試乗インプレッション

見ても乗ってもよし。ボルボの最新“エステート”「V60」に速攻試乗

思い描いた通りに曲がれるコーナリング性能、高い直進性を体感

新型「V60」がデビュー

 2017年の「XC60」のCOTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)受賞、2018年の「XC40」の絶好調な滑り出しなど、右肩上がりのボルボがさらに看板モデルで1953年に始まるボルボ・エステートの伝統を受け継ぐ「V60」を刷新した。

 少し前までのボルボのイメージは四角いレンガのようなクルマで、武骨だが安全性と実用性の高さが最大のセールスポイントだった。エッティンガーによるボルボのレース活動は、ライバルを圧倒する強さから「空飛ぶレンガ」と呼ばれていた。

新型「V60」の試乗会場には歴代のエステートが展示された(左からP1800、240 TACK、850 T5-R)

 そんなボルボだが、実用一辺倒ではないスリークなV60、ヒット作となった「V40」などの登場で、他社とは違った新時代のボルボを強烈に印象付けた。しかし、ユーザーからは“ボルボらしさ=ボクシー”を求められることも少なくない。そんな背景をもってボルボのフラグシップである「S90」「V90」は伝統に則りながら極めて質感の高いデザインを持って登場した。伸びやかな直線で構成されたS90/V90は、直観的に気品のある北欧デザインを感じることができる。その流れを汲んでV60がフルモデルチェンジした。

9月25日に発表された新型「V60」。写真はベーシックグレードの「T5 Momentum」(499万円)とともに導入される「T5 Inscription」(599万円)で、ボディサイズは4760×1850×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm。このほかPHEVの「T8 Twin Engine AWD Inscription」(819万円)、「T6 Twin Engine AWD Inscription」(749万円)を2019年3月以降に納車開始。加えて「T6 Twin Engine AWD Momentum」(価格未定)を2019年7月ごろに導入することが予告されている
新型V60ではトールハンマーデザインのLEDデイタイム・ランニング・ライトを備えたフルアクティブLEDヘッドライトやLEDテールランプ、シルバーカラーのルーフレールなどを装備。足下は10マルチスポークの18インチアルミホイールにコンチネンタル「PremiumContact 6」(235/45 R18)の組み合わせ

 V60はV90以上にボクシーに感じられるが、それにはDピラーの角度も大きく影響する。最後部の柱であるDピラーに話を絞ると、V90は従来のV60の寝た角度のDピラーに近く、4935mmという長い全長を活かして流れるようなサイドデザインになっている。一方、新型V60のDピラーは垂直に近く立っており、こちらは伝統のボルボ・エステートワゴンの流れを汲んだ「850」に近いデザインとなっている。

 実際に広大なラゲッジルームに荷物を積んでみると、四角い荷室の新型V60に積めるものとV90に積めるものは容量的にそれほど変わらず、荷物の形状によっては新型V60が有利になることもあるという。もちろんV90の方が絶対容量は大きいが、新型V60はこのクラスでは文句なく最大の荷室を持つ。

T5 Inscriptionのインテリアでは、ナッパレザーシート(フロントシートはベンチレーション&マッサージ機能付き)やドリフトウッド・パネル、ヘッドアップディスプレイといった上級装備が備わる
ラゲッジ容量は529Lで、60:40分割可倒式の後席を倒すことで1441Lまで拡大可能(先代V60は430L~1241L)。ハンズフリー機構付のパワーテールゲートも設定して利便性を高めている

 さて、ボディサイズは使いやすそうな数字が並ぶ。全幅は先代V60に比べて15mm狭められ1850mmと、日本の道にも適した横幅だ(日本からのリクエストも大きいと聞く)。全長は4760mmで、こちらは先代比で125mm長い。驚くべきは全高で、1435mmと先代V60から45mmも下げられていることだ。低く長い、ボクシーだが非常にスリークなデザインが完成した。さらに、以前生産されていたV70と比較してもひと回り小さく(さすがに荷室はV70の方が容積はあるが)、以前からのボルボファンにとっても強い親近感があるだろう。

 このクラスの他社モデルのステーションワゴンと比べてみると、ザクっと言うとBMW「3シリーズ」やメルセデス・ベンツ「Cクラス」よりもひと回り大きく、アウディ「A4」に近い。新型V60は全高が低く、全長が長いので大きく見えるが、意外とDセグメントのど真ん中のサイズに収まっている。

 搭載されるエンジンは新世代のボルボエンジン、直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボの1機種になる。今回試乗したのは「T5」だが(ボルボの電動化戦略に則って新型V60ではディーゼルエンジン搭載車はない)、来春にツインチャージャーでパワーアップされたPHEV(プラグインハイブリッド)の「T8」、そのデチューン版である「T6」も導入される。特にT6はメカニズム的にはT8と同等ながら、T5との価格差が小さくなる予定で、まだ馴染みの薄いPHEVへの認識が変わりそうな期待が持てる。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420T23」型エンジンは最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1500-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.9km/L

フラットなトルクが好ましい

 高まる期待とともに乗り込む。ドアはヒンジの取り付け位置が工夫されており、開いたときにドア後端が上がるので、路肩の障害物に当たる確率が小さくなるように考えられている。内装は外観デザイン同様、クリーンで質感の高い北欧家具のようなインテリアが広がる。特に試乗車はオプションの全面パノラマガラスルーフが装着されていたので、後席も含めて明るい室内が気持ちよい。その後席のレッグルームも広く、ホイールベースの長いV90とまではいかないが広々としており、座り心地に優れるシートに身を委ねると居心地がよい。

 V90から始まった新しいプラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」は90シリーズやXC60でもその性能は立証済みだが、V60でも再認識することができた。着座位置は低めで安心感のあるもの。エンジンも搭載位置が下げられているので、低い全高ながら直前視界が十分に確保されており、ボルボの安全への哲学はデザインにしっかり活かされている。また、へッドクリアランスもあり、低い全高は居住性に影響を与えていない。オプションのパノラマルーフを付けても室内空間に影響を与えていない。

 新プラットフォームや材質の変更で軽量化されたボディは1700kgに抑えられ、T5のエンジン出力は254PS/350Nmなので馬力荷重は7kg/PSを割っている。そして何よりもフラットなトルクがV60を走りやすいものにしている。アクセルの付きがよく、粛々と力強く加速していく感じはエステートにふさわしい。アクセルを踏みこめば高速での追い越しも楽に行なえる。好ましいのは加速時に軽々しい感じがないことで、この点でもクルマの質の高さが感じられる。

 トランスミッションは定評あるアイシン製8速ATで、ギヤレシオもワイドに散らされており、段付き感のないスムーズな加速ができる。エンジンのトルク特性とのマッチングも好ましい。

 ハンドリングは、エンジン同様にドライバーにゆとりを感じさせるもの。機敏ではないが、タイヤがしっかりと路面を掴んだ感触に安心感があり、ライントレース性も正確なので余裕をもって思い描いた通りのコーナリングができる。さらに2870mmというホイールベースを活かして低い重心高とともに直進性が高く、ドッシリと走るところもボルボ・エステートらしい。新時代のボルボは非常に洗練されている。

 高速道路をクルージングする場面では、路面の補修などでノイズが発生することがあるが、新型V60ではノイズの変化が最小で、オプションのBower&Wilkinsから流れる高質の音を邪魔することはない。風切り音やリアから入ってくる235/45 R18タイヤが出すパターンノイズもよくカットされている。

 乗り心地の面では、エステートは積載性も重要でリア荷重に応じたサスペンションセッティングをしなければならないが、新型V60はよくバランスされていると思う。段差を乗り越えるときのような強い衝撃は非常によく吸収され、さすがと思わせる。ただ、「雲の絨毯のごとく」というわけにはいかず、細かい凹凸をわずかに伝えてくる。気になるほどではないが、セダンのS60がどのようにチューニングされるか興味深い。

 ボルボはボルボ車による死傷者ゼロを目指し、着実に成果を上げているが、その一環の運転者支援システム「パイロット・アシスト」は着実に進化していて、ACCの追従性はさらに自然になり、操舵アシストもかなり現実味を持って高い実用性を感じさせた。試乗を終えて感じたのは本当にストレスのないクルマで、見ても乗ってもよしのボルボ V60だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一