動でやってくれるのもドライバーの負荷を低減してくれるのは言うまでもない。途中で渋滞にも出くわすと、なおのことありがたみを実感した。

 この価格帯でセダンも含め魅力的な4ドア車を求める人にとって、3代目CLSがこれまでにも増して魅力的なクルマになったことは間違いない。売れ筋は価格がだいぶ安く購入後の経済性にも優れるディーゼルとなるだろうが、個人的にはガソリンのほうがCLSのキャラクターには似合っているように思う。

 こうしてすべてにおいて進化を果たした3代目CLSは、自らが開拓した4ドアクーペのカテゴリーにおいて、ますます際立つ存在となったことは間違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛